約束をする
魔力譲渡の翌日、日課の花摘に来ている。
「この花畑に生えてる花はリコとサリー。リコは私が飲まされてる魔法阻害薬の材料、サリーは魔物が嫌う香りを出すから魔物避けになる」
こんな風に話しているのはクロさんだ。
今日のクロさんは機嫌がいい。
朝からお仕事の助言から、豆知識までひっきりなしである。魔力を譲渡したお礼なのか、今日は鈍器で殴打されたのも1度だけだ。
「リコはアイツらのメインの収入になる。狩りやら何やらは副業みたいなものなの」
「メインの仕事なんて僕らにやらせていいんですかね?」
「自分達じゃやれないの。この花は長時間触れるだけでも魔力回路をおかしくするから。一年も今みたいに続けたら指の一本くらい動かなくなる」
子供になんて恐ろしい仕事をさせるんだアイツら。まて、クロさんは大丈夫なのだろうか?
いつからこの仕事をしているんだ。
「私はまだ2ヶ月しかやってない、前にいた子供と入れ替わり。ニナは少し私より早くに来てたみたいだけれど、この仕事もしてたかは知らない」
それを聞いて安心する。
まだ、特に障害は出ていないのだろう。
ニナさんも見た目は特に何かを患っている風ではなかった。まあ、後で確認はしてみるつもりである。
「今日はこれくらいでいい」
かごに花を詰め終わり、クロさんが立ち上がる。
僕も立ち上がり帰ろうとかごを持った。
だが、肝心のクロさんが動かない。というよりは何かを言いたそうにしている。そんな様子だ。
袋に手を入れて鈍器を手にしていないので怒らせた訳ではないのだろう。
「どうしました?」
「…………お願いがある」
「お願い?」
殴らせろとかでなければ良いが。
「時々でいいから、昨日みたいに魔力をわけて欲しい」
なんだそんなことか。鈍器で殴られるより遥かに良い話だ。
「構いませんよ」
「…………ありがとう!」
本当に嬉しそうに彼女が言う。なんだろう、美少女の嬉しそうな姿っていいな。
「あっ、そうだ。クロさんって文字が書けたりします?もしくは、読めたり」
「出来る」
「じゃあ、教えてもらえませんか?僕、文字がわからないんです。魔力あげる代わりじゃないですけど…………」
「いいけど、シロは不思議だね。計算が出来るのに文字が読めないなんて」
僕がニナさんに計算を教えているのは知っていたらしい。まあ、記憶障害の設定で通そう。
「では、約束ですよ」
「…………うん」
やばい、美少女が照れてると思うとテンションがあがる。
しかし、使いもしないものを渡すことでクロさんとの距離を縮めたことに少しばかりの罪悪感もあった。そう考えて、なんとなく服のポケットに手を入れると数日間気がつかなかったものに気がついた。
取り出してみるとなかなか良さそうな品である。
どこで紛れていたのかは謎だが、折り曲げても折れる気配がない。これはいい。
「クロさん」
「なに?」
「これしましょう」
プラスチックに似た素材で出来た、ワイヤーみたいなものだった。長さはないが畳めばヘアピンみたいなのが出来上がる。
戸惑った様子のクロさんのカーテンヘアをわけて固定する。髪の重さにも負けていない。
彼女の美少女フェイスが常時公開の状態になる。
これはいい。本当に。
「…………ありがとう」
「どういたしまして」
顔が赤くなるのが見える。
本当にいい。美少女の照れ。これからの孤児院のくらしは充実しそうだ。
そう考えて、クロさんと帰路を歩いた。
破壊された村が、そこに見えた。