クズ野郎とギルドと若娘2
勢いです。そう!勢いです。俺は展開を待っている。そう展開を、うん。
参ったな。と言うのがクズの本音であった。これは明らかに厄介事で、首を突っ込むとヤバイ感じしかしない。クズが久しぶりに頭を使って考えたことがこれである。
今ジンの腕の中には助けを求める若娘がいる。その娘がそこらにいる村娘なら何てことはない。助けて少しばかりお礼を貰えばいいのだが、この娘は明らかにただの娘では無かったのだ。
驚くほど手入れが行き届いた金髪はさながら秋に色づく小麦畑を連想させ、その朱色の瞳は戦場に咲く紅い花を思わせるほど紅く、その顔立ちは恐ろしいほど整っていた。
体つきもよく出るところは出ていて引っ込んでいるところは引っ込んでいる。理想の体型とはまさにこの事。
そして極め付けは身に纏う純白のドレスだ。それがシルクならまだよかった。しかしそのドレスが何で作られているのか、このクズはすぐに分かった、いや知っていたと言ったほうがいい。何故ならこのドレスを作るための素材を集めた事があるからだ。
「本当に厄介な。まさか俺の前にこんなものを着たやつが助けを求めてくるなんてなぁ…神様はまだ俺を許してはくれねぇのかよ…」
思い出したくも無いことを思い出し、クズからポツリと言葉が漏れる。しかしそれは娘には聞こえないほど小さい声であった。仮に聞こえるほど大きな声だとしても今の娘には聞こえなかっただろう。何せ自分の命が奪われるかもしれない瀬戸際なのだ。周りの音を聞いている余裕は無い。
「あの!あの聞いてます?た、助けてほしいのですが!」
ジンがブツブツとつぶやいているのを見上げていた娘は自分の言葉が届いてないと思ったのだろう。必死になって声を張り上げる。
「うるせぇな。少し黙っててくれ。今の俺はすこぶる気分が悪い」
ジンの無作法な物言いは娘にとっては初めてのことだったのだろう。驚愕と言った表情をうかべ顔を真っ赤にしながらジンに食ってかかる。
「なっ!あ、あなたそんな物言いは無いでしょう!いくら何でも酷すぎるわ!」
「ぎゃあぎゃあ騒ぐな助けてはやる。目をつぶっていろ。」
娘は意外そうな顔をするとジンの言葉通りギュッと目をつむった。そのすぐ後、娘を追いかけてきたであろうシルバーハウンドウルフの群れがジンと娘の前に姿を現した。
それは本当に刹那の時、ジンの持つ銀貨1枚の価値しか無い鍛冶屋の片隅に置かれているような普通の剣が、常人には見えない速度で彼奴等の首を刈り取った。
そしてそれがさも当然かの如く、興味すら無い様に感じられるほど自然体でそれをやり遂げたクズは何事も無かったかのように『血の一滴すら付いていない剣』を鞘に収める。
「おい娘、もう終わったから離れてくれ。お前みたいな乳臭いガキに抱きつかれても嬉しくねぇからな。
」
またもや無礼な物言いだったが、何を言っているのか娘にはさっぱりだった。何故なら、
「あ、あの私の後ろには10匹以上の狼がいたと思ったのですが…」
「今倒した。死体がないのは俺の背負ってるマジックバックが回収したからだ。不安なら確認するか?」
「えっ?いや、あのいいです。助けていただきありがとうございます?で、いいんですよね?」
娘には本当にジンが何を言っているのか理解できなかった。それは言葉が通じてないとかではなく、あり得ないことが起こっているからだ。
先程まであれ程必死になって逃げてきたはずだ。あのよだれを垂らし私のことを餌としてみていた獰猛な瞳をした獣たちが瞳を閉じてものの数秒、いや瞬きした程度の時間でこの世界からいなくなったのだ。
何が起こったのか理解できるわけが無かった。
呆然とジンの前で固まっている娘をよそにクズの中のクズであるジンは娘に背を向け立ち去ろうとする。
「ちょっ、ちょっと待ってください!何で無視するんですか!それにここから当然のように立ち去ろうとしないでください!こ、こんな若い娘を森の中に置いていくつもりですか!」
「知ったこっちゃ無い。俺は面倒ごとは嫌いなんだ。俺が助けたことに感謝しろ。感謝して感謝しろ。そしてお礼に一生暮らせる金を寄越せ。」
クズの中のクズは娘に向き合おうともせず、ギルドに帰るための帰路につく。
娘はもう何が何だかわからなかった。目の前に居る男は何もかもが今まで出会ってきた人間と違う、異常な存在であった。
彼が放った言葉に意味は無い。そう思わせるほど覇気が無く、放った言葉に対しての責任すら感じ取ることができない。
彼は何者なのだろうか。
こう考えてる間にも私を置いてどんどん先へ進んでいく。この人は本当に何なのだろうか?何を考えて生きてるのだろうか?そんなことを考えてしまう。
「あ、あなた自分が何を言ってるのかわかってますか?た、確かに助けていただいたことに関しては感謝しても仕切れませんが、かと言って余りにも横暴でしょう!」
一方ジンも自分が何を考えているのかわからなかった。何故この娘を助けたのか。何故こんなにもイライラしているのか。何故こいつは俺にこんなにも突っかかってくるのか。
嫌、考えない。考えてはいけない。
何故なのかは自分でもわからない。しかしジンは1つだけ確かなこと知っていた。
「この娘は面倒くせえ。気があわねぇ。気に入らねぇ。考えんのも面倒くせぇ。」
娘には決して聞こえないようにぼやく。
そしてジンは考えるのを止めた。考えれば考えるほど疲れるからだ。ジンはクズ。最強のクズ野郎。それは変わらない。
「何か言いましたか!ちょっと!無視しないで!」
「うるせぇなぁ。全部冗談だ、冗談。金いらないからついてくんな。マジで。」
俺はクズ。言葉に意味は無い。行動に意味は無い。やりたい事をやるだけだ。これは気まぐれ。そう、俺の気まぐれだ。ちょっと可愛かったから助けた。胸も大きかったし?抱きついてきた時の感触もまだ覚えてる。あれだげ必死にしがみつけば嫌でも胸が当たる。
うん、役得。そうだな、きっとあのお胸様を迎えるために助けたんだ。そう考えるとスッキリした。
「うん、あれはメロンだわ。久々にいい思いしたぜ。」
「待って!歩くの早い!お、お願いします!置いてかないで!」
クズは今日も生きていく。冒険者として…
ジンことクズは自らの拠点、ギルド『孤高の戦士』があるこの街、アスフレアに戻ってきた。戻ってきたはいいのだが、
「ふぅ、少し疲れたな。で?何でついてきたんだ娘っ子よ。ストーキングが趣味なのか?」
「はぁはぁ、ふぃふぅ、そんな、訳、ないで、しょう!あなたが、私を、置いてこうと、する、から!」
息も絶え絶えといった感じにしゃべる彼女だがそれもしょうがないだろう。何たって4時間ぶっ通しで走り続けたのだ。常人の魔力量ではまず持たない。これは魔力量が多い彼女だからこそついてこられたと言っていい。
それでもジンと違って息が上がっているのは元々の筋力差によるところだろう。元々の筋力があるジンは筋肉が疲労しないように魔力を纏わせればいいだけだが、娘は違う。
ジンと同じ速度を出すために筋力の強化もそこに加えなければならなかったからだ。
「厄介ごとは嫌いなんだ。諦めてお家帰れ。」
「そういう訳には参りません!私はまだちゃんと貴方にお礼を申してませんし…それにわ、私には帰る家もありません!ですがせめて、せめて何かお返しを!一生暮らせるお金は無理ですが、せめて何かおかえしがしたいのです!」
やはり、やはりだ。クズの直感は当たっていた。厄介ごとセンサーが振り切れている。これはまずい。このままでは確実に巻き込まれる。既に巻き込まれているかもしれないが、まだ手はある。
キングオブクズは考える。考えるがいい答えは出ない。出ないのならば!
「ギルマスに押し付けよう。そうしよう」
「えっ?な、何です?ギルマス?」
クズはやはりクズであった。娘は何が何だかわかっていなかったがクズにとってはそんなことは関係ない。
「お礼はいらない。困ったときはお互いさまだ!そうだろ?そうだとも!君は実に運がいい!帰る家がないのならいい人を紹介しよう!きっと君の力になってくれる!」
覇気のない声でよくもまぁ勢いよく喋れる。他人に面倒ごとを押し付ける時のクズの顔は清々しいくらい晴れやかだ。
「えっ?いえそんな訳には!せめて何かお返しを!ちょっと!聞いてます!?」
娘はまたもパニック状態。おいたわしや麗しき娘!君の声は既にクズには届いていない。
「そうと決まれば君の格好は目立つな!朝方とはいえ門番がいる。俺の外套を貸そう!ああ大丈夫!お礼は結構だよ?もうあのメロンもとい胸、じゃねぇーや、いい思いはしてるからね!」
そう言うとクズは自身が羽織る外套を娘に羽織らせ連れてく。そんな娘は訳のわからないまま、クズに引かれ門をくぐり、あっという間にギルド『孤高の戦士』まで連れてこられてしまったのだった。
「よし、着いたぞ。ここに君を助けてくれる人がいる。さぁ、入るぞ!」
「えっ?あっはい。」
未だ状況がわからない娘だが今は彼について行くしかない。これがクズの策略だとは考えていないだろうが、仕方のないことだろう。普通では誰も考えないような事をしでかすのがクズなのだがら…
「うっす。ようお前らもどったぞー。仕事帰りのジンさんをねぎらえやクズ共。」
「あ、あの、えっと。お、お邪魔します?」
娘は被っていた外套を外しぺこりと会釈をするが、クズは構うことなく受付に向かう。麗しの受付嬢カレンに背負っていたマジックバックを渡す。
そんな何事もなくヅカヅカと進むクズとオロオロしている娘を迎えたのは静寂に包まれる広間と驚愕の色に染まるギルド員の顔であった。
「これの中にシルバーハウンドウルフとか色々入ってるから解体屋のおっさんに渡して数確認させといて。あ、あとギルマスいる?」
「あ、はい、執務室にいますよ。でも書類整理中なので忙しいかと…」
「まぁ大丈夫でしょ。ありがとうカレン。じゃ、あとよろしく。」
ギルマスがいるのを確認すると未だオロオロしている娘の手を取りそそくさと執務室がある二階に上がっていく。
流石のカレン嬢も状況が状況のため顔が引きつっていたが、気を取り直して自分の仕事をやることにした。
「取り敢えずマジックバックを隣の解体屋へと持ってこ」
一方その光景を見ていたギルド員達はというと…
「おい。俺たち昨日飲みすぎたっていやぁ飲みすぎたがよぉ。これは夢か?それとも酒が抜けてねぇーのか?」
「残念だがよ兄弟。こりゃぁ夢じゃねぇーぜ!つねったほっぺがいてぇいてぇ!」
「嘘だ、嘘だろ!嘘だと言ってよ!」
「ところがどっこいこれが現実だ。」
「キヒ!キヒヒ!死のうかな…」
「おい!誰かこのサイコパスを止めろ!今にも死ぬ勢いだぞ!」
しばらくはこのお通夜ムードの状態が続いたという…
なんかね。物を書くって難しいですよね。勢いが残っていて展開が浮かべば明日、遅くても明後日には…