古文暗記
自分としては、古文を覚えるのは得意な方だと思っている。ただ、その覚え方はかなり独特であって、普通の人には早々真似できるものでは無い。まあ、自分は実質普通ではないので、この覚え方が実践できたのではないだろうかとも思う。
中学時代には国語の時間に古文の暗記テストがあった。自慢だが、自分は三年間、『竹取物語』や『いろは歌』、『平家物語』、『枕草子』、『徒然草』など日本の名だたる古典から『矛盾』や『論語』などの故事成語系、更には『春暁』、『絶句』、『黄鶴楼にて孟浩然の(以下略)』、『春望』などの漢詩までを完全暗記し、学年トップの座を守り続けていた。コツは基本3つだ。
①文字は写真として覚えろ!(視覚を駆使!)
最も基本的なことだが、文字は基本的に、『文字だ』と認識してはいけない。自分の独断と偏見を交えて考えると、暗記が苦手な人は、大体、『うわー、こんな長い文章、覚えられる訳ないよ!』と決めつけ、早々に諦めるタイプか、『文字見てると眠くなるんだよね』という怠け者タイプの2種類に分けられると思う。前者も後者も、このコツ①を使用すれば、冒頭分ぐらいは簡単に覚えられるようになる。
そもそも、文字は眺めていれば覚えられるものでは無い。ただ文字列を目で追っていたって、覚えられる訳がない。そこでコツ①を使用する。自分の目はカメラのレンズだ、と自分に暗示をかけ、目がカメラになったように覚えたい部分だけを見て、パシャッとシャッターを切る。そして、一回その元を閉じて、目を瞑ってみる。するとどうだろう。何かおぼろげに、先ほど見ていた文字列が浮かんで来ないかな?浮かんで来ない場合は、もう一回やってみよう。じっと覚えたい部分をじっと見つめて、パシャッ!すぐ目を瞑る!ほら、何か見えてくるはずだ。それを何度も繰り返し、その度その度瞼の裏に浮かぶその写真をズームアップ!読める大きさにして、後はただその文章を声に出して読むだけだ。ほら、いつの間にか暗唱できてしまっているだろう?
『何回やっても無理だよ!』とか思っている人もいるだろうが、自分は実際この方法で覚えていた。ただ、もちろんこれだけでは完全な暗唱など不可能だ。そこで、コツ②の登場だ。
②とにかく聞き込め!とにかく読みこめ!(聴覚を駆使!)
コツ①では視覚を使ったが、視覚だけでは完全には暗記できない。目だけで得た情報ではだんだんその記憶は薄れていってしまう。例えば、円周率なんかがいい例だ。3.14159265……と並んでいる文字列、ただ眺めていたって覚えられないだろう?仮に写真として覚えるコツ①を実践したとすれば、一時的には3.1415926535897932384626433832795028841
9(以下略)くらい、桁数にして小数点以下第38桁ぐらいまでなら覚えられるだろう。だが、それはあくまで一時的な物であって、時が経つとともに薄れていってしまう。そこで、コツ②だ。
自分で、その言葉を口に出してみよう。試しに円周率をつらつらつらつらと。3.1415926535897……何回も言っているうちに、口がその動きに慣れ、耳もそれに慣れてくる。するとだんだんと、記憶としてそれが定着していくのだ。写真として覚え、次に音として覚える。それを繰り返すことによりこの恐ろしく長ったらしい為、πの一文字で省略されてしまったり、3、あるいは3.14と大雑把に略されてしまうと言う悲しき運命を背負った円周率、3.1415926
5358979323846264338327950288419(以下略)を覚えることができるのだ。古文もまた然り。ましてや古文は日本語だ。言葉だ。数字より簡単に覚えられるはず!という訳で、古文暗記のコツその②、読んで口で覚え、耳で覚えるのだ。
このコツ②、コツ①と組み合わせるとさらに効率がUPする。ここも円周率を例に使うが、3.1415まで今覚えているとして、急にその下30桁も覚えることは不可能だ。写真暗記を繰り返せば可能だが、それは一時的、かといって写真暗記と読暗記を繰り返していると途方もない時間がかかる。これでは効率が悪い。ここで、上級者テクニック、『細切れと組み合わせ』だ。
まず、自分は今、3.1415まで覚えている。即ち5桁だ。そうすると、それより桁数が少なければ覚えられない訳がない!という訳で、まず3.1415の下である9265までを写真暗記。そして繰り返し読む。3.14159265、3.14159265、3.14159265……何回か繰り返せば、目を閉じても自然と映像が浮かぶはずだ。そして、そこまで覚えたら、今度はその下6ケタにチャレンジ!358979までをパシャリ。そして3.141592653589
79を繰り返し復唱。やっているうちにそこまで覚えられる。それを何回も繰り返していくのだ。一番最初から繰り返しているから、やっている途中を忘れてしまうなどという危険性も少ない、ローリスクハイリターンな方法だ。繰り返すと、3.1415926535897932384626433832795028841
9(以下略)がいつの間にか自分のものになっている。古文も同じだ。
これでもう完璧……と言いたい所なのだが、実はまだ続きがある。それがコツ③だ。
③自分を縛る鎖を解き放て!恥を捨てろ!(感覚を駆使!)
最後のコツ③では感覚(それ以外に表現できない)を駆使する。まあ、簡単に言ってしまえば、ジェスチャーを使うということだ。これは、前のコツ①、コツ②とは違って、自分がネイティブである母国語でしか使えないという致命的な欠陥があるが、その分、母国語を覚える時は前の2つよりも強力なパワーを発揮する。
例えば、『竹取物語・冒頭文』で試してみよう。諸事情により現代仮名遣いとなるが、そこはご容赦を。
今は昔、竹取の翁と言う者ありけり。野山に混じりて竹を取りつつ、よろずの事に使いけり。名をば、さぬきのみやつことなんいいける。
その竹の中に、もと光る竹なん一筋ありける。あやしがりて、寄りて見るに、筒の中光りたり。それを見れば、三寸ばかりなる人、いとうつくしゅうていたり。
これが『竹取物語・冒頭文』に当たる。まずは最初に大変でないところ、今は昔~いう者ありけり。くらいまでの長さを目安に写真で暗記。そして、今は昔……と何度も繰り返し読む。そして目を瞑り、暗唱。それが済んだら今度は、いよいよコツ③……といきたいところだが、まだ早い。まずはコツ①とコツ②で全文を覚えてしまおう。コツ③はあくまで補足的なもので、人によってはコツ①、コツ②のみで行けてしまう人もいる。しかし、インパクトのある覚え方の方が忘れにくいということで、コツ③が存在するのだ。
例えば、竹取の翁という部分。ここは、自分で背中を曲げて杖を突いているジェスチャーをしてみる。すると、なんという事だ!自分が竹取の翁になっているような気分にならないか?まあ、普通はならないが、古文の暗記の上で、これはかなり大切だ。自分は小説も書くのでより一層これは大事だと思うのだが、それは、『登場人物になりきること』だ。
ちょっと話がそれるが、例えば自分が小説を書いていて、主人公が窮地に立たされた。さあ、どうする?そう思っても、なかなか書けない。そういう時は、自分自身がその主人公になりきり、苦悶の表情を浮かべてみる。すると、主人公がやって欲しいことが脳内に浮かぶんだ。
古文も同じ。竹取の翁になりきれば、そのあとどんな言葉が続いていたかが自ずと分かってしまう。それを数珠つなぎにして、その時その時で登場しているものに心だけでも入り込めるようになれば、それはもう、忘れなくなる。
自分はこの方法を目いっぱい駆使して、クラス全員の前でも堂々とジェスチャーをしていた。『扇の的』で那須与一が鏑矢を引いているシーンでは『与一、鏑を取ってつがい、よっぴいてひょうどはなつ』と言いながら自分でも弓を引く仕草をしていた。また、与一が心の中で仏に祈りを捧げているときは自分も手を合わせて祈りを捧げながらセリフを言っていた。
もちろんこの方法は、コツ①、コツ②を使い熟せて初めて役に立つ技だ。この方法はインパクトが強く、忘れにくいという長所があるが、これだけに頼っても本文を覚えていなければ意味がない。本文をまずは前述の①、②で覚えよう。
最後に一つ、言っておくが、あくまでジェスチャーは補足だ。ジェスチャーに合わせて文を覚えているのでは、それはジェスチャーを覚えているのであって、文を覚えているのではない。即ち、意味がない。ジェスチャーに合わせて文、ではなく、『文に合わせてジェスチャー』を心がけて欲しい。
自分が言えるのはここまでだ。あとは自分の中に眠っている潜在能力をどれだけ引き出せるか、どれだけ解き放てるか。それが最後の鍵、全員が持つ『可能性』だ。人間が全力を出している場合、実際は3割しか力が出ていないとも言われる。自分がこれまでに述べたコツはあくまで、『手助け』以外の何者でもない。コツだけに頼るのではなく、最後はやはり自分自身の力で頑張ってみよう。これは、何も暗記だけではなく、他の事にだって言える。どんな教えがあろうとも、それを使えるか否かは、全て一人一人の『意志』に関わってくる。どんなに優れた方法も、使えなければ宝の持ち腐れだ。もし、暗記が苦手だという人がいるのならば、この方法を役に立てていただけるとありがたい。