【詩】きえていく嘘
すべての
あたたかな微笑みと、
やわらかな
てざわりの言葉と、
つたわってくる
手からの温度さえも、
いつか
遠く去ってしまった。
のきしたで
まっていた雨の日と、
やかれるように
立ち尽くした日と、
まつことを終れない
わたしの過去さえも、
消えてしまった
面影を追憶している。
あのころに
信じていた明日の希望と、
その日のなかであった
些細な出来事と、
きのうの辛ささえも
乗り越えるために、
その嘘はあった。
ほほえみは
永遠に続くのだという、
慈しみは
途切れることは無いのだという、
わがままや甘えを
いつでも聞いてくれるのだという、
責任の嘘。
決して始めから
嘘にしたかったわけではない。
ただ、
人が一人で生きて行くには、
傷つかなければならない。
その傷から立ち上がって、
やがて誰かの嘘を、
引き受けて
やれるようになれば、
傷ついた嘘は
嘘でなくなって、
虹の消えるところのように、
あるけれども
目に見えないものに
なっていく。