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VSゴブリンそして、遭遇

「さてと、それじゃあ……やるかな!」



 俺は自信を鼓舞するようにそう言うと、眼前のゴブリンに向かって行く。


 やつらはどうやら俺を子どもと侮っているらしく、まるでちょうど良い獲物を見つけたとでも言うかのようにこちらを見ている。


 ……まったく、舐められたものだ。


 俺はいっそう力強く地を蹴りつけると速度を少し上げ、最も手前に居たゴブリンに一気に接近。

 そいつをそのまま袈裟懸けに斬って捨てる。

 黒剣はなんの抵抗もなくゴブリンを斜めに裁断した。


『キキッ!?』

「―――隙だらけだ」



 ゴブリン共が瞬く間に切り捨てられた仲間を目の前にして動揺しているその間、敵を前に無防備な体躯をさらしている間抜け共に対し、俺は流れるように次のゴブリンを切り上げる。


 二体目のゴブリンの鮮血が中空を舞う。


 ここでようやく我を取り戻したのか、残り三匹のゴブリン共が俺へと襲い掛かってくる。

 一体は棍棒を手に、もう一体は剣を手に、残りの一体は槍をその手に持っている。


 三者三様の武器を手に、俺へと向かって来るゴブリン共。

 なるほど、確かにその動きは見た目だけは様になっている。

 棍棒の奴はともかく、剣と槍を握る彼らの動きはそう悪くない。

 だが……。



「―――遅い!」



 圧倒的に速度が足りていない。

 こんな速度では前世で戦った雑兵にすら及ばないだろう。

 俺は彼らの武器がこの身に届くよりも遥かに素早く、一閃。

 ゴブリン共を武器ごと一刀の元に斬って伏せた。



『グギィ……』



 断末魔の声を漏らしながらその場に崩れ落ちる三体のゴブリン。

 気がつけば当初五体いたはずのゴブリンはものの数秒で斬り伏せられていた。



「ふむ、この体にもだいぶ慣れてきたか?」

 


 確かにこの体はまだまだ小柄で筋力も少し足りない。

 体全体が行うことの出来るパフォーマンスは未だに前世のそれには届かないし、剣技のキレも前世のそれには遠く及ばない。

 がしかし、それを補って有り余るほどに魔術回路に流れる魔力の量が潤沢だ。

 これだけの魔力があれば強化次第でこの齢にして前世の動きをある程度再現することも可能かもしれない。

 どうやら幼いころからずっと鍛錬してた甲斐はあったようだ。

 まぁ、とはいえ俺はまだまだ幼いのだが……。


 そんなことを考えながら、俺はゴブリン共の亡骸を背に、再び森の中を駆けていく。 


 俺は魔力の鍛錬を今も欠かさず続いている。

 おかげで俺の魔力量は既に前世のそれを超えるまでに成長していた。

 このまま続けて行けば恐らく魔力量だけなら前世でも上位のクラスに入れるかもしれない。


 そうして俺はその後も森の中を駆けまわりながら遭遇した魔物を切って捨て、ひたすら剣術を磨き続ける。


 基本的に、この森にいる魔物はゴブリンが殆どだ。

 他の魔物と言えば極稀にコボルトやオークがいる程度、それもそこそこ奥に行かなければ出てこない。

 そもそもだ、コボルトやオークとなれば厳しいだろうが、ゴブリン程度なら誰もが魔術を扱うこの世界なら子供でも少し鍛錬すれば安定して倒せる位だ。


 それでも村の大人たちは万が一のことを考えて基本的に森への立ち入りを禁じているようで、時折村へとやってくる商人もこちらは通らず、比較的安全な街道を通ってくる。


 だが、これは俺の推測だが、この森にもし子供が入ったとしても、魔術が使えるこの世界の子供であればそう奥まで行かない限りは探索できてしまうだろうと思う。


 そうしている間にも、俺は次々と魔物を狩り続けていく、その姿は魔物側にしてみれば災厄以外の何者でもない。


 正直、前世で多大な戦闘経験を積んでいる俺としては感触を確かめる程度でしかないのだが、それでも今までのように相手もいない状態でただ一人鍛錬を続けるよりは幾分かましであろう。


 だが、そんな思いを胸に抱えながら、森の中を駆けていたその時だった。



「……ん?」



 俺が魔物の魔力を感じ、探索魔術を発動すると、何故か魔物以外の生体反応があったのだ。

 どうやら、珍しいことにこの森の中に俺以外の誰かが立ち入っているらしい。



「ほぅ、珍しいこともあるものだ、少し様子を見てみるか?」



 反応があった位置はそう遠くではない。

 俺は少し考えてからすぐにそこへと向かうことにする。

 探索魔術にかかった人の反応は三つ。

 俺は進入禁止の森に勝手に侵入していた変わり者達の顔に思いを馳せながらその場へと向かった。


 木々の隙間を駆ける。

 大量の木が前から後ろへと流れるようにして現れては消えていく。


 そして俺は程なくして反応があった場所に到着した。



「来るな、来るなよ!! あっち行け!!」

「レオくん……ノアちゃん……どうしよう、私達もう駄目なのかなぁ……」

「こらッ!! 勝手に諦めないのエリス!! 大丈夫、なんとか……何とかなる。いや、何とかするのよ!!」



 手近な木の後ろに隠れると、そこから様子をうかがう。

 そこ居たのは三人の子供と複数の狼のような魔物だった。


 子供の方の年は見た目から判断するに俺より少し大きいくらいだろう。

 炎を纏った剣を構えて魔物を牽制している獣耳の少年が一人。

 一番後ろで腰を抜かして怯えている栗毛色で短めの髪の少女が一人。

 そして、その子を庇うように男の子の後ろで杖のようなものを構えている紫色の長髪の少女が一人。


 三人ともそれぞれ整った顔立ちをしている。

 が、今はその端正な顔を歪ませて、苦境に晒されていた。


 武器を持っているところなどから察するにゴブリン程度なら何とかできるのだろうが、この狼のような魔物に囲まれて万事休すというところか……。


 にしても、あの年の子供達でも魔術が使えるのか……。

 こういうところを見るとやはりここは異世界なのだなと実感する。

 頭ではわかってたつもりだったんだけどな……。

 やはりあの年の子供が魔術を使っているのを見ると、違和感を感じてしまう。


 その子供達に対する魔物の方は俺も初めて見るやつだ。

 見た目は簡単に言ってしまえば黒い狼だろう。

 違うところと言えば、前世で見た狼とは違って、その目はまるで汚れた血のように赤黒く、その爪牙は通常のものよりも遥かに長く、鋭い。

 あれに一噛みされれば確実に無事では済むまい。


 杖を持っている少女、ノアは既にかなりの魔力を消費してしまっているらしく、あまり魔力が残っていない。

 それは前線で炎剣を振るって戦っている彼も同様だ。そのことからもいかに三人が奮闘したのかが窺えた。


 今のところはあのレオという少年が炎剣を駆使して前線で踏ん張りながら、ノアが残り少ない魔力でどうすれば状況をひっくりかえせるかを考え、魔力を待機。

 発動する魔術を選択しているようだが、あの状況では例えそんな魔術が見つかったところで、それを発動させる前に少年が力尽きてしまうだろう。


 このままではあの子達があの魔物たちの餌になるのは時間の問題だった。



「……今度こそしっかり英雄(ヒーロー)になろうというのに、いきなり目の前で誰かに死なれてしまうのはちょっと困るな?」



 俺は前世で生き方を間違えた。

 だからこの世界では間違えないように……今度こそ、取りこぼしなく、救いを求める全ての人を救うことで、本当の英雄(ヒーロー)になろうと誓ったのだ。


 それをここでこの子達を見捨てるようでは既にその目標は出だしから破綻してしまう。


 俺が夢見たサーシャのあり方、救いを求める者の前に颯爽と現れ、救い出す、英雄(ヒーロー)の如きその姿。

 そんな在りもしない存在にあこがれた。

 分かっている。

 彼女はそんな英雄(ヒーロー)と呼べるような人間ではなかった。

 悪逆非道な行いもした。

 合理的な判断で多くの人間を見捨てたりもした。

 自分を助けたのもおそらく何かのついでだったのだろう。


 だが、それでも俺はあの瞬間の彼女の姿に夢を見てしまったのだ。

 ああやって自分が誰かを救う事で、あの時の自分がそう考えたのと同じように、誰かのにとっての英雄(ヒーロー)になれたらと、そう、思い描いてしまったのだ。


 前世では途中で道を見失い、とうとう、その夢をかなえる事は出来なかったが、俺は再びやりなおす機会を得た。


 であれば、今度こそはこの夢を張り通して見せる。


 俺の夢見た幻想を、次こそはこの手に掴むために。

 だから、


――――すべき事など、既に決まっていた。



「―――ッ!? しまった!! ノアッ! エリスッ! 逃げろぉぉッ!!」

「クッ!! ―――風よ! 我がエレメントを介し―――」



 少年が叫ぶ。

 どうやら誤って魔獣の一体を後ろに通してしまったらしい。

 ノアという少女が即座に状況の打開から頭を切り替えて、魔術を発動しようとするが、遅い。

 その詠唱には無駄が多く、あれでは恐らく間に合わない。


 少年という障害を通過した魔獣は、放たれた矢のように一直線に後方に控えていた二人の元へと駆けていく。


 俺は一度右手の剣を強く握りなおすと、魔力を足に集中。

 今まさに少女たちへと牙を剥こうとしている魔獣の元へと向かうために―――力強く地を蹴って弾丸の如く飛び出した。



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