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無属性?

 

 そんなわけで異世界の魔法に対し若干の落胆を感じながら本を読み進めていた俺だが、ここで実に困ったことに気づいてしまった。


 俺はこの世界において、自由に魔術を使用しても何ら問題ないのではないかと思っていたが、これを読む限りそうもいかないらしい。


 何せ、この世界では基本一つの属性魔術しか使えないのということになっている。

 一応この世界で違和感なく魔術を行使するためにはまず、どうしても自分の属性が何なのかということを調べなきゃいけないのだ。


 この本によれば調べるのもどうやら水晶玉に魔力を通して、身体に含まれる属性元素(エレメント)がどの属性のものなのかを調べるだけのそう複雑な手順ではなさそうだし、母さんが来たら頼んで調べてもらおうかな?



「ヴァン~!! お母さんが来たわよ~!!

 ほらこっちにおいで~チュッチュしてあげまちゅよ~!!」



 ……噂をすればである。

 というか母さん、なんか日に日に親バカが悪化してないか?


 息子としては早くも母の子離れがしっかりできるかが心配になってきた……。


 俺は母さんの先行きに不安を覚えながらも『ママ~』と、極力子供っぽい声を出しながら近寄る。



「ん~ヴァンったら相変わらず可愛いわね!

 もうママは感激です!!」



 俺が近寄ると母さんは俺を抱き上げて頬にキスをしてきた。


 ……このやり取りにもいい加減慣れてきたものだ。

 最初はあまりの距離感にドキドキしていたものだが、徐々に俺も彼女を母親として認識出来てきたらしく、今では特に意識しなくなった。

 ……とは言っても恥ずかしいことは恥ずかしいのだが、言ってもやめてくれるとは思えないので諦める。


 さてと、早速俺の予定通りにお願いさせてもらおうか。



「ねぇ、ママ、お願いがあるんだけど――――」

「―――いいわよッ!!」



 はやッ!? 俺まだお願いの内容言ってないぞ?


 俺がもし無理難題吹っかけたらどうするつもりだったのだろうか……。


 まあ、話が速く進むに越したことはないけどな。



「本当? ママ、僕ね、魔法が使ってみたいんだ!!」

「え……魔法を?」



 何故だろう、母さんの表情に珍しく陰りがある。

 何かまずいことでも言ってしまったのかな?



「ママ?」

「え、ああ~そうね、ヴァン、どうして魔法が使いたいと思ったの?」

「うん、お本読んでたらね、すっごく強い魔法使いが魔物を倒して活躍する話があったんだ!

 それ見たら僕も魔法使ってみたくなって……だめ、かな?」

「ううん! 全然だめじゃないわ!!

 よし、ちょっと早いけどヴァンちゃんの属性を調べましょう!!

 ちょっと待っててね!!」



 そう言って母さんはどこかへ行ってしまった。


 にしても、さっきの母さんの表情の陰りはなんだったんだろう?

 あれはまるで何か嫌なことを思い出してしまったかのような顔をしていた気がする。

 もしかするとこの話はもう少し様子を見た方がよかったのかもしれない。


 そんなことを考えていると、母さんが水晶玉のような物を持って部屋に戻ってきた。


 どうやらアレで属性を調べるようだ。


 ……というか、なんか心なしか緊張してないか? 



「ヴァン、ここに手を乗せて見て?」



 そう言って母さんは手に持っていた水晶玉を俺の前に差し出してきた。

 俺は恐る恐る右手を水晶玉の上に載せる。


 すると俺の手が水晶玉に触れた瞬間、水晶玉はまばゆい輝きを放ち始めた。


 おお~なんかすごい感じじゃないか?

 やはり魔力を枯渇させまくったことが関係しているのかもな、魔術も魔法も魔力を使うというとこまでは同じなわけだし……ん?

 でも今あの光の色、透明じゃなかったか?


 そう考えてから顔を上げると、何故か母さんは蒼白で固まっていた。


 あれ、なんで? やっぱ、これ透明ってなんかまずいの?



「……ヴァン、水晶の光の色が無色の時って何を意味するかわかる?」



 まるで伝えづらいことを伝えるときのように、少し重いテンションで話を切り出す母さんに、俺はわからないと、首を振って見せる。



「あのね、無色っていうのは無属性、要するにまっとうな魔法の才能が無いってことを意味するのよ……。

 つまり、あなたはろくな魔法が使えないってことなの……」



 ……いやいやいやいや、そんな馬鹿なことあるはずはないでしょ母さん!?

 俺実際使えますよ!?

 まぁ魔法じゃなくて魔術だけどさ。

 それでもこの世界とは呼び名が違うだけで基本的には同じものなはずだぞ?


 そんな困惑に包まれる俺の顔を見て俺が悲しんでいると勘違いしたのか、母さんは俺に心配しないでと声をかける。



「大丈夫よヴァン、たとえあなたに属性魔法の才能が無くても、私がヴァンちゃんを絶対に守るわ。

 そうよ、絶対に守ってみせる……だから安心して、ねっ?」



 そうして決意を固める母さん。

 それを横目に見ながら俺は一人疑問の渦の中に居た。


 え、マジですか……。

 俺このままだとまともな魔術が使えないってことにされちゃうんですが……。

 え、これじゃあ家の中で魔術の鍛錬できなくね?


 ……これは……どうしたものやら……。




 あの波乱の属性判定から数日が経った。

 魔術が使えるのにこの世界で言う魔法が殆ど使えないと言われた俺だったが、あれから時間が経ち、既にその理由が思い当っていた。


 母さん曰く、どうやらあの水晶玉は触れた時の光の色と強さでその人の属性元素(エレメント)の属性と魔力量を調べるものらしい。


 赤く光れば火、青なら水、茶なら土、緑なら風……というように光るようになっているのだとか。


 それで、俺の場合はというと、この中のどれにも当てはまらなかった。

 というのも、俺の場合は透明な光がかなり強く光っていたのだ。


 そして、透明な光が表すもの、それは無属性……要するに、まともな魔法の才能を持たない言うなれば神に見放された子ということである。


 その上魔力量だけは異常に多いのだから最早救いようがない。


 これではただの燃料タンクだ。

 しかもその燃料の使い道がないと来たらいよいよいらない子のできあがりだ。


 さて、ではどうして俺がそうそう生まれることのない無属性になってしまったのかというと、これは恐らく魔術回路を通してしまったせいだと思われる。


 魔術回路を通す際、体内にあった属性元素(エレメント)が変質してしまい、その属性を失った。

 結果、俺は無属性となってしまったのだ。

 そして、この魔術回路による変質の原因は俺の魔術の発動プロセスにある。


 この世界の属性の付く魔術は全て体内の属性元素(エレメント)を介して発動しているようだが、しかし、俺の場合は違う。


 俺は基本その手の魔術を発動する際、自身の外部にある属性元素(エレメント)を使用して発動している。

 現に、俺は行おうと思えばどの属性の魔術も行使できるのだ。

 もっとも、魔術の才能が乏しかった俺が使えるのは簡単な魔術のみなのだが……。


 それはともかくとして、その際、自分には属性が無い方が外部の魔力を受け入れやすい。

 それは無色の絵の具の方が簡単に他の色に染まることができるのと同じだ。

 そのため、魔術回路が通った瞬間。

 それに順応するように属性元素(エレメント)の質が変わったのだと思われる。


 前世ではそもそも魔術回路を通していない魔術師など存在しなかった。

 それ故に、この世界でいう無属性が前提とされた魔術の行使しかされてこなかったのだ。

 今までは体内の属性元素(エレメント)を使って魔術を発動することなどなかったので、気づかなかった。


 う~ん、まぁでも、無属性でも何とかなりそうな気がしなくもない。


 というかそもそも、俺の使用する魔術が無属性を前提としている以上、魔術の行使自体には何の問題もないわけで、魔術の練習は若干不便ではあるが隠れてすればいいし……。


 ……うん、よく考えたらあまり問題ないかな?


 俺はそう判断するといつも通りの訓練を再開した。



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