孤立
「大丈夫か坊主!」
棍棒が振るわれて、
俺と戦っていたうちの一人がよろめく。
おかげで俺を囲んでいた2人のうちの1人が離れる。
助けてくれたのは……
一緒の班だったおっさんか。
これで1vs1で戦える。
そういえばさっき伝令に出た味方は本部までたどり着けただろうか。
これだけ敵がゴチャゴチャしていると、
早い遅い以前に途中で力尽きてしまった可能性もある。
命綱だったが、援軍にはあまり期待できない。
目の前の敵を倒すと、
助けてくれたおっさんも丁度片をつけたところだった。
「おっさんありがとよ!」
「いや、こっちこそ味方が残ってて嬉しい限りだ。中にいた奴らはほとんどやられた。大して味方は残ってねぇ」
なんてこった。
中にいた味方には俺より強い奴も何人かいた。
それがやられたってことは、
それより更に強い奴がいるか、
狭い室内で大量の敵に押し潰されたのかもしれない。
早めに外に出たのは正解だったのだろう。
「町の外側に向けて移動すんぞ。こっち側はいくらか手薄だ」
おっさんの意見に同意だ。
作戦が決行できない以上ここにいる意味はないし、
味方がほとんどやられたってことは
これから先は敵に囲まれていく一方だ。
「アルマ!屋根づたいに移動できるか?」
「ある程度までは建物があるから大丈夫ですが、外周部までは行けないと思います」
なら、行けるとこまでまずは行くしかない!
できるだけ戦闘は避けるように走るが、
どうしても戦うしかない相手とは
おっさんとアルマと連携しながら倒していく。
3人だと楽に戦えるな。
それでも敵の人数ゆえに抜けるには時間がかかる。
いくら楽になったとはいえ、
戦闘経験が少なく未熟な俺は少しずつだが、
確実に傷が増えていってる。
おっさんもよく見ると、
たくさんの怪我が見てとれる。
俺よりも長く建物の中にいたせいだろうか。
それでも疲労を感じさせない動きには
経験が見てとれる。
一方でアルマは後方援護に徹していただけあって、
ほぼ怪我という怪我がない。
これは不幸中の幸いだ。
魔力は精神力で操るという性質上、
見えないところで疲れている可能性は否定できないが。
時間はかかったものの
結構な距離を走ったため包囲網を抜けたようだ。
周りに敵の姿は無い。
今のうちに路地にでも入れば後ろから来る奴らにも見つからずに済むかもしれない。
「ジン!後ろから高レベル戦士が来てます!」
このタイミングでかよ!
せっかく包囲網を抜けたってのに。
アルマが高レベルっていうぐらいだ。
余程強い奴なんだろう。
そんなのを相手にしてる余裕はないぞ……。
「おっさん、逃げるぞ!後ろからヤバそうなのが来てる!」
「何!?」
おっさんが立ち止まって、
無言で来た道を見ている。
レベル測定してるのか……?
「違うな敵じゃない。敵の数を減らしてるんだからおそらく味方だ」
「えっ?味方?」
一人だけでこの道を突っ切って来てるっていうのか。
それは確かに余程の戦士だな。
おっさんに習って俺も路地に入って大通りをうかがい見る。
確かに単騎で走ってくる奴がいる。
追っ手を5人ほど連れてきやがったけど。
「追っ手を倒すぞ」
おっさんが言うが、俺もアルマも最初からそのつもりだった。
目の前に来るギリギリまで路地でタイミングを測る。
もう少し、もう少しだ……。
……来た!
屋根の上で伏せていたアルマが先制攻撃を放つ。
それに続いて俺とおっさんが飛びかかると、
味方もそれに気づいて反転して敵に向かっていく。
鎧がボコボコに凹んでるから分からなかったがこいつ騎士だな。
アルマの援護を受けながら、
騎士が3人、おっさん1人、俺1人が応戦する。
ちっ、また俺より強い奴だな。
敵が3人ってこともあって、
アルマは騎士の援護をしてるようだし、
自分で何とかしなきゃならないのか。
でも、相手の剣が相当早い。
バックステップで間合いをとりながら戦おうとするが、
下がる俺の足より踏み込む敵のほうが早いため、
徐々に距離が縮まる。
…………!!
疲労からか足がもつれて転んでしまった。
降り下ろされた剣を剣で受け止めるが、
この体勢じゃ力が入んねぇ……。
押し込まれる……っ!
とそのとき、騎士が敵の後ろに現れる。
それに気づいた敵が俺を諦めて騎士のほうに構えた。
向こうを見ると3人の敵が倒れている。
いくらアルマの援護を受けたとはいっても、
この短い時間に3人倒したってのかよ……!
おっさんだってまだ戦ってんのに。
と思いながら騎士に視線を戻すと、
勝負はついた後だった。
早っ……。強すぎじゃね?
そのまま騎士はおっさんのほうに加勢し、
またすぐに決着をつけて帰ってきた。
「敵を引き連れてきてしまって申し訳ない」
「あ、いや、気にしなくていい」
結局ほとんどあんたが倒したわけだし。
「君は北西の班か?」
「ああ」
「良かった。まだ生き残りがいたか」
と言いながら騎士が兜を脱ぐ。
へっ?騎士団長?
兜の下から出てきたのは紛れもなく、
騎士団長の顔だった。
左右を見ると、
腰をさすりながらこっちに来たおっさんも、屋根の上のアルマも唖然としている。
「団長殿が自ら最前線に?」
思わず訊ねてしまった。
「ああ、本部にも襲撃があってな。やむを得ない事情で私が来ざるを得なかったのだ」
お互いの情報を交換する。
こちらが包囲されたところから脱出したところまで。
同じく本部が襲撃されたところから、
援軍に来るまで。
「なるほど。大体戦局は理解できましたが、これからどうするんですか?」
俺の質問に団長はしばし悩む。
全体に命令が届かないため、
打てる手が限られているんだろう。
「とりあえず他の戦線の方に向かってくれ。まだ戦いが続いている以上、次の戦場はそちらになるだろう」
「分かりました。団長は?」
「道中に部下を残してきている。優秀なものたちだが、彼らを放置するわけにもいかないのでな」
あの敵の中にもう一回飛び込むというのか。
この自信というか、強さはどこから来るんだろうな。
言葉通りに団長は元の道へと引き返していった。
俺たちは屋根に登ったままだったアルマを降ろしてから、
団長に教えてもらった裏道を使って他の戦線に向かうことにした。