仕事探し
下に朝食を食べに降りると、
ウィルがもう一人で食事を始めていた。
「お客さん、昨夜はお楽しみでしたね」
「誤解を招く言い方をするな!」
このネタはこっちでも有名なのか!?
「それはどうでもいいんだが、今日も仕事探しに行くのか?」
「どうでもいいのかよ……。まぁ、昨日は大した収穫が無かったからな」
幸い今日1日で仕事を見つけられればまだ間に合うだろう。
「……気をつけろ。前にこの町に来たときよりも何か怪しい空気が漂ってる」
冗談を言ってる目じゃない。
わざわざ忠告してくるぐらいだ、
本当に気をつける必要があるんだろう。
「分かった。できる限り気をつけるよ」
「私も気をつけます」
まずは掲示板から見て回る。
「新しい仕事が出てますね」
ん、戦闘依頼か。内容は……、
報酬は1万C〜。
人数制限なし。
レベル制限も無いが、できる限り高レベル推奨。
仕事受諾時から守秘義務発生。
希望者は本日中に参加表明に来ること……か。
宿代が一泊300Cだから、
これなら余裕で借金を返せる。
ただ、高レベル推奨ってのが怖いな。
何をさせられるんだろうか。
守秘義務があるってのも気になる。
ウィルの忠告もあるし、
やめておくべきだろうか。
「この仕事の依頼主を見てください。フランシス・ヴァンデルハルク。……男爵の直轄騎士団団長です」
騎士団長……?
ってことは公式の仕事なのか?
「どう思う?」
「大っぴらに団長の名前で依頼を出してる以上、非合法な仕事では無いと思います。でも破格の報酬に高レベル推奨、守秘義務となると安全とも言えなそうです……」
とはいえ他の仕事は安かったり、
こっちの事情に疎い俺には難しいものばかりだ。
これを逃したら恐らく他は無いだろう。
「……受けよう」
「いいんですか?危険な仕事って可能性も十分ありますよ?」
「多分大丈夫だ。なんとかなるさ。勿論アルマは一緒に受ける必要はないぞ?」
危ない仕事なら付き合わせるわけにはいかない。
簡単そうだったら人数制限もないわけだし、
後で誘えばいいだけだ。
「一緒に受けます。どんな仕事でも一人で受けるより二人のほうが安全なハズです。止めても聞く気はありませんよ?」
本当に聞く気無さそうだなぁ……。
仕方ないか。
アルマに先導してもらって騎士団の駐屯所まで来た。
町の中央部にあるためにちょっと遠かったな。
表に立っていた騎士に依頼を受けることを話すと、
特に何も訊かれずに中へと案内してくれた。
「私が団長のフランシスだ。依頼を受けてくれるということでいいのだな?」
頷くと紙と羽根ペンを渡される。
「名前と出身地、職業を書いてもらえるか」
名前を書き終わってから悩む。
出身地はどうしたものか。
東方とだけ書いてもダメだろうし、
東方にある町の名前なんて知らない。
アルマに訊くのもおかしいだろう。
困っているのを見かねたのか、
助け船を出してくれる。
(私と同じ村を出身地にしますか?本当の出身地じゃなくても、移住したりして住むところを変えてる人は結構いますから)
お言葉に甘えて、
コルタニア村、と。
職業は冒険者でいいんだろうか。
アルマは何て書いたんだろう。
どれどれ……、村人A!?
モブキャラにも程があるだろ!
台詞すらあるかどうか怪しいぐらいじゃん!
そもそも戦闘系の仕事なのに村人で大丈夫なのか!?
(……冗談ですよ)クスッと笑って書き直した。
改めて冒険者と書いているようだ。
なんで、テレビもマンガも無いこの世界で
村人Aって発想が出てくるんだよ……。
二人とも書き終わったので用紙を返す。
「うむ、選考が済んだら今晩使いを出す。今日は休んでいてくれ」
え、今仕事出すんじゃないの?
そもそも選考ってことは、
希望者の中から誰に頼むか選ぶつもりなのか?
こっちでは当たり前のことなのかと一瞬考えたが、
隣にいるアルマの悩んでいる表情を見た限りでは
そういうことも無いのだろう。
相手を選ぶ仕事ってことは本当に危険なのか……?
「まず町に出よう。ここにいてもやることはないんだし」
目的も無いまま商店街に来たものの気分が浮かない。
「ますます怪しい気がしてきましたね」
「考えて分かることでもないさ。なるようになることを期待しよう」
ブラブラしていてもやることを
見つけられなかった俺たちは宿へと帰ってきた。
いつ使いってのが来るかも分からないしな。
実際、騎士団からの使いが来たのは夕方のうちだった。
選考は通ったらしい。
明日の早朝に駐屯所に呼び出された。
仕事についての説明とこの仕事を受けた他の人たちとの顔合わせもあるらしい。
参加は強制と言われた。
つまりもう退くことは許されないということだ。
ウィルに相談しようかと思ったが、
夜になっても帰って来なかった。
あまり深夜まで待っていては明日のミーティングに支障をきたすかもしれないので、
仕方なく諦めて寝ることにした。