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決戦・ボス討伐

今回は2話同時の投稿となっています。

それはずっと待っていた。


このダンジョンによって生み出され、主として探索者の前に立ちはだかるものとして。


しかし訪問者は来ない。

ダンジョンに入ってきた者はいるのに、誰一人としてここまで辿り着けないのだ。

何故なのかは分からない。

分かろうとも思わない。

それはただ、来た敵を倒すことしか考えていないから。


そして、ついに待ち望んだ訪問者が現れた。


それは喜びに啼く。





「ーーーグオォォォオッ!!」


その咆哮に石で出来ている足場が振動するのを感じる。


「リザードマン!?」


その姿はリザードマン同様のトカゲ戦士。

しかし身長は5mほどもある。


「リザードマンやない。あれはオーガリザード……っ!」


「オーガリザード!?」


その名前に反応したのはセラ。

俺は勿論、アルマも分からないようだった。


「オーガリザードとはなんなんですか?」


その咆哮に呑まれているのか、アルマの声には僅かに固さが滲み出ていた。


「リザード系の変異種だよ……。レベルは1500前後……!」


1500……。

1桁の差は大きい。

これまで戦ってきた中で最も強かった副団長ですら500代だった。

こいつはあの2倍以上強いっていうのかよ……!



パーティに困惑と驚愕が渦巻く中、リザードは既に臨戦体勢へと入っていた。

構えないのなら、戦わないなら、ただ打ち倒すだけだ、と。



思考能力が低いゆえに垂れ流される殺気。

唯一、最も経験を積んでいたシュウだけがその動きに気づいた。


「散開するんや!固まってたら格好の的になる!」


その声とオーガリザードがこっちに向かって突進を始めたのは同時だった。


「避けろ!!」


そう叫んでから、全力で横へと跳ぶ。

紙一重で横を走り抜けていくのを感じた。


……移動速度が速い!

横からならともかく、正面から見ていては瞬間移動と見間違うレベルだ。

もしもシュウが気づかなかったら、これだけで全滅していたかもしれない。

中途半端な距離では対処できないな……!



「アルマとセラは下がってろ!シュウ!」

「ああ!!」


一度走らせたら回避は難しい。

狙いは完全にインファイト。

走るだけの間合いは与えない。離れるわけにはいかないのだ。



「らぁっ!」


俺の斬撃が浅く鱗を貫いて食い込む。

硬さはリザードマンと変わらないが、厚みが段違いだ。

体長に比例しているせいか、浅い踏み込みでは破れない!


「……グゥゥウッ!グァアア!」


しかし、斬撃を止められても衝撃だけはちゃんと通っているのが感じられる。

このまま押し続ければ!!


そう思ったときに巨大な腕が振られるのが見えた。

ラリアットのようなそれは来ることが分かっても避けきれない。

ガードするしか……!


ーーーガンッ!

俺の体が何mも吹っ飛ばされる。

ガードした剣ごと殴られたのだ。

運動エネルギーは速さと質量で決まる。

とてつもない重さで放たれた一撃はスピードは無いながらも車がぶつかるような衝撃を生み出していた。

地面と平行に飛ばされた俺の体は壁へと叩きつけられる。

そのダメージで肺から空気が抜けたような感覚に陥った。


「ゲホゲホッ!ハァ、ハァ…………ッ!」


すぐには体が動かない。

骨折は無いし、出血もしていないが痺れたような痛みが胸を覆っている。

内臓が混ざっているのではないかと思わせるほどの吐き気に襲われた。


その直後にシュウがやはりガードごと吹っ飛ばされるのが見えた。

俺よりも高い技術を持つシュウといえども、

点や線ではなく、面で襲いかかってくるあの一撃は防ぐ方法が無いのだ。


そして前衛が抜けた穴を見逃さずに下がっていた後衛の元へとトカゲが向かっていく。


まずい……!

遠距離に特化した彼女たちは接近戦ではその真価を発揮できない。

そこそこに機敏なセラも巨体のボス相手に張り合えるほどではない。

ジリ貧になることは目に見えている。

が、激しい目眩と吐き気で起き上がることさえできない。

その間にリザードと後衛の距離は詰まってしまった。


「グゥァァァア!」


追い詰められてアルマが逃げ場を失う。

壁を背にした形だ。


「鬼さんこっちだよ!鬼かトカゲか知らないけどさ!!」


すかさず側面から頭を打ち続けるセラ。

アルマを助けようとして近づいたのだろうが、無理して接近しているせいか、

その額には汗が滲んでいる。


「グゥゥゥ……。グゥゥアァァァア!」


どちらを狙うか迷う動作を見せた後にリザードが顔を向けたのはセラだった。


それを悟ったセラは敵のパンチが届くギリギリまで下がる。

つかず離れずの距離で相手をアルマから引き離す意図なのだろう。


繰り出されるオーガリザードの連打。

それを悉く避ける。

いくらギリギリまで離れているとはいえ、

あれを避け続ける反射神経は凄いの一言に尽きる。

だが後衛たる彼女は今、攻撃の当たる間合いまで近づくことで例えられないほどの圧迫感を感じているはずだ。


任せておくわけにはいかないのに、まだ体が回復するのには時間がかかる。

このままでは長くは持たないことは分かっている。

一刻も早く俺が戻らなければいけない。

セラが前で戦っているのに前衛の俺が倒れたまま動けずに見ているなんて……!!


そして均衡は容易く破られた。

避けきれなくなったセラが被弾したのだ。

当たったのは末端たる足であったにも関わらず、

その体は軽々と飛ばされた。



セラは……起き上がらない。

壁へと叩きつけられていない分、俺やシュウよりダメージは少ないはずだが足が動かないのだ。

さっきの一撃で深刻なダメージを受けたらしい。


追撃しようと近づいたリザードが蹴りの予備動作で足を後ろへ引く。

起き上がれないセラに避ける方法は無い。

銃ではガードも儘ならないだろう。


「《アイスウォール》!」


しかし、咄嗟の判断でアルマが発動を待機させておいた氷の壁を顕現させ、その蹴りを遮った。

深く亀裂が入ったもののなんとか食い止めることには成功する。


「……グゥゥゥゥウア!」


リザードは亀裂を不満そうに眺めた後、視線をアルマへと向けた。

動けなくなったセラよりも、魔法を扱う厄介なターゲットとして捕捉したのか。


だが、これ以上後衛を狙わせるわけにはいかない。


「どこ見てんだ!?あぁ?トカゲ野郎!!」


稼いでもらった時間で戻ってきた俺がフルパワーで無防備な背後を狙う。


「グゥゥアァァァアウォォォォォ!」


尾を切り落とされたリザードは痛みのままに吼え、こっちへと向きなおった。


「そうだよ、お前の相手はこっちだぜ?」


敵がこっちへと集中したのを見計らってアルマがセラを連れて反対側へと距離をとるのが視界の隅に入る。


「ケホッケホッ、待たせたなぁ?」


シュウも追いついた。

これで仕切り直しといこうじゃないか。


またトカゲの拳が向かって来る。

その長い腕で放たれるパンチの射程距離は俺が一歩で下がれる長さより遥かに長い。


だから下がらない。前へと避ける!!


……ビュゥン!


チリチリと頭を掠めるのを感じながらも腕の下の空間に入る。

髪が摩擦で焼けているんじゃないかという錯覚を感じさせるほどの一撃だが、

当たらなければ怖くはない!


その上、潜ってしまえば体がデカイ分、懐はがら空きだ。

目の前には下がっている頭。


「オリャァア!!」


俺の剣が容赦なく首を切り裂く。

その感触から、予想通りに鱗が薄いことが分かった。

リザードが本能的に頭を引くが、まだまだ腕は止めない。

頭に届かないなら体を狙うだけだ。

このチャンスに一気に押し込んでやる!

血や体液が顔へとかかることなんて気にしない。

ただひたすらに振るのみ。


斬撃の音、魔法の矢、銃声。

敵の体で見えないが皆も攻撃していることが音で伝わってくる。

懐に入っている俺を狙う術はないはずだ。

かといって、外の皆を狙えば鱗の薄い弱点部分を剥き出しにせざるを得ない。


……倒す!

このまま息をつく時間なんて与えない。

仕留めてみせる!


そう思った瞬間、斬られ続けていたトカゲの呼吸が変わったのを感じる。

見つかるはずのない攻撃のチャンスを窺っていたその眼が細まっていた。

荒々しかった雰囲気が消え失せ、魔物にはあり得ないはずの理知的な何かが見える。


(何か、まずい……?)


突如、オーガリザードが俺の頭上を大きく飛び越えた。

これまで攻撃一辺倒だったリザードの撤退。

それは不安の予兆を感じさせた。

遥か後方へと着地した音が聞こえる。

振り向いた俺たちの目に飛び込んできたのは…………前傾姿勢のリザード。



失敗を、悟った。

リザードと俺たちを結んだ直線の先には後衛の2人。

パーティの4人全員が一直線上に並んでしまったのだ。

ただ暴れていたように見せていたあの動きはこのタイミングを探しすためのフェイクだったのか……!


「な、く……!」


さっきの調子が嘘のようにパニックで声が出ない。

もしも俺たちが避ければ後方の2人は直撃を食らう。

足が動かないセラには避けるだけの時間がない。

さきほどの詠唱待機させておいた氷の壁も蹴りで亀裂が入っていた。

今、同じ壁を作っても魔力の練りはさっきのより劣る。

突進を受けたらあっさりと割られてしまうだろう。


だが、仮に俺が盾になったとして止められるのか?

……どうする?どうすればいい!?



そんな風に逡巡している間にリザードが突っ込んでくるのが見えた。


……もう、間に合わない。

ガードする時間すら失ってしまったのだ。

これでは後衛を守るどころか全員が助からない。




そのときだった。


「退け!!」


俺の体が横へと投げ出される。

地面を転がりながらも攻撃の軌道から押し出された俺の眼前ではシュウがオーガリザードの突進を止めていた。


ジリジリと押され、その表情が苦悶に歪みながらも決して退こうとはしない。


ベキベキと嫌な音が聞こえてくる。

槍を押さえている腕が、それを支える胸が、衝撃を食い止めている足が、折れてきているのだ。

しかし、確かに突進は止まりつつあった。


「…………ゲフッ!」


シュウの口から血が吐き出された。

折れた骨が何かの器官に刺さっているのだろう。

魔法と回復薬の発達しているこの世界では骨折ぐらいは簡単に治せる。

しかし、もしも心臓が破れてしまえば、死んでしまえば助かる方法はない。

シュウも俺以上にそのことは分かっているはず。

だとしても、退かない。

頭ではないところで理解しているのだ。

ここで押し負けることがパーティの敗北に繋がると。


「……ハァァァァァアッ!」


そして完全にその勢いが殺されたとき、

シュウが渾身の力を振り絞って押し返した!


あれほどの巨体であったオーガリザードが押される形でたたらを踏んでよろける。


この機を逃しちゃダメだ!


「うぉらぁぁあ!」


そこに俺がタックルのように全体重をかけて真横からぶち当たると、

いよいよバランスを崩されたトカゲは大きく転倒した。

…………詠唱を終えたアルマの足元に。



アルマもまた、理解していた。

2人の前衛が体を張ってでも、チャンスを作るだろうことを。

だから敢えて盾の作成ではなく、トドメを入れるための詠唱を開始していたのだ。

実際は狙って作ったわけでは無かったが結果は同じ。

2人は役割通りに後衛を守り、かつてないチャンスを作り上げた。


だからアルマも自分の役割を果たすだけ。

援護と、もう1つ。

最大の一撃を入れるというその役割を。


「《ライトニングボルト》ッ!!」


凄まじい光を放ちながら雷が真上から降り注ぐ。

あの影には効かなかったが、この魔法は基本魔法では最高の威力を誇る魔法の1つ。

いくらボスといえど、いくら硬い鱗に包まれていようと、

零距離で受ければ耐えることはできない。

その評価の通りに雷は轟音を撒き散らしながら、オーガの名を冠するリザードを焼き付くした。


光が止んだ後にはプスプスと蒸気を上げて、

体の半分を黒く焦がしたトカゲの死体が残るのみ。

その死体も砂のように砕けて消える。



少なからず達成感を覚える光景だった。

しかし、それを気にする余裕は無い。




「シュウ!!」


血を噴きながら、アルマが倒れている仲間の元へと駆け寄る。

俺も歩けないセラをおぶってそれに続く。


「大丈夫か!おい!?」


腕も足も変な形に歪んでいる。

こんなになるまで防いだっていうのか……!


「はっ、これぐらいは前にも食らったことあるわ……。ダメージはやばいが、致命傷やない。キャンプまで戻れば問題、ない……」


「アルマ!シュウに肩を貸してくれ!俺はセラを運ぶ!」


シュウは大柄だ。

体を鍛えているわけでもないアルマが運ぶのは難しいだろう。


しかし、俺のケガも激しいのだ。

今の俺ではアルマよりもシュウを運べない。

任せるしかほかに手がない。


オーガリザードの死体から出てきた宝箱の中身をポケットに突っ込んで来た道を引き返す。


シュウが致命傷じゃないと言っていたのだから、

無駄に時間をかけすぎなければ間に合うはずだ。

「ボスを倒せば魔物は消えるから、帰りは襲われずに移動できるよ……」


背中から聞こえるセラの声が弱々しい。

目に見えるほどダメージを負っているのは足だけでも、

他の部分だって無傷ではない。

少なからず痛むはずだ。


せめて少しでも揺らさないように、ケガの酷い足に触らないように気をつけながら歩く。

本来なら軽いであろうセラを重く感じるのは俺の体力が低下しているゆえか。


「あともう少しだ。もうちょっとだけ我慢しろよ」


「うん……」


魔物が来ない分、移動に専念できる。

最短ルートで帰っているため、大して時間もかからないで着きそうだ。





……しかし、これだけでは終わらなかった。




転移魔法陣も無事にくぐり抜け、

あともう少しでダンジョンを出られる。

キャンプに着ければ、皆回復してゆっくり休める。

そんな期待が胸を占め始めたときにそれは起こった。





外部の一切の干渉に無縁なはずのダンジョンが大きく揺れ始めたのだ。

ただでさえバランスの悪かった俺とアルマはその揺れにつられて倒れてしまった。


慌ててセラを見るが、立てないだけで何とも無さそうな様子に安心する。


「何が起こってるんだ……?」


「ま、か……。も、時間やと?きょ……が、こる!」


苦しそうにしながらも、シュウが何かを話し続けている。

この揺れがなんなのかを知っているんだ!

聞かなければ!


だけど揺れは激しく、

立つどころか這って移動することも許さない。


「シュウ!何を言ってる!?教えてくれ!シュウ!」


「……に合わん!近くに……つかめ。近くにいるやつ……。つかむんや!」


近くにいるやつを掴め!?

何が何だか分からない!

だが、言われた通りに近くにいたセラをしっかりと掴む。


アルマとシュウは……ダメだ!

手が届かない!






そして……、光に包まれる。


俺は転移魔法陣を思い出す浮遊感と共に意識が途切れるのを感じた。



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