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新ダンジョン2


今日も朝からダンジョンの探索だ。

変わらず中のジメジメした感じは抜けないが、

2回目ともなると、それほど気にならない。


「昨日は遅くまで練習やってたみたいやけど、成果はあったんか?」


前に目を凝らしているシュウに問われる。

敵の接近は目で見なくても気づけるが、

トラップがある可能性もあるから目は離せないのだとか。


「いや、結局ダメだった」


とりあえず次のステップに進んでみようということで、

アルマの構成した術式に魔力を注ぎこんでみたのだが、

魔法が発動するどころか術式はうんともすんとも言わなかった。

確かに体からエネルギーが流れ出ていく気配はあった。

魔力が流れれば、発動まではいかなくとも何らかの反応はあるはずなのに、だ。


アルマもこれにはお手上げで、

「術式に欠陥があったのかもしれません」

なんて励ましてくれたが、

俺の気は重くなるばかりだった。

原因が分からないことには解決のしようもない。


「今のままで困ってはいないんだから、ゆっくり頑張ろうっ!」


なんてセラは言ってくれるが、そんな励ましも慰めにはならない。

ただでさえ白魔導士のいないパーティだ。

少しでもダメージを減らす努力は不可欠だろう。


……とはいえ、ずっとローテンションなのは士気に関わる。

自分の不甲斐なさでパーティの空気を悪くするような真似は避けなくては。


「あ、この先左のはずだぞ。だよなセラ?」


「うん!行ってないのはそっちだけだよ」


俺の考えに気づいているのか、

セラの返事は早かった。


「なんや、もう1層は終わりみたいやで」


左折してすぐに壁へと突き当たる。

もう道が無いのかと焦ったが、

下に魔法陣が光っていた。


「これは?」


「下へと続く転移方陣ですね。降りますか?」


ウィルやアルマが出したのは見たことがあるが、

設置されているのは初めて見た。


「……うん?なんで魔力を流してる人がいないのに魔法陣が作動してるんだ?」


「ダンジョンの持つ魔力で常時発動状態になっているらしいです。なぜ転移方陣が自動で生成されるのかは分かっていませんが……」


へぇ…………。

魔法陣が生成されるのはそういうものだって納得してるけど、

こっちの人にとっては気になるもんなのか。


「ちなみに深部へ向かう方陣が白、逆は青らしいですよ?」


「なるほど。これは乗るだけで発動するんだよな?」


「そうですね」


良かった。

置いてきぼりは避けたい。


「乗るならはよ行こうや。後ろから魔物が近づいてきてるわ」


あ、本当だ。

まだ距離はあるが、近づいてくるのが分かる。

……最近、俺の感覚も鋭くなってきたな。

こんな第六感みたいな感覚、

こっちに来るまで感じたことなかったのに、

人間の適応力ってすごい。


「よし、行こう!」


俺、アルマ、セラ、シュウの順に魔法陣に入っていく。

全員が入った瞬間、

足元の光がいっそう強くなって目が開けていられなくなる。





体が軽くなるような感覚の後に光はまた元のように静まっていった。


目を開く。


周りは石造りのままだが、転移したのか……?


「転移したんだよな?」


「ああ。足元見てみぃ」


足元の魔法陣の色は青。

ちゃんとワープできたようだ。


「知識では知っていたものの、実際に使ったのは初めてです……」



最初はいくら魔法があっても、

科学の力には勝てないなーなんて思っていたけど、

ワープまでできるとなると、

一概に科学のほうが優れているとは言い切れない。


快適なのは科学だと思うが、

魔法と比べるとどっちも一長一短か。


「転移なんてされたら、城壁も役に立たないよな……」


「何をボソボソ言ってるの?」


「ん、転移を使われたら戦争でも何でも圧倒的だなと思ってさ」


突如皆が無言になった。

全員の顔が「え………?」と語っている。


「え、なに?実際そうだろ!?」


「えと、転移は系統外魔法の中でも最高難度の術式の1つです。使用が確認されたのは10年前の大戦が最後で、もう失伝したとも言われているんですが……」


し、失伝?

失伝ってことは誰にも伝わらないまま消えちゃったのか?


「いや、だって、今使ったばかりじゃないか!これと同じ魔法陣を作って魔力を流せば……」


「魔法の発動には術式だけでなく、理解が必要です。術式だけ持っていても発動はできません。ダンジョン内の転移術式は完成品ですから、切り取って持っていけば理論上は可能らしいですが、切り取ることに成功した話は聞きませんね……」


な、マジかよ。

上位の魔法だろうとは思っていたけど、

まさか失伝してるなんて……。


「割と一般常識やで?魔法に疎い俺でも知っとるんやからな」


「でもボクも大戦で使った人がいたのは知らなかったな……。それってすごいことなんじゃないの?」


流石です、って顔でアルマが答える。


「その通りです。ダンジョン内の転移ですら、対になる方陣のもとにしか送れないのに、大戦で使った魔術師は自由な移動が可能だったらしいです。考えられないレベルですよね……」


そもそもの大戦を知らない俺の前でその話を続けないでくれ……。

分かんない話をされるほどつまらないことは無い。


「ほれ、アホのジンがついていけんで困っとる。この話は夜にしようや」


うん、すまないな。

後で大戦についても教えてもらおう。




2層といえど、1層と大差ない。

出現する魔物の種類も同じで、

強さも少し強くなった……かも?

って感じだ。


「階層が変わっても魔物は同じなんだな」


「変わる場合もあるんだけど、変わらないときもあるんだよ!変わらないほうが楽でいいじゃんっ」


それもそうだな。

ダンジョン初心者の俺だ。

下手に敵が変わるより、同じほうがずっと戦いやすい。

「お兄ちゃん、あれ……」


「どうした?」


俺と会話していたセラが急に立ち止まる。


……流れ的に絶対良いものじゃないよね。

そう思いつつも渋々と前を見ると、

壁に寄りかかるように倒れている骸骨があった。


「探索者の死体やな」


近づいて見てみると、

肉は既に腐り落ちた後で、装備を纏っただけの骨になっているのが分かった。

完全に白骨化しているせいで逆に怖くは無いが、

アルマはそういうわけでも無いらしく、顔色を悪くしていた。


「この人ってもしかして……」


死体を見ていた俺の前に割り込むようにしてセラが入ってくる。


「やっぱりあの人かぁ……」


「知り合い、なのか?」


「ううん、違うよ。先にダンジョンに入った人で出てこなくなったのがいるって聞いたから……」


これまで誰にも会わなかったから忘れていたが、

俺たち以外にも探索している人がいるんだったな。


あれ?だけど……。


「昨日も一昨日も他のパーティを見てなくないか?」


「……そういえばそうやな。いくら人が少なくても、キャンプ内で全く見てないってのはおかしいなぁ」


朝と夜はキャンプで過ごしているのだ。

ちょっとぐらいは会っていそうなものだが……。


「聞いた限りでは、ボクたち以外にも3、4組ぐらいは来ているはずなんだけど」


なんかマズイ予感しかしない。

人と会わないってことは死んだか立ち去ったか……。

全滅するような何かがあるのなら勿論ヤバイし、

立ち去ったにしても立ち去る理由があったはずだ。


そう思うと、急に神経が過敏になる。

今でさえもしかしたら何かに見られているんじゃないか、

何かが近づいて来ているのでは、と。


「一旦帰ろう。このダンジョンの探索を続けるかどうか、ちょっと話し合わなきゃいけなそうだ。アルマの体調も優れないようだし」


掌がじっとりと汗ばんでいるのに気づいて手を拭う。


「こっちだよ」


昨日と同じようにセラが案内してくれるが、

その声には覇気が無い。


……恐らく俺と同じ発想に行き着いたのだ。


帰り道、体調の悪いアルマはともかく、

いつもはにぎやかな俺たちでさえも必要以上に口を開くことはなかった。

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