好感度
ダンジョンから無事に出てこれた俺たちはまずアイテムの配分をすることにした。
ここで俺も初めて知ったのだが、
魔物や宝箱で入手できる素材というのは2種類に分けられるらしい。
1つ目がアイテムを作るための基本的な素材だ。
一般的に言うと鉄とか木材みたいなものを指す。
よくファンタジーで聞くオリハルコンとか竜の鱗とかはこっちだ。
2つ目が作られたアイテムに特性をつけるものだ。
例えば今回ゴブリンがドロップした『クリアゼリー』は『物理ダメージ減少』を防具につけられる。
下級素材らしく、減少といっても微々たるものだが。
で、この『クリアゼリー』の入手数が5個なのに対し、パーティは4人だったため、
歓迎の意を込めてセラに2個渡したのだが、
何を勘違いされたのか、
「下着泥棒のことは忘れればいいんだね?」
なーんて意味深な耳打ちをされました。
俺って有名人だよね。
……死にたい。
ちなみにペンダントはキャンプに鑑定士がいなかったため、
次の町までアルマに預けることにした。
「なあ、セラに訊きたいことがあるんだが……」
「ん?なにかなっ!」
セラがこっちを向くと髪がサラサラと流れた。
焚き火の灯りしか無いのにキラキラと反射する。
「……髪、キレイだな」
「えぇっ!?」
あ、間違えて口に出してしまった。
「お兄ちゃんは何を言ってるのかな!?」
「!?」
「お前、手ぇ出しすぎとちゃうか……」
誰にも手なんか出してないんだが……?
そしてアルマさんの殺気が怖いんだけど?
恐怖で俺が死ぬよ?
「違うんだ、そんなことが言いたいんじゃない!その、セラの弾がゴブリンに効いていたことについて訊こうと思ったんだよ!」
「ボクの髪はそんなことなんだね……」
え!落ち込ませちゃった?
先にフォローが必要なのか!?
「いや実際キレイだと思うけど、それは置いといてだな……」
「手入れは割と頑張ってたつもりなのになぁ……」
聞いてらっしゃらない。
すごい遠い目をしてるし。
「…………。……髪がキレイなセラさんの弾について知りたいなーなんて思いましてね?」
「ゴブリンのときのことだねっ?あれは魔法入りの専用の弾を使ってるんだ。見る?」
安っ……!
エサを貰った犬並みだな……。
ともかく、渡された弾にこれといって変わったところは無い。
映画で見たようなごく普通の流線形の弾に見える。
俺には区別がつきそうにない。
「アルマ」
やっと殺気が止んだアルマにパスする。
魔法どうこうならアルマの専門だ。
こっちは何かを見つけたようで、
しばらく眺め回した後に後部に目を止めた。
「これは……属性付加に固定化ですね?」
やっぱり魔法使いには分かるもんなのか。
「うーん。使われてる魔法は分からないけど、彫金士にやってもらったんだよ」
装備に特性をつけるのが彫金士と聞いたが、
それしかやらないわけでもないんだな。
魔法使いがほとんどらしいし、
色んな仕事に対応できるのかな。
「それにしても、よく魔法入りの弾とそれ以外を打ち分けられるなぁ」
あぁ、俺も気になってた点だ。
オートマチックの銃ならリボルバーと違って、
次に何の弾が出るか外からは見れないだろうに。
「銃を使い分けてるから間違うことは無いかな……」
「へ?」
反対側のホルスターから全く同じ銃が出てくる。
2丁あったのか……。
「むしろどうやって1丁の銃で打ち分けするんだろ……」
「そりゃあ一発ずつ弾を入れ直せば……」
「それであの連射は無理だよ!ボクに求められてる能力が高すぎじゃない!?」
いや、冗談だけどな。
そんな無茶苦茶な連射はアニメでも見たことないし。
とりあえずセラの弾の謎は解けた。
攻撃に準備時間が要らないセラがいれば、
ゴブリン相手に時間稼ぎをする必要が無くなるわけだ。
時間稼ぎといえば、
「最近アルマの魔法の出が早くなったような……」
最初にアルマの魔法を見たとき、
つまり盗賊との戦いと比べると
詠唱にかかっている時間がちょっと減っている。
半分……とは言わないが、
75%ぐらいになっている気がする。
「あ、分かりましたか?慣れてきてからは座標や威力のコントロールにかける時間を減らしているんです。完全に省くにはまだまだなんですけどね」
「いや、それでもその差は大きいで?1秒の攻防が無くなるだけでリスクは大分減るんやからな」
その通りだ。
大したことはしていないように言うが、
今の俺でも1秒あれば剣を数回振れる。
アルマが早く詠唱を完了させれば
それだけ敵の攻撃も受けずに済むのだ。
「後はお前が魔法使えるようになれば更に良いんやが、どうや?」
「……まだまだかかりそうだ」
暇なときに自分でも練習は重ねたのだが、
相変わらず魔力の流れを感じれるのは一瞬だけなのだ。
集中が続かないのもあるが、
それ以上にエネルギーの流れが荒々しい。
ゆっくりと感じる余裕が持てない。
「そんなことは練習すれば改善できますよ!今日はまだ時間ありますし、早速今から始めますか?」
俺が返事をする前にガシっと手を掴まれ、
俺の体が引きずられていく。
あれ?力強くない!?
「ねぇ、この光景おかしくない?なんで女の子が腕一本で軽々と俺を引きずれるの?」
「……レベルアップしたからでしょうかね?」
嘘だっ!!
魔法使いがレベルアップしたって筋力はほとんど上がらないだろ!
抵抗するつもりはないけど、
情けないから止めてくれないだろうか。
しかも引っ張るスピードが速すぎて立ち上がれないんだが。
……うちの魔法使いはどんどん強くなってるなぁ、物理的に。
-----セラ-----
お兄ちゃんとお姉ちゃんがいなくなったから、
ボクも帰ろうかな……。
槍さんだけだとちょっと怖いし……。
ガシっ!
「なんで今こっち見て逃げようとしたんや?」
「ぜ、全然そんなことは無いよ!?」
何これ怖いっ!
「そんな冷や汗だらだらで言われてもなぁ……」
お兄ちゃんたちといるときはそうでもないけど、
槍さんはちょっと苦手だ。
大きいし、髪がツンツンだし、
何より口調のクセが怪しい……。
「俺そんな恐いか?」
これは会話の選択肢を誤ったら殺されちゃうのかな……?
・「全然怖くないよ」
⇒嘘をつくことになる。
バレたら……死?
・「正直恐いかな……」
⇒死。
・逃げる
⇒捕まる。死。
ダメだ!?助かる気がしないよ!?
とりあえず嘘をついてでもここから逃げられれば……。
「全ぜぶっ!……。………」
噛んだ。
墓ぐらいは作ってもらえるかな……。
「なぜに悟りきった表情しとんねん……。別に取って食おうってわけでも無いのに」
「墓だけはよろしくお願いします……」
「噛んだぐらいで命とるほど外道じゃないわ……」
あれ?助かった?
というか思ったより穏やかな人なのかな?
「うむ、それなら結構」
「なんで急に尊大な態度!?」
なんだ、なかなか良い人みたいだ。
「勘違いしてたよ。槍さんそんなに怖い人じゃないんだね」
「いつまでも槍さん呼ぶなや。俺にもシュウって名前があるわ」
「流石に名前はちょっと……」
「縮まらない距離!?頼むからマトモな名前で呼んでくれや……」
なんて呼べばいいんだろう?
名前はちょっと気が引けるけど、
他に良い呼び方見つからないしなぁ……。
仕方ない、かな。
「……シュウさん?」
「おう、それで行こうや、セラ」
まだ慣れないけど、
回数重ねれば違和感は無くなるよね?
まずは仲良くなったことを喜ぼう、うん!




