ダンジョンキャンプ
「起きいや!」
叩き起こされた。
眠いんだけど、何か用ですかね?
「朝練するんやないのか!?」
目的を思い出す。
そうだ朝練やるんだった。
わざわざ協力してもらってるのに、
俺が起きないのはまずい。
「ほゎーあ……」
「欠伸してないで、剣とれアホ」
ゴチン!
言われた通り剣を持った瞬間、
思いっきりぶっ叩かれた。
「痛っ!DV!?」
「でぃ、でぃーぶい?」
「家庭内暴力だ!」
「お前は俺と家庭を作るつもりなんか!?」
あ、あれ?
寝ぼけて俺はまた言葉の選択を誤ったのか……?
誤解が焦りを招き、
焦りが呼吸を荒くさせる。
「ち、違う。違うんだ……ハァハァ」
「近寄るな!!」
「ちが、大丈夫だから!何もしないから!」
「何もしないっていうやつは絶対何かするやろが!!」
な、何とかして誤解を解かなければ!
え、えと、えと……。
「お、俺はアルマが好きだから大丈夫だ!!」
……………………。
……………………。
「とりあえず剣持ったんなら始めよか」
「おう」
努めて平静を保とうとした俺たちはテントの中で動いた音がしたことに気づけなかった。
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「もう時間やな。全然集中できへんかった……」
結局あの誤解で目だけは覚めたものの、
お互いに集中できず、大したことができないまま
いつもの朝の時間が来てしまった。
「あ、あさ、朝練はどうだったんですか?」
何故か俺たちの朝練が終わると同時に準備が終わっていたアルマに尋ねられる。
気のせいか頬が赤い……。
「それが……」
「全然ダメやった。集中できんくて体も動かんかった。これじゃ練習にならんわ」
今日のはもう仕方ないとしか言いようがない。
「そ、そうですか。仕方ないですね……」
申し訳ない。
このままではプラスどころか
迷惑をかけている分マイナスだ。
「シュウ、もう一回頼む。明日はしっかりやるから」
「別に構わんが、明日は頼むで?」
朝寝ぼけていたのが問題だったのだ。
体調の問題やら寝不足ならともかく、
ちゃんと起きれないだけなら、
改善できないはずはない。
このまま終わっては最悪だ。
2つの意味で。
「あれ、なんですかね?」
急に落ち着きを取り戻したアルマが話題を変える。
暗い空気に気を使ってくれたのかと思ったが、
本当に何かある。
集落も村も無いはずの場所に何故かテントがたくさん張ってある。
結構な数だ。
冒険者のパーティってわけじゃないだろう。
規模が大きすぎるし。
そもそも明らかに構えがガッシリしている。
移動することを考えてない雰囲気だ。
なのに近づいていっても人気が少ない。
どういうことだ?
「寄ってみますか?」
正直気になる。
しかし、シュウは仕事探しのための移動中だ。
意見を聞かずに決めることはできないと思ったが、
シュウは頷いてくれた。
アルマも気になっている様子だし、
寄ってみるとしよう。
着いてみると、
まったく人がいないわけでは無いようだ。
活気があるとは言えないが、
人の行き来はある。
近くを歩いていた男を呼び止めてみた。
「すみません、これは何の集まりなんですか?」
「あんた冒険者かい?これはダンジョンキャンプだ」
分からないことがあったらアルマ先生に訊くのが俺の恒例なのだが、
先生も分からないって顔をしている。
見かねたシュウが教えてくれた。
「ダンジョンキャンプってのはな、ダンジョンのそばに商人たちが作るキャンプのことや」
ほう、ダンジョン!
魔法を聞いたときと同じだけの好奇心が首をもたげる。
「ああ、そういうことですか」
先生はそれだけで納得したようだが、
この世界初心者の俺には少しヒントが足りない。
「先生、どういうこと?」
「ダンジョンは分かりますよね?」
知ってるけど、この世界と同じ認識とは限らないし、
一応首を横に振っておく。
「ダンジョンというのは魔力が集まったところにランダムにできるモンスターの巣窟です。中では珍しいアイテムが見つかるので、それ目当てで沢山の人が探索します」
ふむふむ。
「ダンジョンは空気中の魔力を吸ったり、中で死んだ人間の魔力を取り込んで大きくなります。核となる最深部のアイテムが奪われると消滅しますが、核には強力なガーディアンがついています。ガーディアンもダンジョンと一緒に成長します」
「それがキャンプとどう繋がるんだ?」
「ダンジョンは大抵1日でクリアできるものではありません。何日もかけて少しずつ探索していくんです。だから……」
「ああ、その冒険者の需要を狙って商人が集まるってことか!」
「……そういうことです」
途中で言葉をとられたことにションボリしながらも肯定してくれた。
つまり冒険者が時間をかけて探索する間、
必要となるアイテムとか寝床とかを提供することで商人は多大な利益を狙えるということだ。
主に探索に必要なものだけだから、
品揃えも少なくて済むし、
冒険者なら必要とあらばどんどん買ってくれる。
更にはちょっと値段が高くても売れるのだ。
これほどローリスクハイリターンな商売は無いだろう。
あれ?
でも、なんで人気が無いんだ?
アルマもシュウもそこに思い至ったようだ。
「ん、このダンジョンが開いて間もないっていうのもあるんだが、どうやら近くの町でゴタゴタがあったらしくてね。情報が伝わってないらしいんだよ」
ああ、そりゃ情報が行き渡らなきゃ人も来ないわな。
それで商人ばっかり集まって
活気がないわけか。
「俺ちょっとダンジョン挑戦してみたいんだけどいいかな?」
ダンジョン。レアアイテム。
これを聞いてテンション上がらない現代人はいない!
「私は良いんですけど……」
シュウに視線が向かう。
ちょっと寄るぐらいなら大した問題では無いが、
数日も滞在するとなるとやっぱりキツいか……?
「ええよ。まだ人が集まっていない上に新ダンジョンなら核をゲットできるかもしれんし」
キター。
許可おりました!
「ただし条件つきや」
聞こうじゃないか。
「期限は10日。それとリズムを崩さんためにダンジョン入りするのは普段での移動時間だけや」
「ああ。それなら大丈夫だ。」
「私も賛成です。丁度それを提案しようと思ってました」
あ、でももう夕方近いぞ。
今日1日分は無駄になってしまう……。
「そんな顔せんでも分かっとるわ。期限は明日から10日でええって」
「さんくす!」
「さ、さんくす……?」
モンスターも魔法も英語なのに、
なんで英語自体は伝わらないのか不思議でたまらない。
ま、ダンジョン入れるんだし良いけどね!
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夕方からの時間は自由行動になった。
宿屋テントがあるから、
火を炊いたり、飯の用意をしたりといった作業が必要なくなったためだ。
いつもの鍛練時間になったら
テント群から離れて鍛練を始めるが、
それまでの時間は店テント巡りなどをしていられる。
問題はどれが何を売ってるテントか分からないことだ。
まずは1つ目を開けてみる。
「いらっしゃい……」
店員の虚ろな挨拶同様に、
訳の分からない石とか塊が置いてある。
魔法薬の材料とかか……?
それともなんかの素材?
ちょっと興味はあるが、
使い方も分からないし購入は控えよう。
物珍しさで買っても荷物になるだけだし。
2つ目のテントを開けてみる。
あれ?店員がいない。
不用心じゃね?
ここは何の店だろうか。
丸められている商品の1つを手に取る。
ペラリ。逆三角の形状。
柔らかい布の触り心地。
……女性用下着?
「お、お客様?」
冷や汗が垂れる。
なんて嫌なタイミングで帰ってくる店員だろうか。
「違うよ?君が思ってるのとは違うからね?」
落ち着け。朝のこともある。
落ち着くんだ。
「は、履くんですか……?」
「履かねぇよ!?」
落ち着けるわけがない!
どんな予想だよ!?
「あ、あの、こっちのほうがオススメです……」
それでも売るんだ!?
商人の鑑だね!?
というか何をもってオススメなの!?
それ男性用なの!?
またテントが開く。
「ジン。お前何を騒いどる……ん?」
しまった!
なんでまだ持ったままなんだ俺!!
「……履くんか?」
「履かねぇよ!?」
一緒に旅してるお前までもか!
俺の信用無さすぎだろ!!
「俺はそういうの気にせんから。だから、大丈夫やから……」
「待って!置いていかないで!」
慌ててテントを出て後を追う。
今行かれたら俺は、俺は……っ!
「下着泥棒よ!誰か捕まえて!」
くそっ、下着置いてくるの忘れた!
つか、下着泥棒ってあってるけど違うからな!?
そして夜は更けていく……。




