魔法剣士になりたい!
ふと起きると、
もう太陽は真上まで上がっていた。
起き上がってみると、
まだアルマもシュウも寝ている。
昨日のあれがあったから起きれなかったのか。
よく考えると、
逃げる間ほとんど背負われてたから、
俺だけそんなに体力使ってないんだな……。
この場合、起こしてやるのが正しいんだろうか?
これが朝のうちなら寝かしとこうと思うんだが、
もう正午だし……。
逡巡の末に2人を起こすことにする。
流石に寝たままで1日終わらせるのはダメだろうから。
「ん…………。朝ですか?ジンに起こされるなんて珍しいですね……」
「朝じゃない。昼だな」
「え………、え?え!?えぇ!?寝坊しちゃった!?」
アルマのパニックを聞いて、
シュウが寝返りを打つ。
「煩いわハゲ……。朝ぐらい静かにせんか……」
「ハゲてねぇよ。朝じゃねぇよ。昼だよ」
「……な!?昼!?」
シュウが寝過ごしたのは半分ぐらい俺のせいもあるけど、
2人共にぎやかすぎるだろ。
朝からハイテンションとか半端ないな。
……朝じゃないか。
2人がわたわたと準備する様子をボーッと眺める。
いつもは俺が急かされてる側だし、
たまには逆の立場もいいもんだ。
「まだ準備終わらないのかー?」
ちょっと急かしてみたり。
「あぅ、待って下さい!」
急いでるせいか、
さっきからミスを連発している。
落ち着いて準備するぐらいはちゃんと待つのに。
ちなみにこの間シュウは放置。
男を見て楽しむ趣味は無いので。
結局準備が終わったのが13時ぐらい。
いつもは30分もかからない支度にこれだけ時間がかかるとは思わなかった。
焦りって恐ろしい。
「お待たせしました!」
ちょっと紅潮した頬がなんとも可愛い。
もちろんシュウは放置。
「もうすぐ半分ぐらいか?」
「はい。今日中に半分行けると思います」
ん、順調だ。
魔物との戦いも無傷で切り抜けられることが多くなってきた。
セントピードアーミーに遭遇することが無かったのも一因だが、
同じ相手ばかりで慣れてきたのと、
俺の成長ってことだろう。
ただ、シュウ曰く、
コワードドッグはザコ中のザコらしいし、
無傷で切り抜けられることが多くなってきたではなく、
無傷で切り抜けられるようになりたい。
その結果、
俺が思いついたのが魔法を習うことだ。
遠距離から弱らせられれば仕留めやすくなるし、
ウィルも才能あるって言ってくれてたし。
んで、アルマに頼んでみることにした。
「……というわけで俺に魔法を教えてくれ」
「魔法ですか……。できなくはないですが、私も大して優れた魔法使いではありません。教えられる術式は少ないですよ?」
「遠距離から攻撃できるのが1つでもあればいいんだ。他はオマケ程度で十分だし」
敵が弱いうちは1つで役目は果たせるだろう。
剣士(?)である俺は接近戦が主だからな。
「分かりました。教えた経験が無いので分かりづらいでしょうが、できる限り頑張ってみます」
「でも、剣をやって魔法もやる時間あるんか?」
あ……………。
剣も魔法も両方は無理だ……。
聞いた話、魔法は魔法で精神力を使うから、
疲労感はあるらしいし、
剣は今更考えるまでもなく体力を使う。
「まあ、睡眠時間を削ればいいだけやねんけどな」
「どゆこと?」
「剣の鍛練を朝早起きしてやるってことや」
げ。
普段俺が起きるのは一番最後だ。
いくら早寝してても早起きは苦手なのだ。
この上、更に早く起きるのは不可能だ。
ていうか嫌だ。
「それが嫌なら両立は無理やなぁ」
むぅ…………。
魔法はこの先必須だ。
接近しないと戦えない今のスタイルでは
遠距離攻撃ができるタイプには勝てない。
いちいちアルマに守ってもらいながら前進していくようでは足手まといもいいとこだ。
「……やってみる。まずは明日試してみよう」
「では魔法の鍛練は今日の夜ですね!」
「お手柔らかに……」
アルマの目の爛々とした輝きが
何とも言えない怖さを醸していた。
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「では、魔法についての鍛練を始めます!」
「お願いします、先生!」
先生と呼ばれてちょっと胸張ってる。
この手の女の子は張っても胸が無いのがお約束だが、
これはすごい。暴力的とさえ言えるボリュームだ。
「基本知識は前に教えた通りです。まず基礎として魔力を感じるところから始めましょう」
基本知識って属性とかのことか。
ウィルと一緒に町に向かってるときに馬車の中で聞いた覚えがあるな。
ん、アルマが手を差し出してきたけどどうすればいいんだ?
「……これは?」
「手を握ってみて下さい」
女の子の手を握るだとぉぉぉお!!
小学校低学年ぶりだぞそんなの!
……なんて興奮は表情に出さずに黙って手を握る。
お、おお、おぉ、
なんかエネルギーみたいなものが体を駆け巡った。
ビリっと来たね。
「今のが魔力?」
「はい、そうです。手から直接流し込みました。一度感覚を覚えたほうが扱いやすいかと」
なかなか有能な先生っぽいぞ。
おかげで感覚だけは分かった気がする。
「さっき感じた力を自分の体の中で感じてみてください」
むーん、むん。
ふぉぉぉお!うぉぉぉお!
ぬぅあぁぁぁぁぁあ!
……ぜんっぜん分からん。
「り、力みすぎです。静かに調和する感じで落ち着いてください」
静かに落ち着いて、か。
ちょっと座禅を組んでみる。
寺とかでやった経験は無いけど、
形から入ったほうが感覚をつかみやすいと思うんだ。
深呼吸して落ち着いてみる……。
が、やっぱりできない。
集中ぐらいで魔力が分かるんなら、
向こうの世界でも魔法使い続出だし。
こっちじゃなきゃ操れないものなんだろうけど。
「難しいでしょうけど、体の中を流れてる感じを探して下さい」
流れてる感じ……。
血流しか浮かばないんだけど……。
それでもゆっくりと探してみる。
……あ、あー、なんかきた。
何かが体の中を流れているのが分かった……かも。
魔力かは分からないけど、
エネルギーっぽい気がしないでもない。
が、すぐに分からなくなってしまった。
「感じられましたか?」
「……多分」
「もう一度やってみてください。基本的に魔法使いは魔力の流れをずっと感じておく必要がありますから」
「ずっと?」
「自分の魔力残量を測ったり、術式へと魔力を流し込むのに使いますからね」
魔法使いって大変なんだな……。
でも体内に集中してたら、
目の前の敵に集中できなくなりそうだ。
そこは慣れなのか……?
「さあ、集中です!」
お、おう。
体内を流れるエネルギーに集中。
徐々に深く入り込んでいく。
どこまでも、どこまでも。
……先が見えない。
何やってるんだろう俺。
集中を途切れさせてしまうと魔力の流れを感じられなくなった。
「どうかしましたか?」
心配そうに顔を覗きこまれる。
無理をさせてしまったと思ってるのだろうか。
「いや、深く感じてみようとしたら疲れちゃってさ」
「そうですか……。やり過ぎてもいけませんし、これぐらいにしておきましょうか」
鍛練の終了を言い渡された。
別にそれほど疲れたわけじゃなかったんだが、
言葉を選び間違えたようだ。
無駄な心配までかけてしまった。
「早めに休んでおいてください」
「分かった。おやすみアルマ。……とシュウ」
「おやすみなさい」
「おう」
毛布を被って横になる。
俺はついでか……とボソボソ聞こえてきた。
そりゃアルマと比べるとね。
-----アルマ-----
魔力を数十分で感じられるなんて思ってませんでした……。
私が感じられるなったのには、
1週間ぐらいかかったはずですし。
ウィルが才能あるって言ってたのも分かる気がします。
技術はまだまだですけど、
身体能力と反射神経も飛び抜けてますし、
なんだかとてつもない才能を秘めているような……。
正直劣等感です。
このまますぐに魔法まで習得されてしまったら、
私はお役御免になってしまうのではないでしょうか……。
元々無理を言ってついてきた身ですし……。
ジンに頼られたのが嬉しくて
自分の鍛練を怠ってしまいましたが、
これじゃダメですよね。
私も明日こっそり朝練してみましょうか……。




