新たな旅立ち
と格好よく別れた俺たちの前に見知った顔が現れた。
「もう町を出てしまったかと思てたわ」
「……シュウ」
そう、シュウだった。
あの戦い以来だから、
しばらく前のようにも感じるが、
実際は数日ぶりだろう。
俺と違って大したケガは負ってなかったし、
無事だとは思っていたが、
ここで再開するとは。
「……俺を連れていかんか?」
「はぁ!?」
俺の驚きはワンパタだった。
「すっかり戦闘任務も無くなったからなぁ、傭兵の俺は暇やねん」
「あのー、私たちは傭兵を雇うような余裕は無いのですが……」
その通りだ。
報酬で入った収入も装備の購入やら、
食料の購入などで結構使ってしまった。
まだ残っているには残っているが、
何があるのか分からないのだ。
少しは手元に余裕を持っておきたい。
そもそもアルマは魔物との戦闘にも慣れている。
わざわざ金を払ってまで戦力を増やす必要はないのだ。
「金は要らん。道連れが欲しいだけや。行き先も任せるし、そっちにしても悪い話やないやろ?」
うーむ……。
どうするよ?とアルマに目で問うが、
どっちでもいいですって目をされた。
どっちでもいいってどっちだよ。
一番どうすればいいか悩む返事だよ、それ。
メリットとしては、
シュウの強さ。
前衛が2人になれば安定するし、
万が一ってことも減る。
裏切ったりということも無いだろう。信用できる。
デメリットとしては……………………。
さしたるデメリットも無いようだ。
うん、仲間にしよう。
「分かった。一緒に行こう」
「……おおきに」
パパパパーン。
シュウ が なかま に なった。
「そうと決まったら出発しましょうか。時間が惜しいです」
アルマの笑顔は変わらず眩しい。
こういうときに
2人っきりが良かったです!
とか行ってくれたら嬉しいんだけどな……。
まだまだアルマルートは遠い。
「置いてくで?」
遠くから声が聞こえる。
あれ……………?
気づくと俺だけ取り残されてる!?
「待てよ!!なんで置いてってんだよ!おい!」
広い草原をダッシュ。青春だね……。
…………少しぐらい立ち止まってくれてもいいんじゃないかな?
走る走る走る。
追いつく頃には町が小さく見えるようになっていた。
本当に容赦なく歩き続けやがったな……。
なんでシュウだけじゃなくアルマも行っちゃったんだよ、もう!
「魔物ですね」
ん?
確かに70mぐらい先に何かいる。
身長1mぐらいの茶色い何かが。
「コワードドッグやな」
コワードドッグ……。
臆病な犬?弱そうだ……。
ドッグという名前通り、
よく見てみると犬にそっくりだ。
違うのは口が2個あるところだな……。
上下に2個連なっているために
なんとも気持ち悪い。
「俺がやってもいいか?」
魔物との戦いは未経験だ。
弱めなのと戦って慣れておきたい。
「好きにせい」
「頑張ってくださいね」
近づくと向こうも俺に気づいたのか、
お互いにダッシュする形になる。
……思ったより速い。
でも動きは単調でタイミングは計りやすかった。
飛びかかってくる軌道が見える。
それに合わせて剣を振ると、
いとも簡単に真っ二つになった。
なんか拍子抜けだ。
こんな弱いといまいち手応えがない。
「ま、こんなもんやろな」
当然といった目で見られる。
やっぱりかなりのザコか。
「ドロップアイテムは拾わないんですか?」
「え?ドロップ?」
振り向くと、
真っ二つの死体は消えて、
茶色い毛皮が落ちていた。
魔法があるんだから今更だけど、
質量保存の法則とか無いんだな……。
消えた分の質量はどこへ……。
「ほれ、たとえ臆病な毛皮でも無駄にしちゃあかんわ」
毛皮を投げ渡される。
アイテム名は臆病な毛皮なのか。
つか、本当にR……、もういいか。
その後も何度かコワードドッグと遭遇し、
臆病な毛皮を10枚ちょい手に入れた。
1回だけ噛みつかれてしまったときは超痛かった。
初めて知ったが、
アルマは回復魔法を使えない。
白魔導士ってイメージあったけど、
純然たる黒魔導士なんですね。
それならと回復薬を使おうとしたのだが、
アルマとシュウにこの程度で使うのは勿体ないと言われてしまった。
なんか狂犬病とか移りそうで怖い。
毒持ちでない限りは問題ないらしいけど……。
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「そろそろキャンプの場所を探しませんか?」
空を見上げると日が落ちかかっている。
頃合いだな。
馴れた手際でテントを張って、
焚き火をつける。
食料も買い込んであるから安心だ。
「そういえばウィルがいないと鍛練も一人でやることになるんですね……」
町に滞在してた間はやらなかったけど、
キャンプのときには習慣にしてたからな。
やらないのは違和感があるが、
教えてくれる人がいない以上は個人練習にせざるをえないか。。
「ふうん。お前らちゃんと鍛練もしてたんやな」
「ええ。前までは師匠がいたんですけどね」
一人でやるってどうすればいいんだろ。
型みたいなのをやったことはないし、
とりあえず素振り?筋トレ?
「やることが無いなら俺が相手したろうか?」
「……お前槍だろ?練習になんのかな?」
はぁーとため息をつかれた。
あれれ?
「実戦では相手の武器が剣とは限らんやろうが……。槍相手でも戦えんでどうするんや……」
「た、確かに……」
「お前アホやな。なんであんな戦闘センスがあるのか分からんわ……」
いや、俺元々高校生だし。
一般市民は武装する必要すらない国の出身だもん。
生き残ってるだけでラッキーだよ?
褒めてくれてもいいぐらいだよ?
「でもあんまり良い長さの棒が無いなぁ……」
そりゃ槍に使えるほどの長さの棒なんて滅多に無いわな。
「この杖使います?槍よりは短いですけど」
アルマが杖を出してくれた。
魔法使いの杖も接近戦になれば、
打撃武器に使われることがある。
多少荒っぽい使い方をしても問題ないだろう。
「借りるわ。無いよかマシやさかい」
「なれない杖で大丈夫かよ?」
「誰に言っとんねん!」
うわっ!
いきなり仕掛けてきやがった!
慌てて鞘をつけたままの剣で応戦する。
シュウの動きは速い。
槍だったなら、また押し負けるほどに。
だが、今手に持っているのは杖。
いざというときは打撃に使えるようになっているが、
本来の用途ではないので、
いささか振り回すには握りづらい形状をしている。
武器の性能差が二人の実力的な差を縮めていた。
(よし、思ったよりはついていけてる)
反撃を入れられるほどの余裕はないが、
代わりに向こうの攻撃も防げている。
その安心が僅かながら隙を作った。
視界からシュウの姿が消えたと思った瞬間、
足払いを受けて俺は転倒する。
「まだまだやな」
上から勝ち誇った笑みで見下ろされた。
「そっか、足払いって方法もあるのか」
素直に納得。
足元を狙う分、モーションに時間はかかるが、
打ち合っている最中に下を意識するのは難しい。
地味に効果的なんじゃないだろうか。
「今、使えるなーとか思ったやろ?」
ギクリ。
「確かに使えるんやが、実力が拮抗してると使うタイミングが難しいぞ?対人戦でしか使えないしなぁ」
二度納得。
言われてみればそーですねー。
「ま、剣以外の体術を使えるようにしとくのは必要やな」
「うぃっす」
汗の処理をしておく。
近くに水場があるとき以外は水浴びはできないのだ。
早めに拭いておかないと、
強烈な臭いを発することになる。
町へ向かってる最中に
汗を放置しておいたら激しく臭くなって、
次の日に馬車から追い出されたのは良い思い出だ。
……良い思い出なのか?
とりあえず臭いの処理は大切なのだよ。
特に近くに女の子がいるときはね。




