報酬
閉め忘れたカーテンから入ってくる光に起こされた。
「ふわーあ……」
欠伸が出てくる。
もう一回寝ようか迷ったけど、
寝直したら昼まで目覚めない可能性もあるし、
やめておくか。
ふと横を見ると、
もう一通りの身繕いを終えた姿のアルマがこっちを見ていた。
「人の寝顔を見てるなんて、あんまいい趣味じゃないな」
「自分のことを棚に上げてそういうこと言います?」
……そういえばそうだった。
でもアルマの寝顔は可愛いから仕方ないんじゃないかな。
俺とは違って。
「今日は報酬貰いに行くんだったよな?駐屯所でOK?」
「そうですね。特に時間の指示も受けてないですし、準備終わったら向かいましょうか」
立て掛けてあった剣をとる。
今日は剣を持つことに躊躇は無かった。
今日収入が入ったら自分で新しい武器を買うから、
この剣ともあと少しでお別れだな。
下で朝食を済ませて外に出る。
ウィルはもう先に出発したそうだ。
何度も町中を歩き回ったおかげで、
今では結構道を覚えた。
裏道まで分かるんだから、
そこらの人よりも詳しくなってるかもしれないな。
駐屯所はすぐに見えてきた。
最後に見たのはつい最近のことなのに、
なんだか遠い昔の気がする。
懐かしさすらこみ上げて来そうだ。
「表に見張りがいないけど、勝手に入っていいと思うか?」
「いいんじゃないですか……?それとも大声で呼んでみます?」
それは嫌だ。
遊びの誘いじゃないんだから、
表から大声で呼ぶとか恥ずかしすぎる。
扉が壊れて中が丸見えになってるし、
入られても文句は言えないよね。
中は静かだった。
余りにも無音過ぎて変な緊張感がある。
なんか嫌な汗出てきたな……。
そんなことを考えながら一番奥の部屋に来ると、
そこは会議場?のようになっていた。
違和感があるとしたらただ1つ。
テーブルの上で団長が寝ていることだろうか。
……なにやってんだコイツ。
「寝てるみたいですね」
「なんでこんなトコで寝てんだよ……」
ちょっとつついてみる。
返事がない。ただの屍のようだ。
……全然起きそうにないな。
「アルマ、任せる」
「ファイアジャベr」
「バカ、やめろ!それはマズい、マズいから!」
慌てて詠唱を止めさせる。
なんでいきなり攻撃魔法なの!?
順序とか段階はどこに消えたの!?
「あれ?違うんですか?」
「普通に違うだろ……。しかもなんで攻撃力の高いジャベリン使おうとしてんだよ……。」
「相手は団長です。生半可な威力ではダメかと」
「人を起こすのに威力は必要無いんだぜ?」
なんで術式付加とか、
高難度の連携を目だけでこなしたのに
起こすだけのことができないんだろう。
俺からのコミュニケーションは受け取ってもらえないんだろうか。
ちょっと凹む。
「ん………」
煩かったおかげか団長が目を開けた。
「おぅ、お前たちか。報酬を受け取りに来たんだよな?」
「それもなんですが、一昨日のことを訊いても?」
起きた団長には敬語な俺だった。
「そうだな。お前たちには詳しく話しておかなければな」
一昨日の決戦後、
副団長が負けたのを聞いた裏ギルドの幹部勢は即座に逃走。
ろくに事情を聞かされていなかった下っ端たちは
上がいなくなったことで投降し、
男爵の命令ですぐさま国境沿いに睨みを利かされたため、
革命軍が流れ込んでくることはなかった。
副団長については一命をとりとめたが、
未だ意識は戻っていないそうだ。
処分はこれから追々決めるらしい。
革命軍が絡んでいたことと、
先代男爵にも非があるため、
死罪にはならないだろうとのこと。
俺たちもその決定に不満は無かった。
死にかけたけど、
元々そういう仕事を引き受けたわけだし、
仕方ないってわけだ。
「それでこれが報酬の1万5千Cだ」
そういや、額は1万C〜になってたんだっけ。
「ありがとうございます」
たとえ報酬とはいえ、礼は大事だよな。
言ったのはアルマだけど。
「そうだ、お前たちは騎士団に入るつもりはないか?」
「……それは勧誘ですか?」
そもそも騎士団ってそこら辺のゴロツキみたいなのを
入れちゃっていいのか?
「勧誘っちゃ勧誘だ。何人か分の席が空いてしまったし、決まった収入と住まいが手に入るのだから悪くない話だと思うが」
決まった収入に住まいか……。
騎士ともなれば、給料もそこそこ入るんだろうな。
でもやっぱり、
「遠慮しときますよ。ここに定住するわけにはいかないので」
帰るか帰らないかは後々考えるとしても、
元の世界に帰る方法は探しておきたい。
それに異世界まで来たんだから、
もっと色々見て回りたいし。
「私もやめておきます。騎士なんて大任を果たせる気がしませんし、やらなきゃいけないこともありますから」
アルマも断るんだな。
故郷から近い職場だし、
少しぐらい考えるのかと思ってた。
「残念だが仕方あるまいな。気が変わったらまた来てくれ」
全然残念そうじゃないな、おい。
最初から期待してなかったんじゃ……?
「せっかくお金が入ったんですし、早く買い物に行きましょう!」
「え、ちょ、じゃ団長ありがとうございました!」
テンション上昇中のアルマに連れられて、
俺たちは駐屯所を後にした。




