借りを返しに
さて、カッコつけて割り込んだけど、
これからどうしたもんかね。
まずは、
「おっさん、団長を本部の中に。手当てを頼む」
本来ならアルマに頼む仕事だが、
副団長ほどの相手と戦うのに援護無しは無理だ。
俺には手当てできないし。
そもそも3人で一斉に近接攻撃なんてしようものなら、
お互いの足を引っ張りあいそうだしな。
「3人で何とかできるのか?」
おっさんの心配は最もだろう。
だが、団長のケガは一刻を争う。
「当たり前だ」
その言葉を聞いたおっさんは何かしら考えていたようだが、
頷いて団長を連れていった。
「そうか……。ここに来たということは私が裏切り者だと気づいたんだな?」
「……間に合わないかと思ってヒヤヒヤしたよ」
シュウから貰った薬の影響か、
出血は止まったし、痛みも消えたが、
血を流しすぎたせいで全然スピード出せなかった。
「訊いておきたい。なぜ分かった?」
「一番を挙げれば鎧かな。騎士団が皆戦いでボロボロにしていたのに、大通りで見たあんたの鎧だけはキズ1つ無かったからな。それは裏ギルドと戦っていない、つまり裏ギルドと敵対していないんじゃないかと思ったわけさ」
「……なるほど」
「それに更に北西戦線には後詰めにいるハズの騎士が一人もいなかった。最初からな。配置を変えられるのは上司であるあんたと団長ぐらいなんじゃないのか?」
「……その通りだ。だから北西の生き残りには気づかれないうちに始末しようとしたんだが……」
副団長の目がシュウへと向けられる。
「……まさか裏切られるとは思っていなかった」
その視線にシュウが答える。
「……俺も傭兵や。金さえ貰えば人も殺す。だけど自分が納得できない仕事は受けられへん」
「ハッハッハ、私も裏切り者の身だ。それを責めるつもりはない。だが、ここまで知ってしまった以上は君たちを生かしておくわけにはいかないのでな!」
一瞬でとんでもない圧力に襲われる。
物理的な干渉じゃない。
あまりの強さに気圧されてるんだ。
シュウと対決したときだって、
ここまで無茶苦茶じゃなかったぞ!
「アルマ、レベルは!?」
「550前後です!」
その問いを見越していたかのように
素早い返事が返ってきた。
550か……。
単純計算でもこっちは合計380。
人数を生かして長期戦に持ち込みたいところだが、
いくら薬で塞がってるとはいえ、
俺の傷は長時間の戦闘には持たないだろうな。
それは理由は違えど2人も同じだろう。
「アルマ、援護頼む」
アルマが頷く。
「シュウ、俺に合わせてくれ。悪いがお前に合わせるのは多分無理だ」
「わざわざ俺が合わせてやるんや!足手まといになるんやないぞ!」
俺とシュウが挟み込むように左右から近づく。
見え見えのやり方だが、
2vs1ならこれがベストだ。
間合いを慎重に測らなければ。
相手は格上。
最大限に人数を生かさなければ勝ち目はない。
「らっ!」
俺が先に突っ込む。
同時に反対側からシュウが飛び込んでいくのが見えた。
完璧にタイミングを合わせているのは流石だ。
だが副団長は俺の方に半歩寄って剣を弾き、
シュウの槍を腕で受け流すように捌いてから蹴りを入れた。
「ファイアジャベリン!」
その直後にアルマの炎の槍が迫る。
剣を弾くためにクレイモアは降り終わっており、
シュウを蹴ったために重心は傾いている。
アルマらしい正確な攻撃。
このタイミングなら回避も防御も不可能だ!
副団長はそれに気づいて左手を上げたが
手一本で防げるような威力じゃない!
人間を焼き付くすだけの火力を持つ槍が直撃した。
巨大なエネルギーがぶつかったため、
周囲に砂ぼこりが舞う。
シュウが口を開こうとしているのが見えた。
直感的にマズイことを言おうとしているのが分かったが、
止めるには間に合わない。
「……やったか?」
呟きが聞こえた。
……ダメだ。
間違いなく無傷だろう。
シュウが呟いた台詞は無傷フラグ。
あれを言われた敵の中で本当にやられたやつを見たことがない。
煙が晴れると、
やはりというべきか、無傷の副団長が立っている。
別にフラグが無くても倒せるとは思えなかったが、
少しは期待していたんだけどな。
「魔法障壁ですね……!」
魔法障壁?
いや尋ねなくても分かる。
言葉通りにバリア的なものだろう。
「俺が時間を作る。なんとかあの防御抜ける方法を考えとけや!」
シュウが俺たちが相談をする時間を作るために
副団長と打ち合いにいった。
動いている量は副団長のほうが少ないのに、
圧されているのはシュウだ。
俺から見てもあの槍はとてつもない速さだが、
全く当たらない。
シュウ一人で勝てるどころか、
長時間稼ぐのすらキツいだろう。
早く策を練る必要があるな。
だけど、打つ手が無いってのが本音だ。
さっきの一合でお互いの実力は読み取れた。
純粋な近接戦闘じゃ手も足も出ない。
魔法は障壁で阻まれる。
ここで主人公なら逆転を狙える必殺技とかあったりするんだろうが、
俺にはまだ必殺技はおろか、
魔法さえも習得していない。
「アルマ、援護じゃなくていい。好きに戦ってくれ」
俺らに合わせてもらってもどうにもならない。
むしろアルマの判断に任せよう。
そのとき、ついに耐えきれなくなったシュウが大きく吹っ飛ばされた。
これ以上時間を稼いでもらっては体力が持たなくなるだろう。
シュウに目配せする。
俺の視線に気づいたのか、
バックステップでこちらへと後退してきた。
「これだけで終わりか?北西を生き抜いたというから期待していたが予想以下だ」
ちっ、強すぎだろ。
無茶苦茶言いやがって。
「まだまだこっからだぜ?」
シュウの方へと更に近づく。
挟み込んでもどうにもならないら、
どんな位置どりだろうと関係ないしな。
「どや?なんか方法思いついたか?」
「俺があの剣を受け止める。つばぜり合いに持ち込めば二撃目は捌けねぇだろ」
「できるんか?力もそうやが、クレイモアは重さもある剣やで?」
「力なら自信がある」
……多分だが。
俺が走り出すのに合わせて、
向こうも剣を振り上げる。
さあ来い!
上段から思いっきり降り下ろされた剣が
俺の剣とぶつかる。
本当に重てぇな、チクショウ!
下から押し返そうとするが、
岩を押しているような気さえしてくる。
圧されているのはこっちだ。
「シュウッ!」
シュウの槍が俺の横をすり抜けるように打ち込まれる。
その瞬間、更にクレイモアに力が加わった。
一気に俺が払い除けられる。
これだけの力をこめてるのに振り払われるのかよ!?
さっきまでつばぜり合えてたのは、
俺の力と拮抗してたんじゃなく、
シュウを呼び込むためか!
シュウもそれに気づいたようだが、
もう手遅れだ。
すでに引き返せない間合いで、
副団長は体勢が整っている。
今、俺がもう一度打ち込んだところで、
体勢的に力の入らない一撃しか出せない。
押し退けられて二人まとめてやられるだろう。
「アルマ!」
今、魔法を打ってくれれば、
また防がれたとしても、
少なくともシュウが下がる時間は作れる。
しかしアルマは副団長を見ていなかった。
視線の先にいるのは――俺?
目が合う。
その目には信頼が見える。
俺なら気づいてくれるはずだという信頼が。
「ライトニングボルト!」
こっちに向かって雷が飛んでくる。
副団長じゃなく、やはり俺に向かって。
その軌道の違和感に敵味方問わず、
シュウと副団長までもが目の前の相手から目を離してこっちを見ている。
アルマが俺に向かって魔法を放った意味。
それを理解できたものはいなかっただろう。
……俺を除いて。
なんとなくだが咄嗟に理解した俺は眼前に迫った雷を剣で受け止める。
本来なら剣一本で防ぐことは不可能だ。
だけど俺の推測があっているなら。
アルマの考えていることが俺と同じなら。
きっとこれは止められる。
……あれほどの勢いを持っていた雷は
剣に当たった瞬間にその歩みを止めた。
「術式付加!?」
副団長が驚きをあらわにする。
術式付加。
意味はだいたい語感で分かる。
そう、俺の剣には雷が纏われていた。
本能で理解する。
これは決められる威力を持った一撃だ。
「らぁぁぁぁあぁぁあ!」
夢中で叫ぶ。
左足を軸に俺の体が回った。
シュウのほうへと振られていた剣が
俺の攻撃を防ぐべくこちらに向けられ、
そしてぶつかる。
抵抗は無かった。
先程まであれほどの力を奮っていた大剣がまるでバターのように斬られていく。
クレイモアを貫通した一撃は
鎧すらも相手にしなかった。
剣を振り切った直後、
時間が止まったかの如く
そこに居合わせた全ての者が動きを止めた。
「……………ぐっ」
ゆっくりとしたスローモーションで
副団長が倒れる。
その体が地面に着いたとき、
再び時間が動き出した。
俺の体にも突如溜まっていた疲れが溢れ出てくる。
少しの目眩の後、
俺もまた、その場へとたおれたのだった。




