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黒幕

騎士団長フランシスと副団長デインは護衛2名を連れて、

再び本部である駐屯所へと向かっていた。


(主戦場は優勢だ。その上作戦が成功すればもはや戦局は覆らなくなる)

失敗しても負けに繋がることはないが、

成功すれば被害は大きく減らせる。


そう考えていたとき、

ふとあの戦士たちに名前を聞いていないことを思い出す。

これだけの頼みをしておきながら、

名前すら聞いていなかったとは。

戦いに勝った暁には酒の一杯でも奢らなければなるまい。


「団長、何か心配事でも?」

一緒に来ていた騎士に思案顔を見られたようだ。


「いや。勝った後に全員に酒を奢っていたら金が無くなってしまうと思ってな」

「お、期待してますよ!」


戦局の優勢は皆の気分にも影響してるらしい。

士気が高揚する分にはいいが、

気の緩みに繋がってはいけない。

たしなめる言葉を選んでいると、

「まだ気を抜くには早いぞ」

言おうとしたことを先にデインが言ってくれた。

文武ともに優秀で自分の足りないところを補ってくれる。

そんな彼だからこそ、

安心して副官を任せてこれた部分がある。


「まあ、ここからの逆転はあり得ないとは思うが」

なんだかんだ言っても、

デインももう勝利を確信しているようだ。


この表情を曇らせないまま決着をつけたい。



駐屯所の大きな屋根が見えてくる。

最初の襲撃による傷が目立つが、

本部として支障がでるレベルではない。

更に内部はほとんど無傷だった。



中へと入ると、

会議室を兼ねていた奥の長机の周りは

開戦前そのままの状態になっている。

そこにあった椅子に適当に腰掛け、

長机の上に広げておいた地図を見た。

本部の場所、戦場、敵方のボスがいると思われる拠点。

住み慣れたこの町の地図は全て頭に叩き込んであるが、

まだ見落としがあるのではないかと思ってしまう。


今、本部には先程一緒に移動してきた4人しかいない。

護衛の騎士2人が隣に、

副団長は表で伝令が来たときに備えている。



このまま伝令が来ないほうが嬉しい。

伝令が来るということはすなわち、

現状に変化があったということなのだから。

勿論いい変化か悪い変化かは分からない。

しかしこんなときに限って悪いことが起こるものなのだ。



そう思っているときに副団長が入ってきた。

本当に思うようには行かないものだ。

「団長、伝令が来ました。避難している市民が不満を募らせており、今いる人員だけでは抑えられないようです」


やはりいい変化では無いか。

覚悟していたよりはまだマシだったことに安堵しつつ、

側にいた2人を避難先へ行くように命じる。


いよいよたった2人になってしまった。

「デイン、私も表に出よう。中に1人でいても仕方あるまい」

副団長も頷いて、後をついてきた。



戦場からは少し離れた位置にあるにも関わらず、

その音はここまで響いてくる。

鉛色の空を見上げながらため息をついた。

この戦いが終われば、

しばらくはゆっくり休んでいよう。

これだけ働いた後だ。

急務でもできない限りは男爵も許してくれるはず。

そんなことを考えていたとき。



ズブリ。

鈍い痛み。

ゆっくりと自分の体を見下ろすと、

腹部を大きな剣が貫いていた。

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