再会
「一体どんな奴が来るのかワクワクしてたんやけどなぁ、まさか少年とここで再会することになるとは思てなかったわぁ」
飄々と槍男が話す。
「もう一度訊くぜ。なんであんたがここにいるんだ?」
「この状況で俺がここにいる理由なんて1つしかないやん?」
「そうか……。あんたはそっち側についたのか」
槍男は背中から槍をとると、
ゆっくりと構えた。
「金貰ってるからなぁ。ちゃんと代金の分は働かんと」
「狭いため援護するスペースがほとんどないです。上手く機会を作ってください」
アルマが小さな声で伝えてくる。
が、俺はそれを手で押し止めた。
「いや、手を出さないでくれ。市場での借りもあるし、こいつは俺たちが気づくまで手を出さなかったんだ。2vs1なんて真似はしたくない」
アルマは何かをまだ言おうとしていたが、
それを飲み込むようにして一言だけ言った。
「信じてます」
それを聞いていたおっさんもやれやれと首を振ったが、
口を出しては来なかった。
俺も剣を抜く。
「カッコいいなぁ、少年は」
「少年って呼ぶほど歳離れてねぇーだろう、が!!」
ウィルにしたように正面から飛び込む。
リーチが長い槍が先制攻撃をしかけてくるが、
剣で受け流すように防ぐと火花が散った。
そしてそのまま一気に懐に飛び込む!
槍男は驚いたような表情をしながらも槍の手元の部分で剣を防ぎ、
こっちから目を離さずに少し下がって間合いを作った。
「レベルの割に速いし重い攻撃をしよるわ。舐めて勝てる相手では無いなぁ!」
槍が払うように横から来る。
先端は目で追えないが、
敵の手元の動きで予測して防ぐ。
また飛び込むつもりでいたが、
思った以上の力で押されてバランスを崩してしまった。
なんとか踏みとどまろうとしたところに再度突きが来る。
剣は弾かれているので防ぐという選択肢は選べない。
体を捻って避けようとするがギリギリ避けきれず、
左肩を抉るように深々と槍が刺さる。
「ぐ……っ!ってぇ……」
この戦いが始まってからたくさんのケガをしてきたが、
そんなのとは比べ物にならない。
あまりの痛みに視界が歪む。
しかし、いつ次の攻撃が来るか分からない。
慌てて敵を見るが
相手は俺が構え直すまで待っていてくれた。
「余裕あるじゃねーか……」
「さっきの言葉聞こえたからなぁ。正々堂々の一騎打ちをする以上は中途半端な幕引きにはしとうない」
ありがたい限りだぜ。
呼吸を整えてからもう一度飛び込む!
「同じ手が二度も通用すると思てんのか!?」
また槍が横から来る。
だから俺もまた剣で受ける。
が、今度は重心を落としてしっかりと食い止めた。
さっきのように軽く受けるつもりはない。
力の限りに槍を押し返すと、
バランスを崩したのは槍男のほうだ。
この隙に懐に入る。
次はさっきのようには防がせない!
腰を捻って全力で凪ぎ払う。
槍男は慌てて下がるが避けられない軌道のハズ!
俺の剣が胸の部分を切り裂いた。
……いや、浅い!
驚異の回避スピードだ。
確実に入るハズだった剣が表面をちょっと切っただけだった。
仕留めきれなかった俺が逆にピンチになる。
全力で振り抜くべく全体重を前にかけていたため、
すぐには下がれない。
そのチャンスを敵は見逃さなかった。
跳ね上がるように槍が下から飛び込んでくる。
どうやっても避けられない。
今度は体を捻ることさえもできず、
槍は俺の腹を深く切り裂いた。
歪んでいた視界がいよいよぐらつき、
平行感覚がなくなって膝をつく。
「よくやったなぁ少年。本当に想像以上やった。俺はシュウ言うんやが、最後に少年の名前も聞かせてや」
「仁。千堂、仁だ。だけどまだ、……終わりにするには早いんじゃないか?」
足元がおぼつかないけどまだ立ち上がれる。
「そんなボロボロで俺に勝てると思てんのか?」
……あれ?
ボロ、ボロ?
その言葉を聞いて何かが引っかかった。
何か、致命的な何かを見逃している……。
ボロボロ……?
走馬灯でも見ているかのように様々な光景が浮かんでくる
そうだ、そういえば……。
頭の中でピースがはまっていく。
「……行かなきゃいけない。行かなきゃ行けないトコがある!道を開けてくれ!」
「あ?何を……」
「この戦いは全て仕組まれたものだ!俺たちもあんたも騙されてたんだよ!このままじゃ間に合わねぇ!もしこれが勘違いだったなら、後で好きにやられてやる!だから今は道を開けろ!開けてくれ!」
シュウの目には少なからず戸惑いの色が浮かんでいる。
永遠とも思えるぐらいの間が空いた末に
シュウが口を開いた。
「分かったわ。その代わり俺も一緒に行くで。もしも約束違えたら……」
「……ああ。それにあんたの力が必要だ」
「アルマ、おっさん。移動しながら説明する!ついてきてくれないか?」
「はい」
「当たり前だ。その話、詳しく聞かせろ」
そのまま走り出そうとした俺にシュウが何かを渡してきた。
「安いやつやけど魔法薬や。使え。傷を塞がんと着く前におだぶつやろ」
それを手早く腹と肩に塗る。
そのまま急いで地下道を逆走し始めた。




