到着
戦場が見えてきた。
大通りでは両軍が正面でぶつかる形になっているようだ。
路地から大通りを窺っているだけの俺たちはまだ誰にも見つかっていない。
「入り乱れて戦ってるせいでどこに割り込んで行けばいいのか分からないな」
「右側の後ろのほうにいるのは副団長殿ではありませんか?」
アルマが指差すほうには確かに副団長がいた。
綺麗な鎧だから遠くから見ても分かりやすい。
「じゃあまずは副団長殿に指示を仰ごう。それから、できるだけ他の味方に並ぶ形で戦いたい。周りを敵に囲まれながら戦うのはもう御免だ。おっさんもそれでいいか?」
「俺もそう考えてたトコだ」
戦場の真ん中を横切って行きたくはなかったので、
もう一度路地に入って大きく回り込んだ。
「ん………。なんだ味方か」
近づく前から向こうはこっちに気づいていたようだ。
レベル測定ができると索敵も兼ねられるのか。
羨ましい技能だな。
「北西の班の者です。こちらの戦線に加わるよう言われて来ました」
「北西だと……?そうか、生き残ったものがいたとはな……。ふうむ……、現状ここの戦いはこちらが圧している。君たちには後で少々頼みたいことがあるので、ここから離れ過ぎないようにして待機していてくれ」
「分かりました」
副団長の周りは騎士を含めた味方が取り囲んでいるので、
近くに敵は入ってきていない。
離れ過ぎないようにと言われたが、
ここにいて戦わないわけにもいかない。
味方からはぐれないようにしていれば問題はないよな?
後方の味方をすり抜けて素早く前線に加わる。
味方に気をつけなければなかないので、
ちょっと狭い感じはするが、
優勢の戦線で戦うことの容易さにビックリする。
何かあればすぐに下がれるし、
囲まれることもほとんどない。
横をおっさんが守ってくれてることもあって、
前の敵にだけ集中していられる。
斬り、避け、防ぎ、また斬る。
しばらくすると体が半分無意識に動き始めていた。
考える前に必要な動きが勝手にとれる。
エンドルフィンでも分泌されてるのかな?
おかげで背後から呼ばれていることに気づくのに時間がかかってしまったが。
もう、副団長の言っていた「頼みたいこと」があるのだろうか。
密着していて隙間の少ない人の波をかきわけて後方へと戻ると、
副団長の隣に団長も見える。
「君たちも無事にたどり着けたようだな」
「団長殿のおかげです」
俺たちの安否を気にかけてくれた団長の顔には疲れが見える。
最後に会ったのはついさっきなのに、
何日も寝ていないかのようなやつれぶりだ。
「……何かあったんですね?」
俺が訊くべきか迷っていたときにアルマが尋ねる。
「顔に出てしまっていたようだな。ちょっと色々あってな。だが君たちが心配するようなことではないよ」
そう言うのなら俺が口を出すべきではないのだろう。
俺たちの話が一段落ついたのを見計らって、
副団長が本題に入る。
「君たちにお願いしたことは敵の本陣への突撃だ」
「突撃……?この真っ只中を走り抜けろと?」
「いや、敵のボスは北東のほうに下がっているとの情報が来ている。この地下道を利用すれば近くまで敵の邪魔無く行けるだろう。一般には明かされていないルートだ。敵の待ち伏せの心配もない」
地下道、か。
説明を聞いた限りでは接近までならできなくはないように思える。
しかし、
「ボスには護衛もいるのではないですか?俺たちだけで護衛を突破してボスを倒すことは無理だと思います」
俺とアルマとおっさんだけでは力不足だ。
ましてや今は疲労も激しい。
まさか護衛が弱いとは思えないし、
近づくことはできてもそれだけだ。
「君たちに期待しているのはボスを倒すことではない。奇襲をかけることで後方への牽制を狙うのだ。交戦状態に入ったらすぐに離脱してくれて構わん」
つまり、俺たちの目標は敵本陣にプレッシャーをかけることってわけか。
「アルマ、行けるか?」
一度交戦した後はすぐに逃げる。
つまり、俺たちの中で最も体力の無いアルマがついてこれるかどうかだ。
「自信は無いです……。けど、帰りは地下道に逃げ込んでしまえば少人数でも応戦可能になりますし、地下道までだけならなんとか……」
副団長の説明では地下道はかなり狭いらしい。
アルマのいう通り、
一人ずつしか戦えないだろう。
理論上は少人数でも戦えるように思える。
「もしも何かあった場合には自分の命を最優先していい。この作戦はダメで元々だ」
団長がそう付け加える。
そこまで言うなら無下にはできない。
「やります。ただし団長の仰った通り自分たちの命を優先します。それでいいなら」
「無論だ。それから団長は私と共に駐屯所までお願いします。避難している市民や、男爵邸の守備にも対応しなければなりませんので」
「ああ。……では君たちも頑張ってくれ」
そう言うと2人は駐屯所へと歩いていった。
その背中を見送ってから俺たちも地下道の入口へと向かった。




