よし!みんな丸太はもったか!? 4
丘に響きわたる何かを叩く音。少しすれば轟音をたてて倒れる大量の巨木と仁王立ちする燕尾服の優男。
黙々と倒れた巨木の枝を落とすやや黒が濃いめのロシアンブルーの猫。
枝を落とした巨木を丁度いいサイズに裁断している細腕の薄藤色の人物。と、枝を集める跳ね気味の髪の少女。
裁断された丸太を咥えて運ぶ巨大な狼と大蛇。馬具に繋いで運ぶ巨大な黒馬と赤い頭の青年。
そして露出している巨大な岩を頭突きで粉砕するちょっと可愛い兎の様な飾り羽の馬ほどの鳥。
今日も紅蓮さんちのみなさんは元気である。
開拓一日目 午後
どうも、最東端の拠点作り方を国に丸投げされた不運な少年貴族の一応子爵、紅蓮さんです。あれからお昼をおにぎりで済ませて本格的に開拓をはじめました。
そして紅蓮さんちの愉快な仲間達は今日も絶好調です。
時を遡ること少し前のお昼時。
拳よりも大きいおにぎりをただ今5個目の藍苺と、どうせ喉に詰まらすと冷ましたお茶を用意する私はセバスさんと役割分担を話し合っていた。
「むぐむぐぐぅ・・(俺って食べてばっかだよな?)」
「まぁね。最近お腹辺りが肥えて」
「む?・・・(この一つでもう止めとこう)」
藍苺のお腹回りの事情はさておき、誰が何をするか話を進める。
「先ずは木を斬らないことには始まらないよね。仮拠点も建てるには材料がいるし?・・・そもそも何でどうやって作るのか素人の私には分からない。セバスさん割り当て頼んだ」
『任されました。』
その一言であれよあれよと話が進んで冒頭の場面になるのでした。
その時のやり取り
「じゃあ、木を切ろうか」
『いえ、主が自ら手を煩わせずとも自分が!』
と言い、一瞬で木々を凪ぎ払った。私たちに当たることなく綺麗に倒れた木々を唖然としていた藍苺は見ものだった。
私? 戦闘能力なら最初から知ってましたし、強いから屋敷の留守を任せられたのだし。
それから丘が崩れないように配慮して木を残しつつ、粗方伐採は終わったのだった。
岩を粉砕していたのは丸太を運べずイライラしていたようです。
切り揃えられた丸太を仮拠点に運び終える。中々の量か確保できたが、丘の上だけとはいえ立派な自然破壊に罪悪感が凄まじい。私は開拓には向かないと熟思う。一本位なら伐っても仕方ないかな?と思えるが、禿げ頭にするまでとなると正直やりたくない。
木材置き場はすでに確保されていたのでそこに置いたのだが、セバスはすでに簡単な大きなテントを設置し終えていた。凄い手際である。留守番している時よりもイキイキとしていた。留守番は退屈過ぎたかと思ったが彼自身が望んだ待遇なので今のところ彼の心の内はよくわからなかった。
「もう俺居なくてよくね?」
「まあまあ、それは私もだしね?」
「いや、素手で大木を裁断してたヤツが言うことじゃない」
え?素手で木を切るのって変?
「凄く変。てか常識的ではない!」
少しこの世界━━と言うよりは両親のチートぷり━━に毒されていたようだ。知らない内に認識が可笑しくなっていた。以後気を付けねば。
設置されたテントは1つ。外から見ると遊牧民のテント、中に入ると床は絨毯を敷いた書斎の様な内装であった。どうやらここは作戦会議でも開く執務室の役割で使うらしい。真ん中には円卓が鎮座している。
もっと奥には私が使うであろう事務机が。羽根ペンまで完備されている。まだ書類仕事とかする必要ないけどね。
セバスさん曰くこのまま内装を本拠点に移せば言いとのこと。絨毯の下は雨が降っても良いように工夫されているので安心ですよと、言われた時は抜かりねぇなと思ったね。
本来円卓は会議に使われるものだが大きいので少しサイズダウンしたポチ達が並んでもまだ半分も席が埋まっていない。そこにお茶と白湯を持ってきたセバスさんがみんなの前に置いていく。
害はないのだが人外の皆にはお茶ではなく白湯を出す気遣いの人セバスさんなのでした。
「ふぅ。そんなに働いてないけど何でか疲れた」
「いや、素手で━━うん、もういいや」
『皆さんは暫く休まれては如何でしょう』
「セバスさん働きすぎ。今飛ばしすぎるとバテるよ?(バテるとは言っていない)」
「セバスさん生き生きしてるけど疲れてないの?(あんなに豪快に木を凪ぎ払ったのに服に埃1つ付いてない・・・セバスさん恐ろしい人っ!)」
『いえいえ、自分は未々元気でございます。藍苺様こそお疲れではないですか?あまりお顔の血色が宜しくないご様子・・・』
「・・・いえ、大丈夫です(あれ?俺邪魔だって言われてる?)」
「疲れているなら休もうか?(いや、彼は本心から心配して言っているんだよ。思ってることはもっと直球に言ってくるからねセバスさん)」
藍苺がセバスさんの本心を誤解したので訂正しているとセバスさんは
『それではわたくしめはお二人の寝室を兼ねたテントを設置して参ります』
と言って執務室から出ていってしまった。
私と藍苺はチベット砂キツネの様な顔でお茶を飲んでいた。
開拓一日目 夕方
あの後セバスさんは順調に寝室2つ、調理用テント、簡易トイレ、巨大なキャンプファイア、その近くに立派な木のテーブルとイス、ネロの馬小屋と他のみんなの休憩所。
その他もろもろエトセトラ・・・
もういいや、もうセバスさんに驚いていたらこっちの身が持たない。藍苺なんて菩薩みたいな顔してお茶飲んでるんだよ。ご隠居のお婆ちゃんみたいに寛容な何でも許せる様な顔になっていた。戻ってきて、藍苺。きみがボケの立ち位置だろうとこれだと私は一人コント状態になるよ。後話しかけても「レンもお茶のむ?」ってしか返さなくなってるから寂しいんだけど?
「セバスさーん、今日はもう終り! ご飯も私達が作る。セバスさんは休んでて。休んでてくれるよね?」
『Σ( ̄ロ ̄lll)』
両手でガッチリ背の高いセバスさんの両肩を掴み少し力を入れると夜夢がイスを用意していて座らせることに成功する。ナイスアシストだ夜夢!
イスに座らせたセバスさんの膝にはクーが座り『ここは私に任せて行ってください』と目が言っているクーのファインプレイによりセバスさんをイスに縛り付けることに成功。
そこにポチが正面から『話がある、あれは昨日のことだ』とセバスさんに話しかけ逃げられないように見張りについた。
そして極めつけに約2日ぶりの寝坊助━━管狐の奏がセバスさんの首周りにやんわりと巻き付いてセバスさんの頭をポンポンとしながら「きゅきゅきゅー、きゅきゅ~」と歌い始めた。
ふ、もふもふ好きには中々抜け出せない連携の取れた“もふもふの陣”が完成間近だ。
そこに仕上げと兎天がその魅惑のもふもふの羽毛でセバスさんを包み込んだ。
もう誰も“もふもふの陣”からは逃げられない!
完璧な対もふもふ好き封じか完成された。これによりセバスさんは完全に行動不能になり、彼の暴走はようやく止まったのだった。
開拓一日目 夜
晩御飯は簡単に済ませた。大きな鍋さえあれば大量に作れるなんちゃって手抜きすいとんを作った。何となくご飯はなし。菜っ葉がたっぷりにニンジン、油揚げ、椎茸、鳥肉。醤油ベースで出汁で少し薄めに。小麦粉を練った生地(本当は寝かしたかった)を入れると少しとろみが出て冷えたからだに染み渡る。ここは夜になると肌寒いので夜は温かいものが欲しくなる。
冬になると寒くなるのだろうと予想した。
みんな黙々と食べてこの日はすぐに寝ました。
今日の成果
仮拠点の充実、木材の確保、本拠点予定地の確保。
セバスさんの特技判明に伴い紅蓮と藍苺の疲労感Max。
拠点完成まで後???日
まだまだ先は長いです。




