よし!みんな丸太はもったか!? 2
副題、眷属達の暴走序曲
一人用の小さめのテントから出て伸びをする。生い茂る高い巨木のせいで朝焼けも日の出も見えないが確実に日は出た頃。
まだ薄暗い中小さくなっている焚き火に薪をの足し、焚き火から燃えた炭を取りだし昨日の竈に火を入れる。
お湯を沸かして朝御飯の用意をしているとポチが後ろに座っていたので振り向くと
『主、ここら一帯の偵察、制圧を完了しました』
「・・・」
私が思考停止してポチを見つめているとクーがポチの頭に座ってポチの言葉に続く。ちなみにポチの今の大きさはおすわり状態で2メートル強。見上げているので若干首が痛い。そしてクーもポチも黒っぽいので見え辛い。
『マスター、討伐した魔物は影の中で保存しております。解体しますか?』
『・・・うん』
夜テントに入ってから焚き火や見張りを交代で頼んだけれど、制圧を命じた覚えは無いんだけどなぁ・・・
ウチの子達有能過ぎません!?
『今偵察に夜夢と兎天が出ております。何事もなければ今日中に目的の予定地に着けるでしょう』
『マスターが別件で足止めをされている間にセバスさんと予定地の下見も終えました。小高い丘が在りましたのでそこを居城としてその下に広がる平地に拠点を作るのが良いかと』
「お、おうふ━━」
『主様ぁぁ!! 兎天ただ今かえりましたぁ!』
「あ、お帰り」
少し放心状態になりかけている私に追い討ちをかける様に兎天が全速力で叫びながら帰ってきた。興奮しているのか頭の2本の飾り羽が立っていて名前のとおり兎のようにみえる。ただし人が乗れる程でかいので近くで見ると迫力が増す。
砂煙を立てないように途中から速度を落としたのか静かに停止して私に頭を擦り寄せてくる。大きなつるりとした嘴が頬に当たって冷たい。でも顔の羽がふかふかで気持ちいいので気にしない。つぶらな瞳が可愛い兎天であった。
『周りの暴れん坊達は支配下に━━いえ、下僕にしました』
『・・・そこは支配下で良いのでは?』
『夜夢さん、良いのですよ。話の分かる奴等は下僕でいいのです』
『━━━話の分からぬ奴はどうなんだ?』
『食料です』
『うむ、成る程』
兎天の後から昨日よりは小さくなっている大蛇の夜夢が黒く綺麗な鱗に光を反射しながら帰ってきた。でかい。ここに居るみんなクー以外でかいので圧迫感と私の首(の疲労感)が朝から凄い。
止めないと兎天と夜夢の勘違いと勘違いの平行線コントが続くのでお帰りと言って夜夢の頭を撫でてコントを中断させる。相変わらず夜夢の額には少し鱗が薄い所があるがすっかり消えかかっている。蛇特有のスベスベした手触りを堪能しているとお湯が沸いたので竈に向き直りポットを下ろした。
『セバスさんの見立てでは屋敷よりも大きなお城が作れるそうですよ』
『・・設計の方は任せてほしいと言っていた。無論主の要望を聞いて設計すると』
『ふむ、意見を言えるならば庭は広めにしてほしいものだが』
『日向ぼっこが出きる日当たりのいい縁側が欲しいです』
『━━━それは主が決めるとこでは?』
『もー、夜夢さんは真面目です。これは妄想と言うものです』
『・・妄想ではなく想像あるいは願望では?』
『そ、そうとも言いますね』
そろそろ朝御飯の準備を━━━
『そうですねぇ、台所は使用人専用のものと主専用のものに別けて戴くと迚助かりますね』
また増えた。
ここに居るはずのないセバスさんまで登場した。そういえばさっきの報告に名前出てたなぁと遠い目をしておく。
藍苺曰く「チベスナ顔(  ̄- ̄)」らしい。チベスナとはチベット砂キツネの略である。
『どうぞ主様、朝茶です。』
「あ、どうも」
すぅっと出された緑茶を受け取り飲むととても美味しかった。どこから取り出したのかはなにも言うまい。
それよりセバスさん、屋敷の方の留守番はどうしたの?え、やること全部終わったから暇で来た・・・そうでしたか。
『それならいっそのことこっちにみんな引っ越すってのはどうっすかね?』
また増えた。今度は八雲ですか。眷属オールスターですか。なら今度はネロ?そういえばネロどこ行った?
「八雲留守番は?それと何で獣姿なの?」
『留守番は諸事情により御母堂様より中止って言われました。獣姿は気分っす。あ、それからこれ・・御母堂様から手紙です』
大きな狐が咥えた手紙を受けとり母さんからの手紙を読むとそこには━━━
~前略、私の可愛い息子の紅蓮。元気にしていますか?あなたの事なので料理も寝床も何の問題もなく安全に配慮していることでしょう。さて、話の本題になるのですが、ハッキリと言いますね。とある貴族のクソッタ━━いえいえ、馬鹿が反乱を起こしました。勿論すでに制圧を完了しています。ですが色々と要らぬことをしてくれやがって━━やらかしていたようで王都の物資の流通が滞ってしまいました。でも安心してください。下町は私の方からギルド経由で配給をしておきました。貴族達?さぁ?それは自分達でどうにかするでしょう。無駄に溜め込んでいるので。どうにでもなるでしょう。
それでもこの混乱が続くようであればあなたにも帰還命令が下るかもしれません。なので先手を打つために八雲ちゃんとセバスさんをそちらに行かせます。これで一時的にあなたは孤立、厄介な仕事から逃げられます。私は逃げられないけど憂さ晴らしに王と朱里をこき使うから心配しないで。殿下達も無事です。殿下からのあなたへの命令をここに代わり伝えます「王からの帰還命令がそこまで届くまで好きにするといい」だそうよ。これは殿下公認の休暇と思えばいいって。
さて、長い手紙でご免なさいね。あなたと藍苺ちゃんの無事を王都より祈っているわ。気を付けて開拓してね。 母より 草々
追伸、セバスさんに開拓で役に立つ物を色々と持たせました。自由に使ってください~
━━━母よ、反乱云々は三行にも満たない事柄で済ましても良いことなのか?
それとどうやって二人をこっちに寄越したし。え?どこに私が居ようと眷属なら影を通して来れるって?そうだったね!
私が思考停止で放心しているとセバスさんが朝食の用意をし始め、匂いにつられた藍苺が起きてきて
「ナニコレ」
と思考停止仲間になったせいで二人とも朝食の用意が出きるまで立ち尽くしていた。
人って情報量が多すぎると頭が真っ白になるってホントなんだね。
領地開拓一日目の朝はこうして幕をあけた。




