丸投げ良くないと思う今日この頃 10
先程まで取り乱してすみませんでした。
さて、村人が命の宿らぬ人形と言うことが判明した。そして人形ならば何処かに操っている者が確実に居る事だろう。
「現実逃避してすいませんでした」
「いや、お前明らかに様子が可笑しかったから何か術でも掛けられているんじゃないかと思ったぞ」
それはないから安心して。私もきみも洗脳やら幻術の類いは効かないからね。効かないようにしてるから。
腕に着けている腕輪を確認してみるがかけてある魔術━━異常状態無効━━は問題なく常時発動中だ。藍苺の腕輪も異常はない。
本当にアレは「何となくイラつく」だけだったので精神攻撃の類いではないと思う。
私も落ち着いたので操っている術者を探す事になった。手がかりは今も動かない村人人形くらい。あとは村に戻ってみるしか無いかな。
正直戻りたくない。だってあそこが術者の拠点だろうし、人形が動かなくなったのだって操作可能圏から出たからだと予想できるし。結構走ったからね。
村に居なくても村の近くに潜んでいるのは確実だと思う。これは藍苺も同感らしい。
「操るにしても目的って何だよ?」
「それは私も疑問だ。私が睨まれていた事も藍苺とネロが歓迎されていた事も考えると混乱してきた。目的が何なのかさっぱり」
「本当にな。さっぱり分からない」
『ぶるる・・・(ツンツン)』
二人で考えているとネロが肩を鼻先でツンツンしてきたので何かと思いネロを見ると・・・
『あの、主・・不審人物を捕まえたのですが・・・・』
ポチが何かミノムシみたいな黒っぽい物を転がしてお座りして言ってきた。よく見るとミノムシは人だった。
『主たちが村から脱出した時に慌てて追いかけてきていたので不審人物として捕らえたのですが』
『私の能力で縛っていますが、どうしましょう?』
動けないのはクーの能力の影で縛られていたからだった。
忘れがちだが実はクーことクラウドさんの能力━影━に縛られると魔力を全く使えなくなるおまけ付き。捕まれば抜け出すことはほぼ不可能になる。私よりも周りチートだよねぇ。
『どうしますかマスター?』
『クーどの、ますたあではなくある『そんな細かいことは良いのですポチさん』━━うむ』
力関係はクーが優位なのかな。ポチの方が先輩なのに。年上だし。力関係に関係はないか。
もしかすると私が相手をしていた人形たちが動かなくなったのはこの不審人物をクーが捕縛したために動かなくなったか?
「うーん、頭でも打ったのか気絶してるぞコイツ」
「あ、不用意に近づかないで!」
藍苺が不審人物に近寄って顔を覗きに込もうとしたので慌てて腕をつかんで引き離す。何かよく分からないけどコイツに藍苺が近づくと胸がむかつく。何がなんでもコイツから引き離したくなる。何だろ。スゴくドロドロシタモノガ・・・
「━━━━い、おいってレン!」
「━え?」
「え?じゃねぇーよ。もー、何だよコイツ睨んで黙りこんで。恐い顔して・・(マジで恐かったぞ)」
少し涙目のジト目で睨まれたのは心外だ。私だって何でか分からないのだからどうしようもない。
不審人物の捕縛が万が一解けでもしたら困るので、少々かわいそうかもしれないが━━全く可哀想とは思っていないが━━巻き付く影を増やして縛りを強固にする。
その際呻き声がが聞こえたが無視。
人形の一体を詳しく調べるために一旦離れる。藍苺も連れて離す。やっぱりコイツの側に置いておきたくない。物凄く嫌だ。
見張りにクーを置いておく。暴れたら問答無用で死なない程度に締め付けておくようにと命じた。クーに苦笑いされた。
私のいつもと違う態度に藍苺も不思議がっていたが知らんぷりして引っ張って人形に近づく。
気を取り直して人形を調べる。その間藍苺の手は離さない。
空いている左手で人形の頭をまじまじと見ると髪の毛が不自然に見えたので掴むと鬘だったもよう。人形相手でも何だか心苦しく感じたが、続けて鬘の取れたツルツルの頭を触ってみる。
よく見ると頭の天辺に豆粒程度の魔石が埋め込まれていた。
魔石と言うのはファンタジーでも常連のアイテムだろう。読んで字のごとく魔力を含む石の事だ。人間は魔石のままではその魔力を使うことが出来ない。なので加工して宝玉にする。でも加工は人間には出来ないのでとても高額。
今は宝玉の事は置いといて。
そう、魔石は人間には使えない。でも人外なら使える。
特に私のような純粋な妖怪とか
としたら、術者は妖怪だろうか?魔石を見ても呪いは施されていないし。
でも人形達からは別々の魔力を感じた。だから人間だと思ったんだ。もしかするとこの魔石は術者の魔力を隠すために付けていたのかもしれない。人形を操ると術者の魔力で動かすことになるので操る全てのモノは術者の魔力を宿すことになる。
なのである程度の魔術の心得が有れば人形と気付かれる。
はず。
「俺生活魔術なら使えるけど分かんなかった」
「訂正する。きちんと魔術の基礎を修めた人に限る」
「・・(´・ω・`)」
そんな顔しないでよ。悪気は無かったんだ
「俺だって苦手なりに使えるようにはなってるもん。全く才能無いって言われてここまで使えるようになったもん」
「はいはい、努力して出来るようになったのは凄いよね」
「慰めてくれないのかよ」
「抱き締めれば良いの?」
「・・・是非とも!」
「ばか」
両手を広げキラキラの期待のこもった目で待っていたので笑いながら否定すると眉を下げていじけてのの字を書き始めたので放っておく。調子に乗ると付け上がってセクハラしてくるので放置推奨だ。
それにしてもこの様に異様な光景の中でよくもまぁおどけていられるものだ。死体にもみえる人形がそこらかしこに倒れている森の中で些か呑気ではないか私達。
のの字を隣で書き続ける藍苺を放置してあらかた人形の調査は終わった。結論から言うとムキムキの首から下の身体はみんな同じ鋳型から作られたような量産品。顔は一つ一つ精巧に作られている様で個性がある。
だから細い顔にムキムキの身体とチグハグだったわけだ。普通の外見の人形もあったが半数以下しかなかった。
触った感触は固い人形を柔らかい粘土の様な物が表面を覆っている感じかした。顔は粘土質が多く表情を変えることも出来そうだが目蓋は動かないみたい。目は硝子玉の様に見えるが多分天然石を加工したものだろう。これに睨まれたら恐いはずだよ。
見た目からもムキムキの方が戦闘向きで普通の方は戦闘には向かないようだ。少しヒビが入っている箇所がある。昨日の乱闘騒ぎの時の傷だろうか? ムキムキの方は傷一つついていない。首は曲がっているが。
見ていてあまり気分の良いものでもないので早々に調査を止めにする。昔調査した身元不明の仏の身元調査したときを思い出す。
それしてもムキムキの量産型は兎も角、顔のパーツや普通サイズの人形はとても精巧に作り込まれていた。これを作るには何年もの歳月を必要とするはずだ。きっとこれを作った奴は変態だろう。凝りすぎていて恐い。
等と割りとどうでも良いことを考えていると
「んっ、・・・うがぁぁぁ!?」
と、術者(推定)が転がっている方から悲鳴の様な声が聞こえたのでそちらを見ると、
「な、何だお前たち!いや、それよりこれを外せ!何だこれ魔術が使えなっ━━━んーー!んんんっっ!?」
起きて混乱して叫ぶもクーに口を影で塞がれた。それでも暴れられ必死になってもがいている。少し同情したくなるが、敵なのかも分からないのでこのまま話しかけることにする。
勿論藍苺ほ離れていてもらうからね。
「お互い敵かどうかも分からない状況だからそのままで聞いてくれる。私はこの土地の近くに用がある旅人だ。あの村に居た人形はお前が作ってのか?操っていたのはお前か?はいかいいえなら口がきけなくても出来るだろう。答えろアレはお前のものか?」
男は必死に首を縦に振った。若干涙目だが気にせず続ける
「ならば操っていたのもお前か?」
これにも必死に縦に振る。涙が目から一滴零れるも続ける。
「これから猿轡(影)を外す。馬鹿な真似をすればそのまま首を絞める。死にたくなければ正直に答えろ。いいな」
必死すぎて可哀想なほど男は首を縦に振った。鼻水も垂れていてハンカチを投げつけたくなった。
クーに男の口を開放するように命じ、尋問を続ける。
「本来居る筈の村人はどこだ?」
「・・・っはぁはぁ━━━っ、もうとっくの昔に居ないよ・・」
漸く外されて息もしやすくなったのか一度深呼吸をして息を整えてから男は言った。鼻水で息がし辛かったもよう。
「それはお前の仕業か?」
「はぁ、はぁ・・おれ?いや。お前国のお偉いさんか?だったらお生憎様だな━━ひっ!?」
質問に答えるついでとばかりに私に小馬鹿にした様な軽い態度で嫌味を言おうとしたらしい男はクーの影て少し絞められポチに睨まれていた。クーもポチもあの獣特有の鋭い瞳は睨まれると恐い。殺気も入ると子供なら泣く。
「クー、ポチ、いい。話を続けろ。何がお生憎様なんだ?それに私がお偉いさんだったら何だ?お前が知っている村の事を全て話せ」
クーが逃げられない程度に緩めたお陰で少し咳き込むも何とか話せる状態に戻った。ポチは未だに睨んでいるが殺気は消している。
男は下唇を噛んで私を睨む。
「お前、貴族だろ。鼻持ちならない臭いがする。苦労知らずのボンボンが、こんな辺鄙な場所に物見遊山か?」
「私は、質問をしたんだが?」
「・・・・何しに来たんだよ。今更、遅いんだよ」
悔しそうにこちらを睨む男は疲れたのか観念したのか、それとも全てを諦めたのか肩を落としてポツリポツリと話始めた。
「もう20年以上も前だ。この村はこの国で一番の端に存在した」
━━━━━━おれの育ったこの村は何もないが人々の温かさはあった。そんなに人も居ないが人外のおれの家族も温かく村に迎え入れてくれた。
他の国ほどではないがこの国も人外の者にも厳しい事が多い。 賃金は人間よりも安いし、物を売ってくれなかったり腐りかけの物を売ってきたり。何代か前の王がかなりの人外嫌いで国を挙げての人外虐めが定着しちまった事がおれたち人外の受難の日々の始まりだった。
いや、おれの話はどうでもいいか。こんな不幸話どこにでも落ちているだろ。
何だよ。何悲しそうにしてるんだ。お貴族様には残酷過ぎたか?
おいおいなんだよ、からかっただけだろ。お嬢ちゃんは泣き虫か━━いってぇ!うぅぅ。何だよ隠すなよ取ってくいはしないって
━━━あぁ、村の話だな。
両親とおれは長い放浪の果てにこの村で落ち着く事が出来たって話たな。
おれが一人でも畑を耕せるようになった頃だ。村で流行り病が蔓延した。少なかった他の村との交流も全てなくなった。病が広がらないようにだそうだ。
だが村にやって来た最後の商人が言っていたのを聞いた。
“この村は遠すぎて運ぶのにも金がかかる。だから国は見捨てたのさ”
“他の村は大金はたいて薬を買ったが、この村は無理だろ”
子供だったおれでもわかる。国はこの村を助ける気など無いってな。
その商人が帰ってから本格的に村は病に犯された。
最初は体力のない老人。おれよりも年下の子供は居なかった。だから先に老人が死んでいった。
皮肉なことに働き手としては役にはあまりたっていなかった老人たちが死んでもそれほど困窮しなかった。かなりの悲しかったけどな
次は初老に差し掛かる少し前って年齢の村人が倒れ始めた。しかも女が大半で看病して移ったんだろうな。老人は体力が無かったからか割りとかかってすぐに死ぬが今回の年齢層は長引いた。
だから働き手もどんどん寝込んで誰も働けなくなっていった。
それをどうにかしようとしたのがおれの両親だ。
おれの両親は傀儡や人形を操るのが得意な一族で腕は確かだった。何日もかけて人形を作った。病人達の助けになればって。
おれも両親もあの流行り病はかからない体質みたいでさ、だから余計にどうにかしないとって。
ある日両親はガタイのいい人形を作った。畑も素手で耕すし、牛の餌も軽々運べるやつを。でも欠点があって顔が真顔で恐い。しかも冗談みたいな(・_・)な顔してたんだ。急いで作ったから顔まで凝って無くてさ。
細かい作業もあんまし得意じゃないけど、命令系統がしっかりしてるからか病人の看病も野菜の収穫も出来たんだ。
ああ、お前らがみたムキムキの村人は元はそれだったんだよ。
まあ落ち着いて話を続けさせろ。
病人は確実に増え続けもうまともに歩けるのはおれと両親だけになってた。
みんな床に伏せって起き上がれなくて━━━
ある日、おれの母親が倒れた。流行り病じゃない。過労だった。
それもそうさ、村人全員の代わりを作ったんだ。疲れるのも当たり前だ。それから父親は狂い始めた。
ガタイのいい人形の首をハネて死んだ老人たちを似せて作った頭をくっ付け始めた。
だからあんな不自然な姿になっちまったのさ。
狂った父親はもう止められなかった。母親が過労が祟って亡くなってからはガタイのいい人形全ての頭をすげ替えても止まらなかった。
父親の目的が“村人の助けになるため”が“村人の代わりを作ること”になってた。
勿論看病は人形に命じてた。
でも、いつの間にか村人は全員墓に入って代わりに人形が生活していた。初期のガタイがいい人形の他に見た目も普通の村人に似た人形たち。父親にはもうそれが自分の作った人形だと認識出来なくなっていたんだ。
“人形が村人”
“初めからこの村は人形たちの住む村”
“だから自分達人外を受け入れてくれた”
“さいしょからニンゲンなんていなかった”
父親はおれの母親の事も村人が人間だったことも全て忘れていた。そして母親の様に過労で息を引き取った。全ての村人を作って。
おれは父親の遺言に従い今まで独りで人形たちを見守っていたのさ。簡単に言えば虚しい人形遊びを延々と今まで・・・
そしてあんたらがこの村に迷い混んだのさ━━━━━━




