丸投げ良くないと思う今日この頃 ~何か知らんけど突然運に見放された俺の話
迷走中
藍苺に何があったかの話
俺は恵まれているとつくづく思う。暖かな帰る場所も温かい料理も家に帰れば出迎えてくれる夫(限りなく妻に近いけど性別的には夫)が居てそれが当たり前だけど8年前に一度失いかけてから━━━厳密にはもっと前、“俺”たちが生まれる前からの記憶でこの幸せが当たり前に続くと盲信出来ないでいる。
前の俺は全てを失った記憶がある。
全てと言っても財産とか住む場所を無くしたとかではない。家族も両親、兄二人も元気にしていた。むしろ俺より長生きしたよきっと。
手元にだって多く残っていたものはあった筈だ。でも失ったものは俺の全てと言ってもいいほどだった。ある心ない奴はきっぱり忘れて新しいのを見つけろとか作れとか、勝手な事を勝手に喋っては消えていった。お膳立てとか要らぬ世話を焼こうとした連中はみんな追い出した。
誰もいない家って静かなんだ。一人暮らししててもここまで静かってのは無かったんじゃないかと思うほどに。
俺の失ったものは“家族”だ。親兄弟とは違うが、何よりも大切な家族だったんだ。
人生かけて一緒に歩いて墓まで一緒でも良いと思えた最愛の人とその人との間に生まれてきてくれた子供がある日突然奪われるって想像できるか?
俺はそんな目に遇わなければ一生知らずにいれたよ。
そんな俺は今は違う人生を生きている。性別まで違うけど、大切な人共また巡り会えた。これって運命か?だったら良いな。ちょっと臭いけど出会えるならこれでも良いさ。
そんな少し中二チックな自分語りはこれくらいにして、今俺が置かれている状況を整理しよう。
ことの発端は多分5日以内の出来事が関係していると思われる。確証はない。確かあの辺辺りで日常が非日常になり始めたと思うんだ。これも確証はない。もう勘だ勘。俺は勉強は出来る方だったけど頭の回転は普通なんです。紅蓮━━俺はレンって呼んでる━━と一緒にしてはいけない。紅蓮も自分の事を「凡人よりは回転は早いと思って自己暗示かけないと凡人以下」と言っているので俺の頭の回転は平均値より下かもしれない。自信はないです。
そう言えば受付の人が増えたみたいだな。俺はいつもの受付さんの所で依頼を直接受けるんだけど、みんな何か忙しそうだ。
そして貴族からの依頼が増えた。しかも戦闘なんて無さそうな街での護衛任務が主なんだって。護衛は星3のベテラン達が選ばれるみたいだけど、何故か星4以上が指定されてて何か変だと思っていたらあれよあれよという間に星4持ちが手薄になった。
俺たち星5は少ない。しかもいつも居る訳じゃない。俺みたいに遠出しない星5は両手で数えるほどが居れば良い。強い奴ほど色んな場所に引っ張りだこなので一つの場所に留まらない。
俺?俺は星5だけど星5の中では強い方じゃない。一人で仕事するのが多いけどそれはレンが手を貸してくれているからであって俺一人の強さなんて星4いけるかな程度。言ってて悲しくなった。
俺の強みは見た目詐欺の怪力と少しはある直感的な危機察知能力くらい。そして依頼の達成率と生存率が高いこと。無理なく依頼を受けるからでそれも実力じゃないと思うんだ。
ま、色んな事を考慮しての星5ってこと。
無敵の星5勢とは違う、言うなれば星5の下かな。
強さに固執しない達成率が売りの俺は今日も星4の依頼をこなす。
で、いつもの受付さんが怪我により休むことになる頃には新人研修?していた新人さんが俺を担当することになった。新人さんが言っていたが、みんな忙しいから俺に構う暇がないとか。ゴメンね依頼を受けたらさっさと行くから爪を磨きなから舌打ちしないでくれます?
地味に傷つく・・・心の中のオッサン(だって前世30代初めだったし)が泣いてるから…
そんな対応をされて何日か過ぎていくら鈍い俺でもこれって異常じゃないかと思えてきた頃。
受付さん達の顔に疲れが見え始めている。この職場結構なブラックだとは思ってたけど、今までこんなことってあったかな?それに最近他の星5勢を見ない。新人さんに聞いてみたけど素っ気なく「知るわけないじゃない。知っててもあんたなんかに教えるわけないでしょ」と言われてしまいそれ以降聞く気が起きなくなった。他の受付の人達も忙しそうにバタバタとしているので聞き辛かった。
あ、他の受付に来てる人たち昨日も来てたな。冒険者じゃないから依頼人か?ここ毎日見る人達もだけれどもそんなに毎日依頼ってするもんか?
不思議そうに見ている俺に中年に差し掛かった辺りの男が親切にも教えてくれた。確かこの人星3の中でもベテランの中堅で俺と同じ受付さんの担当の一人だった。よくパーティ組んでる討伐専門の人で気のいいオッサン。
その人が俺に真剣な顔でギルドの最近の違和感を教えてくれた。どうも俺達の本来の担当の受付さんが休んだ辺りから依頼の内容が滅茶苦茶で討伐系の依頼内容が提示されている内容と違ったりすることが乱発していると言うことだ。
あるパーティは星3の討伐依頼を受けたら星3が束になっても叶わないような魔物が出現したり、魔物が居なかったり、指定場所が明らかにその魔物が居ない場所だったり・・・
本来なら冒険者に依頼する前に狩場や状況確認をしに何人かのベテランが1度派遣され下調べをしてから討伐などの危険な依頼を冒険者に依頼するはずだ。もしかしてされてない?
ベテランは気づけるけど新人や勉強不足の人達は怪我をして帰って来ることも増えてきた。
受付はその事態にまた一段と忙しそうに「どうなっているんだ!」と叫びながら事務員さんたちも忙しそうに走っていた。ギルド長補佐も目の下に隈らしきものがみえる。もしかしてちゃんと機能してないんじゃないかこのギルド。
ベテラン冒険者は俺が何も知らないのを驚いていた様子だった。俺がレンの嫁だって事はベテラン勢なら知っているので俺が何か知っていると思ったらしく、それで新人さんに素っ気なくあしらわれている様子を見てもしかしたらと思い話しかけてきたのだった。
俺が知らないなら上はこの事を知らないんじゃないかと思うとベテラン冒険者は言う。俺もそう思う。レンは定期的に依頼を貰いに来るけど、毎日来る訳じゃないしから知らないかもしれない。特にギルドがあるこの地区ってあまり来たがらないから。
貴族がよく足を運ぶ場所だからな。来たがらないよな。
それならギルド長はどうだろう。
あの人レン曰く「真面目で器用だけどそれよりも要領悪くて不器用」って変な評価だった。器用なのに不器用ってなに?
あー、もしかして忙しくてこの現状を把握してない?
受付のある1階に降りてこない程忙しいからこの状況知らないのか?
うーん、あり得そう。真面目で器用に仕事するけど、他の人に頼らない不器用さで仕事の効率下げてる要領の悪さを発揮してるとか?あり得そうで怖い。
どうする?レンに相談するか? 依頼が終わったらレンに連絡して来てもらおう。何でさっさとそうしなかったんだろう。誰がやってくれるなんて期待するなんて最もやったらダメな対応じゃないか。ホウレンソウを忘れたらダメだな、うん。
その時直ぐにでもレンに連絡していたら良かったと俺は後悔することになる。言い訳が許されるなら疲れていて判断力が鈍っていた事。丸投げ領地問題で色んな事が吹き飛んでいたこと。後は自分は大丈夫って変な自信による慢心だったと思う。
こんな出鱈目な依頼が問題になっているのに俺が受けた依頼ごまともなんて何で思ったのだろう。
疲れてたんだとしか言えねーわ。
今日の依頼内容は特定の魔物の特定数の討伐だ。数は30体。魔物の種類は小型の肉食の魔物で増えすぎると草食の魔物も動物も減ってしまうので定期的に狩らなければいけない。レン曰く「一度人間が崩した生態系は元には戻らない。だから崩れないように数を調節する必要があるんだよ」らしい。
小型とはいえ、肉食の魔物。油断すればベテランだろうと呆気なく死ぬ。それが複数居れば尚のこと。雑念を捨てて仕事に集中しよう。
指定された魔物を探すために周りを見渡すと何か異変を感じる。いつもなら聞こえる鳥や小動物の動く音、虫の鳴き声等が全く聞こえない。
嫌な汗が流れる。この感覚、前にも感じた。
もう一度依頼書を確認する。
内容 森の 小型肉食の魔物30匹 の討伐。
ん?何で詳細欄に何も書かれてないんだろ。普通なら森の様子とか生息する魔物の種類とか書かれているんだけど。何かしっかり見ると変だよな?
何処がって言われると説明出来ないんだけどさ、でも何か・・しっくり来ない。
この時の俺は本当に馬鹿だと思う。こんな危険な場所で依頼書を見ながら考え事なんてするなんて。何かに気がついたときには俺は意識を失って目が覚めたらギルド長室のソファの上だったのだ。
俺が気を失う直前、後ろにいた大きな影に気がつくことも無く…




