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涙も利用する

 いったい誰の涙なんでしょ……ね?

 カン!カン!カンッ!


 鋼をハンマーで打つ音が辺りに響く。辺りと言ってもこの部屋だけだろう。防音対策は万全だ。この狭い下町でご近所の迷惑になる騒音は出すわけにはいかない。



「ふぅ……」



 私は暑さには滅法強い。極端に言うとマグマダイブしても平気だ。ちょっと熱めのお風呂に浸かってるようなものだ。耐火ポーション要らずだ。あれ、このネタわかる人いるかな?


 ま、それは良いとして。



「後は形を成形して……」



 今作っているのは防具の腕輪。何時も無謀な特攻をしている藍苺の防具が訳あって破損したので新に新調しているのだ。


 本当なら防具屋に行くのだけど、藍苺の馬鹿力に耐える防具は素材からして取り扱いが難しくて……私が作っているのです。まさか異世界で培った加工技術が役に立つなんて。勿論下町の防具屋にも凄腕の職人が居るよ。けど、チートな力に耐える防具を普通の防具屋に作れるかって話なんだよ。


 この、腕輪に使う金属は鋼より数倍硬く加工が難しい。精錬にしても普通の熔鉱炉では熔けない、加工にしても、温度は尋常じゃない温度で近付くことも出来ないのだ。マグマダイブしても平気な私くらいしか加工できないのだ。


 今回は腕輪以外にも剣士用の防具も一式作った。全てではないが防具は傷付きボロボロだったのだ。どれ程無茶な闘いをしてきたのか……


 基本的に私は店で店番をしているので藍苺の本気をあまり見たことがないのだ。最近では無くなったが、三度ほどボロボロになってい帰ってきた事があった。その時ほど頭に血が登ったことはない。



 血だらけで帰ってきたら誰だって心配するでしょ?




 だから嫁さんの防具は本気だして魂込めて打ってます。ハンマーで打つとき妖力を込めると色んな効果が付加出来るのだ。まさかこんな事でもチートを発揮するとは……。


 やはり私は戦闘よりもサポートがあっているのだ。二人して敵に突っ込んでいくよりも安全でしょ。嫁さんが猪突猛進な気があるしさ。



 この作業場は火を入れている時は温度が尋常じゃない温度なので誰も入ってこれない。あれだ、火山にクーラドリンク無しで走り回る様なものだ。


 嫁さんなんて入る前からギプアップした。暑さが嫌いなのだ。逆に私は寒いのは死ぬほど嫌いだ。



「ボースー……お客さん来てま…っ!!熱ッ!!」

「が、頑張るのです……私たちはこの部屋に入ったら焼鳥と焼き蛇になってしまいます……」

「熱い……鱗が……熔ける……」


「ちょっと、苦しいなら入ってこなくても……」



 便利連絡網という名のテレパシーが使えるでしょ!そんなに顔を真っ赤になってまで来なくても……


 八雲は頑張った。頑張ったが、副属性でしかもオマケ程度にしか火属性を持っていない八雲にはキツいだろう。兎天も夜夢も熱耐性が無いのだ……いくら影に潜んでも熱さは感じるらしい。私の影ならそんなこともない様だけど、移動中はやはりその場の気温は影響するのだとか。万能とはいかないものだよね。





「………戸の前からでも良いから誰が来たのか言って?」



 そう言うとダレていた八雲が背筋を伸ばして良い放った。



「あ、そうっした。狛斗王子が来ています。急な話があるとか……」


 ガキンッ!!…………



 ハンマーで打っていた素材を逸れて金床に当たった。



「………狛斗王子……?」


「はい。」

「ええ。」

「うむ。」



 狛斗王子が来るなんて何かあったからに決まってる。どうせ面倒事を持ってきたのだろう。これが始めというわけでもなし……あぁ……折角嫁さんの防具を丹精込めて作ってたのに……しょうもない事なら承知しねぇぞ……







 今の時間は丁度客が多く来るお昼の少し前だ。カウンターを八雲に引き続き頼んで客間に入る。するとお茶を飲んで王子が座っていた。八雲がお茶を出してくれたようだ。



「急な話があるとか。何の用でしょうか。」


「紅蓮、忙しいところすまない。」


「王子が直接来るなんて……何があったのですか?」


「うむ……。ふぅ……藍苺は今どこに?」


「ギルド本部から来た依頼で出払っています。」


「………紅蓮。これは私の独断なのだ。興味がなければ聞き流してくれ。」



 これは………予想よりヤバめな予感。




「実はな……――――」










 王子から聞いた話を考えながらカウンターに座り込んでいた。防具は全て打ち終っていたので後は鞣し革と合わせたり装飾や呪いで強化すれば出来上がりだ。それは明日にでもやろう。


 上の空になりつつも煙管を吹かして考えた。考えれば考えれるほど………どうするべきだろう。



「ただいま~。」



 そんなことを延々と考えていると嫁さんが依頼を終えて帰ってきた。どうやら今日はそれほど怪我を負わなかったようだ。ひと安心する。嫁さんは治癒術が使えない。ソロで依頼をこなすので回復手段が無いのだ。心配にならない訳がない。



「お帰り。今日は何事も無かったみたいだね。安心安心。」

「その言い方だと俺が何時も怪我してる……か。でも何時も大ケガしてる訳じゃないぞ。……掠り傷は有るけどさ。」



 頬をポリポリと掻きながら言い辛そうに言った。小さな怪我はしてきたようだ。



 確か今日の依頼は大量発生した下級魔物の討伐だったはず。何人かで狩っていたのだから誰か回復役が居たはずなのだが……直してもらわなかったのだろうか?それとも痩せ我慢でもしていたのか?


「パーティー内に回復役居なかったの?」

「……ちょっと、な。」

「……歯切れ悪いねぇ……なんかあった?」

「……ん。いけ好かない奴だった。」


 ………またか。


 実は嫁さん、かなり低いのだ……社交性とか協調性が。私でも何とか合わせたりしているのに……意地を張って孤立する。ま、何で意地張るのかわかっているんだけどね……うん。私が原因。



 私の外見は丸っきりちょっと背が高めの女でしょ?ナメられるんだよ。何人か折り合いが悪いやつらも居るのだ。迷惑な話だけど、そんな男らしくない私から嫁さんを掠め取ろうとする奴らも多く居るわけで……こんなに意地張ってまで拒む事態になっているわけだ。だから防具も下手に脆い物を持たせると……ボロボロになって帰ってくるからとびきり頑丈な物を使ってもらっている訳なのです。



「傷薬渡したでしょ?使わなかったの?」

「人前で服を脱げって?」

「……背中に負ったの…」

「……………うん。」



 消え入りそうな声で答えた。背中の傷は恥じなんて……。それだけ頑張ってる証だと思うんだけどね。こればっかりは男のプライドってのは理解できない。闘いで受けた傷ならもう少し誇りを持ったら?


 一番言いたいのは怪我しないでって事なんだけどね。聞く耳持たないのは承知してるから言わない。それに頑張っているのに水を指すのもどうかと思ったのもあるけど。



「ふぅ……そう、治癒術で治す?それとも薬塗る?」

「薬……」

「染みる方を選ぶとは……マゾ?」

「誰がマゾだ!!誰が!!(# ゜Д゜)」

「突撃して懲りずに怪我するなんて……マゾじゃない?」

「~~~~~ッ!!誰がマゾだッ!!」



 そんなやり取りをしつつ、今日の成果を報告してもらう。この頃物騒になってきた。大量発生した魔物の討伐依頼は日に日に増していく。ここ最近なんて毎日何処かで誰がその依頼を捌いている。とうとう原作のシナリオに沿ってきたか。


 原作のシナリオはそういえば説明してなかったね。大まかなシナリオは主人公・大雅イガグリ王子が魔王(選択次第で変わる)を討伐する完全勧善懲悪?の簡単なストーリーだ。


 原作の開始はあと二年後。私と藍苺が18になってから始まる。ハズ。



 ま、現実ではどんな事が起こるかなんて分からないのだけど……気になるのは魔王になる“者”だ。主人公の選択次第でコロコロ変わるのが特定を難しくさせる。それに、下手をすると私や藍苺、父さんや母さんがその候補になるかもしれないのだ。現に原作の紅蓮()は攻略不可な為魔王になる確率が高かった。主人公に討たれる確率が断トツで多いので気が気じゃない。二番目は紅蓮()が主人公の選択で亡くなる場合高確率で藍苺、その次に黄の国の王を恨んでいる朱李(父さん)が三番手。母さんは原作では亡くなっている扱いのためにどうなるかは不安だが……可能性はあるかもしれない。



 私はそれを回避しなければいけない。全力で。弟たちもまだ小さい。親を亡くす痛みはまだ知らなくてもいい。


 おっと、話が逸れた。何で大量発生が原作の開始に繋がるのかと言うと。それは簡単。世界に異変が起こると何かが起こる予兆だからだ。物語なんてそんなもんでしょ? 勿論ここは現実だけど……不安にはなるでしょ。



「ホラホラ~さッさと脱いで。」

「………」



 店番を八雲に変わってもらい別室にて嫁さんの背中に薬を塗る。いつの間にか追い越した背中が見ないうちに傷だらけになっていると、ふと、思った。


 8歳の頃は背も嫁さんの方が幾らか高い程度で大差なかった。それが今では私の方が高い。とはいえ、私も藍苺も未だに延びつつけているので私が止まれば追い越される可能性もあるのか……と思った。抜かれてなるものか!



「早く塗ってくれよ。」

「ハァ~……傷が増えてるね……確実に。」



 防具を全て外し上着を脱ぎ背中を露にした。首には管狐の奏が入っている薬入れが掛けられている。どうやら首には怪我はないようだ。



「頑張りすぎて大怪我したら元も子もないよ?」

「稼ぎだけはレンに負けたくないからな。そこは譲れない。」



 ほらね。プライドで死んだらダメなんだけど……ま、嫁さんの腕は信用してるよ。けど、一人で闘っていると思うと……ね?不安になるのは当たり前でしょ。夫婦だもん、信用は……してるけどそれとこれとは別問題だと声を大きくして言いたい。



「今日の魔物はスピードタイプだったみたいね」

「あぁ……不覚だった。背後に回られて引っ掛かれた。」



 今日着ていた防具も私が作った特製の防具だ。藍苺の有り余る妖力を吸収して自動回復する特殊な防具だ。今度は体も自動回復にしようか?でもそれだと体に負担が掛からないか?嫁さんは無理をして限界を直ぐに越えそうだ……小さな傷を治癒するくらいに抑えとこう……うん。




「今日は防具を作ったから後でサイズ合わせをするからね。それとも今やる?」

「腹へったから後で。」

「ふふふ……はいはい。今日は奮発したんだよ。楽しみにしててね。と、それから……」

「ん?」

「どうする?防具に掛けるまじないでリクエストとかある?」


 やっぱり使う本人に聞くのが一番だと思うのだ。家のリホームだって使う人に合わせるでしょ?



「やっぱり、状態無効は欠かせないな。後、暑さ軽減とスタミナ消費軽減も。」

「フムフム……あ、もう少し着物下げて。腰に傷があるから。」

「………」

「そっかぁ……大剣振り回すもんねぇ……スタミナの減りは凄いだろうね。私の場合は重さ軽減とか隠密、それと必中と回避とか…かな。」

「そりゃ狙撃専門だからなレンは。俺が重さ軽減なんかしたら攻撃の威力も下がるって。それに防御したら軽ければ吹っ飛ばされるぞ。」



 あ、そうか。私の闘いは前衛でもヒット&ウェイ、それに何時もは後方でチマチマ銃か弓矢で撃ってたからねぇ……たまに術をぶっ放すけど。防御するよりも避ける事に重点的に見ていたから……なるほど、そういう闘いがあるのか……。うん、参考になるね。



 嫁さんの背中に薬を塗り終えた。ざっと5ヶ所。何時もよりは少な目な数だ。前しか見ない傾向がある嫁さんにしては背後を警戒して戦ったのだろう。何に……とは言わないけど。



「そういえば最近胸の辺りが……苦しい……」

「一応聞くけど、お母さんは大きめ?小さめ?」

「お、大きめ……?」

「……胸のサイズも計っとこうか。ちっ、胸まで越すのかよ……」

「……前世のお前の方がお大きかった!!」



 いやさ、ちょっとその胸の大きさには嫉妬したけどさ……声を大きくしていうことじゃないよね?そう言えばジンさん、お胸さま信者の気があったよね?人の胸を重点的に……いや、何でもない。失敬失敬。



「変態」

「何で俺の方が変態扱い!?」

「いや、昔をね思い出したから。」

「いや、……俺も男だし……今女だけどよ……」

「目の前の美人を目にして興味なさそうにしてたのは誰よ?何で私にしか興味なかったのか最後まで疑問だった。」

「いやさ、そこは嬉しそうにしたらいいだろ。いや違うか……俺もその事に関してはわからない。お前に会うまで自分は何処か悪いのかと思ったほどだぞ?友達には「お前不能通り越して人間嫌い何じゃね?」って言われた位だ。」

「それなら聞いたよ。私もミケに「人間不振?」って聞かれた。まぁ、否定しないけど。」



 どうやってジンと恋愛に発展したのか未だに謎だ。気がついたらお互いに惹かれてた。気づいたのは………あ、そう言えば。



「ま、胸の話はこの際置いといて。実はさ、私達が出会ったのずっと二十過ぎてからだと思ってたんだよね……実際は高1の時には会ってたんだよね。記憶が戻ってから気がついたんどけどさ。」

「なんだ、レンもか。実は俺も二十過ぎてからだと錯覚してた。」



 ずっと錯覚してたのだ。ミケのゲーム製作時に一緒に声を録ったのだ。まぁその収録時も実は高3の時だったのは驚いた。私はてっきり大学のサークルだと思っていたのだが……私の学校小中高大一貫教育だから所属してなくても繋がりがあったんだよねミケの奴。


 それと、もうひとつ。父さん…朱李とは全くの赤の他人ではなかったのだ。まぁこれは後々説明するよ。




 傷薬を塗り終わったので着物を着直す嫁さん。着物といっても動きやすさ重視の袴だ。だぼっとしているものではなく、どちらかと言うとズボンに近い。この世界勿論ズボンもある。てか、洋服は存在する。庶民の着る服って感じだね。動きやすいし、布をあまり使わないし。白の国では一般的かな。勿論普段着として着物を着ている人も居る。


 今回は気分で着物にしたとか……昨日は普通のジーンズにタートルネックだった。何でも最近胸の辺りがキツいとか……けっ!



「でも……胸かぁ……この世界ブラが無いからねぇ……邪魔にならない?」

「え?あぁ、うん。揺れるな。」

「ちっ、」

「おい。」



 羨ましいなコノヤロ。今はどんなに努力しても胸だけは無理だからなぁ……けっ!縮んでしまえ。



「ま、胸の話は後でどうにかするとして。はい、贈り物。」

「ん?」



 嫁さんの前に包みを取り出す。この世界では素材にもなる不織布(仮)に包まれリボン(皆さんお馴染みの完全異常状態無効の防具です。あれ?完全なのはスーパーリボンだっけ?)で結わえてある。今日は記念日なのだ。


「えっと………何の日だっけ?」

「知らなくてもしょうがないよ。今日は記念日と言っても覚えてないだろうし……。今日はね、藍苺が初めて一人で上位の魔物を狩った日だよ。」

「…あぁ、……そうだっ……たか?」

「だから言ったでしょ、知らなくてもしょうがないって。ホラホラ~中身を見てみなよ。良いものだよ♪」




 何処か恐る恐るあける嫁さん。ちょっと、私がビックリ箱的なイタズラをすると思ってるの?たまにやるけど。今日はそんなことしませんよって。



「これは……ピアスと組み紐?」



 包みの中から出てきたのは小さな粒の紅い石が付いた銀製のピアスと白の光沢のある組み紐。どれも私作のものだ。実はピアスはお揃いなのだ私と。



「ほら、お揃い♪」



 垂らしていた髪を持ち上げ耳を見せる。私は藍色の深い青の石を付けた銀製ピアスだ。


 因みに店番とか何もしないで居るときは専ら髪は垂らしている。作業するときはポニテにするけど大抵の場合は結ばない。この姿をミケに「どこぞの葬儀屋見たいね。もしかして笑いが好き?」何て聞かれたよ。確かに前髪で目を隠してる所は似てるかもしれんけど、断じて笑いを対価に情報をあげたり骨型クッキー作ったりしないよ。後、自作の棺桶を人にススメたりしないし、…………棺桶売ってるけど。




「これって……」

「希少な龍の涙を使ってみました。火の耐性が付いてるよ。あと、その組み紐は闇以外の属性耐性か付いてる。リボンと併用すると強いんじゃない?」

「やり過ぎ感が半端ないな。」

「……やっぱり?」



 私も「ちょっとやり過ぎた?」とは思ってたよそりゃ。けど、着けちゃったことは仕方ないでしょ。あ、龍の涙ってのは察しがいい人は気付いているかもしれないけど、私の涙です。箪笥の角に小指ぶつけちゃって……その時に流した涙です。痛いよね地味に。


 冗談だよ冗談。箪笥の角にぶつけるのは痛いけど涙は出ないよ。泣いたのは……ほら、前に嫁さんがボロボロになって帰ってきたって話したでしょ?


 あの時に………ね。私だって泣きます。



 話を戻そうか。


 龍はその体全部が優秀な素材になる。その中でも貴重なのが涙。龍の流した涙は宝石のよう固まり、綺麗で神秘的な力が宿るとされている。実際術耐性は優秀すぎるほど。そして精神的な安定を助けるとかなんとか……。私にもよくわからない。


 そのため龍は涙を流さない、流してはいけない。流せば狙われるから。何だかよく聞く話だよね……


 龍の力が発現していないと宝石にはならない。どうも妖力が関係してるらしい……



 そして今回は組み紐にも色々使ってみました。白龍は優秀すぎるほど闇以外の属性耐性が強い。なので鬣をふんだんに使ってみた。髪じゃないよ鬣だよ。わざわざ白龍になって切ったんだから鬣何です。



 話は変わるけど、前に嫁さんの防具を無断で拝借した奴が居たのだが……ソイツの行方はようとして知れなかった……。のは冗談で、矢鱈魔物にターゲットにされて泣きながら嫁さんに返したとか。何でも、防具を鑑定したら白龍の慈愛が着いてたとかちょっとした話題になってた。私がスキルを防具に着けると鑑定した時の表記が全て白龍の慈愛になっているらしい。あ、嫁さんが着けてる時限定らしい。他の人が着けると白龍の逆鱗に変わるとか……最早呪いだよねそれ。


 私ってば無意識のうちにそんなことを……


 ま、気に入らない人にはマイナス効果が着くんだねきっと。因みに店では私の作る武器防具は売ってません。悪用されたくないのと、下手な奴に預けると大変な事になりかねないので。でも、武器防具を売る店の紹介はしてるよ。あと、素材を買い取ったり、武器防具屋に売ったり。


 そこはギルドの仕事なんだけどさ。結構顔が利くと自負してるよ。何せギルドに登録すれば小遣い稼ぎに薬草やら一般人でも出来る依頼は沢山有るからね。


 あ、この国では片仮名とか横文字は結構頻繁に使われてるから違和感なく皆使っているんだよね。説明が今更だけど。そうそう、そう言えば説明してなかったと思うけど、文字は日本と同じ。数字も使うけど、アルファベットはない。白の国は文化的には日本に近いかな。着物も日本に近いかいし。食べ物もそうだしね。



 今居る茶の間的な部屋からキッチンに移る。この店舗兼自宅は結構広めに作ってある。元々宿屋だった物件を買い取りリホームしたのだ。何部屋か潰したりしてキッチンも茶の間も広めに作った。家と同じで材質がとても高価。何度危ない依頼をこなしたことか……でもその甲斐あってそんじょそこらの力じゃびくともしないよ。



「お!今日は豚の角煮♪」

「勿論サラダもあるけどね♪」

「(´・ω・`)」

「そんな顔してもダメ。野菜は摂ろうね?傷の治りも早くなるよ?」

「(´;ω;`)」

「何か不満でも?」

「な、ないです。( TωT)」



 全く、野菜嫌いは何年たっても直らない。頭では分かっているのに……強情な。


 嫌々ながら食べてくれるのは何時ものこと。もうこのやり取りはお約束になりつつある。


 今日のメニューは白米、味噌汁(わかめ)、鶏のムネ肉のソテー、豚の角煮、サラダ、デザートに林檎、以上が今日の晩御飯のメニューだ。


 白米は実家で栽培出来るようになったのでかなりの頻度食べれるようになった。しかし、健康面を考慮して週に3日は雑穀米を食べている。味噌も私が持ち帰った知識と母さんの執念で何とか完成した。未だに何処にも出していない門外不出なので両親と今後を検討中。蛇足だが私は味噌汁に具はあまり入れない派だ。ワカメならワカメonlyだし、大根の味噌汁なら大根と油揚げしか入れない。ごちゃごちゃしたのは好かんのだ。


 あ、油揚げも作ったよ。これも予断なんだけど、私は油揚げが好きなんです。狐だし……関係ないか。油に苦労したけど何とか出来ました。これも検討中。


 そして一番に嫁さんがかぶり付いた鶏ムネ肉のソテーは大根おろしでサッパリな味付けに。固くなりやすいのでフォークでグサグサさして筋を切った。そんなに手間が掛かるなら柔らかいモモ肉にすれば良いと思うでしょ? これにはちゃんと理由があるのです。


 鳥はムネ肉に疲労回復を助ける物質が有るそうで疲れているだろう嫁さんに食べてもらいたかったのだ。ほら、種類は違えど雁とか渡り鳥って休まずに何キロもの距離を移動するでしょ?確かそんなことを情報番組でやっていた……気がする。


 唐揚げにでもしようかとも思ったけど、油を抑えた方がいいかとも思ったのでこちらにした。



 そして嫁さんの大好物、豚の角煮。脂が凄いから唐揚げからソテーに変えたんだよね。


 ここで豆知識。動物性の脂で溶けにくいのは鶏の脂なんだって。反対に溶けやすいのが牛の脂。高級なお肉を食べたリポーターが「溶けてなくなった…」なんてコメントにあるように比較的低い温度で溶け始めるみたいだよ。豚は中間辺り。


 あ、でも、牛よりも豚の脂の方が体には良いらしい。テレビでやってた。ま、どこまでホントかなんて分からないけどね。何せもう随分と昔の事だから……



 と、話を戻そうか。サラダは全て蒸して食べやすく。マヨで食べるかドレッシングをかけるかは自由。ドレッシングの種類はシソ、ゴマだれ、大根おろしの三種類。もしかしたらその内フレンチドレッシングも作るかも。気が向けばの話どけどね。





「はぁー……食った食った~」

「はい、お粗末様」



 ご飯を6杯お代わりしてサラダと味噌汁以外のおかずを3回お代わりして漸く食べ終わった。若干膨らんだお腹をポンポンと叩く姿は……言っちゃ悪いが狸に見えた。顔は満足気で眠そうにも見える。


 あ、このまま座り続けたら寝ちゃうなこりゃ。



 椅子に座ったまま寝そうな藍苺を風呂に入るように言いながら風呂場に押し込んだ。着替えは既に脱衣徐に完備している。勿論タオルも。さぁ、さっさと風呂に入って寝なよ。


「一緒に入るか~?」

「寝惚けて襲われそうだから遠慮する。」

「むぅー」



 でた、嫁さんもとい、ジンの悪い癖……疲れた時の甘え癖。こうなると何時ものプライドは何処へやら……寝るまで駄々をこねるのは序の口。



 酷いときには……襲われた。勿論……その、性的な意味で……



「(´・ω・`)」

「さっさと入ってこい……(^_^)」

「(´;ω;`)」

「ガキかってんだ!!」



 風呂場に押し込んだ後扉を強制的に閉めてキッチンに引き返す。全く………



 …………余程嫌なことがあったのかな。



 

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