決して万能ではない
私の朝は早い。
食事の仕度は当たり前、藍苺のお弁当の用意に洗濯、そして雑貨屋に朝御飯を買いに来る者もいるので開店準備。店番を分身に任せられるのは楽だが、分身から疲労感は少しはフィードバックされるので疲れは蓄積する。
それでもまだ耐えられる普通の朝の光景だ。
美味しそうに用意した食事を食べてもらえるのも作り甲斐があると言うもの。特に藍苺は美味しそうに食べる。
そんないつもの朝の風景に邪魔な物が追加されるのが最近は増えてきている。
「━━はぁー。」
「ん? なんだ手紙?」
「うん、召集命令」
手紙は白の王からの召集命令。実際には私は王ではなくて王太子殿下の部下なので命令系統は王ではなく殿下の方が優先順位は上な為に命令に従う事は殆んど無い。が、今回は殿下からも命令が来ているので登城しないといけないようだ。メンドイ。
「どうせ尻拭いだろうさ。何処の貴族子息がやらかした何かの」
「そうでもないかもしれない━━事もないか。いつものそれだもんな」
今は王族の藉に入っていないが、生まれが王族(しかも記録上は直系の姫)の藍苺を娶っている私は貴族から目の敵にされている節もあるので厄介事をよく回される。
この前なんて国境付近での山賊退治をさせられた。領主が隣国との個競り合いで負傷したので私に御鉢が回ってきたのだ。
勿論国境付近の治安は大事だし、あそこの領主が怪我で動けないのも分かっている。領主の息子もまだ五歳だったし、親戚達も相手する余力が無かったのも知っている。
でも解せないのは余力が十分余っていて暇そうな周りの領主達が知らん顔していたことが解せない。
分かるよ、隣国に隙を見せないために動けないとか、分かってるよ。けどね、ポーズでも良いから自分達がやるって態度とってよ。
最初から「こんな仕事は下っ端のコイツにやらせるのが似合いだ」ってニタニタと下品な笑みを浮かべて言うもんじゃあない。
私のやる気は底辺に落ちたよあの時は。
まあ、キチンと仕事はしましたけどね。仕事だし。
勿論小さな仕返しをしてきたけど、あれが私の仕業だとは気が付いてないみたいだ。ざまぁ。
私は正義の味方ではない。それをお偉方は理解した方がいい。
じゃないと貴族でいられることも難しくなるよ?
「で?行くのか?」
「そりゃあ行くしかないでしょ」
「━━俺も行こうか?」
私の行きたくないオーラを感じ取ったか藍苺は自分も行こうかと言い出した。私も本当はその提案を呑みたかったが、
「いや、私達が二人でいけばそれはそれで相手の思う壺だよ。彼等は私の失敗するところを見たいんだから」
そう、弱味を見せれば攻撃される。馬鹿にされ隙を与える事になる。そんなのは癪だ。
私は人間ではない。妖かし、妖怪、異形、人外、しかし定命の者だ。見た目は人だろうが人間とは違う価値観と理を持つ。
面倒だから国の定めた法律に従うが、何もしていないのに罰せられるならば従う気はない。
そんな生き物なのだ“|化物(私達)”は。
化物が人の皮を被っていると揶揄する輩はわかっていない。本当にそうなのだと言うことを。もしも私達にあちらから牙を向けるのならば・・・・
容易に反撃だってすることに。
人の理など関係ない
「━━━ん、レン!」
「ん?」
おっと、考え込んでいた。藍苺に呼ばれて現実に引き戻される。少し疲れているのかもしれない。最近は少々バタバタしていてから。
「いや、ん?、じゃない。━━疲れているのなら休んでもバチは当たらないだろう?」
「それがねぇ、バチは当たらなくても嫌味は飛んでくるんだよこれが」
「嫌味かぁ」
藍苺も経験があるのだろう。貴族の嫌味はねちっこいのが多い。面と向かって馬鹿正直に不満や嫌味を言うのは半人前、さも華やかに会話するように優雅に嫌味と分からぬような嫌味を言ってこそ一人前らしい。どちらにしろ嫌味に変わらない。私は正面から馬鹿正直に言ってくる方がまだ好感が持てる。どちらにしろ良いものでもないが。
手紙の詳しい内容はこうだ。
曰く、隣国の赤の国との国境付近にて不穏な動きが見られる。早急に対処するために貴族に属する者は家長もしくは代理を直ちに登城させよ。と言うものである。
ようは「敵の赤の国に情報流してたり加担していると思われたくなければさっさと来い。来なければ反逆者ととるぞ」と王家からの脅しでもある。“家長もしくは代理”というのは当主が来たくなければ身代わりの人質寄越せよと言うことだろう。
行かなければスパイ疑惑をかけられて投獄。良くても御家取り潰し、悪くて一族処刑だろうか。
それが我が燈子爵家にも来たのだ。しかも殿下の命令を添えて。
もうこれは厄介事を私に押し付ける気だろう。白の王も同意の上で。厄介だわ。




