お帰りはあちらの出口からどうぞ
お客とは神様である。そう言い出したのはだれたろうか。確かに商売とはお客が居ないと成り立たないものだ。しかし、客の質が悪いとそれには当てはまらないと私は思うのだ。何故かって?
そも、お客様は神様と言うのは客側もある程度謙虚で無くては成り立たない。客だからと何でも許される訳ではないだろう?
とまぁ、どうでも良い話をしてしまったね。なにが言いたいかと言うとだね・・・
「こいつに売れてアタシにはうれないってのか!?」
言い掛かりを付けられ怒鳴られるのはいくら客でも嫌だって話だよ。
先日来た客を引きずってきた(物理)女性冒険者の対応している真っ最中なのだ。元から声が大きい人なのか、気が昂って大きくなっているのかは知らないが人の顔近くで大声はやめて欲しい。それにその引きずってきた彼(不憫)はギルドでも普通に買える何も珍しくない灯火の術の指南書なので本当に勘弁して欲しい。たまにいるんだよね、ここで売られているものが他とは違うとか勘違いする人が。
「何度も言いますけど、ここで売られているものはギルドでも買えますし、どこの町でも雑貨屋とかで売ってますよ」
そう本当の事を言っても「それは可笑しい!」の一点張りで埒があかない。営業妨害で兵士に突き出そうかとも一瞬考えたが思いとどまる。と言うか正直面倒だ。人の揚げ足を取るのが大好きな貴族連中に餌をやるのもシャクだし。あいつ等何でそんなことに時間掛けるのか不思議なくらい暇人なんだよねきっと。
「なぁ、お願いだよ。こいつに出来たんだ、才能がある奴ならもっと凄い術使えるだろう?」
「だからあれは丁寧に教えてくれたお陰で覚えたんだ。特別な物は無いんだって!!」
「あんたは黙ってな!才能なしの分際でアタシに意見すんなよな」
それはあまりにも酷いのでは?いくらなんでもその言い方は相手を傷つけるだろ。それとも意図的に?どちらにしてもこの喧しい客は好感が持てない。いくら才能があってもこれはちょっと無いわ。
「だいたいあんたは底辺も底辺の分際でろくに修行もしないで破門されたロクデナシだろうが。それが生意気にも洞窟全体を灯りで照すなんて何か裏があるに決まってる。」
うん?全体を照らした?洞窟を?
「ちょっと待ってください、洞窟全体を照らしたとは?」
「あぁ、それが「こいつ荷物持ちの分際で討伐対象の魔物を灯火の目眩ましで倒したんだよ!」・・・です。」
うん、そんな凄い光を出してしまったからうちの店に秘密があると勘違いしているのね。うんうん理解した。
「あーっと、失礼ですが貴女は魔術の経験はいかほどで?」
と、聞くと聞いてもいないことまでベラベラと喋り始めた。
何でも彼女は剣士としての才能は人一倍あったが、術系統はてんでダメで彼より少しは出来るくらい(薪に火をつけるとか、鍋に水をはるとか生活レベル)で戦闘には向かないらしく、彼の凄まじいフラッシュ(勝手に命名)を見て彼を問い質し吐かせてここに突撃してきたらしい。傍迷惑な。
そこから同情を誘うためかどれだけ自分が馬鹿にされ悔しい思いをしてきたかと聞かされたが、彼への言動を見た後だと同情心は全く湧いてこない。むしろこいつ自己中なんじゃ無いかと思うのだ。自分の事棚に上げすぎ。私も人の事言えないけどね。
ハッキリ言って早くかえって欲しい。彼がどうして灯火の術で強烈な光を出せたのかは分からないが、多分命の危機とか何かきっかけがあった為の暴走に近いものだと思う。余程彼と灯火の相性が良かったのかもしれない。真相は解けないけれど彼女が術て大成することは多分ない。彼女が彼に言った言葉は彼女の方が当てはまっているのかも知れないから。
彼には努力の後があった。それもただの努力ではない。それこそ血ヘドを吐くような努力。誰にも理解されずに続けてきたのだろう。手にはタコが潰れてまた出来た後が無数に、それに手首にも大小の傷、顔にも目を凝らすと結構な数の傷もあった。
それに引き換え彼女は傷が見当たらない。いくら女性でも冒険者ならば傷は多少ある。見えないようにするものもいるが、大半は誇らしげにさらしている。ベテラン女性冒険者曰く「冒険者の傷は男女関係なく勲章」だそうです。その発言のあとに「そもそも傷付きたくなかったら冒険者なんぞしてないだろ。不本意だとしても冒険者として生きていくなら覚悟してない方が可笑しい」と呟いてましたね。ごもっとも。
私が気に入らないという理由で追い出すことも出来ないので(一応客だし)丁寧に事細かくうちには特別な物は無いと説得してたその日は帰ってもらうことに成功したが後日何度も彼女は来ることになるのだった。勿論彼も引きずられて。
しかし何日か通いつめ私の言っていることが本当だと分かったのか何なのかここ最近は来ていない。何でも彼の説得でうちの店に突撃はしないことになったらしい。(*^ー゜)b グッジョブ!!
風の噂(受付嬢経由)今では彼ともう一度一から努力してみるとの事だ。そんな簡単に出来るわけはないが彼女が納得するまで彼は付き合うらしい。付き合わされているの間違いかもしれないが彼は笑っていたので・・・良いだろう。うん。
おっと、帰ってきたようだ。
「たっだいまー!!」
「おかえり。今日もお疲れ様」
あー腹へった~っと藍苺が帰ってきたので今日はもう八雲と交代して晩御飯にしよう。
「今日のご飯は?」
「ハンバーグ」
今日も何事もなく一日が終ろうとしていた




