基本は単独希望です
お久し振りです。
さてさて……殿下と騎士二人は簡易結界で村まで戻ってもらうとして、私たちは逃げる殿下達の方に魔物が行かないように子分猪を倒して挑発し、敵の目をこちらに向けなければいけない。
無事村に着いても魔物のおまけ付き何て歓迎できないからさぁ。
本音を言えば嫁さんも付いてって欲しかったんだけど……まぁ、負けず嫌いが素直にはいと言うわけがない。
だから言わなかったけど逃げる気も手加減する気も最初から無いみたい。それに少し機嫌も悪い。全て話してないことが気になっているようだ。
「一応聞くけど、引く気は――」
「ない」
「ふぅ……なら全力で闘いなよ。サポートは任せて」
「ああ、任せろ!」
自身の身の丈ほどある大剣を構え直して敵を睨む姿は格好いいよ……でも本人には言わない。調子に乗るから……
障壁の効果もそろそろ切れる頃。切れたらまたかけ直せば良いのだが、障壁って術は単純に物理攻撃を全方向を防ぐって術だから裏を返せば此方の攻撃も届かない……まぁ、私はその分ハッピートリガーよろしく術でバンバン攻撃するのだけど。
それじゃあ藍苺の出番が無いでしょ?
張り切っているのだし、見せ場を作りたいじゃない?
ま、この程度の魔物なら足留めさえすれば藍苺なら簡単に方が着くけどね。
あ、殿下達が障壁を抜け出せたのは私が任意で一部開いただけであって、発動中は障壁から出られません。うん、一歩間違えると術で蜂の巣になるよ~。
「こっちは自分で相手の攻撃を対処するから嫁さんは自分に向かってくる敵だけ対処してね」
「え?……分かった。あのデカイのは最後だな。先ずは子分を蹴散らそう」
「邪魔だからね」
なら障壁が消える前に粗方消しておこうか。そう思ったので詠唱を開始した。使う術は炎。私の一番使いやすい属性だ。
「手加減はしない……(灼熱…業火……消し炭!)…『黒天』!」
『説明しよう! 黒天とは太陽にある温度の比較的低い場所が黒い点に見える所から名付けられた術だ。勿論太陽なので低くても生き物が生存出来る訳でもないので、かなりの威力だ。因みにこの術、威力は物凄いが、コレが最大の術ではないぞ。精々中級だ。ま、紅蓮の家族限定でな!』
長々と説明をありがとう白神よ。付け加えるとしたらコレは私の作った術ではなくて、母さんや父さんが考案したものって事。それと、一般的には上級魔術に部類されてます。
それに名前も太陽の黒点が元なら天は点の筈だけど……天の方がカッコいいからと安易につけられました。
「うわー……手加減したのな一応」
「まあね。肉は食べれるし、皮や骨、牙に角とか各種部位は素材として売れるからね♪」
「あー…うん。逞しいなぁ…便りになるなぁ…」
全体攻撃だから大猪を残して全滅した。消し炭……何て言ってますが勿体ないので手加減しました。ま、焼けてレア位に美味しく焼けてるけどね♪
「っと、感心してる場合じゃなかった!」
藍苺は大剣を肩に担いで一気に大猪との距離を詰め重い一撃を浴びせる……運が良いのか、実力なのか丁度此方を向いた大猪の頭に当り呆気なく撃沈した。
それから周りに散らばる猪達(戦利品)を二人で捌いた。小さい取り巻きの猪たちも普通のサイズよりは大きいので手間が掛かったが大猪程ではない。
先ず、手頃な木(良い枝振りの巨木)を見付け頭を落とし木にぶら下げて血抜きをする。勿論魔物が寄ってこないように結界と血溜まりを消すための術も予め掛けておくことも忘れずに。
あぁ、その前に内蔵を取り出したよ。大腸は煮たり焼いたりすると美味しいけどこの魔物癖があるから煮るのをオススメするよ。焼くと固いし。
肝臓は貴重な栄養豊富な食材なので丁寧に傷つけないように取り出した。でも私も肝臓はあんまり好きじゃない。特に豚と牛のは歯応えが嫌かな。鶏のほろほろ崩れる食感が好きだなぁ。後、嫁さんはレバー全部嫌いです……まぁ、血生臭いからね。好き嫌いは別れるよね。
小腸はソーセージ用に使える……が、大猪も子分猪も豚よりデカイので大きさ的に魚肉ソーセージ位のになりそう。
その他の心臓やら耳やら骨以外は魔素が強く食べられない。元の世界ではどうだったのかな?ま、今のことだけで良いか。
後、毛皮も剥いだ。剥いだ毛皮は大猪達の脳ミソで鞣して……あ、嫁さんが吐いた。だから私がやるって言ったのに……ほら、全部出した方が楽だよ~………
――――ふぅ…嫁さんも落ち着いたことだし、後は素材に成りそうな部位を取って細かく解体するだけだね。
ホント、コレが主婦の仕事の内ってんだからこの世界の女性(男も居るけど)は逞しいね~。特に田舎の方は飼ってる鶏をお祝い事で〆るって言うし。
「いつ見ても慣れない……orz」
「まぁ、慣れなくても……職業柄致命的だけど」
「ぐはっ!!Σ( ̄□ ̄;)」
こんなやり取りをしながら黙々(喋ってるけど)と作業をしていると……
「な、何だこの地獄絵図は!?」
恐らく殿下達が村に戻って事情を話してならば加勢に!とでも思ったのかすっ飛んで来たであろう赤騎士さんが驚愕のお顔で立ち尽くしていた。顔文字にするとΣ(´□`;)である。
「な、なんと……二人だけで…末恐ろしい」
「(ホントは殆どがレンだけどな!)」
「(言ったら煩くなるから黙っておこうね)」
「(だな)」
前に何処からか嫁さんの武勇伝を聞き付けた――この時の少し前に凶暴な魔物を倒した――赤騎士さんがギルドに乗り込んでひと騒ぎ起こしたのだ。何でも「手合わせ願いたい!!」らしく、その後何かと手合わせを所望してくるのだ。暑苦しくてウザいことこの上無い。
悪い人ではないのだが……
「ところで、コレはどうするんだ?何か呪術的な儀式なのか?」
言われてみれば巨木に首のない猪を吊るしていればそうも見えなくもない……いや、魔女の巣窟に入ればこんなの見そうだ。我ながら感覚がマヒしていたらしい……慣れは恐ろしい。
「血抜きですよ。ああやって血を抜かないと美味しくないんです」
「ほう……腹も捌いたのか?」
「血の殆どは内臓にあるので……解体もしやすいですし」
「……狂気的な光景だ」
SAN値ガリガリ削りますかね?余り見つめすぎない方がいいのではないかな?この人。
何て言うのかな……この人闘いは好きだけど殺しは経験も無いらしく血とか耐性がないみたい。貴族の出だもんね……そりゃ見たこともないかな、生き物のこんな姿は。
それとそんな私が逸脱しているような目で見ないでもらいたい。私だって好きで殺ってるわけではないのだ。必要だから殺った…それだけ。
「毛皮や角、牙はギルドの方で買い取り村の資金に回します」
「結構良い値で売れるぞコレ。日常品とかにも使われてるから需要もあるし」
牙は頑丈なので武器や防具に、角も武具に使えるし、薬としても役に立つ。因みに効能は熱冷まし。
「では、コレはどうやって持っていくんだ?」
え?そりゃ……勿論、力に自信がある方々に
「え?」
「あぁ、解体するので袋に詰めて持っていきますよ。……はい、この分は頼みました。いやぁ…丁度よく来てくれて助かりましたよ。殿下には応援を頼んだ覚えは無いんですがね」
「う、う?……っ!?」
おや、イヤミは通じなかったか。
赤騎士は渡された袋を軽く担ごうとして転けた……重かったようだ。
※赤騎士の脳内での独り言
「(な、何だコレはっ! 重い、持ち上がらない!? コレを紅蓮殿は軽々と片手で持っていたぞ!……はっ!そうか。奥方殿もかなりの剛力……夫である紅蓮殿が非力であるはずかない!そうか!そうだよな!?
いや、まてまて……はっ!
とすると真に強いのは奥方殿ではなくて…紅蓮殿なのか?……だとすると俺は挑む相手を間違えていたと…いや待てだが――以下省略――)」
独り百面相をしている赤騎士を放って置いて解体作業に戻る。時おり「いや、しかし」とか「ど、どっちなんだ!」とか聞こえてくるけど聞こえない……あ~あ~…聞こえなーい。
*******
「ただ今戻りました」
村に着いてレンは一言こう言った。それはもうバックに花が咲き乱れる程朗らかに。特に貴族の白龍の紅蓮として来てるから艶のある真っ直ぐな(スッゴク羨ましい…)白い髪なので余計?に幻の花が栄える……気がする。(あ、寝る前とか人前に出ない時はいつもの薄藤色の姿だぞ)
あの後、ぶつぶつと訳の分からない独り言を話している赤い人(赤騎士)と距離を置きつつ、早足で村に帰ってきました。重いとか言ってたのに独り言を言い始めたらスイスイ歩いてだぞあの人……
そして心配そうな殿下達の出迎えでレンが放った第一声があれだった。
もう、「余裕ですが何か?」と顔では言ってるようないないような?そんな感じです。
「荷物持ちを頼んでもいないのにありがとうございました殿下。獲物を運ぶのに楽でした♪」
またもニッコリ……野次馬で集まってきた村人の何人か顔が真っ赤になってた。あ、怒ってとかじゃないぞ。
「俺は止めたぞ……一応な」
「殿下の威厳が無かったのかはさて置き、「お、おいちょ(rn」早くこの収穫の成果を報告しましょうか」
「なあ、殿下落ち込んでないか?」
「気のせいです」
赤い人を止められなかった殿下に嫌味を言っても良いのかと(ほら、不敬罪とか)気にしたが、当の殿下はorzになってるので……良いわけではないけど、お咎めは無いっぽい。それで良いのかと少し白の国の未来が不安になった。
まあ……今更
それにしても、何時もの紅色の瞳で睨まれるのも怖いけど瞳の真ん中の瞳孔だけ黒く(白目と虹彩の境目はある)見える目に見詰められるのは生きた心地がしない。
いや、別にレンの目が合わせられないほど怖いとかじゃなくて、笑顔なのに目が笑っていないのと、美人さんが無表情(笑ってるけど目に表情がない感じ?)って恐く感じるんだよ。それと多少姿形が変わっても(いくら前世の姿とそっくりでも性別は違うし、髪の色も違うし、種族も違う)目の色だけは紅で変わってなかったから安心できたのかもな。
それに、今の姿の時は瞳孔が縦に割れた形なので虎とか猛獣に見られているみたいで落ち着かない……あれ?俺……小心者? 情けないよなぁ。
「……何だこの……肉の山は」
「狩猟(相手からエンカウント)の成果ですよ殿下」
「うわー…袋一杯の肉、にく、ニク……あ~何か胸焼けしてきた…」
「スゴいですね。流石支部長。」
「あの役職は飾りじゃなからな」
「負けたっ!」
人の良い兄貴分は肉の量を見て胸焼けを起こし、のほほんとレンを誉める後衛職の青年に、何か誇らしげに頷くオッサンと純粋に悔しがる姉さん……今は居ないが多分後の回復役の二人も青年の様に誉めると思う。
本人が思うよりもレンは好かれているし、実力を認められている。特に上位の者たちには。認めていないのは中級の者たちだ。日頃レンの闘う姿など見たことがないからだろうな。
勿論、俺だって負けないくらい好きだよ。次元が違うけどな!
「さて、昨日の内に動ける人数は把握しましたから料理のほうは村のご婦人たちに任せますよ。私も他にやることがありますから」
そう伝えてからレンは俺たちが寝場所にしているテントの方へ行ってしまった。
若干数レンの発言に落胆しているが殿下だけは「地元の料理も食べてみたかった」とか言っちゃってるので多分良いのだろう。コレで食べたくないとは誰も言えない。
でも、俺はレンの料理で舌が肥えてるので……う、いやなんでもない。何だか何処から(レンが去っていった方角から)か威圧感を感じた様な?
き、気のせいだ…うん。
俺たちは猪達を倒して早々に帰ってきたが他のギルドメンバーは山菜やら食べれる野草を取ってきてくれたのでお昼は粥(野草を細かく刻んで入れた七草粥みたいなもの)と見付けてきた香草で煮込んだ猪肉(味付けは塩)
、昨日より少々グレードダウンしたお昼でした。でも自然と美味しかったです。
でも、塩だけの味付けなら焼いた方が好きかな?
実はお昼はテントから出て来なかったレンを心配してテントに入ると……レンは寝ていた。うん、安らかに安眠してました。
寝不足で機嫌が悪かったのかとも思ったけど、度々寝ているのに外にレンの気配を感じたことがあるのでおそらく体だけここに置いていって何処かに行っているのかもしれない。
生憎俺は術とかの才能はからっきしで薄っすらと何かを感じる事が出来るが、物事を断定するだけの力はな。
でも予想することは何とか出来る。当たっているかは謎だが。
俺の仮説が正しいなら…触っても起きないと思う。それに、無防備な体を無防備なまま置いてくとも思えないので眷属の誰かをここに置いていった筈。
影に隠れるので気配を探らないといけないからやっぱりコレも確証は持てない。
俺ってホントに突っ込むしか能がないのかな……
白の国の騎士達は性格を色別に別けています。例えば熱血は赤騎士隊に、冷静や頭脳派は青騎士隊に、等々。
黒や白の隊はまた後程説明します。




