俺の嫁(今は夫)が入れ替わってました。
これにて連日投稿終了です。
気が付いたのはふとした瞬間だった。
あれ?と思ったのは使い終わった調理器具を洗っている時。
あ、紹介が遅れた。俺は紅蓮の嫁――最近は自分が男なのか女なのか分からなくなってきた――の藍苺だ。ひさしぶりだな。
俺は今炊き出しの後片付けをしているところだ。
で、なんだが……隣で大鍋を洗っている旦那――俺とは逆で中身は女……だよな?最近男らしくてなぁ…――の紅蓮の様子を盗み見る……
やっぱり変だ
「なあ、レン?」
「はい?」
もうここから違う。
レンは大体返事は「ん?」とか「なに?」だ。他人行儀?から抜け出せてないような半端な返事と曖昧に笑う何てことまずしない。
もっと細かく言うなら手元から目を放さずに返事をして上の空なことが多いんだ。それに少し顔色も違う。確かに今目の前に居るレン(仮)は色白で絹のような薄藤色の髪は余り親しくない人にとっては紅蓮に見えるだろう……
あ、今思ったんだけど下町の雑貨屋のレンと貴族の紅蓮と分けないんだな……ま、今更だよな。公然の秘密ってやつか。
いや、それよりも!
この目の前に居るレン(仮)は俺の知ってるレンとはビミョーに違うんだよ!!
まず、髪の毛だ。色が少し濃い。レンは光の加減で白にも見えるくらい絶妙な色だし癖が全く無い髪質だ真っ直ぐだ。前髪は少し癖があるが目の前のレン(仮)は毛先が少しふんわり広がっているし前髪の癖も強めだ。肌の色も良すぎる。レンの肌は透き通るような女性が嫉妬しそうな白い肌だ。それにきめ細かい肌質でシミが一つもない!一つもない!!だが、このレン(仮)は左の耳朶にうっすら黒子がある。これはレンではないと言う―中略―だ。
そして目の色もこのレン(仮)は黒が強い……レンは例えるならルビーだ。このレン(仮)はガーネットだ。明るい色なのだレンは。透明度もある見詰めていたら吸い込まれそう…ウンタラカンタラ……本当に綺麗な目なんだ。
そして何よりも……言葉使いが……俺に対する言葉の端々に遠慮が見える。
俺に対して敬語は使わないし――以下略――
つまりだ、この目の前に居るレン(仮)は何らかの理由――王太子殿下に密命でも賜ったと推測――で分身を置いていった……と推理した。
因みに俺の勘ではこのレン(仮)はレンの分身の弐あたりだと思う。確か性格的にレンに近いから身代わりに置いていくなら弐じゃ無いかと思う。
後で真相を聞いてみよう……まあ……
話してくれるのは全てが終わってからなんだろうなぁ
ん?
俺は気づいた。少し目を離した隙にレン(仮)がまた入れ替わったことに。
だが、今回は正真正銘本物のレンの様だ。いや、断言する、本物だ。
相手が気がつく前にレンに飛び付く……が、避けられた。
「だから、公の場で抱きつかない」
「誰も居ないし良いじゃん夫婦なんだし」
「公私混同ヨクナイヨ」
「片言ですけど」
「そっちこそ敬語」
笑ながらお互いふざけあう……そうだ、さっきまでの一番の違和感はこの巫山戯愛がなかったせいだ!
「レン、後で教えろよ?」
「分かってるよ……でもよくわかったね」
「お前の行動と仕草と容姿は把握してる」
「ナニソレコワイ…」
端から見れば只の巫山戯合いだが、俺は見逃さない……少しの間が空いた時の一瞬の鋭い雰囲気を。これでも一応夫婦だ…多少の変化なんて気づく……ものじゃないのか?
前に「あんたいっつもベルを見てるわね」ってミケ(現在のマオ)に言われて「あぁ、いつも視界に入れてる」と答えたらドン引きされた。そんなに変だったか?
「さて、明日も早いからもう寝ようか」
「勿論いっ――」
「しょな訳ないでしょ。テントは同じだけど寝袋まで一緒は有り得ないからね」
「チッ……期待してたのに…」
「何を期待してたのか…」
「勿論ナニを――」
「言わせないからね!」
あははは……巫山戯るのもたまには良いもんだよね……え?いつも巫山戯てないか?
失礼な……俺はいつでも本気だぞ?
「ほら、何をブツブツと文句を垂れてるの?早く寝なよ?」
「添い寝してくれたら早く寝る」
「アホか」
一蹴されたがめげないぜ俺は。
あきれた顔をしながらレンは片付けを終えてそそくさとテントに入ってしまった。もう少しじゃれ合いたかったんだが……ま、これで満足しておくか。
今更説明なんだが、ここは田舎……それも過疎化が進んで訪れる旅人もほぼ居ない……詰まり、商売として宿屋が成り立たない。つまり宿屋が無いのだ。だからと言って外で雑魚寝何て出来ない…寒いし、屋根がない所で寝るのは……やろうと思えば出来ないこともないが、皆のモチベーションに関わる。なので護衛組は村の空いているスペースを借りてテントで寝ることにしたのだ。
この期に及んで家を貸してください何て困窮している村人に頼もうなんて思わなかった。
流石に殿下は村長の家で寝泊まりするようだけど、騎士達も交代で殿下の護衛をしながらテントで寝るようだ。
半野宿はギルマス(レンの父親の朱李さん)もこの事を予知していたのかテントを装備として全員に持たせていた。勿論俺は随分と前からテントや野外でのサバイバルに必要な道具はレンから渡されていた……何でも入る四次元的ポーチに今も大事にしまわれている。今まで日帰りで使う機会などなかったが。
おっと、話が逸れた。
さて、疲労困憊、栄養失調、ストレスによる色んな疾患……で壊滅寸前の先遣隊が少ない人数で交代しながら見張りをしてくれていると言っても、ギルド組も騎士組も誰一人安心して眠っている者など居ないだろう。
特に日頃ボッチ……いや、ソロで活動している事が多いギルド組(ただし、後衛は除く)は浅い眠りで神経を磨り減らしているだろう……それがホンの少しづつだとしても、蓄積されたストレスで俺たちも何かしらの不調が出てくるかもしれない。
特にボッチ……いや、もういいや。ボッチ専門は団体行動が苦手でボッチなんだ。だから団体だからこそのストレスも溜まるだろう…
むしろそっちのストレスの方が多い気がする。
俺が何を言いたいかと言うと、ピリピリした環境下で長いこと居るとどんなに強いヤツでも危ないなって事さ。
特に、その……負けず嫌いで我慢するタイプが多い気がするんだこのメンバー。そして何より早く終わらせて帰りたい…。俺の切実な意見だ。正直言って殿下には悪いが、レンが来なかったら俺は頼まれても来なかったと思う。
だって殿下の行動は無謀すぎた。俺が無謀って言うくらいには無謀だと思う。自分で言うのもなんどけど。
「(あぁ…早く日常に戻りたい)」
よく若い奴らが「ワクワクする冒険に出たい!」と言っているが、精神が枯れてきた俺から言わせれば「平凡な日常こそ幸せ」だといいたい。きっとワクワクする冒険を欲しがる若者も数年経つか危険な目に会えばわかってくると思う。
特に、回りで色んな事が起こる身としては切実に平凡な日常が欲しい。
「考え事してるなら寝袋に入ってからにしたら?」
「あ、うん。そうだなぁ」
おっと、考え事してたらテントから顔を出して注意された。少し寒い外の空気で冷えた指先を暖めるために手を摩る。そう言えば息も白くなっていた。もうすっかり夜も更けているので寒いのは当たり前か……まだ春には程遠い。
「ほら言わんこっちゃない…手が冷たすぎる」
魔物の革で作られた丈夫で防水性のあるテントに入ると外から見るよりも広めの中で厚手の敷物(これも魔物の革製)に座るレンに手を両手で包まれる……暖かい……
「寒さに強いからって油断してると風邪引くよ」
「バカは風邪引かないから平気」
「はぁ…バカは風邪引くよ。引いてると自覚しないだけ」
「そんなもん?」
「そ。で、高熱でてから自覚してぶっ倒れる……私みたいに」
「よく前世は一年に一回は倒れてたよな」
少し睨まれたが、怖くなかった。少しイジケた様な表情が可愛くて昔のベルと被る……
いや、本当はもう余り前世を懐かしむことが無くなってきたのだホントのところ。
それに対して若干の罪悪感があるのだが、それを口には出さない。多分それはレンも同じだと思うから。特に目の前でシュウの……いや、やめよう。
そのあとも少しからかったところ、寝袋を思いっきり顔面に喰らい……レンはヘソを曲げたのかさっさと寝袋に入りふて寝してしまった……からかいすぎた。
て多分……レンも今余裕が無いんだと思う。病み上がりでここまで強行軍で来たのだし、殿下からの直々の依頼もこなしてきたのだろう……疲れが溜まっていても可笑しくない。
それでなくても日頃から王族達のレンに対する扱いは酷いのだから。何でも頼って来て、何も出来るわじゃ無いのにな。
俺がもっと頼り甲斐のある人物なら良かったのに……と何度思ったことか。
まあ、こんな時こそ俺はいつも通りでいればいいんだ……と思う。勿論支えられるときは支えるし、頼られたい。けれども余り過剰にするとレンは距離を置く。
うーん、俺もレンも難儀な性格してるよなぁ…とつくづく思った。
さて、顔面に喰らった寝袋に入って明日の為にも寝るとしよう。
そして夜は更けていく……




