夢操るは悪魔か人か
今回の騒動の種明かし。
店のカウンターに寄り掛かり紫煙を吐く。この頃はやけに何かがざわめく……厨二病とは言われたくないので誰にも言わないけどね。
(だんだん精神安定剤が手放せなくなってきてるなぁ……)
ま、どうせ力の使い過ぎだろう。休めば落ち着く……休みがあればの話だが。
「フゥ~……あ、輪っかできた♪」
紫煙で遊びながら物思いにふける。どうせ今は暇な時間帯だ、来るとしても依頼人くらいだろう……たまに主婦が慌てて食料や調味料何かを買いに来るけど、昨日買い忘れて急いで買いにきたり……それくらいしかこない時間だ。
もう少し早ければ朝御飯を貰いに独り身の働き手や料理する暇がない共働きの夫婦何かが来る。後、下町に下宿している学生とか。
朝、昼、晩、予め予約していれば食事をテイクアウト出来るのだ我が店は。貧乏暇なし、下町に暇人は私くらいだ。言ってて悲しくなる。
さて、今日は何をしようかな……折り紙でも折ろうか?
折り紙をカウンターの引き出しから取り出した時、カランカラン……と来客を告げる鐘が鳴った。ドアベルに使っているのはミスリル銀を使った特注品。そんじょそこらのゴロツキ共には壊せない代物だ。前は普通のドアベルだったんだけど……乱暴に開ける輩がいてね……壊されたからソイツを締め上げてぶん取った修理費でミスリル製に変えたのだ。
さて、そんな与太話は置いといて……誰が来たのかな?
「こんにちわ。」
「こんにちは、大旦那。それと……」
来たのは先日依頼に来た女タラシの父親。卸問屋の大旦那と女タラシの元彼女の女性。
「苦情ならお断りだよ。分かってんだろ?」
「いいえ……もとより、苦情など言いにきたのでは有りません。御礼を言いにきたのです。」
「これで漸く一歩を踏み出せます。」
私のしたことは恨まれる事はあったても感謝されるようなことは無い。何をいっているのだか……
「漸くあの子もマトモに成ります。女遊びは止めて今必死に仕事に励んでいます。」
「私にも平謝りして……寄りを戻す気など無いのに。溜飲が下がりました。」
二人はしきりに頭を下げて帰っていった……。
今回のネタばらしをすると、奴……女タラシの佳辰にお灸を据えてほしいと依頼が家族と恋人の彼女から出されたのだ。そう、今回の騒動は夢の出来事……
ん?何処からが夢かって?
ふふふ……何処からかな?
さて、ここで私の特殊能力を説明しよう。特殊能力は先祖から受け継ぐタイプと突発的に発現するタイプがある。
例えば、遺伝タイプは狐妖怪なら燃やす対象を指定して防御にも使える狐火、窮奇なら嘘と真を見極める能力、白龍なら天候を操る力と飛行能力と驚異的な再生力、など。挙げればきりがない。
そんな特殊能は色々な血が混ざっている(九尾+窮奇+白龍の私など。)と引き継ぐ能力の種類が豊富だ。上手く引き継げば突発的に発現した能力も引き継げるからだ。そして純粋に近ければ近いほど能力も強い。私のように純粋な妖怪で三つの種の血が混ざっているほど受け継ぐ能力と突発的に発現する能力が必然的に多くなるのだ。反対に嫁さんの様にハーフやクォーターなどは少ない傾向にある。しかし、嫁さんの場合受け継いだ血が強いので能力的には強い。
今回説明したいのは私の能力でも特殊な能力『夢紡ぎ』の事だ。
読んで字のごとく、夢を紡いで他人に見せる事が出来る取扱注意なチート能力だ。
色々と制約が有るものの、夢を操れば無敵状態になる恐ろしい能力だ。昔、藍苺の夢に入ったことがあった。それはこの力の片鱗だったのだと今更ながら気づいた。
ま、精神的に追い詰めて敵を抹殺……なんてことも出来たり……自分の能力ながら恐ろしい。
今回はその『夢紡ぎ』ともうひとつ『夢航り』を使ったのだけと……ま、奴も懲りたことだろう。私が紡いだ夢は奴の最も見たくない未来を真相心理から取り出して紡いだ夢だ。何処からが夢かって?
仕方ないな……じゃぁ種明かしね。
奴が依頼に来る前、とある依頼人が来たんだよ。それが奴の両親でね。奴の女癖の悪さに嫌気がさしたけどどうやっても治らない……何か良い手は無いかと店に来たんだよ。
依頼された当初は「薬師だけど馬鹿を治す薬なんて無いって……」と思ったけど、悪夢を紡いで見せれば……なんて思い付いてさ。
勿論、奴の両親には危険性を説いたよ。けど、両親も堪忍袋の緒はとっくに切れてた。テコでも動かないって居座る覚悟だったのだ。
私の方が折れたよ。まぁ、私も奴のウザさに辟易していたからね……。
奴の両親が許嫁を連れてきたってのは夢の出来事。そして浮気も、恋人にフラれるのも。奴の両親に畑の事をでっち上げてもらい奴に依頼をさせた。
だって可笑しいと思うだろ? 普通に畑に捨てた簪があるわけ無い。まぁ、奴は浮気相手の怨念云々が不可思議な現象を起こしたと思ってたようだけど。人って寝不足だと判断能力が鈍るでしょ?
………昨夜の出来事は全くの嘘って訳でもないんだけど……ね。簪は本当に遺留品だし?嫁さんに種明かししたときは「先に言え!」って言われたけどね。何処から漏れるか分からないから黙ってるしか無いんだよ……。
いやぁ~、手首が奴の肩に掴まったときはどうしようかと思ったけど……ま、結果オーライでしょ。
ま、奴の件は夢落ち。元から女癖が悪くても家族がフォローしていたお陰で悪い噂がなかっただけっていう……奴が調子に乗って家族を更に幻滅させたのが今回の依頼の発端だったのだ。改心したのか今は一生懸命働いているとか……これがいつまで続けられるのか……酒場辺りでは賭けの対象にでもなってることだろう。
ま、一件落着。ってことにしておこう。
シャラリ……
「怨念か……」
愛した相手を殺したいほど恨むってのは……それはさぞかし……心が痛いだろう。
「アンタもそんな相手なんかさっさと忘れて……成仏したら?
………シャラリ……
カウンターに置いた簪はひとりでにシャラリ、シャラリと綺麗な音を奏でている。今は手首しか無いが生前は自慢の朱色の髪に指していたらしい。
「成仏しない?」
どうやら彼女はその気は無いらしい。
爪が接がれかかった手が私が肘をつく横で鎮座していた……。
やれやれ……まだまだ仕事は終わりそうにない。
この店が幽霊屋敷になる前に片付けないと。