狐は影で笑う
後2話ほど連日投稿予定
紅蓮の分身の視点です。彼らと本体である紅蓮はテレパスか何かで離れていても会話できます。よくある設定。
さて、影に忍んだ私、紅蓮の分身体の壱だ。ひさしぶりだな。
私達には決まった一人称等無いので所々「俺」と言ったり「私」と言ったりするが…なに、気にするな。我らに個など存在するのかも怪しいのだから。
(説明は終わった?)
『(あぁ、言い訳はな)』
(そう。で、殿下の様子はどうだった?)
『(あぁ……あのタヌキオヤジの中身のない話を溜め息を付き添うになりながら聞いていた)』
ポーカーフェイスで表情には出ていなかったが、あれは相当にキテいただろう。時折笑みが引き攣っていた。
私が今いるのは先にも話した通り王太子殿下の影の中だ。どうも本体の能力は分身である我らにもトレースされるらしい。元々は本体に仕える眷属の能力らしい……それだけ眷属が増えれば能力も増えるのか?
まぁ、本体は余り増やしすぎるのは気が進まないそうだ。私もだ。騒がしいのは好きではない。
(そのままお前は殿下の護衛を)
『(了解)』
さて、暇な任務だが気を引き締めて当たろう。
この任務よりも暇な店番の方が私には合っているのだが……まぁ、選り好みはしない。
さぁ、あのタヌキが何かを仕掛けてこないように、いや、仕掛けてきても殿下を守れるように見張りを続けようか。
*******
俺は紅蓮の分身体の一人、弐。今の俺は本体である紅蓮の身代わりだ。戦闘能力が平均的な俺は――とはいえ、他の分身を含めてチートだと言われているが――戦いに出ることはあまりない。基本は店番をしている。よく他の分身と間違えられている。ま、店番をしている=俺なんて公式ができてるせいだな。だから他の奴が店番してると俺だと思われてるんだ。見た目同じだし…
そんな俺は本体の仕事の都合で入れ替わっている。ま、藍苺様は気が付いてるみたいだけど……なにか言いたそうにこちらを見ている。
が、相手方に気付かれたくないので無視します。
ごめんね藍苺様。後で本体に愚痴っといてね?
あ、何?猪突猛進姐さん……え?肉食いたい?
う~ん……仕方ないなぁ、そんなに肉食いたいなら魔物でも狩ってきてよその辺で……
ふぅ……たまには戦闘で憂さ晴らししたいな
******
どうも。え?誰かって?
参だよ。参!
サンちゃんでも良いよ~……と、真面目に行こうか。
どうも、まだ個性が定まらない分身体の参でーす。以後お見知りおきを……
ま、今後出るかも不安だけど。
はい、そんなわたしは今、何処に居るでしょーか?
答えは……大きな木の上でした♪
あぁ…面白くなかった?それはごめんね。こっちも面白いことなんて何もないからね~。
本体の命令だから聞くけど、これが只の上司とかだったら命令無視する内容だよ。え?命令って何だって?
この辺で一番高い木の上から辺りを見張ること……なんだよね……暇だよ暇!
寄りにもよってわたしがこの命令を受けるとか……弐辺りにやらせればいいのに……あぁでも料理とかは面倒だよなぁ…性格的に本体と弐は似てるし、案外素でもバレないっしょ♪
ん?素って分身体何だから本体に似るのは当たり前?
まあ…確かにそうなんだけど……どういう訳かわたし達は個性があるんだよね……いや、自我とも言うのかな?
わたしは定まってないんだけどね……
本体の話ではこうやって姿をとって長いこと居ると自我が目覚めるんじゃないかって言ってたね。本当のところは分からないみたい。わたし等も分からんし。真相は不明。
ま、自我が生まれちゃったんだからと本体は寛容に認めてくれてるけど……そこは本体で良かったよホントに。否定されたら後は消されるだけなんだし……
ま、頼まれたなら仕事しないとね。
あのお優しい本体はわたし等を消すなんてしないけどさ……恩返しも兼ねて……ね。
あ、遠くで猪突猛進姐さんと突っ掛かり男が魔物倒してる……やるじゃん♪
******
早く走ることは苦でもない。それが真っ暗な月も出ない新月の夜でも……
どうも、夜の森を縫うように駆け抜ける白九尾の紅蓮でございます。氏は燈を賜っている子爵です。
この度視察に来た白杉の村り領地に持つタヌキ伯爵(氏が狸でお腹のポンポコリン……具合から命名)の腹を探れと命じられたので単身、伯爵の館へ爆走しております。
走る姿は白い狐……もとい、白い九尾狐なので夜でもその白い毛皮は目立ちます……が、新月が幸いしてそれほど目立っていません。
勿論尻尾は一本にしていますので只の大きな白い狐……妖気を察して動物は寄ってきませんが猟師に見付かれば酷く追いかけ回されること必至……
あ、ちゃんと館近くに着いたらカモフラージュしますからね?
このまま潜入しませんよ?
でも狐が潜入ミッション……ちょっと見てみたい気もする。
おっと、話していたら着いたようです。
豪華な佇まいのお屋敷ですね~。門や壁も修繕したばかりの様で、とても困窮している白杉の村の領主には見えませんねぇ……
ま、領主が目に見えて困窮していたら威厳も何も無い。そんなことはあってはならないのだけど…
さて、狐から人に変化して一先ず侵入できそうな場所を探そう。
大体こう言う館ってのは一階の窓が開いてたりするんだけど……あ、開いてた……
どうなってるのこの館。仮にも貴族の館なんだから防犯はきっちりしてなさいよね!
侵入する私が言えた義理じゃないけど
(クラウドさん出番だよ)
《やっとですか!お任せください……サーチ開始――――周囲に生体反応なし。厨房と見られる場所とその近くに集団で生体反応あり。その他の一階に生体反応なし。二階に多数生体反応あり、二人程眠っていますが三人程起きているようです。》
ありがとうと伝えて開いていた窓から侵入。ホント、クラウドさんが居ると潜入がはかどるよ。みんなは真似しちゃダメだぞ!犯罪だから……
わたしの場合は一応許可されている。バレなきゃ良いのだ要は。
何度も言うがみんなは真似しちゃダメだ。大事なことだからもう一回言うぞ…不法侵入ダメ絶対!
《ナビゲーションを続けます……マップの作成中……完了……左上に表示します》
(ありがとう。―――うん、下にいるのは使用人かな?)
《多分……二階の起きている三人は固まって動いてませんね……トランプでもしているのでしょうか?》
あぁ、母さんが流行らせた……トランプね。そう言えば「トランプを流行らせたら儲かっちゃった♪」って言って結構な額をポイッと学校関連に出してくれたね……大半を大学院の方に取られたけど……彼処の理事長金の亡者だから金の臭いに釣られてきたんだよね……関係ないのに……学校関連なら内が一番せいとすうが多いだなんだ…あらゆる理由をつけてお金巻き上げていったし……
ま、母さんも「苦労して稼いだ金じゃないからあのジジイが持っていったところで直ぐに足がはえてどっかに行くわよ」なんて言ってたけど…
その一週間後に下着一枚で泥酔している理事長が花街で目撃されたらしいけど……真相は知らん。
盛大に嫌味は言ったけどな。
“最近の教育と言うものは花街でするものなのですか?”ってね。
大学院で真面目に学んでいる人には悪いけど、大多数が貴族のボンボンだから……結構いい加減な大学院なんだよね彼処。一応貴族は行かないといけないから私も通ったけど……無理してさっさと卒業しました。私には合わないわあの環境。
っと、話が逸れた。
開いていた窓から侵入すると物置なのか多少埃が被っている調度品が目に入る……ゲストルームなのかな?この部屋。
それにしても質素……もしかしたら使わない物から――この屋敷の主の交流関係が乏しいのか――使わないゲストルームやらから諸々売り飛ばして金を工面していたのかも……最大の稼ぎは白杉だったのだから金に困るのは当たり前かな?
《警告!――二階で起きている三人がバラバラに動き出しました!》
警備も何も無い一階から早々に二階に行こうと思っているとクラウドさんから警告が。
このまま二階に言っても良いのだが……潜入に油断も焦りも禁物なのでこのまま一階を探索することにした。
あまり時間を掛けてもいられないので怪しい場所をササッと調べて行こう
《出てきますね……》
(うん。)
《こんな場所に無造作に放置しますか?普通》
(普通はしないね)
《つまり、ここのタヌキさんは普通ではないと?》
(そうなんじゃない)
投げやりな言葉しか出ませんな。
あれから10分程度一階を探索した結果、色んな証拠があれよあれよと出てきました。物によっては爵位剥奪レベルのモノまで……無造作にテーブルに放置って使用人達も気付いてて放置してたんじゃないの?嫌われてるのかも……
私が言うのもなんだが、使用人に嫌われたり恨まれると大変だよ。身の回りの世話をしているんだから……結託でもされてたら目も当てられない。身近な人たちほど信用できない何て……
まぁ、虐げられ続ければ反逆心も折れてしまうのかもしれないけど。
さて、色々と危ない証拠――ここのタヌキが悪事に手を染めていると判別できるモノだけ――を入手。次は二階……一階は皆寝ていたので簡単だったが、二階はそうもいかないか……
そう言えば、白の国では主流になってきた西洋風の建築だが、地方の領主の館は未だに日本風――それも平安やら江戸時代やらごちゃ混ぜな――の物が多いのだが……ここは珍しく西洋風のお屋敷だな。
館を囲む塀は何処もあるだろうが、二階のある屋敷は主に王都によく見られる。それに建てられた年代も古めだ。西洋被れだったのだろうか?先代当主あたりは……ま、いいか。
《未だに二階の三人は動き回っています》
(わかった。引き続き索敵よろしくね)
《了解しました》
うーん……幸先悪いなぁ……手元にあるだけの証拠でもいいんだけど……本当に殿下が見つけたいものはまだ見つかってないんだよなぁ……これがあれば白杉問題も解決に近付けるのに…
ま、考えていても仕方がない。時には大胆にすることも必要――かな?
そして私は……
(警備何てなかった)
《酔っ払いでは警備も何もありませんよね…》
ここの警備に不安しか持てない私であった。
(酔っ払いが見回りしても某ステルスゲーの無能兵並みの視力…)
《白神さんがやってたゲームですね!》
はい。真面目な見張りが居なくて私は仕事が楽で良いけどね。拍子抜けしたけど。
この楽さで後でどんでん返しがあるフラグなんじゃと勘繰って……
(みたけど何もなかった)
《最大の難関が鍵あけでしたもんね》
難関と言っても6秒も掛からず解錠出来ちゃうレベルだったけどね。某ドヴ〇キンが主人公のゲーム風に言えば鍵のレベルは“素人”だったよ。
ホントにこの館ェ……
侵入した私の方が心配になるレベルとはこの事だ。
そんなこんなで楽に証拠を手に入れた私は早々に村に戻ることができたのであった。




