立場が違えば考えも違う
歓迎してくれるのは嬉しい……嬉しいよ…それはね。
でもね……偉そうにふんぞり返って殿下に「我が領地で取れた――云々」と自慢話ばかり……「赤のラグ〇ル」みたいにその顔を永遠におさらばさせてやろうか?
先ずは殿下に旅の労いを述べてから名乗り、状況説明をして殿下が疲れを見せたら休むかと伺う……殿下自分から休む何て言わないから。
まあついて早々休む程疲れてないし、そこまで職務怠慢ではないからね。
で、だよ。
仮にも領地を拝命している貴族の身なら――多少の見栄も必要だってことは理解してるが――自分の領地=財産+守るのは義務くらいには思っててほしい……
ま、生粋の貴族ではない私からしたら高貴なる義務とかまだ理解できないけどね。慈善事業だけじゃないから。
「狸伯爵……貴殿が解る範囲の報告を…」
「おお、コレは失敬……まぁ……見ての通りですな。お恥ずかしいながら、この村の者達は…林業以外に取り柄がないのですよ。何か違う事業でも手を出しておけばよかったのですがねぇ」
「…………」
そしてこのやる気のなさと民に対しての無責任。この事態は村の者達が引き起こし事。自分は知らなかったと宣う始末。監督不届きが確定した。
そして殿下の質問にも気のない返事……もしかして殿下って木偶の坊だと思われてる?
「失礼、狸伯爵……殿下は貴殿が調べているであろう調査結果をおき気になっているのです。ざっとここにいる兵は50――調査は終えているのでしょ?勿論……」
「あ……そうですなぁ……責任者にでもお聞きください」
その責任者がお前なんだよ馬鹿者が。
やる気のない領主に代わって頑張って調査していたのは先遣隊の隊長で見るからにげっそりとやつれていた。そして隊長がこの惨状なのだから兵士達の状態も劣悪だった。まるでゾンビ…
コレは急いで炊き出しをしないと……みんな病人一歩手前だよ。そのお陰か村人達はそこまで酷くなさそう……でもね、守る側の兵士が戦えない状態になるのは違うと思うな……いや、彼らの行動を非難するわけじゃないよ。
ただね、もしもの時は本末転倒だなって思ったのよ。
ま、私財はたいてでも援助しなければいけない領主が何もしなかったのが駄目だっただけ。落ち度は隊長達にはなかったさ……なかったと思いたいね。個人的な事だけど。
「紅蓮」
「はい」
「ギルドの者達と村人や先遣隊達に何か食べ物を」
「分かりました。では早速取り掛かります」
「うん、騎士達は白騎士を残して周囲の確認を」
「はっ」
そして早々に殿下の側を離れた……分身を殿下の影に忍ばせて……
そして早速取り掛かります炊き出し。
実はその為に連れてこられたと言っても過言ではなかったりする。殿下の秘書なら白騎士の幼馴染みの彼でも出来るだろうし。
料理面で手際よく出来る人材兼護衛も出来て色んな局面にも対応できるギルド所属……と言ったら私しかいなかった……ギルドでも料理面を伸ばす試みでもしてみようか?
「大根はこのくらいで良いのか?」
大きさがバラバラの斬られた大根を見せながら聞いてきた料理できない女性その1は料理の腕も前衛的だった。出来ないなら無理してやろうとしないでね?こっちが大変だから……
「それは乱切りに――って言ったけどもう少し大きさは揃えて」
ちょっと現実逃避していた私の代わりに藍苺が答える。ごめん、余りに初歩的な事に唖然としてたよ。
「揃えなくても食べれば同じだろ…」
「その腹にはいればみんな同じって考えから離れような?」
「…………」
このまま彼女を台所に置いておいて良いのだろうかと頭を抱えたくなった。
「その理屈だと料理自体否定してるからね。食材の大きさを揃えるのは……」
「見映えの問題だろ?」
「いいえ。それもありますがそれだけではないです。均等に火が通りますし、味も均等に付きます……配る場合もある程度公平に配ることが出来るのでなるべく均等にしてるんですよ」
「ふーん……」
聞いてないなこれは。
他にも理由は色々ある。具によっては煮崩れして跡形もなくなってしまったり……食べやすい大きさとかもある。
ま、料理の具の大きさは人それぞれだろうけど、ある程度揃えるのって私の中では普通だから……この世界ではそうでもないのかな?
「げ、ちょっと……もう少し大きさ揃えようよ姐さん…」
「男が細かいこと気にすんなよ!」
「私も男なんですが」
「うん、そうなんだよなぁ」
何が言いたいのかな?藍苺さん?
「あの……ネギを切り終わったのですが…」
「あ、どうも。じゃ、皆さん鍋の用意を……飲み水を汲んできてくれますか?」
「あ、うん。その方が良いよね~」
「あぁ、その方があたしらしいよ」
その他の皆さんも水を汲みに行きましたとさ。藍苺は残ったけど。
「次は肉だよな?豚?鳥?」
「豚にしようか」
持ってきた食料は氷付けにされているので豚肉を解凍……してる暇はないので水っぽくなるとは知りながら鍋に入れてしまおうとか思っている。村の人たちと先遣隊の皆さん勘弁してね?
「それにしてもギルド連中料理全滅とは……俺の弁当羨ましそうに見てたのって――」
「そうだったの?初耳だけど」
あれ?羨ましそうにしてたの?
「いつも愛妻?弁当持ってきてたの俺だけだし♪」
ふんぞり返ってる藍苺は放っておいて、高野豆腐を斜めに薄く乱切りにした。保存が効く物しか持ってこれなかった。この他に持ってこれたのはジャガイモと玉葱とニンジン……肉は3日分食い繋げる分は氷付けにして目一杯持ってきては来た。
後は……補給部隊と現地調達でどうにかするしか……
後からのんびり来るであろう(大荷物だから遅いのは仕方ない)補給部隊は小麦粉も積んでいたと思うが、私達はかさ張るので持ってこれなかった……と、言うより、地元貴族から強奪……もとい、集めれば小麦粉位賄えると城のジジイどもが宣うので確保できなかった。
大豆も同じ理由で断念……野菜よりも腹が膨れるし、かさばりもしないと思うのだが……あの連中の考えは多分一生わからないのだろう。
因みに、高野豆腐は我が生家、珀家で大々的に売り出してます。これだけは自費で持ってきました。売り込むチャンスですし……
皆さんが見たことがある乾燥した状態にしているのでここの保存設備が乏しい村でも多分長持ちすると思います。寒いなら尚更に。
「自費って言ってもポチ達に運んで貰ってんなら自費0じゃん」
「ポチ達のおやつ分は自費って事で」
「……(おやつって言ってもそもそも高くないだろ)」
言いたいことは分かるよ藍苺。でもな、こうでも言わないとあのジジイどもが煩いんだもん。
簡単な料理も作り終わり、村+先遣隊の皆さんに配り終え一息……つく間も無く殿下に呼ばれてじゃじゃじゃじゃーん。
「何でしょうか殿下」
「……あの狸伯爵…」
「……殿下、リ伯爵ですよ」
「わざとだ」
「左様ですか」
「腹の辺りがシガラキとか言う置物のタヌキにそっくりだぞ……ではなくてだな…」
殿下の周りには今は誰も居ない。部屋から出て辺りの警備と休憩をしているそうな……
「少し油断のしすぎでは?」
「お前が無策などあり得ないだろう?」
「――買い被りすぎです…が、殿下の影に忍ばせては居ますよ……狐を」
「フ……頼もしいな。それでだ、あのタヌキの腹を探れ」
「御意」
ま、頼まれたなら仕方ないよね~
じゃまぁ……一仕事しますかね!




