体が頑丈だと酷使されるから本当は嬉しくなかったりする
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一段落?いやいや、まだ問題は山積みさ
やあ、こんにちは。キノコだらけのお屋敷を全焼させた九尾狐の紅蓮だよ。とは言え腐りかけのお屋敷のキノコだけを焼いただけだから本当は全焼じゃなくて全壊扱いだけどね。
あれから嫁さん見つけて何かキレて気がついたら嫁さんに泣きながら抱き締められていた。ビックリだよ、それと肋がガガガガ……折れてないけど。
その後の後始末は父さんがやってくれたらしい。ゴメンね忙しのに。
そして嫁さんに呼ばれて飛んできた――疲れる長距離の転送陣無しのテレポートで来た母さんの手厚い処置のお陰で一日もせずに回復した。
嫁さん――藍苺に怪我はなく、常にハンカチを口に当てていたのが幸いしてか胞子もそれほど吸い込んでいなかったらしい。気絶していたことも幸いだった。
そんなわけで助けに入った私の方が重症だったのか癪だけど無事でよかった。
事の真相は父さんが明かしてくれた。
どうも昔からキナ臭かったあの屋敷の住人たちは気に入った人々を連れ去っては地下室に閉じ込め口では言えない事を何年も昔からしてきた一族らしい。胸くそ悪いよ、全く。
爵位は伯爵。約500年程前に爵位を賜り貴族になった一族らしく、当時から何やら悪どいことをしてきたようだ。王族が管理する書類にばっちし記載されていた。ならなんで早く手を打たなかったのか。
金に物言わせやりたい放題の振る舞いは当時から問題になっていて爵位の降格と昇格を繰り返し、今回をもってその血筋は断絶した。何年かの周期で真面目な当主も居たのでお家取り潰しは避けられていた……彼らも浮かばれないだろう。
ま、彼らも自分の先祖がしてきたことを隠すのだけには躍起になってたらしいけどさ。隠すより爵位返上して穏やかに暮らせば良かったのかもしれない。彼らの貴族としてのプライドはそれを許さなかったのだろう。
方向感覚が麻痺していたのかあの血の海……あぁ思い出したくもないあの部屋が地下室だと私は言われるまで気が付かなかった。そうか、地下室……
そう、地下室が500年も前から惨劇が行われた場所だったのだ。さぞや怨念が染み付いていたことだろう。私が見た光景は彼らが見せた何年たっても消えない本来の姿を見せたのだろうか?
そしてあのキノコの正体は……白神が言った通り茸入道という妖怪だった。
茸入道とは、無惨に打ち捨てられた無念が宿る亡骸に生えた茸がその怨念と無念を吸い取り成長して誕生する妖怪。その怨みは執念深く一度根が張ると容易には滅することも出来ない。
葬る方法はただひとつ。その怨みの根源を呪い殺し彼らの気が済むまで呪いを放っておくか、怨みの根源の子孫が自らの祖先(または怨まれている本人)が自分の罪を認めて心から反省して(謝罪して)会心すること。本当に心を入れ換えないと逆効果。ま、当たり前か。
今回の件はその怨みの根源である伯爵家の血筋は断絶したので昇天するだけであったらしい。
そこに運悪く嫁さんと私が入ってしまったと……ナンテコッタ、ただのとばっちりかよ。
茸入道は怨みの対象以外には無害だが、今回は間が悪かったらしい。多分復讐が済んでも心が晴れなかったから彼らも混乱していた……とは母さんと父さんの見解。
でも、違うと私は思う。
多分彼ら茸入道達は自分達の怨みも憎しみも何もかも消してほしかったんだと思う。怨みを果たしても消えなかったんだよ。
だから、あ、ここからは私の勝手な推測ね。
だから彼らは何らかの方法でギルドに依頼して強い人に自分達を葬ってもらおうと思った。
でも、嫁さんは大多数相手には滅法弱い(後特殊な魔物は無理みたい)ので気絶しても手は出さなかった。気絶している時点で止め刺すでしょ普通。
そして私が来たと……嫁さんの話では骨は見たけどキノコはそこまで生えていなかったらしい。
もしかするとあの大量の部屋を埋め尽くさんばかりのキノコ達は皆犠牲者達の姿だったのかもしれない。500年も前から繰り返されている惨劇の被害者がどれ程かは検討はつかないが、あれだけの数居てもおかしくないだろう。
そしてあの血の海の部屋。
あそこが殺害現場らしい。
不思議なことに血がおびただしい量あった形跡はなく、私と嫁さんの証言は胞子を吸い込んだことで見た幻覚だと断定された。そうかもしれない。
けれど、あそこで見た光景と靴から伝わった柔らかいナニかの破片を踏む感触は……とてもじゃないけど幻とは思えなかった。
多分あの光景は彼らが見せた……うん、彼らの辛い苦しい過去ではないだろうか。
その部屋からはおびただしい数の年齢も性別もバラバラの人骨が見つかり世間を驚かせた。
父さんの指揮のもと全て掘り返され供養して墓地に埋められることになった。
悲惨な事件に巻き込まれた犠牲者の追悼と少しでも苦しみが癒えるようにと白の王が慰霊碑を建てるらしい。それだけで彼らの苦しむ魂が癒えるかは―――私には軽く言えない。
見つかった頭蓋骨の数、3756人……白の国始まって以来の大惨事であった。この事件の発覚で白の王族に対する批難は避けられないだろう。これを皮切りに反王政派が活気づくだろうが……さて、そこは王の腕の見せ処だね。
犠牲者の中には全ての骨が見つからないものもいた。最低でも500年経過しているので風化してしまった者も居るだろうが比較的新しい者も手足の骨が見つからないものも数多くいた。
この遺体確認をしたのは王宮魔術師の一団で吐き気を堪えながらしていたとか。ご愁傷さまです。彼らは嫌いだが、今回の件は同情したくなる。
魔術で個人別に整えられた遺体は骨壷に一人一人別々に入れられ僧侶達によって供養され今はこの国最大の地下墓地に安置されて慰霊碑の完成を待っている。
ここでもうひとつ私の勝手な推測。
最後に私に何か語りかけてきた……と思う声は私に狐火で燃やしてほしかったのかもしれない。だが、狐火で燃やそうとしたのはキノコと胞子だけだったので――別に私は何の指定もしなかったのだけど――屋敷はキノコという支えを失って倒壊しただけだし、遺体(骨)も燃えることはなかった(土のしたにあったのでどちらにしても燃えないと思う)。
そして母さんは小声で「コウちゃんの狐火は魂も浄化するのね…」と呟いていたことから犠牲者は私の狐火に燃やされ浄化されることを望んだのかもしれない。ま、彼らがどうして私の能力を知っていたかは分からないから本当にこれは私の勝手な推測。
そして私は回復してから次の日……夢を見た。
大勢の大人や子供……男女関係なく大勢の人々に囲まれて揉みくちゃになりながらお礼を言われる夢だ。あれは夢だけど疲れた……
唯一の救いは皆五体満足で笑顔だったこと。私の勝手想像かもしれない。けれど、狐火で浄化されたのなら……彼らの魂が少しでも浮かばれたのならそれで……いいのかなぁ。
ま、どれもこれも私の勝手な考えだけどさ。
そして夢から覚めるとサイドテーブルには見慣れない小太刀があったけど……まぁ……
“浮かばれたのだからそれでいい。ありがとう”
うん。そうだ。そうだね。
サヨナラ、九尾狐のご先祖様。
ま、さてと、気を引き閉めて旅の支度をしないとね!
と、思った矢先……
「ダメだレン!寝てないと…」
「いや、寝てる方が体調崩すから……ほら、もう元気だし?」
少しジャンプすると慌てて止めに入る嫁さん。まだ私が寝てないとダメだと思っているらしい。頑丈さは誰にも負けないよ?悔しいけど
「まだ寝てろ!」
「いや、旅の支度を…」
「まさか行く気かっ!?ダメだ病み上がり何だぞ…!」
「元気だから王もそれは許さないと思うけど」
「そんなわからず屋の王なんかクソ食らえ…」
「不敬罪だよ」
「俺はレンを酷使するくらいなら不敬罪でも何でも構わない!」
「はいはい、落ち着いて~」
いきり立つ嫁さんを落ち着かせ旅支度を始める。嫁さんもオドオドして止めるも私に説得されてやむなく諦めたみたい。
全く、心配性なんだから
「そもそも王も王太子もお前を酷使し過ぎだ……レンだって休まないとダメだと知ってるくせに……」
「まぁ、彼らを擁護する気は無いけど、彼らも彼らで大変なんだよ。使えるものは使わないとやってらんないんだよ、きっと」
「それにしたって……あ、いや…俺も人の事言えないか」
「?」
悄気て顔が下を向いている。どうせ自分が深追いしたことに対して罪悪感とかそんなものを考えてるのだろう。
「あそこで俺が深追いしなければ……ごめん…」
「深追いしてなくても行ったかも知れないからなぁ今回の件。ま、今後は深追いしないでね?」
「うん…」
「……(これは完全に罪悪感にどっぷり浸かってる)」
こうなったら何を言っても聞き入れないな。私がもう済んだと言っても聞いちゃくれない。
「………ま、済んだことをくよくよしてても良いけど、依頼の事はちゃんとして。また後悔しないように」
「うん。分かってる。けど、もしも…って思ってさ、キリがなくて」
「もしもなんてもしもなんだから考えても仕方ないよ。過去は過去。それを教訓にするかは本人次第。私なら過去ばかり見てないで前を見て今度は間違えないようにするよ……ま、失敗することもあるけどさ」
だから早く立ち直ってね藍苺。
全快してから王や王太子から心配する手紙を貰った。どちらの手紙の最後には「返事不要」と書いてある辺り親子だと再認識した。顔は似てるけど性格は王太子の方がおっとりしてるからなぁ。
母さん曰く、王よりも王太子の方が確りしているらしい。昔は王もやんちゃだったのだろうか?
「服だろ……下着だろう……おやつに夜食に……予備の防具と武器…」
「傭兵なら武器と防具類は最初に確認しなよ」
「あ、道具入れてなかった!?」
「……君は本当にギルド幹部なの?」
「う、うるへ~……」
「口にもの入れて喋らない。はしたないから」
「う~……モグモグ」
「(食べる方を選んだか)」
嫁さんの抜けっプリに若干(大いに)不安があるが、これでも凄腕。一人で強力な魔物を仕留めているのだから実力はある。が、どうも抜けてて……強そうには見えない。
「モグモグ……貴族として行くんだろ?」
「あぁ。殿下の公務の付き添いとしてね。戦闘には加わらないと思うからそのつもりで」
「ギルドの腕の見せ処だ。横から獲物を掻っ攫われるのは癪だし……まぁ、レンなら別に俺は良いけど、他のメンバーはそうは思わないだろうな」
「空気は読めるけど、あえて読まない時あるもんね……彼等」
「誇りはお前の実家が建つ崖よりも高いからな」
「富士山越えてるね~」
「笑い事じゃないけどな」
ギルドメンバーは父さんが胃を痛めながら考えた。ホントに父さんゴメンね。後で母さんに胃薬貰ってくれ。
凄腕で固められた護衛たちギルドメンバー。その他に王太子を護衛するために近衛騎士たちも一人付く。今回の視察は少数精鋭で行くつもりだからだ。公務だけどそこに金をかけるのも如何なものかと王太子が待ったを掛けたのだ。
騎士たちを連れていくだけでもかなりの金が飛ぶ。防具の維持費、武器の調達……食料代。特に体主本の騎士達はよく食べるので食費が掛かる掛かる……それが大勢なら尚の事。
確かに護衛は必要だ。王太子なら尚更命を守らないといけない。が、ろくに戦闘経験もない尻の青い青二才に殿下を守れるかって話になると――
全くと言って良いほど役に立たない。肉壁にそれほど金かけてどうするって話だ。非効率もいいとこ。
それでいてプライド無駄に高いし、貴族の出だから粗食には耐えられない……食料代が嵩む。
良いこと無し。
そこで叩き上げの黒騎士隊からも一人、貴族の出だが何故か体育会系の熱血部隊の赤騎士隊からも一人(滅茶苦茶暑苦しいがいい人)、冷静沈着で冷たい印象があるが身の内に秘める青い炎(これ私じゃなくて王の言葉ね)、もしかすると赤騎士よりも熱い奴らの青騎士隊からも一人(正義感が強いけどちゃんと空気読める人)、近衛騎士と混同されがちな貴族で構成された白騎士隊(清廉潔白がモットーだけど、隊長さんは腹黒い)からも一人。
そして近衛騎士一人と計5人が王宮からの護衛だ。少なすぎるが、各隊の中でも頑丈な人たちを選ばせて貰った。そう、私が選びました。責任重大です。
選んだ基準は何事にも囚われないこと。殿下の護衛として命を賭して……というのは私的にNG。守る対象が増えるだけだもの。
それと、身辺の事も対象にしている。
だって国の顔として視察に行く殿下の手前粗々をしたら国の面目丸潰れ……されは避けたい。行く先々で女性に手を出してました……とか、暴力沙汰起こしました……なんてもっての他。
ま、それは近衛騎士を選んだ基準だけどさ。
叩き上げの黒騎士は心身ともに強固だろうし、赤、青、白の騎士たちも隊長がスパルタだから粗食にもハードな護衛にも耐えるだろう。
問題は……近衛騎士だ。
王宮を守るのが近衛騎士の仕事で、本来なら中身もそれぞ騎士道の鑑!と言える者達を選ぶ筈なんだけど、どうも政治の道具として一時期使われていた名残からか矢鱈貴族のボンボンが在籍してるんだよね……大して剣が上手いでもない、親の七光りそのままの……役に立たない騎士たち。
ま、今回選んだ人物は口は悪い(偉そうって意味で)が、仕事はキッチリ、騎士道精神もちゃんと持ち合わせてる人だからそこら辺は大丈夫だと信じたい。
ギルドメンバーに喧嘩売らないといいんだけど…
私の旅支度は一日も掛からずに終わった。嫁さんのも私が手伝ったことによって終わった。
しかし、殿下達はそうはいかなく、今回のゴタゴタで出発は一週間伸びた。苦しんでいる村人には悪いが、仕事で手が放せないので仕方ない。
先んじて調査隊を派遣するにしても……これまた時間が掛かってしまうので殿下は大人しく仕事を片付けることに専念している。後で滋養があるものを届けよう。
とは言え、届けようにも眷属達は皆ダウン中。夜夢も嫁さんを影に隠した辺りで力尽きた……とは言っても死んでないのであしからず。
特に酷かったのがポチとクラウドの二人。鼻が良いのが悪かったらしい。今では私の影から出て白の箱庭でのんびり休んでいる。クラウドが私の影から出るのは珍しい……余程堪えたらしい。
そして連れていかなかったので無事だった八雲とセバス(あだ名。ポチをポチと呼ぶのと一緒)さんは私の体調に影響されたか少し怠いと言っていたが私が全快すると治ったらしい。
主と眷属でこれ程影響が出たのは初めてだ。
店番は分身体の壱に任せて八雲を連れていくことにした。ぶっちゃけると一週間たっても皆が本調子じゃないので他に選択肢がなかった。セバスさんはいつも通り貴族街の館でお留守番。拗ねてたけど。
そして長いようで短い一週間は過ぎて……いよいよ出発日を迎えた。




