トラウマ
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藍苺(ジン)のトラウマを少し
誰しもトラウマというものは持っていると思う。俺にとっての最大のトラウマは“大切な人を失うこと”だ。
8年前のあの出来事は今でも思い出すと落ち込む。護られてばかりのクセに、護れないとヘソを曲げていた。
そして今も何も変わっていないのかもしれない
気がついたら入っていたはずの屋敷から外に出ていて、しかも気絶していた。傍にはレンが倒れて……
一瞬で理解した。俺はまたレンに助けられた。しかも危険を省みず……また命を危険にさらしたことに。
護られてばかりは嫌だと闘う術を身に付けた筈なのに、強い魔物も倒せるのに、何時も守りたいものを守れない。空振りばかり。
「レン!レン!!……どうしよう、起きない……えぇっと、こんなときは…こんなときはどうするんだっけ?……気道確保……は息してるからいいか。いや、でもこれは不自然だよな?俺はピンピンしてるのにレンが倒れてるなんて…」
どうしたらいい? 考えろ、考えろ!
どう対処する?
どうすれば起きる?
どうすれば助かる?
…………
………奏。奏!出てきてくれっ
『きゅ~……きゅ!!なんでしょうか?』
「奏、大至急麗春さんにレンを見てくれるように伝えてくれ! 様子が変なんだ、急いでくれ!」
『きゅきゅきゅっ!? わ、わかりました~!』
首から下げた薬入れからシュルリと出て直ぐ様影に飛び込み俺の願いを叶えるために麗春さんを呼びに行ってくれた。レン曰く影に入って移動する方が速いらしい。
何時までもここには居られない。燃え盛るこの屋敷がいつ崩れるか分からない。とても危険だ。
そう思い少しでも屋敷から遠ざけようとレンを持ち上げると以外な軽さに驚きながら屋敷から離れる。
改めて屋敷を見ると燃えているのに全く崩れたりしていなかった。あぁそうだ。この白い炎はレンの狐火だ。レンが燃やそうと思わない限りは燃える訳がないよな。
熱いと思っても火傷ひとつしないわけだ。あんなに近くに倒れていたのに……俺も動揺していて気が付かなかった。
記憶を整理しよう。
俺はギルドの依頼でこの屋敷の調査に来ていた。だが、その後の記憶は曖昧で、何かに誘われるように奥に進んだんだ。あのとき冷静なら戻っていたのに。
何かの骨を見つけて焦って扉に入ったのがいけなかった。その後血の海の部屋に入った所で記憶は飛んでいて……気が付けは今いる場所に。
そういえば、レンの格好は貴族の装いだなぁ……もしかしてギルドに行って俺のこと聞いてここに来たのかな?
俺を件の依頼の推薦に……俺があんなこと頼まなければ、俺が深追いしなければ……いや、違う。
もしもなんて今考えていても埓が明かない。後悔は後でしろ俺。
それよりも体温が下がっているレンを暖めないと。少し前なら多少の羞恥心からレンに抱き付くなんてあまり意識して出来なかった――感極まって抱きつき肋骨を危機的状況に追い込んだことはあるが――のに、何だかこの頃は前世の様に何の恥ずかしさもなく抱き付ける。
その所為で最近はレンに避けられるのだが……
俺の抱き締めるは本当に絞めるだから洒落にならないと言ってたっけ。
俺だって……力加減は出来るよ……多分。
もしかして俺の所為でトラウマに?
ってバカ。今はそんなことどうでもいいんだよ。
頭を振って雑念を振り払いお揃いのポーチから厚手のマントを取りだし自分とレンを一緒にくるむ。これは俺が一人で初めて倒した雪熊の毛皮で作られたマントだ。記念にとレンが手作りしてくれた思い出深い代物ああの時は俺も無我夢中で決して誉められない闘いっぷりだったな。
特殊な魔物以外――物理が効かない相手にはめっぽう弱いのはご愛嬌――は今では一人で狩れるほど力を付けた……筈なんだけどな。
これじゃ世話ないな、ホントに
「ホントは一刻も早くこんな所からおさらばしたいけど、貴族街を担いでウロウロ出来ないんだよなぁ……レンみたいに隠密行動できればよかったんだけど……俺はその才能無かったし」
ある程度顔も知られている貴族街でウロウロするほど俺だってバカじゃない。この燃えっぷりに様子を見に来る奴も居るだろうが近付くバカも居ないだろう。居ないと信じたい。それに貴族ってのはかなりドライな付き合いだからここ最近低迷気味のこの屋敷の住人を命掛けて救出する様な殊勝な輩も居ないだろう多分。
コト貴族の事には疎いので断言できないが。
それにしても奏以外のレンの眷属達はどうした?あの出来事の時は問題なく出てきていたのに……姿も見えない。
それだけ今のレンの状況は思わしくないのか?出てこられないほどに?
頼むからまた俺を独りにしないでくれ……お願いだから……なぁ、レン?
*******
頬に暖かいけれど冷たい何かが落ちた?
怠い体を動かしたいけれど指一本動かせない。耳も耳鳴りがしてよく聞こえない。鼻は何で何も臭いを嗅ぎ取れないんだ?
―――あぁそうだった、怪しげな如何にもなキノコの胞子でバカになったんだったな。
目も開かない……まるで金縛りじゃないか。経験上耳鳴りはしなかったはずだけど。後鼻も正常だったはず。昔のコトだから断言できないけど。何せ何の変哲もない人間だったからね。髪と目のカラーリングは人間離れしてたけど。
それに、さっきまで寒気がしていたのに、誰かに抱き上げられた感覚があって少しすると何か暖かいものに包まれた……感覚はあるから誰かに抱き締められているのは何となく分かった。
あぁ…多分藍苺かな。少し力が強くて震えている……なんだよもぅ~また泣いてるの?
昔っから泣き虫だよね……中身男だからって意地張って泣かなくなったけど。人知れず部屋で泣いてたり今でもあるもんね~。
そして決まって嫌なことがあると私のベットに侵入してくるんだよ……昔と同じコトしてる自覚あるのかねぇ?
若造と詰られて会社でパワハラ受けたりしても、大人になっても女顔が原因で馬鹿にされても、誰かに失敗を擦り付けられても負けずに頑張ってた負けず嫌い。そんな事決まってお風呂やトイレで静かに泣いてたもんね。小さいシュウに見つかって慌てて涙を隠してた。
本当に意地っ張りなんだから。
私も人の事言えないけどね。
でもだから、だからこそ……何となくだけど泣いている時って分かちゃうんだよね。昔から
泣いてるんでしょ? なんで? あぁトラウマに触発されたの?
大丈夫。あの約束は違えるつもりは無いから……ね?だから泣き止んでよ…ね?
君が泣くと私まで泣きたくなるんだから……さ。
全くホントに意地っ張り……
今起きるから……泣かないで




