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連日投稿予定
ちょっとホラーな話+グロ表現あり?
長い廊下の先にある扉を開けると……
「キノコハウス……」
そこに広がるのはキノコキノコキノコキノコキノコ(以下省略)壁から床までキノコで埋め尽くされたキノコ部屋だった。しかも体に悪そうなキノコ胞子充満のおまけ付き……嫁さんは大丈夫なのか?この胞子吸い込んで錯乱してないか?
「不安だぁ…」
『心配なのは藍苺様限定なのが主殿らしい』
「それ以外に心配な事があるの?」
『……それもそうだ』
幸い?な事にこの胞子が充満していている部屋には嫁さんは居なかった。痛む頭で匂いの濃度を嗅ぎ分け嫁さんの匂いの薄さでそう判断した。それにしても胞子、本当に嗅ぎすぎる危険だ。
体の頑丈さも随一のはずの私も長時間居ればどうなるかわからない。これも呪詛の影響なのだろうか?
だとすると本当に嫁さんが心配だ……キチンと口や鼻を布か何かで隠しているだろうか?それだけでも多少違う。………なんだろう、気にせずドンドン進む嫁さんしか想像できない……
ま、不安だが進むしかないか。
所々にキノコの影に隠れている骨らしき物は見なかったことにして進む。
ホラーだな。
ホラーを心のそこから楽しんでる藍苺の姿が一瞬目に浮かんだ気がするが、この惨状の影に犠牲になったであろう人々の背景があるということは嫁さんも理解しているだろう。心から楽しめるのは二次元だからこそだ。実際に起きればそれはただの惨劇でしかない。
血みどろの血の海でないことだけが唯一の救いか……犠牲者にとっては救いなどないが…。
チラッと見た骨らしいモノはまるでキノコの養分に……いや、考えるのは後にしよう。
考えたらSAN値がガリガリ削られそうだ。
とは言え、見慣れてしまった光景でもあるが
この部屋から何処に言ったのか痛む頭でもう一度嫁さんの匂いを辿ってみる……すると三つあるうちの一つから通った形跡があるとこに気がつく。確実にこの部屋にいたことは間違いないようだ。
改めて周りを見渡す……骨はどうやら人のものではなく鳥や小動物の物らしいことが何となくだが気がついた。一応この場所には人のモノらしきモノは見つからないことに安堵のため息が出た。
慣れたからと言って見て気持ちのいいものでもない。
人の死にあまり耐性のない嫁さんがこの見え隠れする骨が人のものではないと気がつくだろうか?
魔物の死体は見慣れているが……勘違いしても不思議ではないな。嫁さんなら。
私のなかで藍苺は少しおっちょこちょいな人というイメージが強い。実際に不死系の魔物の死骸を人間のモノと間違えたりして怯えていたこともあった。
不死系の魔物の中にも人の骸を操ったり未練から動いているものも居るが、大半はその形をとっているだけのものの方が圧倒的に多い。下級のゾンビ(屍)は泥を媒介に未練ある魂が形をとった魔物だったりする。上級になると自らの体を生前のまま(とは言え腐りかけ)動いているものもなかにはいる。
未だにその区別ができていないのだ嫁さんは。
少し私が甘やかしすぎたか?
連れ帰ったら魔物の勉強を徹底させよう。それと危機感も……
これでは前衛タイプの嫁さんでは太刀打ち出来る相手ではないことは明白。それでも一人で進んだのは意地なのか無知なのか……徹底して教え込まないと。
それにしてもキノコには見飽きる……当分はキノコは食べたくないほどに。体には良いけどこういう光景を見ると食べたくなるなるよね?
思考回路もおかしな方向へ向かっているようだ。現実逃避はやめて嫁さんが居るであろう扉を開けて入る……すると
「今度は……」
『あまり見たくない光景だな』
「ごもっとも」
最悪の光景が広がっていた。
散乱した白骨……所み身が付いた骨、靴から伝わる何か柔らかいものを踏んだ感触……もう出来ることなら発狂してしまいたい。
鼻から錆びた鉄臭い臭いが入ってきて不快に思う。嫌というほど嗅いできた臭いだが未だに慣れることはない。藍苺の安否が心配だ。早く見つけなければ!
これはもしかしなくても血の臭い。そして何かが腐った……もう考えなくても分かってしまう。ひどい悪臭に私もダウン寸前……出来ることなら気絶してしまいたい程に……自分の豪胆さにこれ程後悔したことは……結構あったな。
もう少し繊細なら……いや、それだったら今頃この世には居ないか。
この部屋も例に漏れずキノで床が埋め尽くされていた。しかも白いキノコに血糊がべったり……恐怖演出に余念がない…のか?
この部屋にも嫁さんは居なかった。一体何処まで進んだのだか……嫁さんの無鉄砲さと行動力には脱帽だ。
進むごとに狂気が増していく気がしてならない。
この部屋にも他へと続く扉があるが、そのどちらにも嫁さんの匂いがしない………
あれ?と思ったが、それもそのはず。鼻が全く効かなくなっていたのだから。
もう鼻を頼りには出来なかった。
「……花粉症になったみたいだ」
『この部屋も前ほどではないが胞子が充満している。無理もない…』
夜夢以外の皆はもう気絶してしまった。私の体調もよろしくないこの環境で皆が耐えられるはずもなかった。
人でもこの惨状は耐えられないだろうけど。
幸いにも扉は一つしかなく、躊躇することなく(躊躇しても他に選択肢もない)中にも入ると……狂気染みた光景はなく、目的の嫁さんが気絶でもしているのか起き上がる気配はない。
直ぐにでも声を掛けて近寄りたいが、私の経験上そんなことをすれば命取りだと分かる……が、周りには何も気配がない。
それなら近付いても良いと思うのだが、何か私の中の勘が告げている……ナニかが居ると
「(クラウドのスキャンも役に立たない、私の鼻も視覚も聴覚も何もいないと言っている……なのにナニか居ると確信できるのは何でだ?)」
昔母さんに聞いたことがある。
妖怪は人間にはない直感的なものが備わっていて身の危険を察知する根拠もない何かがあると。
多分虫の知らせとか寄りも強いらしい。
そして直感が強ければ強いほど当たりやすい。
今までこの直感は役にはたってきたが……ここまで“行くな”と告げるのは初めてだ。それほどまでに危険なのか?
『自分が先に近付こう……主殿は周囲を警戒してください』
(頼んだ…)
頼りになる大蛇・夜夢が藍苺の様子を見てくれるというので私は周囲を警戒する。しかし先程と同じように何も気配がない……
だけど……よく考えればこんな場面って必ず何か出るよね? 倒れた中間を助けようとする主人公とかが近付くと……
「!! 夜夢っ!離れろ!!」
『!!?』
夜夢が影から頭だけ出して藍苺に近付こうとしていた。そして私が言うが早いか、藍苺の周りに瘴気が立ち込め始めた。
やはり罠だった!
「ゲホッ……(長時間吸い込めば私でも死ぬ)」
寸前の所で夜夢は瘴気を避けて藍苺を自分達の影に忍ばせた……多分他の皆も手を貸したのだろう。影の中ならこの瘴気の影響も受けずにすむはず。夜夢の機転に感謝だ。
それにしても私の五感は鈍くなっている……あの胞子を吸い込みすぎたのか? 頭も冴えない……気を抜くと足に力が入らない……本当にこれはヤバイかも……
もう限界だ……この屋敷が何だろうとどうでもいい……
“燃やしてしまえ!!”
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ゴウゴウと音おたてて燃える白い炎。顔に掛かる熱い風が俺の目を覚まさせた……
あれ? 俺は何で寝てたんだ? 確か…そう、確かギルドの依頼で貴族の屋敷を調査するんだった……ん? だからなんで寝てたよ俺……
あ、そうだ。屋敷に入って直ぐ異変に気が付いて奥に進んだんだった。気持ちの悪いキノコだらけの部屋を抜けて、SAN値0になりそうになりながら奥へ奥へと進んで……今思えば何で進もうと思ったのだろう……?
何時もならそこで引き返す筈なのに……
そうだ。屋敷に入って直ぐに咳き込んで頭が痛くなってから変に思考が奥へ行かなければいけないと思ったんだ。まるで何かに誘われるように……
そして気がついた。俺は今、その屋敷の外にいることに。
そしてレンが俺の傍で倒れていたことに
「えっ? お、おい!どうした!?レン!」
俺が呼び掛けても目を覚まさない。揺さぶっても頬を叩いても……起きなかった。息はしている……でも顔色はとても良いとはいえない程に青ざめて白かった……




