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夢見せるは神か悪魔か

 今日はちょっとホラーな回……そんなに怖くないですよ。



 今回は作者に名前を忘れられた……女タラシ君視点です。(笑)

 嫌だ、捕まりたくない。


 そう思っても彼は番人だ……許してなどくれない。端から分かりきっている……嗚呼…何処で僕は間違えた。


 親が勝手に持ち込んできた許嫁の話をどう断ろうか悩んでやけ酒したのが悪かったのか……


 酔いが覚めれば知らない寝床で知らない女が寝ていた。自慢じゃ無いが僕は女性にはモテた。恋人が居ながら他の女に手を出すことも数えきれないほどあった……だから今回もその延長線だろうと高を括っていた……


 その女がまさか自分の目の前で崖から落ちるなんて……思わないだろ?



 今目の前で僕を睨むのは傭兵協会の若頭を務めるいつもの美人な少年ではない。今の彼は裏を見張る番人……一握りの者しか知らない裏の顔。


 いつも長めの綺麗な薄藤色の前髪に隠れている気怠げな眼差しは今は眼光鋭く、危険な瞳はまさに血を連想させるあか……


 彼は言った。


“直ぐに兵に言えば良かったのにな……放置したことが罪になるかもな”と。



 僕の場合は私生活が荒れているせいで起きたこととして……無罪にはならないかもしれない。それに、証拠隠滅に川に捨てた筈のあの女の簪が畑から出てくるなんて……それがレンに見つかった。


 僕は言った。怖くなって証拠である簪を川に捨てたと。そして彼は言った。


“なら何で……畑から腕と一緒に出てくるんだ”と。



「え?」


「腕と一緒に出てきたんだよ……一緒に居たランには何も言ってないが……暗闇でもハッキリ分かる人の腕が。」


「ば、馬鹿な……だって、彼女は川に……落ちたんだ……」


 確かに崖から落ちて川に落ちた。



 彼はその話を聞くと思慮深げな顔で少し考えたのちこう切り出した。



「女ってのはこわい生き物だ。そして情が深くて……時折それが死んでも動き続けるんだよ。ほれ、…………例えばお前の肩の上に……」



 急に彼はニタリ……と笑い僕の左肩を指差した……そう言われると急に左肩が重く怠く感じた。


 僕は怖くて見ることが中々出来ず、彼を何度も瞬きしながら見詰めた。しかし彼は首をふって……



「自分のした事の責任は自分で着けないと。」



 その言葉に悟った。肩に何かが乗っている……それも……生者ではない何かが……乗っている。



「たまに浮かばれない魂が生前愛用していたり思い入れの深いモノに執着して彷徨う事があるんだ。彼女思いの外簪が大切だったんだろうな……手首だけになっても……探し回るほど……」


 肩の重みが増してきた……顔から血の気を失い冷や汗が止まらない。



「何らかの要因で畑の土に簪が紛れ込んだんだろうさ。そして簪を見つけじっとしていた。すると、川の上流に棲む浄化毬(浄化型のスライム)が禍々しい怨念を辿って畑まで浄化に来たわけだ……あれは荒らしていたんじゃない……怨念を何とか浄化しようとしていただけだ。それでも彼女は……」



 血の気が失せて震えが止まらない……怨念?逆恨みの間違いだろ?何で一晩だけでそんな事になんるだよ!!


「人ってのは……特に、男女の考えってのは違うからなぁ……男が軽いと思っていても女は重く感じることもあるんだよ。お前にとっては何ともなくても……彼女にとっては……そうじゃなかっ……」



 彼が言い終わるのを待たないで僕は店を飛び出した。怖かった。捕まるって罪を問われる事よりも……背中に乗る冷たい…爪が剥がれかけた手が!!








 僕は走った。走って走って走って走って走って……背中に乗る冷たい手首から逃げた。途中で振り払い何とか撒いたと思った。


 気がつけば僕は畑に来ていた……彼に依頼した荒らされた畑に……この畑はっ!


 この畑が荒らされるのは両親や兄には厄介な女に捕まって拒んだら嫌がらせを始めたと言ってある。さっきまで僕も落ちた彼女以外にもそんな女が居るのかと思ったのだ……。まさか、死んでも嫌がらせしてくるなんて……思わないだろ?




「……ハァハァッ……ハァ………」



 上がりすぎた息を調える……しかし、ここ最近運動もそんなにしていないので中々戻らない。そしてふと、恋人を思い出した……彼女からしたらもう、元が着くかもしれないが。


 帰ったら謝って許してもらおう……許してくれないかもしれないが……許してくれるまで…謝ろう。



 そしてもうひとつ思い出した……前にレンが言っていたような……そう、窮地に立たされている時に言ってはいけない言葉があるんだ。


 確か……そう、フラグだ。その中でも一番危ないのは……そう、恋人を思い出したり、帰ったら〇〇しようとか……が、危ない、んだよね……



「……ッ…」



 人はあまりに驚き過ぎると声がでないと聞いた事がある。ホントにそうなのだ……今、僕の目の前で起きていることに……僕は声がでなかった。



『ア゛ア゛ァァァ~…』


『ア゛…ア゛ァァァ…』



 ワラワラと土から出てきたボロボロで腐乱しかけた死体……屍達が這いながら僕の方へと引き寄せられるようにゆっくりと……確実に近づいてくる。


 僕は腰が抜けて動くことも出来ずにどうにか下がろうと腕の力を入れて後退ろうとした……が、



「!!!!」



 僕の後ろには知らぬ間に大きな壁が聳え立ち行く手を拒んでいた。



「(そんな!…さ、さっきまで何もっ!)」




 どんどんと近づいてくる屍の群……勢いを失わず向かってくるその波に僕は為す術なく飲み飲まれた。









「……………い、……おいっ!」


「はっ!……え?」



 目を覚ましたら馴染みの酒場に居た。夢………だったのだろうか?それにしてはやけに生々しかった……。



「酒の飲みすぎだろ。そんなに眠いならさっさと家に帰れよ。」


「えっと……君は……」


 彼は誰だろう…? 白い髪に長めの前髪で目は見えない……。だが、チラリと見え隠れする顔は綺麗な……男性だった。女性にも見えるけど、声は男だ。


 どうして同じ机で飲んでいるのだろうか?


「そっちが酔っぱらって俺の所に勝手に来たんだろ……勝手に座り込んで、勝手に飲んで眠って……なんなんだよ……」



「あ、すまない……ちょっと悩んでいたら嫌な夢を見て。」


「ふぅーん……」



 彼は見ず知らずの僕に対してあまり興味がないのか硝子の器に入った果実酒を一気に煽った。あの中身の果実酒は一見女性が好む弱めの酒に見える、けれどあの酒はかなり強い酒だ。あんな風に一気に飲むなんて出来やしない……彼は何者なんだ?



「で?やけ酒喰らって寝てたなんてよっぽどの事があったんだろ?」


「まぁ、家の話さ。」


「あんたの顔見りゃ分かる。どうせ女だろ。」



 あっけらかんと言い当てた彼に少し「愚痴でも言ってみようか」と何時もならしないような事をしてみようかと何かが囁いた気がした……


 不思議なことに周りの喧騒が遠退いていく感じがした。




「実は……」



 僕は見知らぬ彼に今の事を話した。許嫁のこと、彼女と上手くいってないこと……それから夢のこと。話終わると彼は腕くみしながらこう答えた。「お前はその夢をどう思ってる?」と。


 僕は………




「所詮は夢だよ。夢でしかない。」


「何かを暗示してると思わないか? それか、お前自身が心の奥底で思ってることが夢で表面化したとか……夢ってのは云わば自分の記憶の整理……の時々の心理状態で如何様にも変わるもんだ。」



「…何が言いたいんだ?」


「ソレは…お前自身が知ってることだろ。俺に今言われて何を思い付いた?」


 彼に言われて思い浮かんだこと、ソレは…今までの行いのこと。けれどそれがどうしたと言うんだ。所詮は夢だ。夢なんだ。



「お前自身が、お前に何かを暗示してると思わないか? 例えば……そう、今の行いを改める時期なんじゃないか……とか。年貢の納め時だろ。どうせ結婚するんだろ、だったら決めちまいな。親の決めた許嫁か、はたまた自分が決めた恋人か。自分の将来だ自分が決めろよ。」



 僕は言われて初めて恋人との結婚を考えた……そういえば今まで彼女と結婚を考えたことなど無かった。



「何も今決めなくとも……」


「……なら、どうすんだよ。親はお前に落ち着いた生活を望んでるんだろ。」


「親は親だよ。自分の生活まで口出しされたくない。」



 そうだ、これは僕の人生だ。僕の生きたいように生きたい。



「親孝行、したい時に親は無し……親が何時までも生きてると思ったら大間違いだぞ。親がお前の人生に口出ししてきたってことは、自分達の人生の終わりを垣間見たからだろ。親は子供より長生きはしない……それが自然の摂理……事故や病気がない限りは……な。」



 悲しそうに言う彼は多分親を亡くしたのだろう。そんな感じがした。僕も思うことはあるんだ……けれど、僕の人生だ。僕の生きたいように生きて何が悪い?



『そうか、残念だ。だが、後悔するのは親じゃない、お前だよ。』



 やけに響く声に違和感を覚え彼を見ると、そこには誰もいなかった……



「え?」



 彼は何処に行ったのだろう。目を離したのは一瞬だ。席を立つにしても視界から消えるには速すぎる。


 本当に彼は何者なのだろう。



 そう思いながらも僕は家路についた。拭えない何か違和感を拭いきれぬまま……





 しかし、目を覚ますと…………



「え?」


 目の前には花嫁衣装を着た許嫁の姿が……。そして僕も正装をしていた……これはいったい……



「ははは……いやぁめでたい。やっと次男も落ち着きますよ。娘さんも綺麗ですなぁ」

「家の自慢の娘ですからな。くれぐれもなかさんでくれよ婿殿。」



 許嫁の父親に肩を叩かれ意識を取り戻す。ちょっと待ってくれ、僕は結婚をする気はないんだ!



『もう戻れない……どちらを選ばないのなら、親は逃げ道を閉ざし自分達の望む未来をお前に押し付けるだろう。』



 そんなの言い迷惑だ!勝手に……身勝手だ!!


 そう思いながら頭を抱えて俯いた……すると不思議な声は言葉を続けた。




『なら、お前の今までの行いは? 身勝手だと思わないか? どれだけ恋人や他の女性に自分の身勝手ってを押し付けてきた? 思い返してみろ……』



 

 何で知らぬ赤の他人に言われないといけないんだ!!勝手に僕の夢に干渉するな!!


 そう、そうだ、これは夢なんだ。夢だよ…夢……



『どれが夢だ? お前が恋人を放って置いて女漁りをしていたことか? お前の両親が許嫁を勝手に決めた事か?』



 不思議な声の言い様にカッとなった。何か言い返そうと顔を上げると……


 彼は僕の恋人の姿だった。声は未だに男のような声だったが。



『浮気がバレて恋人に愛想尽かされて捨てられたことか? 許嫁にも相手にされず両親にも勘当されそうなことか?』


 恋人の姿から両親と姿を変えて言葉を紡ぐ。そして次第に許嫁の姿になっていた。



『それとも自分の意見など無視して結婚させられた事か?それとも……』



 許嫁の姿から……そこに……この世にいない筈の姿に代わり始めた。



『それとも……死んだことも隠され、忘れようとしていた……ミステタコノカオトカァ?』



 ぼとり……何かが落ちた。彼?の手首が落ちたのだ。これではさっき見た夢と同じだ!周りに助けを求めようと周りを見渡すが、さっきまでのお祝い事の雰囲気は何処に行ったのか、人っ子一人居なくなっていた。



 何処からか這い上がってくるようなズリズリと音をたてて何かが背後に近づいてくる気がした。


 また、これも夢なんだ。そう、夢だ。大勢の人間が一瞬で居なくなるわけがない。……誰も居なくなるなんてあり得ない。


 底知れぬ冷気と鼻を突く臭いがこれは現実と錯覚させているだけだ……




 いつの間にか場所は酒場になっていた。しかし次第に周りは暗闇に呑まれ気づけば自分一人が闇に浮かんでいた……そして目の前には……――――






 ああ……悟ってしまった……僕は………








 ―――――このうず高く群がる――――








 ――――――屍の群に呑み込まれるのだ……―――






 自分が屍の群に呑まれて逝く最中、紅い二つの光がぼんやりと浮かんでいるのが…――見えた気がした………



 あれは……――――――――――――




 次回タネ明かし回。多分早めに投稿したいと思います。


 先にもうひとつの方を投稿するかもしれません。




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