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*3*

 王宮へは徒歩で、しかも下町の店から向かうことにした。家の中の転送陣を赤の他人には使わせる訳にはいかないからだ。警備上の問題で。



 だから私は“白龍の朱李の子・燈子爵紅蓮”として只今下町の市民街に繋がる大通りをボロボロの姿の若者と歩いている。



 言ってはなんだが、いくら下町とは言えスラムとは程遠いほど暮らしは裕福だ。その点は白の国は優秀なんだと思う。



「紅蓮様~、お久しぶりです!」

「こ~れ!気軽にお声をかけてはならんぞ……すみません紅蓮様。うちの孫は誰にでも挨拶したがりまして…困ったもんです」


「挨拶をするのは良いことだ……だが、貴族は気難しいからな、あまり声はかけない方がいい」


「それを紅蓮様が言ったらお終いだぁ~(笑)」


「確かにな……」



 物怖じしない下町の皆は私がこの姿でも普通に接してくれる。勿論節度は確り守っている。目聡い者は私が誰かは気付いているだろう。それでも分けて対応してくれる。


 これがもしも頭のお堅い連中なら……あぁ考えたくもない。




「ちと命令を受けているので暇がない。道を開けないか」


「みんなに好かれているんですね…」



 違うぞ、これは面白そうなものを見る目だぞ。からかって楽しんでるんだよ。



 ま、嫌われてはいないとは思うけど。





 話し掛けられては断りを入れて進み、また声を掛けられ止められるを繰り返し……


 だが、下町を抜ければあの人懐っこい人々ともお別れ……市民街に入ると受ける視線は様変わりする。




「………」


「………」




 ヒソヒソと私と若者を見ながら話す人々。高性能な耳は寸分たがわず聞こえてくる。


 やれ、“街の外観を損ねる”やれ、“汚ならしい、疫病を持っているんじゃないか”とか。



 こんなモノはまだ序の口。もっと酷い言われようだ。彼は聞こえなくて心底よかったかもしれない。



 私に対しても酷い言われようだ。貴族が奴隷を連れている、下町から汚ならしい奴を連れてきた、黒魔術に必要な生け贄でも調達してきた、三流の下っ端貴族には汚ならしい奴隷がお似合い……等など。



 私や若者に対してだけでなく下町に無いしても暴言吐き放題。そしてこの命令をした王に対しても侮辱にならないかこれ?



 ま、こそこそ話すしか出来ない小心者の卑怯者はこの際無視するに限るよ。



 でも少々腹に据えかねるので特に酷い言葉を吐いた者にひと睨みしておく。



 ハッ!(嘲り)睨まれたくらいで青ざめるなら端から言わなければいいだろうに。






 私もね、王にそのままの格好でって言われたから従っているのであって、好き好んでハイエナのうじゃうじゃいる場所を通ろうなんて思わないよ。

 ちなみに服は少し泥が付いてたりするが、顔はちゃんと拭いてもらったからね。いくら何でもこの若者が気の毒。


 折角一般人があまり立ち寄れない王宮に行くのに顔が汚れてます。何て帰っても土産話として胸張れないしね。




 陰口を叩かれては睨み付け青ざめさせ、お上りさんをカモにするゴロツキをちょっと吹っ飛ばし。


 漸く着きました城門前。



 長かった。実に長く感じた。



 幸いなことに若者も粥をたらふく食べたにも関わらず脇腹が痛みだすこともなく着いた。下町の大通りを真っ直ぐ進み市民街の商業地区・目抜通りも突っ切り街の端から真ん中に辿り着くには結構時間がかかる。徒歩なら尚更。馬なら速いだろうが、全速力で走ることなど出来ない。


 だって賑わってる通りを通るだけでも大変だもの。



 そう言う急ぎの連絡は伝書鳥が一般的。メッセンジャーみたいに届けてくれる配達人はいるけど。



 そのどれにも当てはまらない場合は大体軍の偵察部隊とか何とか……あとは貴族様の馬車くらいじゃない?


 何せ貴族街は道幅も広い広い。だから馬で走り抜けるなら目抜通りではなく貴族街を経由して行かないと行けないらしい。



 馬には乗るけど王宮にはいつも徒歩ですから私。軍人や貴族様の不平不満は良くわからないねぇ~。軍人さんの言いたいことは何となく理解はできる。面倒だし時間もかかるし。



 でも、優雅に座りながら高々数件先のお宅に行くときくらいは歩きなよ……だから最近の貴族様は耐久力が無いとか言われるのよ。




 たった一件先のお宅を訪ねるのに馬車が必要なほど足腰弱ってんのかねぇ~。下町のじいさんばあさんの方が余程丈夫そうだぞ。





「こ、ここが……王宮……」


「の、城門前だな」




 市民街の目抜通りにも度肝を抜かれていたが、壮大で堅牢な城と名高い(私はよく知らないよその謳い文句)白の王御座す城、その名も“白の王宮”


 全くもってそのまんまである。





「さて、ここからが本番……第一関門はあの門番」


「で、でも、王様が許可してくれたんでしょう?」


「何事も無かったことなんて今まで登城して一度も無い」


「え、えぇぇぇ!?」




 誰の差し金かここの門番達は矢鱈私に対しても否定的で……やっかみか、それともただ単に気に入らないのか知らんもん。もう諦めている。



「白の王よりこちらの方をお連れした。通してもらいたい」


「…………そのナリで?」


「おいおい、なんの冗談だよ…」


「冗談かはさておき、文句があるなら王に言ってくれないか?」


「あ~……今確認してくるさ…」



 あ~、かったりぃ~。な感じでやる気ゼロの門番に待っているほどお人好しでもない私はやる気の無い目に王の命令書を見せた。待っていても確認に行くのか怪しいからだ。前はサボる口実にしていたな。お陰で一時間遅れるはめになった。


 そんなことがあってから王族たちの間では私には命令書や何か証拠になるものを渡すことが通例になりつつある。




「っ!!……チッ……あ~、はいはい……通れ」


「チッ……下級の貧乏貴族の癖に…」




 そんな彼らも由緒正しい血筋の出だろうが、こんなやる気のなさで爪弾きにされて門番をしているのだろう。プライドだけは誰よりも高い。



 だが門番と言うのは守りの最終関門。防衛ではかなり重要なんだけど……見直した方が良いと思うよ。私でも。




「あの……やっぱり、この姿は……ダメなんでしょうね」


「ええ、まぁ、王が許可しなければそれなりの正装をしなければ摘まみ出されます」


「……そうですよね……」




 城の大きさに圧倒されたか畏縮してしまった。おいおいさっきまでのハイテンションはどうした。ホントに本番はこれからなんだよ?



 門から入って直ぐはまだ城壁に囲まれた庭で色とりどりの花が咲き誇っている。懐かしい……八歳の時迷惑な召喚で突然呼び出されて単身のし城に来たときが……ホントに遠く感じる。実際八年も前か。



「御待ちしておりました。お久しゅう御座います。」


「筆頭侍女様も御変わりない様で。ここで待っていたと……なら案内を頼んでも宜しいか?」


「勿論。その為に待機しておりました。さ、此方です」



 八年前も少しお世話になった筆頭侍女様の案内で通されたのは優雅な御茶会……と言う名の女の戦場&情報交換の場。

 一姫・鈴雛姫が最近流行らせた西洋式御茶会でオホホ、うふふのどちらも相手を牽制しつつの攻防を続けている。その横で兄である王太子殿下が女性恐怖症一歩手前の様な顔で縮こまっていた。


 情けない




「姫様、そろそろお時間です。紅蓮様も参られました」


「まぁ、紅蓮。お久しゅう。して、そちらの方が……」


「これ、姫様…」


「あら、お兄様を差し置いてご免なさい。つい、」


「……お前のお転婆振りには慣れたよ……さて、私は御暇しよう。それではご令嬢方はもうしばらく妹に付き合ってください」



 顔は父親似で眼光は鋭いが気遣いと雰囲気が柔らかいお陰で今はそれほど強面とは思わない。雰囲気って大事なんだと染々おもった。



 一姫さまの御茶会に参加させられていたのは多分婚約者候補達との顔合わせをするためだろう。

 殿下ってば誰に似たのか奥手……もしかして白の王は草食系男子だったりして♪



『(はからずもあたっていたりするのだ)』



 今何か言われた気がしたが、気のせいだろう。



「ご令嬢方との御茶会を邪魔してすみません殿下」


「いや、そろそろ本気で暇を告げようと思っていた。抜けるいい口実になったぞ」



 そんな事だろうと思ったよ。



 それにしても彼女達だって皆が皆好きで腹の探りあい何かしてるわけではないんだよ殿下。彼女達にとってあれは身を守る武器であり、彼女達の家にとっても大事なことなんだから。

 ああやって噂や貴族達の動向を見聞きし、ある時は王族たちの流行りを取り入れ家の繁栄を担っているんだから。湯水のごとくお金をかけてるのにも訳があるんだよ。


 彼女達は華やかな諜報員なのだ。



「それが彼女等の仕事ですよ殿下。そして殿下は将来一緒に国を背負って立つ伴侶を探さないといけないのです。嫌なところばかりでなく、彼女達の良いところも見て差し上げてください」


「それは分かってはいる……が、かしましいのはどうにも……な」


「淑やかなご令嬢には次期王妃は勤まりません。気も多少荒く、度胸と手腕が無いと。勿論惚れた腫れたはどうにもなりませんが」


「………」




 現王妃様も元は庶民の出だった。それが今では皆からその人ありと吟われている。それはひとえに王妃様のど根性精神と気の強さも手伝っていると思う。



 国民目線から言わせてもらうと、王妃様が庶民でも、貴族でもどちらでも構わない。


 必要なのは彼女達がどれだけ生活を潤してくれるかって事が大事なんだよ。


 その点では現王妃様は文句なしの皆に慕われる王妃様になったってこと。



 ま、例え平凡でも、非凡でも王が伴侶として選んだのなら、余程の馬鹿でない限り大歓迎だろうね。




 問題は貴族の方なんだよ。




 色々と彼らにも言い分はあるだろうけど、脈が全くといって無かったにも関わらず自分達の娘を選ばなかったって理由から反対するものが……うん、これをどう捌くかが王太子にとっては腕の見せどころだね。




「さあ、この話は後にしましょう。お連れした若者が畏縮してしまっているので早く話を聞くとしましょうか」


「あぁ……白杉の名産地で有名だった地域の村だったな」





 私が聞いた話とほぼ同じなので割愛。そして殿下は彼らの今の暮らしぶりを詳細まで聞いていた。





「やはりその様な話は此方には届いていないな…」


「そうでしょうね……」


「やはり国とは別に独自の情報網も必要なのだろうか?」


「殿下……今は」


「あぁすまんな」



 今の発言を母さんや父さんが聞いたら喜びそう。王太子の後押しで各地にギルド支部を置けるなんて。あの二人は情報が欲しいからね。



 何せ私と父さんはこの世界のラスボス”魔王

になる可能性があるから……


 二人とも必死なんだよ






「さて、話もまだ聞きたい事もあるが、今日のところはお開きにしよう。彼は此方で預かる。


 ………さて、今更聞くのも礼儀知らずだが名前を教えてはくれぬか?」



「は、はいっ!……俺…いえ、私はサジと申します…」


「うん、サジよ。お前の身柄私が預かる。今日は身を清め休むがよい。また明日話を聞こう」





 そして一度はお開きになり、若者――佐次は侍女達に連れられていった。


 そして殿下は私に向き直り話始める。




「して、あのサジという者の話は真か?」



 私の窮奇キュウキの能力――対象の嘘を見抜く――は殿下は重宝している。本当に知りたいことをよく聞いてくる。



「ええ、彼が知っている範囲では」


「この王宮にも不貞を働く者が?」


「居ても不思議ではありませんね」




 殿下は、



「この事を父上には報告しておく。お前も休め……苦労を掛けてすまなった」



 と、言って部屋を出ていった。



 








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