ランプ売りの白九尾
白い九尾だから白九尾……はい、そのまんまです。
暇を返上してくれたお客は新米の冒険者だった。まぁ、ギルドに所属しているので傭兵とも言えるのだが。冒険者とは依頼無しに色んな場所を旅する者達をそう呼ぶ。勿論ギルドに所属している人も居るには居る。自由を求める人達は冒険者、日々依頼をこなすのが傭兵って思えば言いと思う。
「―――と、言うわけなんです」
「ふーん……風が強すぎる場所や高所すぎる場所ではてんで役に立たないと…?」
「はい、宝玉を使ったランプも有るにはあるのですが……何分俺の稼ぎでは一回分にもならなくて」
昔母さんが色々と使っていた宝玉は色や大きさや形などで用途も効果も違う。それを電気の代わりに使ったりしているので割りと知名度はあったりする。そしてとってもエコ……
火なんかも出せたりする。
が、大量に作り出すこともできず、数を確保できないのでとっても高価。勿論駆け出しの下っ端には持つことも儘ならない品。あ、でも逆に高ランクの傭兵たちは腐るほど持っている。
実は宝玉ってのは魔物から取れる……勿論人工的に作り出せるが、結構力加減が大変で……どちらにしても高価になる。
これでは駆け出しの下っ端は大変だ……
―――と、相談に来たのだった。
「それでどうしてここに? 相談するならギルドカウンターで相談すれば良いでしょうに」
「それが……あの、この下町では普通の蝋燭ではなく、特殊な炎を使っていると…聞きまして…」
「………」
確かに下町では蝋燭代もバカにならないので、私の狐火を利用したランプを置いていたりする。
何分、蝋燭の火が元で火事が多発していたので苦肉の策立ったのだが、子供でも簡単に付けられ且つ、火傷もしない安全な灯りとして今では重宝してもらっている。
私の狐火って燃やすか燃やさないかを任意で決められるからね。触るとそりゃ熱いけど火傷はしない。それに普及した後からきがついたんだけど、私の狐火が灯された場所では簡易結界的な作用があるらしく魔物が寄り付かないらしい……なんだよその効能は。自分自身でビックリだよ。
ま、その他にもそのランプを置いた場所は手に取るように分かってしまったり……人権侵害も良いとこだけど皆さん気にしないって言ってくれたし……
で、これは下町以外には門外不出のランプなんだよね。だからおいそれと私の一存で決められない。
皆安い方がいいに決まってるもんね。この国の皆がこのランプ欲しいなんて言い始めたら私過労死するわ~。何としてもそれだけは避けたい。
白の王が決めたとこでもあるし。
それにしても誰だ、このランプの事を吹聴したのは……誰なんでしょうねぇ~
「申し訳ありませんがあのランプは門外不出の品……誰から聞いたのかは知りませんが、下町の住民以外にはお渡し出来ません。法がそう定めていますので……」
「そうですか……法に触れてしまうなら仕方ないですよね……何か安くて消えにくい灯りはないでしょうか?」
「そうですねぇ……」
さて、困ったぞ。
この手の問題って結構あった。昔からの課題だった。
風に吹かれても消えない炎は有るにはある。宝玉を使った方法以外でも以外にある。単純に消えにくくするなら松脂や色んな薬品を使えば実現出来る……特に魔物の一部を使えば楽……なんだけど、
「今日までその課題は未だに……駆け出しの冒険者・傭兵は解決出来ていない…高い魔物の素材を使えば作れます。けれどそれなら宝玉をかって使えばいい。それが出来ないから貴方は来ているのですし……」
「はい、……あなたがランプを譲ってくれなくても何かいい案を出してくれると受付の女性も言ってましたし」
喋った人判明……あの受付嬢っ!!
どっちだ……妹か?姉か?………何だかんだでどっちもポロっと口が滑ったりするからなぁ……
ま、今は置いておこう。今に見てろよ……
「安い素材でも可能なことは可能ですが、お客様に安全とは言えないものをお出しするなど出来ませんから」
「……そうですか…」
もういっそのこと特殊な水晶代だけで駆け出しのギルド所属の下っ端には貸し出せばいいよ……ギルドがどうにかしてほしい。自分のことだけで手一杯なんですけど正直。
でも、藍苺の駆け出し時代を見ていた身としては助けてはあげたい気もする。駆け出しの頃の嫁さんは私の紐状態だと落ち込んでいた……共有財産ということにして何とか多少は払ったけど、数年後に一人前になって全額耳揃えて返された……変なところで律儀って言うか。
嫁さん曰く、男のプライドって奴らしい。今は女だろうに。
そんな訳で、追い返すのも可哀想かと思い、ひとつ提案してみた。
「失礼ですが、ギルドカードを提示願えますか?」
「え? あ、はい」
某狩猟ゲームに触発された父さんの案で位ごとにカードの材質が変わっている。最初の一番下の位は木製(それでも下手な鉄よりも丈夫な素材)、次は鉄、銅、銀、金……と上がるごとに変わっていく。因みに嫁さんは金の上、白金のカードで私は支部を任されているのでそのちょっと上の黒曜石……何故上が黒曜石なのかはよくわからない。
多分なんちゃらク〇フトとかの影響を受けてるんだと思う。ダイヤじゃないだけマシだった。因みに実際のダイヤは燃える(炭素だし)し、打撃に弱いので(そもそもカード何かに加工すること事態が無い)素材としては不適合。黒曜石も脆そうだけど、多分何か特殊な加工でもしたんでしょ。
いちいちツッコミ入れてたら切り無いわ~。
そして提示されたカードは木製。傷もないことから本当に成り立てホヤホヤの様だ。それか物持ちが言いかのどちらか。
「はい、確かに」
カードには特殊な呪いが施されているので、これまた特殊な水晶にかざすと持ち主の情報が見られるようになっている。ここまではテンプレってやつかな。
今まで請け負った依頼はお使いクエに採取全般。最近ではチラホラ洞窟での雑魚魔物討伐もあったみたい……見た限りでは依頼でランプが使いたくても使えない場所は行ってない……これから行くのだろうか?
「因みにどちらでランプが必要になるのですか?」
「え?………洞窟で突然突風が吹いたり…この前も突風が吹いて…突然の暗闇に段差に転けて…ハハハ……」
暗闇以前にそれって冒険者としてどうよ? 突然のアクシデントに対処できないとこの先危険だよ。分かってんのかねぇこの坊や。
「ランプ以前に術を使って灯りを灯すことも…」
「あ、自分、術適性全く無かったんで……」
「適性がなくても灯火くらいは唱えられると思いますよ? 闘いで使わないなら尚の事。練習さえ怠らなければ灯しておける時間も自在に操れますし……今なら呪文書安くしときますよ……特別に講習付きで」
私からしたら破格の提案に駆け出し冒険者は不安そうにこう言った。
「適性が全くない俺にも出来ますか?」
「それはあなたの努力次第ですよ。元々適性はギルドに入る時に計測されたんですよね? あれはね、闘いに使えるかって調べるだけで、生活に便利な「灯火」や「種火」何かの努力すれば誰でも発動出来る術まで出来ないって訳じゃないんですよ。勘違いされやすいですが」
「俺、全く使えないと思ってました」
ま、ギルドが調べる理由も「自分にあった戦い方を選ぶ為の測定」だからね。どんなに術士になりたくても適性が無ければなれないから早い段階で調べておこうって考えなんだってさ。
所属している人の実力を把握していたいって魂胆もあるのだろうけど。
「訓練さえすれば魔力の消費も抑えられ、何度も唱えることも出来ます。現に知り合いに全く術の才能無しと太鼓判を押された者が血の滲む努力をして灯火を発動してました。」
良ければ紹介しますか?と聞いてみると「是非お願いします!」とちょっと鼻息荒く答えたので件の人物の名前とギルド宛に私の名前で紹介状を書いて渡した。
そこまでしてくれるとは思っていなかったのだろう、彼は立ち上がり私の両手を掴んで力一杯握手をしてから帰っていった……余程暗闇でも怖いのだろうか……やっぱり冒険者に向いてない?
因みにこの世界の人間は先祖に妖怪を持っているので魔力は皆持っている。全く無いものは居ない。
何せこの世界には魔素と言うよく分からない毒素が漂っているのだから……全く魔力が無いものは生きていない。なので魔力が無いものは居ないのだ。
因みに、この魔素……あの要らないことばかりしてくれちゃうバカ(神)が自分勝手な思惑でばら蒔いた物だったりする。つまり人智を超えた物だったりする。元々居た妖怪の始祖や適性を持っていた動物たちが妖怪に転じて……と途方もない話があったりするがここでは省く。
だって面倒だし。
あ、魔力=妖力ね。元は同じなんだけど、人間たちは妖怪と同じなものが嫌だったのか分けたかったのか……魔力って呼んでいる。
私から言わせれば妖怪の力が妖力なら魔力って………悪魔か魔族の力って言ってるみたいに聞こえるんだよね……
きっと妖怪差別主義の人々が聞いたら発狂しそう。でも事実だから仕方ないよね。元を辿れば皆兄弟……あながち間違ってないかもねこの言葉。
そして私は知らなかった。
あの客がとあるひと騒動を起こすことを。
説明をば…
白九尾の燈
白九尾の紅蓮が操る狐火をランプに封じた代物。彼の狐火の特性から触っても火傷しない為とても安全。しかしその性質故、灯りにしか使えない。風が吹いても消えることの無い炎は下町の人々の安全を静かに見守っていると言う。
白の国 人々の暮らしと繁栄より抜粋……
です。因みにこの燈がある場所は彼の意識下にあるので何かあると察知できます……チートですはい。




