白熊くん、帰郷する
ノリで書いた結果がこれだよ……orz
丁度季節は初夏……そろそろ暑くなってくる季節になりました。
白熊くんが我が家に居候して一週間が経とうとしていた。
「う~ん……」
「夏バテ?」
「ここ二日ほど前から食欲も落ちているようです……お元気もなく……」
「うん、報告で聞いたよ」
白熊くんは白熊の例に漏れず暑さには弱いのかここ二日前からぐったりしているようだ。精神的にもキツいだろう。知らない土地で、知らない人に囲まれてさぞかしストレスも溜まるだろうさ。
「白熊くん、何か私に出来ることはないか?できる限りでなら聞くよ?」
『………しい』
「ん?」
『白くてフワフワモフモフモコモココロコロ……のアザラシが欲しい……』
「(白熊くん、お前もか!)」
そう言えばこの子アザラシの子にご執心だったわ。モフモフ的な意味で。
この世界のアザラシを例え連れてきたとしても絶対に満足はしないだろう。だってアザラシの子は永遠の赤ちゃんアザラシなんだから……
だからと言ってこのまま放置しておくと帰るまでに衰弱するかもしれない。本当に割りとマジで。
―――縫いぐるみで勘弁してくれないかな?
と、言うわけでただいま店番しながら裁縫中。三日ほど前から漸くギルド幹部達が仕事に身を入れられる状態になったので嫁さんも仕事を再開していた。その間食事を野菜中心にしたのは不満気だったけど。だって動かないのにカロリーが高い物を出すわけ無いじゃないか。
嫁さんが一日で消費するカロリーが仕事をするしないでどれだけ違うか……一回自分で計算してもらいたいよ。計算得意なんだから……ねえ?
そう思いつつも何だかんだで二人とも分かってるんだよね……まぁ、私達も喧嘩はするけどね。
さて、フカフカのアザラシ縫いぐるみを作るには毛皮では無理だった。あの子を触ったことはあるが(私じゃないあの世界の私ね)本当にフカフカで綿みたいだった。本人が愚痴っていたが箪笥に潰されたときも平気だったらしい(吐きそうになったらしいが)……丈夫な設定だからね。闘う術は無いけど防御力はスゴいから。
それで、そのフカフカモフモフを再現するには綿その物を使うしかなかった。綿と言ってもコットンではない。とある草を煮出して泡立てて乾燥させたもの……スポンジに近いかもしれない。
そんなスポンジの様な綿にくりくりな目をつけて……あぁ…チャーミングな口もつけないと……
「結構力作」
「そうですね……藍苺様が欲しがりそうっスね」
ホントに欲しがるから。嫁さんの寝室には何体縫いぐるみで溢れていると……前世は男だったから自制してたけど現世は女だか気にしてないんだよね……私を模した縫いぐるみが3体……九尾、窮寄、白龍と何とも言えない面々が棚に陳列されている。勿論私が作りました……ほら、私へのモフモフが抑えられると……思ったんだが全然効果無かった……反対に変な方向に突き進んでます現在進行形で。
即興で作ったにしてはなかなかの出来に 自画自賛しながら兎天に白熊くんの所に出来上がってフワモコアザラシ縫いぐるみを届けるようにお願いして一息……約二時間作業をしていたので肩が凝っていた……が、妖怪に慢性的な肩凝りは無縁なので直ぐに凝りは無くなる。ホントに妖怪で良かったとこの頃思う。
そして端的にどうなったかの報告。
白熊くん泣いてました……感動したようです。そこまで寂しかったのな、白熊くん。禁断症状が出てきてたのね。
あの縫いぐるみで症状が和らげば良いけど。
そしてあえて匂いはつけなかった。だってアザラシのあの子……太陽みたいな匂いがしてたしね、日向ぼっこばかりしてたからねあの時は。
『泣いてお礼を言ってました……私、熊さんが泣いてるの始めてみました主!』
「そっか……私も見たこと無いよ」
何でも、滝のように……泣いてたようです。
『後、主に宜しくと、セバスさんも一緒に渡したケーキをありがとうと……』
「口にあえば良いんだけど」
縫いぐるみだけではどうかと思ったので作り置きしていたパウンドケーキも兎天に持たせておいた。本当は水羊羹とかゼリーなんて冷えたものを渡したかったのだけど、まだ固まってなくて……固まり次第また届けてもらおう。
それとも白熊くんには氷枕の方が良かっただろうか?
「暑いぃぃぃ……ただいま~」
「お帰り……どうしたの、そんなに汗だくになって……そんなに外暑かったの?」
「いや、そうじゃなくて……」
汗だくでフラフラしながら帰ってきた藍苺に驚きながら聞いてみると、何でも変態に追いかけられたらしく、巻くのに走って汗をかいてヘトヘトになったらしい……暑くなると頭が湯だって可笑しくなった奴らが増えるからねぇ……後で絞めておこう。
見た目だけは可憐な美少女何だから変態には気を付けないと
「う~……偉い目に遭ったよ……」
「ご愁傷さま……麦茶でも飲む?」
「飲む、喉カラカラ……」
私から麦茶を受け取り豪快に飲み干し風呂上がりの親父よろしくリアクションをしている嫁さんを見て改めて中身は男(三十路過ぎたおっさん)だと再認識した。いくら身体の精神に引っ張られても変わらないんだね。
三十路なんて最早遥か彼方な精神年齢の私にはいえないことだろうけどサ。
「――ハァ~……生き返った、」
「暑い中ご苦労様です」
「追いかけられるまでは暑くなかったんだけどな……あ、それとさ…」
仕事帰りの嫁さんの言うことにゃ、白熊くんの話題は結構広がっているようで、ギルドでもその話で持ちきり……私の正体を知っている幹部連中にも話を聞かれたりしたらしい……嫁さんはハブられたから知らぬ存ぜぬで潜り抜けたそうだ。
嫁さんに一々聞かないで私に直接聞けば良いのにね……そんなに私は怖いかそうなのか……フフ。
「だいたい…(ゴクゴク)…けぷっ……悪い。だいたいさ、ハブられた俺に何がわかるって言うんだよ。レンだって仕事の事を俺にベラベラ喋りはしないっての!」
全くもってその通りです。
「それなのに俺に一々聞くんだぜ……あったまくるよ……」
「皆には嫌われてるか煙たがられているかのどちらかだから」
私はあくまでも王太子殿下の部下だからね。成り行きでギルドには所属しているけど、有事には殿下側だし、親のギルドでも早々幹部連中にはバラさないよ……父さん達もそれを承知してる。
「秘密厳守が仕事ですから……」
「そもそも俺に聞くのが間違いってもんなんだよ」
「そうだね、口が固いからね藍苺は」
「世間話程度なら喜んで答えるけど、貴族連中の不祥事バラして国を窮地に落とすほどバカでもない」
私は今回の白熊くんの事を全て嫁さんに話しているわけではない。例えばどこの貴族の家が起こしたとかは言ってない。白熊くんが勝手に召喚されて帰るまで世話をするとしか言ってないのだ。
要らぬことまで言ってしまってはかえって藍苺を窮地に立たせることになる。
だから今回の件が他の大貴族が関与してることも、宮廷魔術師が関与してることも知らせていない。
先日私も聞いたばかりの事だけどね。
「白熊くん夏バテしたってサ」
「暑いのは苦手だよな……白熊だし」
「(まぁ、夏バテって言うよりもアザラシ不足の方があってるけどね)だから今日は水羊羹とフルーツたっぷりのゼリーがおやつだよ」
「やったぁ♪」
ホントに甘いものが好きだよね嫁さん
冷蔵庫を即行で開けようとした嫁さんを止めて(力一杯手加減なしで開けて一度壊した前歴有り)冷やしていた水羊羹を取り出す。今回のは慌てて作ったので少し水っぽ過ぎた。
が、嫁さんは喜んで食べている。
………そういうところが好きなんだよね……恥ずかしいから本人には言わないけど!
「ゼリーは食後にでも食べようか」
「え、いま食べても……」
「今日のご飯を冷奴オンリーにされたいならどうぞ?」
「残しときます」
そっと冷蔵庫から手を離して嫁さんは引き下がった。素直でよろしい。
「白熊くんにもあげたんだよ」
「モグモグ……モグモグ」
「……気にせず食べてなよ」
「うん。モグモグモグモグ…」
そして晩のおかずは焼きナスと焼きトマトのバジル風味の和え物にトマトご飯、空芯菜のお浸し、シジミの味噌汁でした。
焼きナスと焼きトマトは焼いて皮を剥いたナスとトマトをみじん切りにして塩コショウに酢を少し、コンソメにバジルとオリーブオイルにニンニクを香り付けした少しスッパめの料理。本当は鳥ももを入れてスープにしたかったのだけど、暑いのにスープを食べさせると嫁さんがダウンするので断念した。
本当に暑さに弱いんだから……暑いときに熱いものを食べるのが夏の醍醐味だろうに
トマトご飯は少し潰したトマトをご飯と一緒に炊いたシンプルなもの。トマト嫌いには臭みも気になる人はいるだろうが、幸いにも嫁さんはトマト嫌いを克服したので心配ない。余談だけど、生のトマトは私もあまり好きじゃない……特に青臭い露地物はダメでした。あの緑がかった中身……今でも美味しいとは言えないわ。
空芯菜……本当の名前は確かエンサイ……だった気がする。漢字は知らん。前にも紹介したかも。我が家の頼れる主力。炒めてよし、煮込んでよし。味も癖がなく茎の歯応えが竹の子のようで面白い。
栄養も豊富で葉は柔らかく味も染み込みやすくあの野菜嫌いな藍苺も好きだと言っていた。難点と言えば茎と一緒に葉を炒めると茎が少し固いことがあったりするから茎だけは別にして茹でたり手間がかかる事かな。
そして味噌汁はシジミ。正直言って貝は好きじゃない……が、疲れて帰ってくる嫁さんの事を考えるとシジミを使った方が良いと判断した。
私って結構嫌いな食べ物有るんだよね……食べはするけどさ。
「何で俺だけ肉あるの?」
「肉を食べる元気がないんだよ」
「……え?」
いやね、肉はお昼に食べたからもう良いかなぁ…とさ。夜よりも昼にガッツリ食べるから私。大して動かない私が食べても身に付くだけ……付かないんだけど、出来れば野菜中心に食べたいんだよね夜は。
「虎に狐に龍の妖怪なのに草食っ!?」
「竜の中にも草食はいるよ?」
「レンって肉よりも野菜好きなのか?」
「小さい頃は……あ、前世ね。野菜ばかり食べてたからつい癖で……見た目外人だけど日本人だからね中身は……肉なんて鶏肉位しか食べたこと無かったなぁ……母親と二人暮らしになってからは豚肉も食べ始めたけど、やっぱり牛肉は食べなかったよ」
「あぁ……そう言えばそうだったな…俺の家も和食中心だったけど、肉は結構食べてたなぁ…洋食も好きだったし」
「ハンバーグとかオムライス好きだもんね」
「お子ちゃま舌で悪かったな」
あの頃は痩せてた……と友達は口を揃えて言っていたっけな……言うほど痩せてはないけど、チビではあったね。あの生活が続いていたらもう少し身長も小さかったかも。
それでも小さい頃は何の不満も無かったなぁ。
今ではファミレスの料理もフライドポテトもハンバーガーもポテチも大好きだよ…あぁ食べたい。
が、今は肉の話だ。
私は必要にかられないかぎり肉は鶏肉を食べる。だが、今日はお昼に豚の生姜焼きを食べたのでもう食べる必要もないと思った。が、明日も身体に鞭打つ魔物討伐の仕事をするであろう藍苺には肉を食べさせた方が良いと思い昼に作った豚の生姜焼きを取っておいて今藍苺に出したのだ。
あ、余談だけど今日は八雲はデートだってさ。いつの間にか着実に仲良くなっていた八雲の手腕恐るべし。お相手は王妃付きの侍女さん。一目惚れだって……後でそっとお給料と称してお金を枕元にでも忍ばせておこう……お幸せに♪
「あ、そうそう。白熊くんそろそろ帰れそうだよ」
「へ? 目処がたったのか?」
割りと簡単に彼方の私が帰り道を確保してくれた。おまけにアザラシちゃんも保護して家でゴロゴロしているらしい……藍苺じゃないけど見てみたい……いや、正確にはもう一度見たい。
あの子の姿は最終兵器マンチカンに引けを取らない威力だもの。あの毛並みを堪能するとストレスも無くなっていく様でいつまでも撫でていたくなるんだよね……ある意味愛され主人公だよね。
「白熊くんもホームシックになってきてるし、丁度良かったのかもね…」
「一度でいいから抱きついてみたかった…」
元は少年の白熊くんに抱き付くくらいなら私が狐にでも虎にでもなってやる。そこは嫉妬するよ私。
………ちょっと大人げないけど
こうして呆気なく……いえ、迅速な対応で白熊くんは元の世界に帰っていきました。何故か帰る時に私が製作したアザラシ縫いぐるみを抱き締めて手を振っていたが……それが嫁さんの心にドハマリして私に「虎の姿になってこの縫いぐるみを抱いてくれ!」なんて強迫めいたお願いを 何処で入手したのか黒い猫の縫いぐるみ(何処と無く頭の毛並みが藍苺に似ている)を押し付けてくるので参った……
ま、気持ちは分かるけどさ




