面倒なので
中々出番も無かった八雲さんにスポットライトが当たる……のか?
唐突だがさっさと実家から我が家に帰る事にした。八咫烏が居たから早々に帰りたくなったからである。……まぁ、それだけではないんだけどね。
母さんに暇を告げて帰る時にソッと八咫烏の事を聞いてきたので母さんも大体の事を把握はしているみたい。あれだね、日頃母さんを独り占め出来なくなったから八咫烏もイライラしてるんだよ。兄弟も増えて、父さんとはラブラブ……そりゃ八咫烏もキレるわな。勿論八咫烏は母さんに大して恋愛感情はない。例えるならご主人に子供が産まれて構ってもらえないペットの図だね。まんまだわ。
いや、お利口さんならちょっかい出しつつ面倒は見るよね……犬なら。あ、彼奴鳥だわ。でも人間みたいなもんだし……尚更ダメか。
「もう少し居ても良いのに……」
「ま、一度家を出た身だし、長居してもね」
「あの子にはキチンと言い聞かせるわ」
「例え母さんが言っても無駄だと思うけど?」
ああいうタイプは人の話は聞かないからね。言っても逆効果。自分の良いようにしか解釈しない。
「それじゃぁ……気を付けてね、体にも気を付けるのよ?二人とも」
「うん。父さんにもよろしく」
「お邪魔しました」
採った竹の子はメイメイさんにでも茹でて貰ってね。
「さて、早々に帰りたいんだけど……八雲どこいった?」
「え?」
「……居ないよな?」
あれ?どこ行ったんだろ……まさか……
「ごめん、ちょっと探してくる……母さん」
「ええ、分かってるわ」
「俺も行くよ」
嫌な予感ってのは当たるものだよね。
特にあの八咫烏が私に絡んで来たときから不審に思ったんだけど……ここまで馬鹿だとは思わなかったのよ……母さんの眷属だし、そんなに仲違いしたくはないしね。
「……(私が気に食わないからって八雲に対して嫌がらせしなくても!)」
「……(お、怒ってる…)」
大体、言いたいことも言ってるのにまだ言い足りないか……
ドスドスと足音をたてて歩くのは無作法だが、今は怒りを抑えられない。特に八雲は忠義心が高いから私の母親の眷属って事で何かされても反撃できないだろう……――身体的にはしないだろうとだけ言っておこう。
優男の風貌とは思えない程怒ると恐いから…ね。
いつもはヘタレ気味の弄られ役だけど、あれでも昔は凄腕の暗殺者だったんだから。本気はそれはそれは恐い。本気の目は肝が冷える。
「止めないとね……」
「……(と、とと止めるってナニ!?)」
嫁さんが挙動不審になってるけど……説明するのも面倒臭いから無視してさっさと八雲の居場所まで早足で向かった……え?居場所がどうしてわかるかって?
――――だって、眷属は主人と感覚を共有出来るからね。
そりゃぁ…人権がどうのの問題とかで日頃は覗いたりしてないからね。緊急事態の時にしか使わないよ……ホントだからね。
「そう言えば……眷属と主って感覚を共有出来るんだよな? だから迷いなく向かってるんだよな?」
「そうだよ」
「……八雲は今怒ってるか?」
「……怒り狂ってるね」
「………終わったな」
あぁ。終わったね八咫烏。
「でもまだ爆発はしてないから……」
「爆発したら良いと思ってる俺がいるんだが…」
「家が半壊したら困るから……結界でも無いと勘弁してほしいね」
「止めるとは言わないんだな。俺も言わないけど
だって、自業自得なんですもん。助ける義理もない。何より……私の眷属を蔑ろにしたんだもの。助けるなんて端から無いわ。今から止めに行くのは家を半壊させないためと、八雲も精神安定上良くないからだし。律儀だからね八雲は。
家を半壊させたら罪悪感で落ち込む……なんてまだ生易しい。落ち込んで…落ち込んで……最終的には自暴自棄になって投げ槍になって命投げ出すよ。
冗談じゃなくて割りと本気で。そんなやつなのである。
どうも八咫烏一派は私の眷属の中でも下っ端に思われている八雲に対して態度が悪い。まぁ、確かに元は自分達の主を暗殺しに来た(本来は私がターゲットにされたけど)のを考えると嫌っているのは分かるけど、こうも明らかに嫌がらせしてくるのも……癪だ。腹が立つ。もうあれから8年も経つのにいい加減にしてほしい。
嫌うのなら話しかけないでもらいたい。その方がマシってもんだ。
それにしても、八雲が下っ端なんてなんの冗談なのだろうか。単純な戦闘能力でいえば確かに低めかもしれない……けれどもそれは妖力云々の話であって、実力だけなら眷属の中ではトップクラス。一番の実力者のポチをもしかしたら追い越すかもしれない。
それが知られていないのは眷属の中でも温厚で我慢強い性格だからだ。それと、嫁さんと二人でからかっているので見えないだけだ。
この8年私の眷属になって更にメキメキと実力と妖力をつけ始めた八雲と、母さん主上主義でこの季節の箱庭から滅多に出ない八咫烏達と果たしてどちらに軍配があるのか…は、
「一目瞭然なんだけど…ね」
「なんの話しか分からないけど、多分同意します」
喧嘩なんか売ったら倍返しなんてもんじゃない目にあうってことです。
そして現場に着いた、のだが……
「ですからね、俺に言っても意味ないんですって!」
「貴様が自らの主に意見すれば良いことぞ。言い訳せずに若にいえば良いのだ」
「貴様に拒否権などない。我らよりも若輩者の癖に口答えとは何事か!」
「……だから、ですねぇ……俺からボスに言うことなんて何もないって言ってるじゃないですか! 俺は今の境遇に満足してます。部外者に言われる筋合いなんてありませんよ。」
「貴様になくとも我らにはあるのだ! それに貴様には前科もある……忘れたとは言わせんぞ」
「貴様は我らが主を害そうとしたこと…我らはまだわすれはせぬ……それをノコノコとこの場に来るとは…恥を知れ!」
「長からも言ってやってください!」
『……危険分子はこの場には相応しくない……』
「それアンタが言います?」
『……何が言いたい』
………おやぁ? 日頃気配に疎い気が八雲さんでもこれほど接近しても気がつかないなんて相当頭に来てますね。それにしても……何やら楽しそうな話をしているじゃないか。
八雲も空気を読んでいるのかあの時の事は話したがらなかった……もしかすると一応立場上八咫烏を庇っていたのかもしれないなぁ。これは面白い話が聞けそうな予感♪
「(悪どい!悪どい顔してるぞレン!)」
「貴様!長に向かって無礼な!」
「分を弁えぬかぁぁ!!」
「ボスの御生母様の手前これでも分を弁えていた筈ですけどね? はっきり言います。八咫烏さん。アンタ正直紅蓮様が気に食わないんでしょ? だからあの時……俺も正直あの時の自分を首絞めたくて仕方ないですけど、あの時の警備に穴開けたアンタには言われたくないです」
「なっ!なにをいっているか!」
「長に限ってそんなことはあるわけがないだろう!!」
「元々……俺があの場所にまで侵入できたのが可笑しかったんだ。ボスだって麗春様だって言わないだけでとっくに気付いてますよ。」
うん、知ってた。
「あの人たちが気がつかないなんてあり得ない……それなのに今まで気がついていないなんて思ってたなら……相当鈍いですよ」
うん。勿論母さんも父さんも知ってた。当時は怒り狂ってたけど、特に父さんの怒り様ったら……まさに龍の逆鱗に触れたって感じたったわ。止めるのに苦労した。結局八咫烏は父さんによる報復は間逃れたが……約数年ほど左遷されることになったが……まぁ、それはそれで罰にはなったのだろうけど、懲りてはいなかったようだ。
「俺一人ならまだしも、ろくに実力もない奴が三人も居たのに……アンタは監視も着けずに放っといたんだ。誰が先に標的になるかも分かってたんじゃないですか? 紅蓮様や藍苺様の護衛は極端に少なかった……誰が狙いやすいなんてアンタには簡単に分かってたんじゃないですか?」
『………』
「何を…っ!」
「無礼な!!」
「特に紅蓮様を間近で見てきたアンタなら容易に紅蓮様がとる行動も予想できた。家族が絡むと自己犠牲を見せるって。そして藍苺様の危うさも理解していた……紅蓮様もアンタがここまでするなんて思ってなかったのがあの騒動を悪化させた……まぁ、俺が引き起こしたんですけどね…」
あの時の騒動の事は未だに気にしていて……こんな風にネガティブなのか勝ち気なのか分からない性格になってしまうのです。本人もこの時はどうしたいのか分からないだってさ……病んでないか?
「煩いわ!全てお前が悪い!」
「そうだ!長もなにか言ってくださいよ!」
「まぁ、確かに俺が悪いんですけどね。……でも事実でしょ。それに、ボス――紅蓮様は滅多に実家には寄り付かない……誰ためだと思っておるんですか? まさかアンタ等が嫌味ばかり言ってて寄り付かないだけかとでも思ってたんですか?滑稽ですね……これ以上麗春様とアンタ等が仲違いしないように気を使ってるんですよ。年下に気を使われて恥ずかしくないんですか? 勿論あの人の性格ならめんどくさいとか諸々あるでしょうけど……」
言いたい放題言われてるよね私。そんなんじゃないよ? 確かにそんなこともチラッとは思ったけどさぁ~。でも大半が面倒臭いって考えるのをやめたんだよね……てへ!
………あ゛ぁぁ…自分でやってて気持ち悪いわ。
「(こうしてレンは考えるのをやめた)」
ちょっと、〇ーズ様と一緒の括りにしないでよ。それとあのマンガ読んだことないから突っ込めないよ!
助けに入らないのかって?
子供同士の喧嘩に親が出ていく必要はない。八雲がキレて手がつけられなくなったら止めるけど、彼奴らが先に仕掛けてきたんだから……私が止めてやる義理はなぁい。
さて、どのくらいで決着着くのかなぁ……♪
楽しんでます。紅蓮楽しんでます。
そしてそんな紅蓮に藍苺はドン引きしながらも同調してます。
そして他の眷属達は殺気を出さないように必死で気配を消すことに集中してます。仲間思いなんです。




