闇に蠢く正体は
注意!
この話は少し……表現上グロい部分や差別的な事を話します。ですが、これは想像上の話です。
それらをふまえてお読みください。m(__)m
蠢いた。動いたじゃない。決まった形のあるものが動いたんじゃない……形が無いものが文字通り蠢いたのだ。
多分不定形の魔物だろう。
「困ったなぁ……」
「……普通に攻撃……はダメだな。」
ゲームならスライムもごり押しで物理で殴ってもどうにか倒せただろう。しかし此処は現実だ。
確かに、術でぶっ飛ばす方法もあるにはある。高火力で一気に蒸発させるのが一般的な不定形の魔物の対処法だ。しかし……
「狐火で殺れば直ぐ倒せるけど……作物に被害を出さずにってのは……面倒。」
「おい。」
だって、狐火の対象から外すとなると一苦労だし……やろうと思えば……出来なくもないけど、正直やりたくないのが本音だ。
「はぁ……面倒臭がり。」
「どれだけの数を対象外に指定しなきゃいけないと思ってるの?人一人くらいなら意識しなくても出来るけど……この北海道の畑に匹敵する広大な作物をどうやって対象外にするのさ……一日掛かるよそれだけで。」
「………ダメか。」
「ダメだね。明日の仕事もあるし。」
さっさと終わらせてさっさと帰りたい。明日も朝が早いのだ。早く寝たい。
「と、本音はここまでにして。実際こいつらの正体と出所を探さないと。倒しても切りがないよ。」
不定形の魔物には発生する種類がある。汚れた沼地で発生するヘドロ型。綺麗な水辺で発生し、汚れを浄化する浄化型。生き物の死骸がより集まって出来る屍型と、環境と状況に合わせて様々な種類がいる。私の実家の周りを掃除するのは森の掃除屋型。
今回の不定形は果たしてどちらか。
もしもヘドロ型なら作物はもう食べることは出来ないだろう。汚れた泥で汚染されているので有害だ。腹を壊すし、臭いも酷い悪臭がする。
そうなれば作物ごと燃やしてしまえるのに……
一番厄介なのは屍型だ。奴らは体が腐るのを食べ物を食べることで保持している。原理は分からないが、そうやって妖力で保持するために大喰らいで、目につくものは手当たり次第食べ尽くす。見た目もグロい……肉の塊に内臓や骨が突き出ていて……手足が針鼠の様に映えているのだ……
おぉ…グロいグロい……
それにしては被害が転々としていて……作物が所々残っているから屍型ではないだろう。
ヘドロ型でもない。臭いがしないから。屍型も若干死臭がするがヘドロ型よりは幾分……マシなんだろう。私はどちらも嫌だ。
となれば……浄化型?
けれど、どうして浄化型が畑を荒らすのだろうか? それに彼らは人里近くには現れない。綺麗な水辺に生息してあるからだ。人の近くというのは少なからず汚れているものだ。王都なら尚更。食べ物目的でもないようだし……
では何故ここに居て、尚且つ畑を荒らすのだろうか………
「んーーーーん……」
「なんか分かったか?」
「不定形で、多分浄化型ってことは……推測だけど、何らかの要因でここに来て、何らかの事情で畑を荒らしている。って事なのかな?」
「……何でここに居るんだよ浄化型だろ?」
「そうなんだよ……それと畑荒らすところが……さっぱり分からない。」
分からなければ探せばいい。現場百回と刑事ドラマでもいうだろう。考えるのは性に合わない。目で見て探ろうではないか。とか言ってみる。
「んーーーーん……ん?」
「どうした?」
滅茶苦茶に荒らされた畑をよく見るためにポーチからランプを取りだし翳すと何かが光った。
その場に屈み、光った場所をその辺にあった棒切れで掘り出してみる……
「……なーるほど…ね。」
「ん?」
そこから出てきたもの………
「これが原因か。となると……誰が?」
「……分かったのか?」
分かったもなにも……面倒だなぁ………
「一旦帰ろう。ここに居ても仕方無い。」
「帰ったら教えろよ?」
「勿論……でも、無い頭で考えるからちょっと時間を頂戴。ちゃんと言うから。」
「ああ。あまり根を詰め過ぎるなよ。」
「うん。」
これが私の想像通りなら……これは荒れるなぁ……。私達は巻き込まれるなこれは。
最悪の事態を想像しながら今回は家路に着いた。
――翌日――
「で?分かったんでしょレン?」
呼ばないのに朝イチで報告を聞きに来た……奴で十分だ。奴は来た。しかも、いつもの軽い調子を止めやしない。しかも嫁さんと同じ呼び方しないでほしい。ホントに止めて。
「今日はランさんは居ないのかい?」
「馬鹿は口を噤め。聞きたいのはこっちの方だ。何をやらかした……誰の怨みを買ったんだ?」
こんな奴に藍苺を会わせるのも癪なので家の方に籠っている。何かあれば飛び出して来そうだけど…。
ソレはさておき、
問いただしながら例の物をカウンターに叩き付けるように置いた。勿論、壊れないように手加減はした。カウンターも千年樹製の頑丈なもの……傷なんか互いに付かない。
「……あ~~なんだいソレ。」
「…………」
如何にも知ってますって顔で知らんぷりをする奴は梃子でも言わないつもりらしい。目がこれでもかってくらい泳いでいる。
「仕方無いな。この手は使いたくなかったんだがなぁ……」
「ヒッウッ!!」
我が店のカウンターは客側よりも若干高くしてあるのだ。なのでほれ、この通り奴の顎を鷲掴みして、睨み付けるのも簡単。そして若干上に持ち上げ足を浮かせることも出来るのだ。余談だけど私の今の身長は169㎝。目指せ170㎝代!
ちなみに奴の身長は……悔しいが175以上……カウンターが高くなければ出来ないんだよこの状況。
知っているかもしれないが、顎と言うのは色々と脆いのだ。力一杯掴めば痛い、かなり痛い。そして極めつけに持ち上げるのだ。痛いなんてもんじゃないぞ。下手したら頸椎とか諸々痛めて……下手たら……死ぬより悲惨な目に逢うので皆さんは真似しないように。顎関節症の人には地獄が待ってるよ……
紅蓮さんとの約束だよ♪
と、まぁ、ふざけるのもこの辺にして……
「さっさと吐けオラっ!」
「ひゅみまひぇん!」
《訳、すみません…》
「謝るくらいならさっさと吐けっての……顎を砕かれたいか? 片手でも余裕で出来るぞ?」
「ひぃぃ!!」
心持ち指に力を入れて凄む……すると青ざめた顔は見る見るうちに鬱血してきた……もうそろそろ放そうかな……
「わ、わかっか。わかっかからはにゃひてふれ!」
《訳、わ、分かったから放してくれ……ですマスター。》
「………」
可愛らしい子猫から可愛らしくも優美なロシアンブルーの美猫に進化したクラウドさんは何故か頼みもしないのに奴の言っていることを訳している。うんうん、分かったから、分かったからちょっと黙ってようね?今はシリアスなんだよ?感知されないからって奴の頭の上で顔を洗わないで……笑っちゃうから……
………オホンッ。気を取り直して。
腕も疲れるので手を離すと情けなく転げ落ち尻餅を着いた。まぁ、そうなるだろう。
クラウドさんはその前にちゃんと奴の頭から退いていた。今は優雅にカウンターに座っている。
カウンターに肘をつき、煙管を口に加え人差し指に火を灯して火をつけた。紫煙を吹き奴を睨み付ける。奴に吹き掛けても良いのだが、そこまでするのもどうかと思った。
《マスターの息ならコイツは悦びそうな気がします! 変態で…》
(いい加減にダ・マ・ロ・ウ・カ。)
………煙管を再度吹かし奴に問いかけた。
「さっさと話せ。今度は尻に火をつけて下町中を走ってもらうことになるぞ。」
《(過激です)》
「う゛ぅぅぅ……顎が痛い。」
「喋りたくないなら砕いてやっても良かったんだぞ? く・だ・い・て・も・な。」
「わ、分かった…分かったから……白状する!」
ようやっと白状した。手間をかけさせやがって……
奴の抱えたいる問題は、やはり痴情のもつれ……何とも情けない。
話は一週間前に遡る……
今から一週間前、奴の父親さんが奴の女癖の悪さにとうとうキレて許嫁を見繕ってきたのだ。
そこで恋人が居るから回避したいらしい奴はあの手この手で掻い潜ろうとしていた。
ま、親の決めた許嫁何て嫌だってのもわかるけど……相手もお前なら嫌だろう。そこは考えなかったのか?
で、だ。その許嫁も奴の事が嫌いらしい……だよな。そうだよなぁ~。人生の伴侶には役不足ってか嫌だよな。女癖が悪いから。
《私は猫ですがお断りですね。》
(だよねぇ~)
どうも許嫁が現れた辺りから変にアプローチしてくる女が出てきたらしい。
バカはその女に手を出したらしい……ほんまもんの馬鹿だ。コイツ……。
《最低です。》
その事が彼女にバレて捨てられた挙げ句、親にもバレて勘当されそうなんだとか……自業自得だろ。
どうも浮気相手の女が色々とバラして回っているらしい。それに気付いた奴は問い詰めるとアッサリと認めて逆に結婚を迫ってきた……ハァ……類は友を呼ぶのか。勘違い野郎に勘違い女。お似合いなんじゃないか?
で、未だに未練がましく恋人と寄りを戻したい奴はソレを断ると……家に色んな類いの嫌がらせが来るわ来るわ。どうにかして来いと家を追い出されるように昨日ここに来たと……自業自得だってばよ。
《この世から抹殺した方が世のためになると思います。》
(馬鹿な男が一人消えようがなんも変わらんよ。こんな碌でなしの常時発情期男なんてそこいらに居るし。)
《マスター……ホントに男性が嫌いなんですね。》
(別に皆がそんな碌でなしじゃないのは知ってるし、全ての男が嫌いって訳でもないよ。関わりたくないだけで。)
《ソレは…嫌いと何が違うんですか?》
私にも分からない。偏見だって事は知っている。けれど、私が述べた様な奴が居ることも事実……
特に奴は………悪びれもしない。罪悪感さえ欠片もない。吐き気がする。
「もう、お前がその勘違い女と結婚すれば丸く収まるんじゃないか?」
「僕は恋人と結婚したいんだ! 彼女以外は嫌だよ。」
その恋人お結婚する気も無さそうなくせにな。
「そのくせ浮気はするのかよ。人として終わってるぞ。」
「あれは浮気じゃないさ。ただの味見だよ。自分の彼女がどれだけの素晴らしいか再確認するために必要なんだよ。」
「そんなの勝手な浮気者の解釈だろ。いや、言い訳にしか聞こえんな。お前みたいな奴は単なる浮気者の尻軽種馬発情男って言うんだよ。威張んな気持ち悪りぃ。」
理解できない。コイツの思考回路が理解できない。理解したくもない。どうして愛している相手がいるのに他に女を抱けんだよ……ホントに訳わかんねぇ……。私なら死とどちらを選ぶって聞かれたら迷わず死を選ぶ。
《マスター……それほどに藍苺様を…》
狂ってるって? 悲しませるなら裏切らずに死にたい。浮気して悲しませるより、死んで悲しませたい。歪んでいるだろう。私も自覚してるよ?
「君にはまだ分からないよ。まだ子供だから。大人ってのは建前と……」
「御託はいい。今回の事はお前の軽い頭と下半身に頭が有るから起きたことだ。この簪……。」
「う、僕は……!」
「殺したんだな。」
「ち、違う!か、彼女が勝手に落ちたんだ!助けようとして手を伸ばしたら……簪だけ取れて……彼女は川に落ちたんだ!勝手に落ちたんだ!!」
「間接的だろうが直接的だろうが……お前が原因だろ。正直に認めな。直ぐに届け出ればよかったんだよ。事件性がないと……けどお前は逃げた。それが良くなかったな。」
どんなことであろうと、他人が死を隠し、逃げるとこは許されない。……例えソレが顔見知りでも……
「お前の家も裏を知る数少ない一人だろ? それなら私がどちら側か……分かるよな?」
「へ、兵に僕をつき出すのか!たっ頼む、後生だからそれだけはっ!」
「見逃すわけ無いだろう……法に触れなければ私は下町のしがない雑貨屋店主……だが、法を犯せば私は許すわけにはいかない……それがこの下町の元締め役の勤めだからね……」
それが白の王から与えられた役目、押し付けられたものだけど賜ったからにはその仕事を全うしよう。ま、その見返りもきっちり貰ってるし。守銭奴何てあだ名つけられたよ♪
だから、顔馴染みであろうがなかろうが私は容赦しない。
私のは雑貨屋とギルド下町支部のマスター……けれど、本当にここにいる理由は……下町に仇なす輩の排除……番人だ。
《マスター、すでに二足を越えています。》
ああ、これじゃ二足のわらじじゃなくて三足のわらじになるね。ま、良いか。
私の夢を元にして書いてます。夢でのたち位置は紅蓮でした。みんなが見えないのに私だけ手首だけのお化け?が見る。そんな夢でした。