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怒ると恐い……
俺は今混乱している。護衛対象のご令嬢は俯いてぶつぶつと何事か言っているがちょっと恐いし俺も混乱している……構ってやる余裕がない。
「聞いてる?」
「あ、あぁ…うん。」
何故混乱しているかというと……その、
「どうして捕まってるの?・・・ねぇ、よ・め・さん?」
「油断しました」
「ハァ……何でよりによってこんな時に……怪我は?」
「無いです」
「良かった。」
なんと身元不明の女性は……とっても綺麗な化粧をした美女になってた紅蓮でした。化けてるわけでは無いらしい。
口紅とアイシャドーを薄く化粧しただけでここまで化けるの?確かに女顔だけど、ここまで色気が出るの?なんでや!?
「それにしてもどうして逃げなかったの?私としては仕事上好都合だけど……逃げるのなんて簡単でしょ……この鉄柵なんて脆いし…」
「守りながらの脱出は無理っぽかったそれに―――」
「ちょっと傭兵さん!逃げれたのににげなかったの!?こんな所にどうして長居しないといけないのよっ!」
「……これが原因か」
「うん」
察してくれた。
どうやらレンは何処からか掴んだ情報からここに捕まることによって潜入して証拠と犯人の確保をしようとしていたらしい。そしたら俺とこのご令嬢が居たと……うん、ごめんなレン。
お前こう言う女性嫌いだもんな。だから眉間のシワ隠せよ……うん、無理だろうな。
「では逃げましょう。」
「初めからそうすれば良かったのよ……そしたらこんな思いしなくても済んだわ!」
「・・・逃げるに当たってひとつ守ってもらうことがあります。これを守ってもらわなければ……無事に脱出は出来ないでしょうね」
「なんです?」
「あーっと……なあ?」
「一言も喋ってはいけません。守れますね?」
「どういう意味です?それではまるで私がっ――」
「守れますね?(黒笑)」
「………(怒ってる、静かに怒ってる)」
「……はい…」
うん、こうなるだろうなぁ…とは思ってたさ。
「では、こんな場所からさっさと脱出しましょうか。」
「その前に!……あなた誰ですっ! 見知らぬ者に着いていくなど……」
「申し遅れました。あなたの(一時的な)護衛の夫でございます。どうぞ(関わりたくないけど)よしなに……」
「夫っ……あなたの?」
「ええ、まあ。」
ご令嬢はレンのことを女だと思ったようだ。頻りに「だって……女性にしか……」とか信じられない顔で見ている。まぁ、確かに顔の作りは女みたいに繊細だけど……声はまるっきり男だろ。高めではあるけど、こんな女性も……居るのかな?
でも声を聞く限りでは男だよな。
いや、でも前世のレン(ベル)は少年声で両性類って呼ばれるくらい性別が行方不明だとか言われてたなぁ……俺も人のこと言えないくらい変声期遅かったけど……さ。
「生まれた時から立派な男ですが」
「し、失礼しました……」
あ、コイツ見惚れてるな。レンを異性として認識しやがった。現金なご令嬢だな。レンは俺のだからな……わかってんだろうな……
っと、レンに肩を叩かれて正気に戻る。危ない危ない、闇の意思的なナニカに囚われるところだった。
きっとこんな感情を抑えきれなくなったらヤンデレになるんだろうな……おおコワッ!
「さて、出ましょう」
「出るって……この鉄格子は頑丈で人の力ではびくとも…」
「<ミシッ>――はい?何か?」
「――あ、いえ、何でもありませんわ」
「そうですか。」
「(俺よりも実は力があるレン……)」
小さい頃は俺の方が力が強かったが、
14歳辺りから実は力では抜かれた。背も抜かれた……隠しているのは俺のプライドのため。
負けず嫌いの俺に気を使ってるのかもしれない。そんな事をしなくても良いのに……
俺と違って器用なレンは力加減も出来るのでどんな武器も使いこなすオールラウンダータイプ。でも専ら後衛に徹してることが多い。主に俺の所為で。
闘いになるとつい敵に突撃しちゃうんだよな。
「私が先導するから着いてきて……なるべく走らずに物音たてないように…」
「忍び足…な。了解」
「わ、わかりました……」
ご令嬢の格好――地味めだけど隠密行動には不向きなドレス……今流行ってるからなドレス。に、踵の高いヒール……足音が…――多分敵に見つかる。そんな彼女にレンは容赦なく言った。
「お嬢様、靴をお脱ぎください。邪魔です。」
「なっ!!」
言葉を無くしたご令嬢にレンは追い討ちとばかりに付け足す。
「出来ればその邪魔なスカートも切るか縛っておくかしてください。邪魔です」
「……っ……」
女でも容赦しないレンに心の中で拍手を送った。よく言ってくれた。元々よそ行きの格好で買い物何か行くもんじゃないんだよ。
服が汚れるとか言いつつ、人の喧嘩に首突っ込むわ、子犬が泥だらけで可哀想だと――これは飼い主にさっさと預けた。お陰で俺は汚れたけど――同じく泥だらけの子供に説教するわ。
もう、このご令嬢の護衛ヤダ。依頼じゃなければとっくに匙を投げてる。
「では行きましょう」
「敵ってどのくらい居るんだろうな?」
「さあ?……ただ、この屋敷は元々貴族の持ち物で最近売られた様だから……それなりの財力を持ってるって事だし……かなり居るんじゃない?」
靴を脱がないならヒールを折るというレンの脅しと俺の切るよりも皺が付く位で済むなら縛っておけば?という妥協案を首が痛くなるんじゃないかと思うほど振っていたご令嬢はレンの言いつけ通り静かにしている。
恐るべしレンの睨み。美人がやると三割増し怖いってホントなのね。
「……しぃ、止まって」(階段上に見張りが……1……2――二人か。)
「見張りか?」
「うん。ここは同時に潰すよ……嫁さんは右の奴、私は左のをどうにかする」
「了解」
どうも犯人たちは俺達を見くびっている様だから好都合だ。レンもこんな事は慣れているのだろう。俺が任された見張りを伸している間にすでに片付けていた。瞬殺だったようだ……強っ!
その後も難なく犯人たちを瞬殺(気絶だよ)していって裏口に到着した。到着まで有した時間はおよそ10分……お荷物抱えてるのに早いな。
実際にやったら物凄く難しいのによく出来るもんだと感心してしまった。
「―――ふぅ…着いたね……後は二人で逃げてね。」
「え?」
俺が何でだと顔をガン見すると便利通信網(心の声的な何か)で説明された。
(今からお仕事だからね。家に帰ってね。コイツらを一網打尽にするのが仕事だから……ね?)
(それって俺が邪魔ってこと?)
(藍苺がってより、そのご令嬢が邪魔だね。だから帰って)
(…………(-_-#))
(イジけないの。ほら。)
レンの言っていることも最もなのでここは俺も引くことにする。ハァ……レンに余計な手間をかけさせた。
俺は知らなかった。その時あのご令嬢が変なところで正義感を振りかざして護衛たちが怪我をしていたことを……体よく俺がその依頼に耐える程強いと思われていた事。
何より、俺に何かあってもどうにでもなるとご令嬢並びにその両親は思い込んでいたこと……
このあと俺はレンの本当の怒りを見て、彼らは恐ろしさを知ることになるなんて……
俺達は誰も予想できなかった。
化粧はホントに薄くなのでほぼ何もしていないのと一緒ですよ。紅蓮は予想以上に女顔……まぁ、前世女だから良いかと納得してます。




