雑貨屋と二足の草鞋です。
今回は短いです。
藍苺が仕事から帰ってきたので奴の持ち込んだ依頼の話をしながら食事をしていた。
今日の献立はシチュー。季節は春になり始めなのでまだ寒い今日のような時には倍美味しさが増す気がする。
「………モグモグ…………で?」
「受けたからには私が行ってくるよ。藍苺が嫌ならさ。」
「アイツはお前を口説こうとするからな……信用できない。俺も行くぞ。」
やはり奴にいい気は持っていなかった嫁さんに苦笑いしてシチューを口に運ぶ。パンを浸けて食べると美味しいよね。
「それに、レンは前衛タイプじゃないだろ。前衛の俺が居ないと……モグモグ」
「そうだね。何が畑を荒らしているか分からないからね、藍苺が居れば心強いよ。でも、気を抜かないでね?」
「それはお前もだろ。日頃外に出てないんだし。」
それもそうか。最近外に出たのは……一週間前かな? こりゃ……引きこもりになったと言われても仕方無い。店番をしてると定休日じゃないと外に出れないからね。依頼があれば外にもでるのだが……この頃は嫁さん一人でも出来るようなものばかりでずっと留守番だったのだ。
今回はそうもいかない。奴の指名があったからだ。ご丁寧にも指名に私をしてきたのだ。しかも、畑を荒らすのは決まって夜らしく、店を八雲に任せて行くことになりそうだ。
実はこの雑貨屋は二つの役割を果たしています。一つは、下町の治安と状況を国に報告すること。嫁さんの親でもある白の王からの土下座と燈何て氏を賜ったし、このくらいの事はしている。白の王の土下座にはドン引きしたけど。
もう一つは……両親が始めたギルドの下町支部を担っているのだ。さっきの奴の依頼も指名さえなければ本部の方に届けたのに……。
この雑貨屋は依頼の受付を主にしている。狩人や傭兵が依頼を受けるのは両親が経営している本部の方が主でこっちにはあまり来ない。そもそも、下町まで足を運ぶのは面倒なので皆本部に行くのだ。
勿論、本部にも有るような上級向けの依頼もここで受けることもできるが……受けるのは嫁さん位だ。
たまに両親から指名されて依頼を受けるけど、両親も気を使ってかこの頃は少なかった。
その為運動不足解消も兼ねて今回の依頼は別に嫌とは思わない……奴の依頼では無いならね。
「いってらっしゃいッス~」
「行ってきまーす。」
「店番頼んだよ八雲~。」
「任せてくださいッス」
ギルドの下町支部と言うことで基本的に24時間営業だ。その為八雲は夜に、私は昼間と別けて店番をしていたのだ。
私は店番をしながら色んな物を作ったり、暇潰しに折り紙折ったり……客が来ない時間帯には料理したりしている。術で万引きや強盗を防いでいるので店に出て居なくてもいいのだ。客が来れば知らせる鈴もあるし……
それにしても……ここ8年足らずで国中にギルドの名を広めたもんだよ。そこは王族の助けがあったからもあるのだけど……父さんが「子供である紅蓮が稼いで俺がなにもしないなんて……これじゃダメだ!!」と言い出して……あれよあれよとギルドを設立。
それに前面賛成した母さんが張り切って……うん。色々ありました。宣言通り10歳で家を出て、稼いだ。父さんがギルドマスターを勤めていたのも幸いして結構稼げた。チートを嬉しく思えたのはこの時くらいだ。
それから暫くして藍苺もギルドで依頼を受け始め、あれよあれよと……私の家に転がり込んできた。
ま、別にそれは良かったんどけど……うん。嫁さんのチートが開花して私を遥かに凌駕する戦闘能力がついてました……私は最早足元にも及ばない。
今ではギルド1の働き手だ。
正直周りからは不甲斐ないと陰口叩かれているけど、そこは気にしない。だって嫁さんが叩き潰したから。
「なあ、どれくらい掛かるんだ?その畑。」
「ここから30分辺りで着くよ。」
それにしても……と嫁さんが疑問を口にする。
「何で畑を荒らすんだ?奴の家の畑なら父親の方が本部に依頼するもんだろ。何でこっちに……下心でもあるんじゃねぇか?」
「さぁ。依頼されたなら行くまでだよ。何かあったらその時対処する。奴が下心で何か企んでいたなら……」
その時は本気で粛正する。依頼を偽って私らを派遣させたならそれ相応の償いは受けてもらう。それがギルドの掟。性質上嘗められたらダメなのだ。何せ……
「(両親が辺境伯の爵位を賜るなんて…)」
白の王には困ったもんだ。何の相談もなしに爵位をポーンと寄越したのだ。その時の母さんの激怒っぷりときたら……その後王には王妃からのお仕置きがあったとかなかったとか……定かではない。
なので、ぽっと出の辺境伯の我が家には敵も多い。嘗められたらダメなのだ。ちなみに辺境伯の爵位と共に贈られた氏は珀。文字に王と入るため……周りの嫉妬が半端ない。
王曰く王に近い者。確かに白の国の王族には白龍の血が流れている……けど、私たちからしたらいい迷惑だ。
我が家を巻き込んでくれた王にはかなりの無理を言ってみた。その一つがギルド発足だったんだけどね。
役割は皆さんが知ってるギルドと変わりはないと思う。元々傭兵という職業はあったのだからそれを統べる機関がなかったことの方が不思議なくらい。
ま、力を持たれたら困る貴族達が猛反対してたからなのだけど……今回もその事で一悶着ありそうで嫌だ。
さて、小難しい話はこれで終わりにして、今回の依頼を説明しよう。
今回の依頼は、依頼主の家が所有する下町から程近い畑に夜な夜な現れては荒らす何者かを捕らえる。または排除するのが依頼だ。戦闘になるか、はたまた追いかけっこになるかは未定。不確定要素がありすぎるため今回はバリバリの前衛である嫁さんに同行してもらうことになった。以上。
「眷属たちは?」
「八雲以外は居るよ。影に忍んでる。」
依頼があった畑まで歩いても30分程で着くだろう。下町ってのは王都の端に在るから外の方が近いのだ。その為、攻め込まれたら一番に被害が出るのも下町だ。貴族連中はそれを分かってない。
壁が薄ければ、攻め込まれたら自分達も危ないってのに……。金を湯水のごとく使うなら王都の周りの壁を補修しろっての……力自慢の妖怪が突進でもしたら一気に総崩れするだろうさ。私も報告はしているけど……どうも何処かで握り潰されているようだ。後で直接報告にでもいこう。
「なあどう思う、今回の依頼」
「怪しいって言えば怪しい。けど、奴もそこまでバカじゃないだろ。」
「この頃やけに悪い噂ばかり聞くぞ。アイツもついに年貢の納め時……とかさ。」
「どんな噂?」
私にも入って来なかった噂だ。多分酒場辺りの噂なんだろう。雑貨屋に来る客は確かに多いが年齢層は幅広くても傭兵やゴロツキ共は滅多に来ない。だって来たら何かやらかして直ぐに退場するから……お得意の撃退術でぶっ飛ばすからね。
懲りずに来るのは奴くらいだろう。
「何でも、とうとう結婚するとか。酷いらしいぞ、彼女がいたのに親の決めた許嫁に鞍替えしたって。しかも、彼女と別れるつもりがないって話だ。」
「ハッ、これだから男ってのは……」
「それは偏見だ。てか、今男なのお前じゃん!」
「まぁ、そうだね。」
話ながらも足を進めるこ3約0分。
目的の畑に着いた。やれやれ、何があるやら……
暗い畑は広く、それでも所々荒らされているのが分かった。
そして、私達から二・メートル程離れた所で何かが蠢いていた……
続きは遅くても二日後には投稿します。