いつまでも仲の良い友達は大切
グダグタ御免!
今晩の献立は採れたて椎茸のバター炒めとジャガイモの炒め物をしようと私の本体が考えている頃。私はと言うと更に二人に別れて各々の目的地を目指していた。
どうも、お初にお目にかかります。紅蓮の分身体の一人、貰った名前は壱。安易ですがそれほど嫌ってもいません。寧ろ名前を貰えたことの方が嬉しいですね。あ、イントネーションは市と同じです。数字の1ではないんです。
さて、もう一人の分身体も紹介しておきましょう。
(どうも、分身体二番目の弐です。以後お見知りおきを……)
はい、予想通りの名前ですね。彼は二番目に分身として誕生した弐です。あ、私が一番最初の分身体です。ちなみに良く店番をするのは参です。はい、三番目の分身体です。彼は私達よりも主の本体と繋がりが強いので重要な位置に何時も居ます。
そんな彼は私達よりもストレスがさぞや溜まっていることでしょう。南無南無……
(ちなみに私達は今鳥に化けて移動中です)
(いやぁ…飛ぶのは本当に気持ちが良いもんだねぇ~。あ、鳶が挨拶してきた)
移動するのに飛ぶのは分かるが、何で鳥なのかと言うと、目立ちにくいからです。窮奇は翼を持った虎の姿ですから目立ちます。白龍などもってのほか。となると、九尾は狐です。化けるのは朝飯前……と、言うわけでなんの変鉄もない烏に化けているのです。
そうそう、分身体は今のところ9体居ます。まぁ、表に出るのは精々五番目まででしょうが。何分力も使いますし、闘いでは多くいれば邪魔になる様です。各々自我があるとはいえ、確かに9体も居れば邪魔になりますよね。
おっと、話が脱線しましたね。どうも話が脱線するのは本体と同じでして…。
(端的に言うと今本体…我らが主の御生母様の所に移動してます。)
(気取られぬ為には転送陣は使えないので、こんな手間をかけなければいけなかったのですよ)
全く。世間は如何に本体に負担をかけるつもりなのだか…。本体も人が良い。こんな世界は早々に消し炭……はダメか。後が面倒だしな。
(壱よ。恐ろしいぞ?)
(そうか?弐よ)
この様に互いの顔はそっくりな為に、自分が誰か忘れない為にも名前を呼びあっている……気分は顔のよく似た兄弟だな。
(しかしあれだな弐よ。御生母様は何か知ってると思うか?)
(さてなぁ…俺にはトンと分からんよ)
まあ、我ら分身体が気にすることでもないか。我らの存在意義は「主たる本体の命令に従うこと」だ。そう言うと必ず本体は悲しい顔をして如何にして我らが必要か役に立っているかを頭に響く脳内通信で説くのだ……うん。まぁ、悪い気はしないな。
それだけ我らの本体はお人好しなのだ。
だから我々9体は命令も聞くしこなすのだが……
(さて、我らは途中までは行きが同じだが……どちらに行きたい?)
(遠いのは猫姫の方だな……)
(どちらでも良いのだが)
譲り合っても埒が明かぬので私こと壱が御生母様のもとに行くこととなった。ちなみに猫姫とはミケ殿の事だ。彼女は化け猫一族なので皆からは猫姫と呼ばれている。主属性は風らしくすばしっこいお人だ。緑の髪をツインにして本体曰く「某ボーカロイド」らしいが、我らは本体の記憶でしか見たことがないのでよく分からない。
(では私は黒の国に行ってくる。御生母様に宜しくな壱)
(そちらも猫姫に宜しくな弐)
仮初めの翼ではあるが、使い方は心得ている。何もこれが初めてというわけでもない。そんな翼を目一杯広げ進路を北に向ける弐を横目で見ながら私はこのままの進路を進むのだった。
やれ、なにやら嫌な予感も……するのだが。
********
さっきも自己紹介したが、もう一度しておこう。紅蓮が分身体の二番目……弐だ。「に」ではなぞ、「ニィ」だ。たまに「アル」でもよかったと本体は言っているが、名前が有るだけマシだ。それが我々の見解だ。不満はない。
あるとすれば、もう少し自愛を覚えた方が良いだろう。何かと奥方や家族のためにと日夜あくせく働いている……もう少し休めば良いものを。
さて、私は猫姫のもとに行くか。私は自慢出来ることがある。分身体の中でトップクラスの速さを誇っている。あまり代わり栄えしない分身体の中でも突出しているのはそこくらいか。見た目は瓜二つ……いや、瓜九つか。
飛ぶ速度を上げるため翼を目一杯羽ばたく。白の国と黒の国の国境は厳重だが我らはそんなことは関係ない。どうも黒の国の王――噂では白龍にご執心で白龍だけには甘いらしい――は本体と本体の父上には甘いようだ。それで国がたち行くのか甚だ心配だが、まぁ、他国の事だ…どうでも良いだろう。
国境は厳重な守りで守られている。そして兵にも結界にも守られているこの黒の国は人間の入国には厳しい……。この世界の国の多くが人間主上主義ならば黒の国は妖怪主上主義だろう。国のトップは全て妖怪であり、人間には住みにくい国と言えるだろう……現にあまりの冷遇で嫁いだ女性が白の国に亡命してきた……噂ではなく本当に。
その夫は荷物をまとめて反対する親と縁を切り嫁を追いかけてきた……彼は黒の国から見れば裏切り者だが、我々から見れば強者だ。
黒の国に居ればなに不自由なく生きて聞けるのだから。それら全てを棄てるのはスゴいことだ。今も二人は中睦ましく暮らしている。この様な事態は稀でなく結構ある。その大半は人間の連れ合いを見捨てる。
何の為に結婚したのだろうか?
一時の気の迷いか?
間。どうでも良いとこか。
そんな強固な結界も本体が白龍な我々は結界などあってないもの。素通りしてしまう。
そんな王が治める黒の国に暮らしている猫姫は奇遇か必然か前世からの親友だそうだ。それにしては、本体に対する扱いが雑に思えるのは……何故だろう?
本当に助ける気があるならば、もう少し手を講じるハズだろうに。本体の両親もそうだ。何故か守りを徹底しないのは可笑しくないだろうか?
まぁ、鬱陶しいとも思うがなあの家族は……騒がしいので私としては離れて正解かと思うがな。
何も本体が好いているからと言って我々分身も好いているとは限らない。
まぁ? 奥方は守るべき尊い人だとは思っているがな。勿論恋愛感情は抜きにしてな。
おっと、目的の黒の国、帝都に着いてしまった。我ながら速いと思う。それもコレも本体がチートな一族の血を三つも受け継いでいるおかげか。この移動の速さは白龍からきていると推測する。窮奇も風属性で翼もあるが、速さは白龍が上だ。
…………また私は話が脱線しただろうか?
*********
ところ変わって……か?さっき振りだな。壱だ。
弐と別れて本体の実家に到着した。弐は移動が極端に速いのでもう目的地に着いたかもしれない。
速さはないが術の強さはピカ一…なハズ。それが私だ。
そんな私が一番強いわけでもないし、他が強いわけでもない。我々は皆同じくらい強い……はずだな。一人で闘ったことも片手で数えるほどなので強さなど分からない。まぁ、本体の3分の1はあるのではないか?
「あら?………紅ちゃんに頼まれてきたの?」
折角隠しているのに貴方がバラしてどうするか。ここには結界もあるだろうが何度も侵入されているのだ……もう少し考えてほしいものだ。
まぁ、ご自身はチートなので大丈夫だろう。だが周りはそうではないだろうに……如何に本体の親でも、私は尊敬も何も感情はない。我々にとっての親は本体だ。
だが、彼らは我々を子供と同じ様に接してくるのだ。謎だな。
「あら、紅ちゃんの分身なら私の子供と同じよ?」
「………(私は声に出しただろうか?)」
「いいえ。あなたは顔に出やすいもの……母親を甘く見たらダメよ♪ 特にあなたは紅ちゃんと同じで顔に出るんだから」
「(゜×゜)え?」
あれ?このお方――我らが本体の御生母様――は開心術なる妙技の使い手か何かか? 私は口に出してないぞ……このお人…出来る!?
「もう! からかっただけよ♪ 開心術なんてどこぞの闇の帝王よ。私は真っ当な九尾狐です!」
「真っ当な……?」
「……まぁ、冗談もこの辺にして……こっちよ、着いてきて」
今更だが、今いる場所はこのお方の自宅付近の本体曰く「洋館」辺り。何故か洋館には誰も近付かないのだが……まぁ、それはそれで別に良いか。
「聞きたいことは分かっているわ……まぁ、粗茶ですがどうぞ?」
「ご丁寧にどうも」
本体からの記憶には料理がからっきしダメだと知っているが、何故かお茶はちゃんと入れられるのだった。お茶は料理ではないからなのだろう。だがどうして料理をして毒に変貌したり爆発するのだろうか……我ら(本体含む)は疑問だ……本当に何故だろうか。
「私の料理の腕は日に日に悪くなっていくのよ……あぁ、お茶は大丈夫よ。たまに苦くなるけど……それは漢方の配合を間違えただけたがら♪」
茶に漢方なぞ入れんでも良いのに。と私は切に願った……苦いのは耐えられるが好きではない。
そんな私の不安も何のその、お茶とお茶請けのお菓子(多分メイメイという家政婦が作ったもの)を出す。この様な家から離れた所にあるバラ園は本体と御生母様の情報交換の場にはもってこいだ。そしてひっそりと佇むこの椅子とテーブルを完備した小さな………なんと言うのだろう……屋根のついた……うむ、お茶を飲むにはもってこいな場所だ……なんというのかは知らん。
「さて、お互い隠し事は出来ないもの……全てを話すわ」
「それは窮奇の血故か?」
「いいえ。母として…一人の大人として……なんて無視が良いかしら。」
本体と我らの身に流れる血筋故に我らは人の嘘が判別できる。窮奇とは正直者には罰を、嘘つきには褒美を……と、何ともな性格だと言い伝えられている。確かに嘘つきには褒美を与えた窮奇も居たらしいが、言い伝えほど凶暴ではない……今の一族は…な。昔は酷かったらしい。
「先ずは……茶の国について話しておきましょう」
周りの森よりも高い位置にあるこの場所は沈んでいく夕日はいつも見慣れた下町の夕日とまた違った様に思えた。
御生母様の話も終わり早々に私は本体の待つ雑貨屋に帰るのだった。
帰宅する私の後ろ姿を眺めながら御生母様が何事か呟いたのを私は知るよしもなかった。




