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続きです。
説教魔の話で大体の事は予想できた。
私が思うに……私の両親はやはり犯罪集団に周りからの信頼を利用されて隠れ簑にされているようだ。そして、手出しできないように何か人質でも取られているのか……そのところは私には分からない。
「今日はありがとう。その件についてはお前は今後首を突っ込むな、命がいくつあっても足りない」
「そこまで無謀でもバカでもない。そのところは心得ているさ」
「それはよかった」
未だに店内で駄々を捏ねている無謀なバカは未だ帰る気ナシ。頭に直接分身君のイライラが伝わってくる。あぁ、私もイライラしてくる。
「それにしても……大人気なく争っていた身としてはあまり言えたものではないのだが、お前の自称弟……お前と同い年だそうだな? あれで世間に本当に出ているのか? あまりにも子供っぽ過ぎやしないか?」
私から、ここらからお前に言いたい。自称をつけてくれてありがとな。皆誤解して父さんの隠し子とか。私の情夫とか斜め上過ぎる勘違いをする輩が多くてねぇ。本当にありがとうな。
それにしても、やっぱり精神的にアイツは子供だよね。甘やかしは黄の国では無くならなかったみたいでね。どんなに女官達を入れ替えてもみんなアイツのハーレム属性にやられて……アイツを甘やかすんだもの。そりゃ、成長はしないよね。
それからは当たり障りのないイガグリの愚痴をつらつらと話していたが……そろそろ帰ってもらいたい……主にイガグリには。
そうしないと……嫁さんがいつまで経っても帰ってこない。よほど嫌いになったのか……まぁ、私としては嫁さんや私の死亡フラグになりそうな要因だし、願ったりかなったりなんだけどね。本音としてはアイツの毒牙に嫁さんが掛からないか――とか、見てるだけでイライラするから―――とか、まぁ、色々私情があるんですけどね。
ま、それはおいとくとして。
イガグリをさっさと外に放り出す為に説教魔――空哲には裏口から帰ってもらおう。もうあの我が儘イガグリには会わせない方がいい。相性が悪すぎる……説教魔の説教魔たる由縁の通りにずーっと説教が続くことだろう。一緒の場所に置いといたらいけない組み合わせなんだ。
私とは真逆の意味でね。
さてと、説教魔には裏口から帰って貰い、カウンターでイガグリをイライラしながら店番している分身君にイガグリの対処法を打診する。まぁ、昨日みたいに強制転送するんだけどさ。
(―――っとしようかと……で、一応聞くけど…まだ帰る気ない?)
(無いな)
(粘るねぇ…)
ここで分身について説明を付け足すと、私が使える技や術を使うには制限がある。その制限に転送術にも制限がある。私は場所を指定すれば、行ったことのある、見たことのある場所なら実行可能だ。しかし、分身は一旦消えれば良いので帰還の為に転送術は必要ない。しかし、もしも――家族並びに嫁さんの危機――の時には必要になると思い脱出用に特定の場所に移動出来るようにはしているのです。
ん? ナニソレ? そうだねぇ……私の分身は動く転送装置とでも思ってくれればいいよ。特定の場所にしか行けないけどね。
さて、今回は昨日みたいにギルドの屋根に落とす訳にはいかない……。だからといって指定してる場所には極力……飛ばしたくない。だってそれで移動経路を割り出されて待ち伏せでもされたら……嫁さんが気を悪くする。勿論それよりも私は殺気を覚える。
おっほん。話がずれた。
それで、場所設定が出来ない分身君に変わらないといけないのよ。勿論店に出るなんて事はしなくていい。現に昨日も分身君の意識を借りて飛ばしたしね。
「はぁ……」
何だかため息が出てくる。イライラしてる甘いものが食べたくなってくる。嫁さんが食べるのはかまわない、だって運動量が違うもの。ここ一週間は休んでいたが日頃は食べても食べても片っ端からカロリーを消化してしまう程消費している。命懸けの魔物との闘いなんだから…当たり前だよね。
しかし私は日頃店番しているのだ……お分かり頂けただろうか?
そう。嫁さんは運動しているからどんなに食べても肉にならない。しかし私は動かない。肉になるのは必然だ。ストレスで太ったらどうしてくれる。
まあ? そこはコントロールするけど。
異世界でウン千年以上生きてきたのよ。それくらいは…何とかコントロール出来ますよ。
何が言いたいのって?
さっさと帰ってほしいのよ!心の底からそう思ってるの!!
いい加減気付いてよイガグリ君よぉ…
店内には不穏な空気が渦巻いていた。主に分身君の不機嫌なオーラだ。ゴメンね……分身君には本当に損な役回りばかりさせてるね……まぁ、分身だから自分自身なんだけど。
(体借りるよ)
「(あぁ、どうぞどうぞ。)」
分身君と精神をリンクさせる。自分なのに自分じゃない自分と精神をリンクさせるってのも不思議なもんだよね。だけどそんなところは気にしたら負けだと思って気にしない様にしている。
考えたらキリがなさそう。
「(指定場所……市民街…広場の噴水の真上)」
「兄上、僕の周りはおかしいんです!みんな――」
本当は黄の国に転送したい。だが、不可能なので断念する。防犯として国外からも国内からも転送出来ないようになっている。内側内なら可能。古からある術は強力で誰も使えない……神である白神は論外らしいけど。現に昔に騒動の時に私を転送した。
さっきのイガグリの台詞に若干の不安を覚えるが、彼は腐ってもチート乙な主人公補正があるので放っといても自分で解決するだろう。てか、しろ。私に頼るな。周りに頼れ(私の知り合い以外)。
ここが現実の世界だとしても、それが定められてある運命だと諦めろ。それと、私も嫁さんも諦めろ。頼るな。
(大事なことなので二度言いました)
《お疲れ様です》
原作開始まであと二年ちょい……奴の誕生日に事件が起こり……主人公は世界の渦に飲み込まれていく。そして私の命と嫁さんの命、どちらの危機も乗り越えないといけない。
とはいえ、今は目先の問題を解決しないとね。さっさと片付けないとイガグリがお得意の主人公補正やらなにならで介入してこないともいえないし。ハァ……やんなっちゃうよ。
自分の分身しか居なくなった店のカウンターに腰掛けため息をひとつ。そして分身は私の肩を叩いて労って消えた。分身にまで労われるって……
精神安定剤の香草を細い優美な煙管に詰め指先から狐火をだして火をつけ紫煙を吐き出す。
この頃本当にイライラしてるなぁ……自分の事なのにまるで他人事のように一人で愚痴っている私であった。
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「帰った……か?」
「多分……帰ったと思うッス……よ?」
狐や虎、チートな龍の妖怪である私には小声で話していても大体の音は聴こえてしまう。私には内緒話も筒抜け……だが、私にとっては要らぬストレスが溜まるだけ。
白の箱庭から出てきたのだろう嫁さんと眷属の八雲の小声が多分居間辺りから聴こえてきた。本当に会いたくないのねイガグリに。
「帰った……ッスよね?」
店と居住スペースを分ける入り口に掛けた暖簾から顔を覗かせる八雲に頷いてイガグリが此処に居ないことを知らせる。
一旦引っ込んだ八雲は嫁さんに報告したのか、直ぐ様嫁さんがカウンターに入ってきた。早いな……。
「……怠そうだな?」
「まぁ、ね」
怠そうだと指摘された通り今の私はお世辞にもちゃんとしているとは言い難いだろう。
今の私を説明するなら……机に肘をついて片手に煙管、机にもたれ掛かり気だるげに紫煙を吐いている……。自分の事だが改めて見るとどんだけなんだ。
さて、ここで考える……嫁さんには言わざるべきか?
猪突猛進な嫁さんに話してなんになる。バレやすい人に話す時は目標を燻り出したり騙す時だけ。今話したところで失敗を誘発するだけ。だけど、何かが私に「話しておけ」と言っている気もする……う~ん、どうするべきか……
「どうした?イガグリの相手は疲れたのか?」
「ん~…まぁ、疲れたけど」
「煮え切らない答えだなぁ」
………うん。やっぱりギルド内部云々は言うのは止めよう。すぐに顔に出やすい嫁さんに言えば逆に嫁さんの身が危ない。
「で、イガグリ何だったんだよ?」
「あ?あぁ、また周りが自分を見てくれないってさ……だからホントに自分自身の周りに目を向ければ良いのに……」
「周りが見てくれないとか言ってるけど、イガグリ自身が見てないんだよなぁ…」
世の中良いことも悪いことも全部いつかは自分に帰ってくる。言っては悪いが、人に対して冷たい態度を取れば冷たい態度で帰ってくる。優しくすれば相手も…多少優しくしてくれる……ハズ。
ギブ・アンド・テイクなのだ。そんなことはないと言う人もいるだろうけど、なんの見返りも無しに親切な人がいるならそれは極稀だ。何だかんだ言っても人ってのは他人の態度と行動で判断する生き物なのだから。
親や学校の先生には誰にでも親切にしようと言われて育つけれど、一体それを何れだけの人が守って生きているのか……これも極稀だろうね。
特にこの世界は親切な人は割りを食う。正直者は善しとされてはいるけど、本当に生きていく為には嘘やズル賢さも必要で……何て言うのかなぁ……あの教えは何処で役に立つのだろうかと思うのよ。
「まぁ、一概にイガグリが悪いとかじゃなくて……周りの努力も必要だけど、同じくらいイガグリの努力も必要ってなだけなんだよな」
「それにいい加減気がついてほしいよねぇ。何でも与えてもらえるなんて……傲慢もいいとこ」
社会に出れば誰も何も教えてくれないぞ。自分から主張しないとね。「自分はコレが分からない。だから教えてほしい」くらい言わないと教えてくれないよ。王子だからってもう16歳何だからいい加減世の中を見てみなさいよ……原作が動くまで無知でいるつもりなんだろうか?
それが世界の意思なの? バカのお人好しで世間知らずが世界を救うのかい? それってホントに出来るのかよ……。
魔王を間違えて殺してしまって偽りの平和を真の平和とか言いそうなタイプだよねイガグリって。
本当はね、ミッチリ教育し直してバカな真似はさせないようにしようかとも思ったんどけどね、両親に止められました。「原作通りの方が予測しやすい」って。
もしもイガグリが暴走して私や藍苺の命が危機にさらされたら……私は躊躇なくイガグリを始末するって予め言ってある。勿論イガグリの両親にもね。知らないのは本人と事情を知らない人だけ。
だか事情を知っている人達は私からイガグリを離そうと躍起になってる。躍起になるならもう少しガードを強くしてほしいものだ。
「人に言えた義理じゃ無いけど……人に冷たいとそれだけ人に悪い印象しか与えないからね。」
「その割りに冷たい態度なのにイガグリはめげないよな」
「他に居ない叱ってくれるタイプだからじゃないか? 他に攻略対象にそんなキャラが居たから出会えばそっちに行くだろ……それまでの辛抱だな」
そのしっかりタイプの攻略対象には悪いけど、尊い犠牲になってもらうとする。ごめんな、年下なのに確りした綺麗系美女よ。君の犠牲は忘れない。名前知らんけどな。
「そういえば……攻略対象の名前知らんなぁ……」
「お前はホントに人の名前を覚えないよなぁ~」
「てへ?」
「可愛くねぇーよ」
「可愛さアピールじゃなくて笑を狙ったんだけど?」
「イラつきしか起きねぇーわ」
他愛ない話をしていると日は沈んでいった。時間が過ぎるのが早いな。さて、明日の仕込みをしたら調査にでも行きますかねぇ……。
「あ、そうだ。俺明日から仕事復帰するから」
「ん。気をつけてね。復帰初日何だから軽めの仕事にしときなよ?」
「善処します」
嫁さんの善処しますは信用できないな。まぁ、良いけどね。精々大怪我しないなら……ね?
人の話を聞かずにどうせ上位の依頼を受けるだろう嫁さんに怒りを抑えながら歩はえみかけ、明日出すお惣菜類の献立を考えながらついでに晩御飯を作りに店番を八雲と交代する。
あ、今日は夜も不眠不休で働くことになりそうだなぁ……ハァ~。
頑張りますよ。藍苺が影で後ろ指さされないように。




