白の箱庭とは?
ほのぼの…?
私たちにとって家と呼べる場所は三つある。一つは森の奥深くにある実家。もう一つは白の国の下町にある雑貨屋兼我が家……そして最後は……
“白神から譲り受けた「白の箱庭」だ”
どうも、我が燈家の秘密の場所、白の箱庭に来ております当主の紅蓮です。一代目の当主ですので色々と大変ですが……なんとかやってます。ちなみに貴族なんですよね……望んでないのに。今思えばいいように白の国に吸収された感が否めませんがね。正直要らないなぁと思う爵位ですね。男爵通り越して子爵って、恨みと妬みを買いましたよ……ホント要らないよ。
何かあれば王の顔に叩き付けて出奔しようかなぁとも思いますが、人並みの生活できているのでまぁ良いかとも思えてきた……気がします。嫁さんこと、藍苺の母国と言うこともあってここに住むのも良いかとも思えてきますし。
さて、話を戻しましょう。私の話は脱線しやすいらしいですし。
只今家族――と言っても嫁さんと眷属達だけ――で白の箱庭に来ております。実家の建つ場所も季節の箱庭と呼ばれておりますが、その白の箱庭は正真正銘の箱庭です。だって広大な土地とはいえ、世界から切り離された空間なんですもの……行けども行けども三者三様な土地が広がるばかり。終わりがあるかも分からないそんな場所なんです。
もう少し分かりやすく言うと、前世の世界で流行っていた某ブロックで出来た箱庭系ゲームのリアル版だと思ってください。本当にそんな感じですね。砂漠はありませんが草原とかツンドラ地帯とかシャングルっぽい森とか……色々ありますよ。
何でも、今は亡き知り合いが作り出した擬似世界で、小さな一つの惑星みたいなものなんだとか……さっぱり分かりませんよ説明されても。ねえ?
世界の作りたかとか聞いても理解不能だって普通は。
また話脱線したよ。オッホン……えと、何しにこの白の箱庭に来たのかと言うと、食材&素材の確保です。豚を焼き豚にするのかって? 直下堀はマグマダイブがあるからするなよ? マ〇クラじゃねぇーし。しねぇーから。それにその某ゲームではパンしか食べなかったし。アプデで追加されてからはジャガイモとか食ってたけど。
ん?そんなゲーム知らない? 知った方がいいよ?面白いから。でも、中毒性があるから程ほどにね。人にもよるけど、建物を造ったりするのが好きな人にはたまらないだろうね。
建築のセンスなんて無かったけどね私。
「コレは……雑草ですか?」
「いいえ、それはハーブです」
「……ヤベっ…抜いちった……えへ?」
「……使うから籠に入れて」
「はーい……」
嫁さんは未だに薬草類と雑草の区別がつきません。もう、うっかりさん。そんなんで大丈夫なんだろうか? ギルドの依頼でも採取系はあるだろうに……今度みっちり教えたいた方がいいかな。
「これがカミツレ…カモミール。んで、こっちはレモングラスにバジルにレモンバーム」
「このカモミールとかバジルは何となく見分けつくけど……レモングラスとレモンバームはそこらの草にしか見えない……」
「触れば臭いで解るよ」
「ん~……なるほど」
この白の箱庭では大きな平安時代のような建物(扉と壁があり各部屋事に別れているのであくまでも風)と広大な庭がある。その周りは高い壁で覆われているので獣は入っては来ない。いや、ゾンビとかスケルトンとか爆発する緑の匠は居ませんよ。ノッポでブロック抜くのが好きな先輩とか後に追加された色々効果のある瓶を投げ付けてくる敵とか居ないからね。
巨大蜘蛛とか普通の動物は居るけど……え?石に潜んでる雑魚? 勿論居ないからね。あれってホントウザかったよね。見分けかたは壊れるスピードが違うだっけ? うん、どうでもいいことだよね。
ここで育てている植物は今生きている世界には無いものも存在するのでそこは白神と相談して持っていくか決めている。あの世界に存在しているなら店に出し、無ければ世に出さない。家族で使うならまだしも世に出したらダメだと思うので自重している。家族で使うにしても熱処理して増えないようにしないといけない。まぁ、外来種対策と同じだよ。
昨日出したバニラアイスに使ったバニラも世界に存在するが、白の国からは遠くに自生していて、尚且誰も発見でいていない未開の地(我が家の建つ場所も未開の地)に在ることが白神のお陰で判明した。その他の前世ではお馴染みの果物や動植物も数多くこの白の箱庭には自生していて。私にとっては宝の宝庫だ。だが、これを世界に存在するからと全て売り出すなかと言われれば……そんなことはしない。面倒事が多いしね。市場とか云々面倒だしさ。
私が独占している物も結構あるのでこのままでもしばらくは安泰だし、無理して増やすことなんてしない。欲を出すとろくなことがないから。味噌の製法とバニラエッセンスの独占とレシピとか諸々の印税で充分。まぁ、貴族としては貧乏だろうが、家は家は、余所は余所。
食べていけるならそれでよし。貴族としての税は払っているし、本来の燈家の役目はキチンと果たしているし……もしもの時の貯蓄は確かにしているけれど…それも本来の貴族から見たら微々たるもの。強すぎる権力と金は人を変えるからね……このくらいが丁度いいのよ。ね?
「明後日から体調が良ければギルド行くよ」
「大丈夫なの? まぁ、本人が良いって言うなら……でも、昔みたいに仕事場で倒れて病院に呼ばれるのは勘弁してね?寿命と心臓が持たないからね?」
「はい、肝に命じます」
さて、話をしながらハーブを採取しているが、嫁さんの籠には雑草が混ざっている。コレは……本格的に教え込まないといけないよなぁ。実家に住み始めた頃から雑草と薬草の見分けつかなかったもんね。
私が教えてもダメなら母さんのところで再研修だね。地獄のね……。
「ん?……この薔薇……なんだ?」
「あぁ…それね」
ハーブを採取しながら雑草も抜いていた私(嫁さんは絶対させない…全部抜いちゃうから)に嫁さんはとある薔薇を指差して聞いてきた。嫁さんの指差す一画は花壇のように整備され周りを石で囲っている。この頃は手入れもしていないので久し振りに見た。手入れをせずとも雑草が生えないので、病気になら無い限りは放置が鉄則なちょっと不思議な薔薇なのだ。
この薔薇は名前はついていない。異世界にもこんな不思議な特性をもつものは見たこともなかった種類だ。まぁ、私も動植物に詳しい訳でもないから絶対にとは言えないけどさ。この薔薇、もといこの薔薇達は別々の種類が共存している。
この薔薇達は黒い薔薇と白い薔薇が寄り添うように芽を出す。勿論別々に出す場合もあるけれど、白い薔薇はとても繊細で別々の場合は枯れる。黒い薔薇は強い毒性を持ち、根を張った一帯の植物を枯らしてしまう。まぁ、この性質は結構あるのではないだろうか? 確か半径二メートルは枯れるらしい……恐ろしや。しかし、白い薔薇はこの黒い薔薇の毒に対して抗体を持っているのか全く苦にしない。それどころか寄り添う様に共存している。
同じ種類の品種だけでは実をつけられないのか他の組み合わせでも実をつけられない。ロマンチストがこれを見れば「お互いを支えあって云々」と言うだろうが、私から見たら「黒い薔薇の毒を利用して弱い白い薔薇が身を守っている」にしか見えない。
私は白い薔薇にはなりたくないな。嫁さんは喜んで黒い薔薇になりそうだけど。守りたい願望が強いからね嫁さん。私は出来るだけ守りたいんだけどね……プライド高いからなぁ。
「へぇ……守ってるんだなあの黒い薔薇は」
「どうかな。お互いがお互いを利用してる様にしか見えないけど?」
「まぁ、そうかも…知れないけど」
折角俺いいこといったのに…といじけている嫁さんは本当にからかいがいがあって面白いね。
さて、これを乾燥させて……一部のモノは熱処理して………ん?
雑貨屋の店番に置いてきた分身からのSOS。着信音にするならあの「男は狼」のフレーズがお馴染みの曲に決定だね。って違う違う。
(古いよネタが)
(悪い悪い。で、どうしたよ?)
分身にネタの古さを突っ込まれつつ報告を聞くと、先日の厄介二人組がまた来店したようだ。ええ~……嫌なんですけど。んで、何が目的?
(昨日の詫びと……説教魔はギルド関係でそうだんがあるらしい……多分あの件だと思う)
(あの件ねぇ……大雅の方は帰しといてくれる?)
(一応試みては見るが……ダメならすまん)
(あぁ…手加減なんて要らないからほっポリ出してくれ)
アイツどうもこの頃白の国を嗅ぎまわっているらしい。ギルド関係のバカ達が何が仕出かしているのだろうか? 国際問題にならないといいけど。
「嫁さんはここで大人しくしててくれない?」
「だか断る!」
「言うと思ったよ……」
あの件ねぇ……確証がとれない限りは嫁さんには言わないようにしている。だってすぐ顔に出るんだもん。それにもしもの知ったら単独で行動しそうで怖いし。猪突猛進だからねぇ嫁さんは。
(放り出せたか?)
(……っ無理だな…吹っ飛ばしてもいいか?この世から)
(気持ちはわかるが、国際問題になるからやめてくれ)
(ちっ……説教魔の方は客間に通しておいたぞ)
(ありがとう。黄の国にでも強制転送してしまった方が楽か……)
「何があったよ?」
「まぁ、店にね…大雅王子が来てるのよ」
「……あぁ…」
流石の嫁さんも嫌な顔をしている。あれだ、魔素酔いして暴走した頃から嫁さんも大雅が嫌いになっているみたい。うん、あの私から藍苺を奪おうとした事件ね……子供染みた発想と発言で本人悪気無いけど、当時の私をヤンデレ化させるほど威力があったよ……あの時は疲れてた所為もあったけど。
「俺アイツ苦手だわ……何か考え方が180°違う」
「環境とか精神年齢が違うからねぇ…」
「だってアイツ……無意識だろうけど世界は自分を中心に回ってて、愛されるのは当然みたいな感じがしてさぁ」
そんなことで嫌うのもどうかと思うけどな…と言葉を切ると神妙な顔でハーブを乾燥させるために日当たりのいい場所に大きめの布を広げ始めた。私も布の端を持ちながら広げハーブを種類ごとに散らばし始めた。
「アイツって…主人公なんだよな?」
「ゲーム的にはね……この世界がどれだけゲームに沿っているかは未だによく分からないし……」
「あのさ、ミケ……マオにこの前聞いたんだけどさ……あのゲームの主人公は腹違いの姉…つまりは俺の…藍苺に対して複雑な恋心ともつかない感情を抱いてたって聞いたけど……この世界のアイツもそうなのか?」
そうだったら……ぶっ飛ばしたくなるね。嫁さんは寒気でもしたのか両腕で二の腕辺りを摩っている。ま、中身男ですからねぇ嫁さんは。男にすかれても気持ち悪いらしい……あ、でも、自分に向けられないなら同性同士の恋愛も否定はしないらしいよ。私も否定はしない。自分に向けられないならね。
(ダメだな……コイツしつこい!)
(あーっと……うん、私が殺ろうか?)
(おい、人には国際問題がどうの言っといて殺るのか?……いや、止めないけどな)
(そこは止めようね……うん、冗談だよ)
嫁さんあの会話から考え事をしているのか無言になってしまった。多分考えているのは大雅の事でなく、ゲームにどこまで沿っているか考えたいるのだろう。二人とも死亡フラグまだ折ってないからね……うん。しかも私は確実に死亡する決定だし……あぁ悩んでるのかぁ……自分のことも悩みなよ? 嫁さんも大概は死亡するんだよ……あ、後でミケにも色々聞かないと。対策考えないといけないなぁ。
そんでもって閑話休題
はぁ……帰りたくなかった。嫁さんは大雅王子が来ているとわかると――
「あ、俺ここにいるわ……何か会いたくないゴメン」
「うん。その方がいいよ」
―――と、まぁ、箱庭側に残りました。余程苦手意識あるのね。私にとってはこれ幸い……ギルド関連の揉め事何かの話を気にせず話せるし……説教魔が言葉を濁しても吐かせてやる……フフフ。もう、事件に悩むのも飽き飽きしてるし。
「あ!兄上♪」
「はい、帰れ~さっさと帰れ~。」
「そ、そんなぁ……」
捨てられた犬のように明らかに落ち込んだ様子の大雅改めイガグリ。しかし、私は悟った……コイツこれで周りを籠絡してるだろ……と。こんな整った顔立ちで仔犬のように「見捨てないでぇ…」な顔で見詰められれば……天然たらしのコイツにコロッといっちゃう訳だよ。聞いたところによると、最近は周りにハーレム築き始めたらしいよ……しかも無自覚だからお互いが牽制しあってギスギスした雰囲気だってさ。見たくねぇ~。
イガグリに声を出しにして言いたい……
お前はどこぞのギャルゲーの主人公か!!
「兄上!僕……相談があってきたんです!どうか話を…」
「そうか。では帰れ」
「兄上ぇぇ~」
だからその顔やめい。俺は落ちません。男?ですから……コイツのハーレムに男も居たんだけど…それは言わないお約束さ…ハハハ…はぁ
「お前の周りに相談できるヤツを作れ。私はお前の周りには居たくない……」
「……どうして貴方は僕を見てくれないんですか?」
「それはだなぁ…イガグリ君……私の性格上君の純真さと時々見えるしつこさが気に入らないのだよ」
「そんなぁ…」
おいおい、言ってしまったなぁ……分身君よ。
そうです。今イガグリに対面しているのは分身です。そして今私――本体は説教魔に話を聞くため客間に居ます。あ、八雲お茶ありがとう。勿論熱々のだよね? ん?鬼畜?ナンノコトデショ?
「……っアッツ!?」
「……ズズ……んで?話ってのは?」
「熱すぎやしないか?まあいい。話はここ最近のギルド内部の不審点だ」
BINGO!!バッチリドンピシャ!? いや、期待してたけど、まさかドンピシャとはね。で?続きはよ。
「ここ最近不振な点が見え隠れしている…。ズズ……っアッツ……ふうっ…ふぅ~…。昨日も…」
猫舌なのか単に熱いだけなのか必死にお茶を飲もうと苦戦している。それでも話をしようとする辺り真面目なんだなぁ……これで説教が無かったらもう少し付き合いやすいんだけどな。天は二物を与えないってのは本当だな。
「っ…ふぅ……昨日君に強制転送されてギルドの急な斜面の屋根から落ちた場所に不思議な組合わせを見てな……あり得ないんだ」
「あり得ない組合わせ?」
頷くと何がそんなにあり得ないのかを説明し始めた。
と、まぁコイツの説明がクドくて長かった……途中で寝てるぞ嫁さんなら。
端的にまとめるとこうだ。
説教魔とイガグリギルド本部の屋根から落ちる→落ちる瞬間窓に怪しい二人組の密会を見る→明らかに蜜月には見えない男同士が人目を忍んでいる→絶対何かあると直感が告げる(信用性低い)→その後誰も彼らを見ていない→やっぱり何か怪しい……極めつけはギルドにそんな二人組は登録されていない……つまり部外者が堂々と内部に入っているなんて警備的にあり得ない。
そんなわけで説教魔も相方にそんな疑問を相談してみると、「アイツに相談してみろよ。」等と言われたそうだ。アイツとは勿論私のことで…ある。ちなみに説教魔の相方はこういう頭を使ったり魔物を倒す以外のことはてんでダメなので元から説教魔も期待していなかったらしい。
うん。ワクワクして敵に突っ込んでいく様な戦闘ジャンキーで猪突猛進だからねぇ。不審者の割り出しとか調査は苦手そうだもんね。
そんなわけで粗方話も聴き終わり、話題はイガグリの方に変わった。人を説教するだけはあるのかズケズケとは聞いてこなかったが、聞きたいとウズウズしてるだろ。見るからに……目が輝いて見えるぞ?
「まぁ、一応……ギルド上層部(+凄腕の最高ランクの傭兵)の中では知ってる奴も多い。お前も知ってるだろ? 私と母親が何処に居たのか……」
ギルド上層部では知らない方がもぐりだと言うほど知られている。勿論触れ回るようなバカはいない。ギルドマスターと言うより白龍に葬られるのに……バカな真似は出来ない。あんなに家族にはヘタレ気味なのに家の外では恐れられてさえいるのだ。
スゴいよね、家族には優しくてヘタレでも外では畏怖されて尊敬もされてるなんて。仕事はかこなすし……ヘタレだけど。
誤解がないように言っておくけどさ、別に父さんが嫌いとかそんなことは無いからね。認めてないとかもないよ。私の今生の父親は父さんだからね……母さんが今の私の母親であるように……。
前作最後らへんに出てきた白の箱庭での出来事でした。
基本あの場所は何でもあります。チョコの原料カカオもありますけど、紅蓮は外に持ち出す気は無いようです。
……嫁さん(藍苺)に食べさせるためにチョコ製作はすると思いますが……(笑)




