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勉強しないとお菓子あげねぇーから。と脅したら素直に部屋から出ていきました。元々終わってた辰砂は手持ち無沙汰でソファに座っている。どうも私や藍苺に畏縮しているみたい……アレ?
「辰砂は手の掛からない子だからねぇ…」
「でも、たまにはうんっと我が儘言いたくなるよね?いっても良いぞたまになら」
「そうそう。子供ってのは多少の我が儘は許される貴重な時期なんだし…なあ?」
嫁さんの言う通り。子供の時しか我が儘なんて叶えてもらえないんだぞ? 小さいうちに言っとけ。他の弟妹は来る都度私に言ってるんだし……兄と言えないほど一緒には過ごしてないけど、ちょっとは頼っても良いのよ?
「小さい頃に我が儘言わないと損だよ損。」
「大人になれば言いたくても言えないんだぞ?」
「そうね。無理にとは言わないけど…たまには我が儘を叶えたいって願望はあるわね。親として頼りにされたいし甘やかしたいって気持ちもあるわねぇ。特に辰砂、貴方は紅ちゃん……貴方の一番上の兄と同じで一人で何でもやろうとする傾向があるものね。母親としては寂しいわ~。」
そうだよね。ごめんね母さん。可愛いげない子供で……でも精神的な年齢が三十路過ぎてるので無理なんです勘弁してください本当に。
「でも、…みんな我が儘言ってると怒るでしょ?」
「(あ~……そうか、この子……)」
「(遠慮してるのね)」
「ふふふ……それでも良いから我が儘言ってみなさいね?」
「………」
ちょっと腑に落ちない、どうしていいか分からないと言いたげな顔で長めの上衣の裾をぎゅっと握って俯く……。コレは……もしかして……辰砂さん?君ってもしかして私よりも……
「強がり?」
「ん?」
「……っ!」
私の呟きに辰砂の肩が過剰に反応した。嘘が言えない体質なのは父さん譲りか? 父さんも母さん曰く「嘘つくととっても不自然になって、態度も出やすいの……まあ、根が素直なのね♪」だそうです。
その後、辰砂と母さんは何度か“我が儘は言わない”と“たまには我が儘言いなさい”の攻防は続いたが、最終的には辰砂が折れた。まぁ、このやり取りを母さんは楽しんでいたように見えた。このやり取りも辰砂にしては初めて我が儘言った事になりそうな位だと思うんだけど……どう思う?
「(そうだなぁ……あれも我が儘だよな。)」
「(付き合い短い兄だけどさ、あのくらい頑として譲らないなんて無かったよ?)」
お互い腹を割って話せたのは良いことだったのだろうかな? それにしても……
「(父さん……仕事だからって家を空け過ぎるとどんどん弟妹達から遠ざかるよ。特にまだ赤ん坊の真紅なんて顔を覚えてないかも……最悪私と間違えたりして……)」
あり得そうで怖いよ。髪の色が違うだけそっくりだからね私と父さん。身長は私よりも10センチ程違うけど、赤ん坊だからなぁ……あ、でも、私の方がもっと女顔……あぁ、自分で言ってて落ち込むわぁー。
ま、前世女なんですけどね。
「さて、今日は晩御飯食べていく?」
「明日もあるし、もう帰るよ。仕事もあるし……」
「藍ちゃんは二日くらいは様子見で休んでね?………それにしても、」
「(・_・?)」
ついさっきまでニコニコしていた母さんは真剣な顔で少し考えた風に顎に手を当てて私を見つめた。
多分あの事件は母さんの耳にも入ってるだろう。ギルドの副マスターなんだし、知ってても不思議ではないなよね。知らない方がおかしいし。
「あの件は私も独自に調べてはいるんだけど…解らないのよ」
「麗春さんにも解らないなんて……」
「………」
母さんの眷属は私よりも大勢居るし、捜索・調査のエキスパートが大勢居ると思うし、正直私よりも解決できそうな気がしてならない。それなのに白の王は私に依頼してきた……厳密には王妃がだが。どういった考えなのかさっぱりだ。
もしかして……
今まで考えもしなかったが、ギルドの犯行……の線もないとは言えなかった。王妃達は仲の良い私の両親には頼まず、私に依頼してきた……それには何か重大な意味が……っ!!?
………あぁ、私はなんて思い違いをしていたのだろう。犯人は花街関係か闇市等の裏の勢力が関わって居ると思っていた。それならいくら調べても手懸かりがないわけだ。全くの検討違いな場所を捜しても手懸かりなんて見付かるわけがない。
あぁ~…、数日前の私に戻りたい。戻る気無いけど戻れたら良いのに……そうすればここまで被害が広がらなかったかも。
父さんの仕事が多忙になったのも、母さんが家に居る頻度が高くなったのも事件が起きて直ぐの事だ。と、なれば……考えたくないが……何らかの事情で両親が犯人に手を貸している……なんてことはないだろう。それは確信している。
ナゼかって?
“そんな事に手を貸すほど腐りきってないからだ”
私の両親は正義感……と言えるのだろうかは定かではないが人に従えと言われて従う程素直ではないし、悪事に手を染めることは子供達に対する裏切りだと決してしないだろう。私ソコは尊敬してるのだ。特に父さんは……正義感が強い。何せ……
白龍は慈悲と正義感が強いって豪語してたもの。この国では有名な話だ。多分その正義感を犯人に隠れ蓑にでもされたのだろう。絶対にあり得ない
ら誰も疑わない。ギルド内でそんな不正は出来ないと……
と、なると。母さんは子供達の心配から家に籠っているのだろうか? そう言えば、周りの気配を探ると以前よりも大幅に護衛の眷属達が増えている。コレは何かを警戒しているのだろう……もしかすると犯人は……
「…レ………ン!………」
あの二人が何も抵抗もなしにやられっぱなしなんておかしい……何か秘策でもあるのだろうか?
「…ン……レ……!…」
だが、王妃がそれを嗅ぎ付けている時点で何か知っていたのだろうか? 謎は深まる……
『おい、呼ばれているぞ紅蓮』
(ん?)
《マスター……奥さまが呼ばれていますよ?》
「…ン……レン!………おい、どうしたんだ?」
「ん?………んあ、ごめん…考え事してたら……」
「ハァー…心配したぞ……何度話しかけても上の空だったし」
おっと、またやってしまった。どうも私は考え始めると周りが見えなくなるらしい。おかしいなぁ……昔はそんなこと無かったぞ。どうも異世界旅行から帰ってきてから着いた癖みたい。嫌な癖がついたもんだ。
さて、弟妹達が勉強を終えて戻ってくる前に早々に帰りますか。え?待っててやらないのか?
タックルに引っ付き、酷いときには通せんぼして帰してくれないちび達を待っているといつまでも帰れない。だからね、さっさと帰ります。もう悟りを開けるくらい悟りました。ここに居たら帰れないと。
まだいれば良いと言う母さんと言い合いで疲れたのか多少ぐったりしている辰砂と、赤ん坊の真紅を抱っこした明々さんに見送られてさっさと家に直通の転送陣に乗って帰りましたとさ。
あ、母さんには後日訪ねようと思う。勿論秘密裏にね。誰にも悟られずに母さんと連絡を取る方法なんて山ほどあるのだから。え?どうやってかって?仕組みなんて考えたらキリがなくて頭パンクするよ?
さて、今日はお疲れ様です嫁さん。今晩は……何にする晩御飯。ん?野菜は控え目……わかったよ、ほうれん草の代わりに母さんが栽培に成功したらしいブロッコリーとアスパラのサラダにしよう。え?少なくない……? チッ……あ、何でもないよ。気にしないで。仕方ないからハンバーグにしようね……おから入れて量増やすから量を気にしないで食べなよ。
「おいちょっと待てよ、さっきから俺の嫌いなもの入れようとしてないか?」
「別にそんなことないよ?」
「あと、ブロッコリーとアスパラどうやって栽培に成功したんだよ……初耳だ」
「他国から輸入したんだって(本当は母さんの能力が関係してるんだけどね)」
不満タラタラな嫁さんは「肉食いたい……マトモな」と呟くが、動いてないのにカロリーを摂りすぎるのは体によくないよ? それにおから入れても全然気が付かないじゃないですかヤダ~。
「ニンジンケーキ…」
「Σ(゜Д゜)」
「ニンジンクッキー……ニンジンロールケーキ」
「う゛っ…」
「ニンジンプリンにニンジンゼリー……ピーマンアイス……セロリジャム~」
「ぐぁああ……・・・(;´Д`)」
「さあ、私の腕がなるぜ?」
「俺が悪うございました。m(__)m」
分かれば良いのだよ、分かれば。
そして今晩のおかずはハンバーグ(おから入り)と蒸したアスパラとブロッコリー……そして嫁さんが大好きなバニラアイスをデザートに出したのでした。バニラは箱庭の方に自生してました。熟成させて香料にするのに手間がかかるけど、やっぱりアイスとか洋菓子にはバニラが必要だよね。おからクッキーとかはバターの風味でなんとか誤魔化してはいたけど……
始終無口で待機していた八雲とポチならびに眷属の皆さんに「あまあま」と言われたが……アイスそんなに甘かったかな?
外では掴みどころのない敵に回したらオッカナイお人と通っております紅蓮さんも家庭では嫁さんを適度に甘やかすお人です。どうして外で誰も気が付かないのか眷属達は疑問が尽きません。
分かりやすいのにねぇ。




