下町の雑貨屋さん
新に始まりました。紅蓮さん16歳にグレードアップしました。
今後ともよろしくお願い致します。m(__)m
下町の雑貨屋さんは今日もボチボチ繁盛している。日用品を買いに来る主婦や安いお菓子を買いに来る子供達……それと………
「依頼を頼みたい。」
「内容は?」
繊細な細工を施された細い銀のキセルを吹かし紫煙を吐きながら答えるのはこの店の店主、紅蓮である。まあ、私の事だ。
「私の私有地にある畑が何者かに荒らされた。」
「…スゥ…ハァ……。なるほど、規模と依頼内容を事細かにこの用紙に書いて。書き終わったら私に渡してくれ。」
気だるげに紫煙を吐きながらながら用紙を男に渡す。言っておくけど、いつもこんな態度じゃないからね。この男が気に入らないだけ……私情挟むの良くない?
ハッ(嘲笑) 人の嫁さんに色目使う奴にここまで丁寧に…て・い・ね・い・に、接客しているのよ?これでも。ふっ、そうさ、私は異世界を旅して性格がネジ曲がったのさ……ハハハ……
この依頼人の名前は……知らん……わけじゃないけど。名前は佳辰。ここ等じゃ知らない奴はいない商人の息子……どら息子だよ。女と見れば口説く、見目が良ければ落とすまで口説く……はぁ……かく言う私も初対面で女と間違えられて口説かれた。半殺しにしましたよ♪
「それで、ランさんは何時来るんだ?」
「さぁ、予定は未定だからな、知らん。」
「冷たいね~。そんなにランさんを取られたくないのか? 取られたくないなら閉じ込めておけばいいだろ?」
「そんな趣味は無い。束縛するほど信頼が無い訳じゃないからな。」
「自信満々だねぇ……そんなレンも可愛いなぁ~」
お分かり頂けただろうか? そう、コイツは美形なら性別なんて関係なくイケるクチなのだ。夫婦して貞操を狙われている……どうにかしてコイツを秘密裏に暗殺出来ないか考え中だ。
「………依頼を受け付けた。暇ができ次第向かう。一応言っておくが、危ないから現場には来るな。命の保証はしない。」
「そうやって俺を心配しているんだね。そんなツンデレも堪らないな♪」
コイツと喋っているとストレスと寒気しか無い。オマケに気分も悪くなって来る。散々だ。
「今日の薄緑の着物もとっても似合うよ♪ と言っても君には何でも似合うよ♪」
マジウゼェ……
「依頼も終わったならさっさと出ていけ。商売の邪魔だ。」
「せっかちだなぁ~。ここで買い物をしても良いんどけど、品物の質がそんなに良くないから……買っても使えないんだよね。ほら、俺って一級品しか使ったこと無いから……」
だったら帰れよ。一応フォローしておくとコイツの父親はマトモだ。母親もマトモだ。いい人だよ。だけどね……周りの人がチヤホヤするもんだから天狗になってるんだよ。私がコイツを暗殺しないのはコイツの両親と兄弟ながらマトモな兄が居るからだ。あの人達はいい人だよ。じゃなければ今頃道端に物言わぬまま転がっているよ。
「俺の愛人になれば一級品を仕入れさせてもいいよ? 勿論ランさんも一緒ならね。」
「ここは下町の雑貨屋だ。そんな物を売っても意味がない。誰も買いやしない。それが分からん程馬鹿なのか?」
「そんな君も可愛いね♪」
イライラが際骨頂に達した。そろそろおやつ時……さっさとコイツを追い出さないと、今日は赤字になる。
「さっさと…出ていけ。いや、もういい。強制退去してもらう。」
「え?」
転送陣展開 この馬鹿を自分の家に強制転送。オマケに少し高い場所からコイツの家の庭の池にでも落ちろ。
「え、ちょっ、レン!ま」
誰が待つか馬鹿者。私の強制転送により奴は家に送り返された。奴の様な女たらしなら誰かに後ろから刺される……何てことは不思議な事に無いのだ。誰も奴を恨まない。まぁ、女性に無理強いしないからなのもあるだろう。フェニミストなのだ。
どちらにしろ私達には迷惑以外の何者でもない。
「ハァ~…やっと居なくなった。」
奴はしつこい……靴の裏に付いたガムよりもしつこい……。しかも顔が良いから余計に周りも「何で邪見にするの?」何て言ってくる馬鹿者までいる始末……。ストレスがマッハとはこの事か。
「こんにちは!!」
おっと、おやつ時のお菓子を買いに来た子供達だ。それまで吹かしていたキセルの火を灰皿に落とし消す。
言っておくけど、これは煙草じゃないのだ。精神安定剤の様なもので、副流煙何て有毒な物は一切無いので安心だ。でも、子供の前だ。煙草の様にしか見えない物を吸っているのはどうかと思う。だからいつも消すようにしている。
「今日はどれにするんだ?」
いつも三人で来る八百屋さんの三兄弟だ。この子達の両親にはいつも野菜を安くしてもらっている。だからオマケ何かもつけている。ここらの下町の子供達は殆どオマケしているのだけど……。何せ下町はいつも生活苦なのだ。それもこれも商人達の所為だ。あ、あの女たらしの両親は例外だよ。あの人達は数少ない商人連中の良心だから。あの人達と数人の商人達が下町にも物を下ろしてくれるんだ。他の連中は見向きもしない。
そんな連中でも、王にはいい顔を見せたいのか、王が視察を派遣したときなんかは張り切って下町にも品を下ろしたりするけど……付け焼き刃と言うか……焼け石に水。それに王もその状態を知っているから無意味何だけど。
そんな中、下町の人々は今の生活に満足しているようだ。何せ、病院はタダに近い金額、治安も良い。働けば生きていける。そんなわけで逞しい下町の人々は現状に満足しているのだ。贅沢が出来ないのは仕方がないと言っている。
何より、子供達が身を粉にして働いていないのが豊かさの証だろう。国の治安を確かめたいなら下町の子供を見ると良い。どれだけ子供を大事にしているかで国の治安は大体分かる。スラム何かある国は勿論治安は悪いけど……
「ん~…ぼくはこれにする。」
「じゃあ……俺はこれ。」
「……これかな。」
選び終わった三兄弟が私の方に歩いてくる。三人が選んだのはおからクッキー(プレーンと胡麻)40枚入りと飴玉20個入り(林檎、蜜柑、葡萄、檸檬味)、それとおからパウンドケーキ4切れ入り。飴玉は週一で買っていく。おやつにしては多いように見えるが、この子達実は全部で6人兄弟なのだ。三人は上の子達。下の三人の兄弟の分までお小遣いで買っていくのだ。
「全部で銅貨三枚だよ。」
実は他で買えば銅貨10枚だ。けど、これ皆うちの実家で作られるから原価何て無いようなものなのだ。だから自分の店でだけ売っている。他には出さない品だ。
「はい。」
「あいよ。ちょうど三枚確かに。」
「ありがとう」
「ちゃんと家に帰って食べんだぞ~」
「はーい!」
「レンさんさようなら」
「また明日!」
「はい、さよなら。また来いよ~」
元気よく帰っていった三兄弟を見送り思考する。この頃やけに物騒になってきた。未だに被害が出ていないが、どうにもキナ臭い。先ず被害が出るのは下町が最初だ。未然に防げたら良いのだが…
そろそろ嫁さんが帰ってくる頃だろう。さて、奴が持ってきた厄介事をどうするか嫁さんと相談しないと……
これから人騒動起きそうな予感……。