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野菜を食べないと……

 嫌いなものは食べないといけないと解っていても食べたくない。


 けれど、相手の事を考えると食べてもらいたい。健康云々のために。



 どちらも譲れないのです。



 あ、話に関係ないですね。

 大人げなくギルドを飛び出し、下町まで走ってきた紅蓮です。


 逃げても意味無いのにね。私もまだまだ未熟ってことか。



 黒の王族達を、藍苺ランメイの敵だからと排除しようとか思うなんて……心が荒れている。この頃どうも残酷な考えがふと浮かぶのだ。まるで狂気じみた発想が元々私の中に渦巻くのだ……元々持っていた要素なのだろうか?


 どちらにしてもこの狂気は表に出してはいけない。出したが最後だ。厨二病とか笑ってられない悲惨な事になるだろうな。侮りがたし現実の厨二病。



「あぁ……八雲置いてきちゃったなぁ……」



 八雲も子供でもないので一人でも帰ってくるだろう。彼には悪いが兎に角今は一人になりたかった。と言い訳をしてみる。



「………はぁ……なにやってるんだろ私は……」



 この頃……いや、この世界に帰ってきてから“紅蓮コウレン”と“他の人格ニーア”の意識が別れているような感覚を覚える。前は違和感などなく、どちらも一つの人格だったはずだ。けれど、戻ってからは人格のズレを感じた。



 これは白神に聞いてみるしかないな。ま、今夜は疲れたと言うことにして下町の見回り兼白の王の依頼は休もう。宮廷魔術師も私が出張り過ぎれば良い顔はしないと思うし…何より私の疲労がMAXだ。こんな時は休む方が後々の効率を考えると良いのだ。煮詰まっても何にも良いことなど無いと嫌と言うほど学んできた。だから今夜は休む。



(その前に晩御飯何にしようかな?)



 主夫に休みはない。特に具合の悪い嫁さんに家事を全部やれなんて酷なことは言わない。



(ま、主婦だった頃に寝込んでも家事をしてた私が言うことでもない気がするけど。あの手の痛みに耐性がない嫁さんには端から期待してないけどさ)



 あの手の痛みは慣れないとしんどい。特に重かった私は嫌と言うほど知っている。今生は男に生まれたので楽だ。


(ま、違う悩みは増えたけどね)



 さて、今は昼飯一寸前。帰ったらお昼ご飯を作って、今日の分の洗濯をして、明日の仕込みをして、晩御飯の用意をしよう。これが私の日常だ。


 代わり映えしなくとも私は満足している。非日常な日々など要らない。平凡で……は無理でも平穏な日々を送りたい。それが私の願いだ。例え叶わなくても……ね。




「ボースー!!……はぁ…はぁ……速いっすよ……追い付くのに時間掛かりました……」

「おぉ、予想よりも速かったな。」

「ぜ、全力疾走しましたから…」



 ゼイゼイと背中で息をして噎せそうな八雲にお疲れの意味を込めて背中を叩く。勿論軽くね。



「ゴメンね。そんなに急いで追いかけてくるなんて思わなかったから……ゆっくり来てもよかったのに…」

「普通じゃない状態のまま放置なんてできないっすよ。それが俺たちの総意っすよ。」



 それに……と八雲は続けた。



「16ってのは多感な時期っすよ。俺も何か無償に反抗心が芽生えたり……複雑なお年頃っすよ。気にしなくても良いっスッて。ね?先輩たちもそう言ってますよ?」



 八雲の足元にあった影からポチと夜夢が溶ける飴細工を逆再生した時のように姿を形取り姿を現した。ちなみにこの二匹(私は二人と言いたいが彼らが匹で良いと言って聞かない)の姿は、ポチは翼を折り畳み肩甲骨のしたに収納するという力業を駆使してただの大きな犬(狼)に見せている。一方、夜夢は八年という月日でアナコンダを超えた。胴回りでも人の腕よりも太くたまに寝惚けて締め付けられると死にます。


 現に八雲はここ三回ほど死にかけました。ドンマイ八雲。


 そんな巨大化した夜夢ですが、日頃は小さくなってたまに私の着物の袖や懐に入ってます。主に店番時は。


 今は嫁さんと一緒に店番をしている走飛の兎天は某RPGに出てくる乗り物兼マスコット的な、時には召喚獣な黄色い鳥の様に大きく成長しました。八年前は小さくて背中には乗れませんでしたが、今は二人のせるのも余裕です。走っても飛んでも速い、スタミナは半端じゃない、我が家の飛脚です。郵便物の配達は任せろ!がこの頃の口癖になってきたスピード狂です。ドウシテコウナッタ。



 ※注意 兎天の種族は作者オリジナルです。この様な妖怪はいません。いや、妖怪は想像上の生き物ですけど……勿論、元ネタはあります。14作品も出ているゲームのあのモンスターです。はい。







『主、話が見えぬのですが?』

『うむ、回想と我らの紹介が愚痴になりかけておるな……』

「ここのところ疲れてるみたいっすから、気にしなくて良いっすよ。」




 八雲からのフォローもあったが、私は自分の中のドス黒い感情に嫌な予感を覚えていた。異世界では心の底から大切に思うのは家族になった者やある程度信頼していた仲間位だ。確かに彼らに何かあれば私だってキレるだろう。それでも、ここまでドス黒い感情に押されることは無かったよ。


 狂暴と言われる鳥のような翼を持った大虎の妖怪・窮奇キュウキの血の所為か? それって何て厨二? いや、冗談じゃないよね!



「さあ、帰るっすよ……ボス?」


「え?あ、あぁ。そうだね。さっさと帰って明日店に出す料理とかの仕込みもしないと……」




 うん、まぁ。悩んでいても仕方ないので悩むのはいったん放棄する。後で、白神に相談してから悩もう。


 それに悩んでいるとみんなに心配をかける。さっさと帰ることにした私であった。








 そして、家に着いた私を待っていたのは嫁さんと嫁さんから喰らわされる締め付けでした。本当に何なんだろうね?何?病んでるの?癖なの?私を亡き者にしたいの?勘弁してよ。



「遅いっ!……お腹すいたぁ……」

「ハイハイ。ただ今用意しますよ~。店番ちゃんと出来た?」

「うん」



 甘えたがデフォルトになりつつある嫁さんが私の胸辺りに顔を埋めて返事をする。これって男ならグッと来るのでは無いだろうか? 主に下半し……ゲホンゲホンッ……


 あ?私はどうなんだ? 別になんとも思わないよ? 強いて言えば動きづらい、力強いから背骨と肋骨が折れる……位かな?



「お昼はなんだ?」

「ん~~…」



 期待の籠ったキラッキラした目で見てくる……なんだかそんな顔をされるとついつい……



「レバニラ……」

「グッ!……レ、レバー……嫌い」

「ちょうど鶏肉(モンスター肉)を狩ってきたから鳥中心だね。」



 レバーと言ってもレバニラだけでは全てを消費できない。何が良いだろう……ギドニーパイとか?でもあれって作った来ないなぁ……それに鳥で作っても大丈夫だった? あ、それと味噌も有ることだし……味噌で甘く煮込むのも良いかも。豚のレバーではゴムみたいになるけど、鳥のレバーはホロホロと崩れるから煮込みもあってるよね……さて、どれに使用かな?



「いやあの、レンさん? 俺の話を聞いて?ねぇ? 俺、レバー嫌いだよ?」

「勿論、野菜もね?

「orz」



 嫌いなものコンボで嫁さんは文字通りorzな事になっている。お陰で私の背骨と肋骨は事なきを得た。いちいち治すのも骨が折れるのよ。



「知識と記憶の本で調べないと……レバー…レバー…」

「ホントにやめてぇ!あの血生臭いのは野菜よりも苦手なの!!ね?ホントに勘弁してくださいぃぃ!!」

「………さ、おやつはギドニーパイだ。調べなくちゃ♪」

「鬼ぃぃ!悪魔ぁぁ!!人でなしィィィ!!!」

「だって、妖怪だもん♪」

「うわーん……う、うぅぅぅぅ……ぅ…」




 あ、泣いちゃった? ふ、騙されないからね?涙声ならもう少し真剣に演じようね?


 バ・レ・バ・レ・だ・よ・♪





「うぁ……鬼畜ぅぅ……怖いわぁ」


「何か?」


「何でもないっす(呆)」




 こうして私は締め上げられたリビングからキッチンに向かったのでした。本当にorzになった嫁さんを残して。いや、勘違いしないでね? 本当に吐いたり具合悪くなる物は食べさせないからね?


 藍苺の事を心配して食べるようにしてるのよ?


 これだけは本心よ?




『なんでしょう……主様がとても生き生きしてます……』

『主殿の悪い癖よ……本当に藍苺様を思っての事。体を心配しての行動だ』

『それでも……主様笑ってませんでした?』

『……ニヤリとしていたな』

『……してましたよね』



『『………』』




 この様な事を兎天と夜夢が話していたとはこのときの自分は知るよしもなかった。







 そしてお昼は予告通りレバニラとレバーを細かくミンチにしてハーブや香辛料等で独特の血生臭さを和らげ豚肉と混ぜパイに包んでみた私特製「想像上のギドニーパイ」を作ってみた。それと発芽玄米を白米の代わりに出す。この白米玄米はちょっと作る行程で不愉快な臭いを発するので注意。まあ、発芽するのだからその行程で臭いが出るのも仕方ないか……。それと会わないだろうけど……豆腐も出しとく。ちょっと中華風のお吸い物に豆腐と椎茸を作ってみた。この二つとゴマは医者が毎日摂ってほしいものらしい…。茸は週4、大豆は味噌汁や豆腐、作れたよ♪な納豆ほぼ毎日摂っている。そしてゴマはお菓子に必ずと言っても良いほど入ってます。丹念に磨り潰してね。ゴマって磨り潰さないと摂取しても意味無いんだってさ。豆知識だね。




「レバー……」

「……ギドニーパイは諦めたんだから……観念しなよ。ほら、お吸い物ばかり食べてないで……レバーも食べなさい」

「うぅぅぅ」



 ガブッと「偽ミートパイ(レバー)」にかぶりつく嫁さんは全く気がついていない。ん?パイの名前が変わってる?気にしないで。


 匂いって味にかなり影響するんだってね。嫌いなものは味よりも匂いで嫌がっている嫁さんのこと、ナツメグと諸々の香辛料で完全に血生臭ささを隠しているのに気が付かないのは前世で確認済なのだよ……死角はない。特にハンバーグに入れて繋ぎにおからを入れると本当に藍苺気が付きません。


 て言うか、肉を一緒にすると基本気が付きません。あ、後色を気にしている節もあるので彩りに気を付ければチョロいです。フフフ……



「モグモグ……このミートパイ美味いな♪」

「そう。豚肉を丹精込めて(レバーのミンチと)混ぜたからね♪」



 ね?簡単でしょ? でもこれは多分自惚れかも知れないけど私を信用して食べているからってのもあるのかもね。現に母さんは気がついた。


「(ま、母さんは鼻が良いからなぁ)」



 案外鈍感な藍苺に微笑みながらもうひとつのパイを取りだしそれとなく藍苺の前に差し出す。



 すると……



「…モグモグ………」

「(あ、食べた♪)」

「モグモグ……ん?(あれ?この味…)」




 藍苺がなんの気無しに口に放り込んだパイの中身は……ゴマと一緒にペーストにしたホウレン草なのです!


 ほら、ホウレン草ってゴマと和えても美味しいでしょ?だからやってみた。



「…………(ヽ-_-)ヽ┳━┳」

「おい、ちゃぶ台ひっくり返したら……分かってるよな?」

「はい!すみませんでした!!」



 そうそう。分かればいいのよ。分かればね、フフフ……











「俺、あの輪に入るなんてできないっすよ」

『誰も入れんよ』

『そうですね』

『それでも薬入れに入っている奏が凄いと思うぞ?』

『いや、あれは出てこれないのかも知れんぞ』

「確かに……」








 こうして藍苺は仕方無く嫌いなものを食べているのだった。しかも、ホウレン草の件でギドニーパイ(仮)に全く気がついていないのでした♪






 


 全面的に紅蓮を信用している藍苺。すっかり騙されてます。内心紅蓮さん(あれ?コレ詐欺にあうんじゃね?)っと心配になったようです。



 紅蓮さんの前世から藍苺に対する常套手段「磨り潰して好きなものと混ぜる」で、何度も騙されています。臭いを誤魔化せばバッチリです。


 1度心を許したら甘い藍苺でした。




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