番外編 ~クリスマスの過ごし方・紅蓮&藍苺編~後編・クリスマス当日
遅れましたごめんなさい。
中身はすかすかですの!
ウチにはサンタは来ない。何せ精神的に大人な三人と獣な五匹の眷属はプレゼントなど別に欲しくないのだ。いや、くれるなら嬉しいけど……サンタは別に要らないな。
いや、サンタを信じては居ないよ?サンタってのは親が……いや、何でもないです。
そんな可愛気も若さも若干足りない私達のクリスマス当日は毎年結構大変なのだ。
「荷物はこれで全部だよね?」
「1、2………ああ。全部だな」
「これは何処に?」
「それは今回は持って行かないから戸棚にしまっておいて」
「了解ッス」
ただいまお出掛けの準備中。今年も例に漏れずクリスマスは里帰りすることにした。てか、決まってたから今更疲れたと言ってキャンセルは出来ないので。チビッ子達は楽しみにしているだろうから……。日頃実家に帰らない私達にとってクリスマスや誰かの誕生日など祝日は貴重な兄弟達との交流の場だ。なるべくは帰りたい。
それに、日頃忙しく飛び回っている両親と一緒に楽しめる行事に長男が参加しないなんて……ありえない。私的にね。
「持っていくケーキよし。プレゼントよし。料理もよし。うん。そいじゃ行こうか」
「皆居るな?」
「番号!」
『ウオォォン!(一番!)』(ポチ)
『キューーン!(二番!)』(奏)
『クエェェェ!(三番!)』(兎天)
『……………!(四番!)』(夜夢)
「五番!」(八雲)
「ミャーン」(クラウド)
余談だけどクラウドは何故か藍苺や他人の前では普通の猫を装っている。何故かは口を割らない。多分気紛れかな?人の言葉を喋れるのにね。猫又なのにね。
さて、皆揃ったし準備も万端。ではいざ行かん、実家へ!
実家までは徒歩で一ヶ月、馬車は二週間、馬では5日程掛かる。馬車は道が途中無かったりするので遠回りして時間が掛かり、徒歩は単純に遅いので時間が掛かる。一般的に速いのが馬だけど馬も生き物で騎獣よりもスタミナが無いので休憩を挟む必要がある。なので5日程は掛かる。
王族や貴族は主に馬車や騎獣で移動することが多い。ま、大きな街には移動用魔法陣があるので余程田舎か他国に行く以外は大移動などしないだろうが。
さて、私も王都に来るまで知らなかったのだが、手懐けられた魔物(人語を話さない)は騎獣と言って馬の変わりにされているらしい。実はポチや兎天もこの部類になるらしいけど、私の妖怪の格が上がった様で人語を話せるようになり妖怪の部類にカテゴリされるらしい。ざらにあるらしいよ、主人の格が上がって眷属の格も上がるって。
ちなみに、大蛇や管狐の様に乗り物にならない魔物は騎獣とは呼ばれません。
となると……竜も騎獣になります。あと、喋れず人の形をとれない窮寄も虎なので騎獣と呼ばれるかも……人に服従できればの話だけどね。竜よりも無理だと思うよ。何せ凶悪って恐れられてるからね。
私だって、乗せるなら気心の知れた信頼できる藍苺くらいだよ。
さて、説明もこのくらいにして……今回は~ってかいつも移動用魔法陣を使い短時間で帰ってます。店も有るし、長く開けていられないからね。
店番は私の分身を置いておきます。え? そんなこと出来たのか? 出来ますけど?
「毎回思うけど……お前に不可能ってあんのか?」
「そりゃあるよ。不死の霊薬とか作れないし、死者を蘇らせる事なんて出来ないし。」
「でも、分身は作れるのな」
「俺も変わり身とか見た目くらいなら分身作れますけど、樹で。……でもあれほど精密な自我を持って意識の共有も出来る分身は無理っスね。」
「どこぞの義体化したキャラみたいだな」
「一回に三体くらいなら余裕で操れたりして…」
「いっぺんになら5体まで出来るけど?」
「「………」」
ま、その分精度は落ちるけど。主に守備力とか。
無駄話をしながら移動用魔法陣を起動させる。我が家の魔法陣は私か藍苺、私の眷属達でしか起動させられない様にしている。悪戯で起動させると困るし。
私たちは未だに分身について話ながら魔法陣で移動したのだった。
で、
「兄ちゃんお帰り!!!」
「お帰り!!!」
「お土産は!?!」
「今日はクリスマスだよ!?」
「おかえり!」
「おかえり?」
「うぅぅーー!」
「う?(・_・?)」
ドアを開けるとそこは地獄の入り口でした。
弟たちのタックルと妹達のお帰りと末っ子のキョトン顔が見れた。てか、帰ってきて早々にお土産を要求してくるか……現金なやつらめ。
チビッ子達の後ろから慌てて走ってきたナニー役の明々さん。本名明明。月下美人の妖怪で、いつも癒し効果のある香りを漂わせている妙齢の女性で母さんの眷属。昔子供と夫を一度に亡くした過去を持っている。実は原作での攻略対象。グットエンディングでは主人公と結ばれるものの、何処かに虚しさを感じている終わり方をした。バットエンディングでは主人公を庇い亡くなってしまうが、成仏することが出来ずさ迷うことになる。トゥルーエンディングは主人公をフリ、仲間を庇い亡くなってしまうが、亡くした夫と子供の導きで無事成仏する。何とも……生きていてもわだかまりを残し、トゥルーエンディングでも死んでしまう不憫なキャラだった。
私たちも大概だけど、この人も不憫な人なんです。
しかし……
「若様、若奥様。それと八雲さん。お帰りなさいませ。皆さんお待ちでしたよ。わたくしの夫も息子もお三方の帰宅を心待にしておりました。」
「お久しぶりです明々さん。皆さんお変わり無いですか?」
「えぇ。夫も子供も元気でいます。麗春様の適切な治療と若様と若奥様が麗春様に取り次いでくれたお陰です。」
明々さんは白の国の下町に住んでいた。実はあの店の土地は明々さん夫婦の物で、此方に住むことになったので私が買い取ったのだ。始めは無償で渡そうとしてきたけど……どうにか言いくるめて買いました。こっちに住むにしても家財道具やら何なら色々と大変だろうし。
お子さんと旦那さんは珍しい奇病にかかっていた。ま、チートな母さんにかかればたちまち治ってしまったが。これは秘密にしていることだから他言しないように。引っ張りダコになるのは目に見えてるから。
未だに私に纏わり付くチビッ子達を引きずりながらリビングに向かう。嫁さんはチビッ子達に引っ付かれてはいない……何故なら、私が身をもって教えたからね。
“他人の大切な人に不用意に抱き付かない”
ってさ。だってムカつくじゃん。いくら今はチビッ子でもいつまでもくっつかれてたら……キレますがなにか?
「お前らも10歳超えたら私には引っ付くなよ。やったらコロス」
「「うー(。・_・。)ノ」」
「兄ちゃんコッワーイ」
「ツンデレ…」
「クーデレ」
「ヤンデル」
「ヤンデレじゃないの?」
いま、ヤンデレとかヤンデルとか言ったの出てこい。シバくぞ。
「「「きゃーっ兄ちゃんコッワーイ!」」」
「「コッワーイ!」」
「う?」
「あう?」
こいつらのパワーに私ももう疲れてきたよ……もういいよね?無視しても。
実家に帰ってきて数分もしない内にもう疲れてきた。チビッ子は本当に元気だなぁ……
嫁さんの哀れそうな顔に若干の怒りを感じながらもリビングにたどり着く。チビッ子は未だに……引っ付くなよもう!
「あら、お帰りみんな……もう放してあげなさい。」
やはり母親は偉大だと痛感した。チビッ子達は母さんの命令に従いさっさと離れていった。一人の体はこんなにも軽いものだと実感できる程おもかったのだ。
母さんはリビングのソファに座り分厚い本を読んでいた。多分医学書か薬物学の本だろう。角が痛そうな程分厚い……もうあれは投擲にもなるレベルの厚さだ。
「メリークリスマス♪紅ちゃん藍ちゃん♪それと八雲ちゃんもメリークリスマス♪」
「ただいま」
「ただいま」
「今戻りました」
「さあ、お茶でもお飲みくださいな
明々さんにお茶をついでもらい各々ソファに座る。とはいえ八雲は私達の後ろに立っている……座ればいいのにね。立場を考えての行動だってさ。
家は誰も気にしないって。ねぇ?
それから私達は……ケーキ食べて、ご馳走食べて、チビッ子達と騒いで……まぁ、異世界で過ごしたクリスマスよりはマトモなクリスマスだったよ。
イブは悲惨だったけどね。忙しくてさ。
楽しい時間なんて直ぐに過ぎて行く。気が付けばもう夕方になっていた。
薄暗くなる森のなか、私は今家の裏山に来ている。彼らに会うためだ。
「おーい。………あれっ?…居ないのかなぁ…」
呼んでみたけれど返事も気配もない……何処だ?
暫くすると後ろの方から何やら知った気配が近づいてきた……
「突撃ぃぃ!」
「うりゃー!」
「たいあたりっ!」
「ぶべらっ……」
「あれ?」
「なにしてんの?」
後ろから文字通り突撃してきた懐かしのヤタガラスの下っ端隊員達が私が避けた所為で大木に激突していた。特に先に突撃していた奴は他のメンバーに潰されている。大丈夫であるだろうが……ドンマイ。
「若だ若だ!?」
「どうしたどうした?」
「……散歩?」
「重たいよ~!」
「なんだよ避けんなし」
「相変わらず元気だなぁ……ほら、お前らにもお土産」
「本当に?」
「ヤッタ!!」
「なになに?」
「臭い的には食い物」
「何かぐるぐる巻き?」
「ブッシュドノエルだ。切り株みたいだろ?」
懐かしいメンバーにクリスマスプレゼントとしてブッシュドノエルをあげたのだ。昔のお礼もそこそこにさっさとこの家から出ていったからまだ渡してなかったのだ。お礼のお菓子を。
「あまあま…」
「落ちる落ち……あっぶね」
「一口で…食べちった…」
「マグモグ…」
「切り株ってぐるぐる?」
好評のようでよかった。彼らにケーキをあげて私は家に戻った。彼らには彼らの仕事、警備があるのだ。これ以上邪魔はできない。それに彼らは母さんの眷属だ。もう昔のようには出来ないのだ。
特に、ここから出ていった私には……ね。
「お帰り」
「ただいま?」
家に戻ると玄関前に藍苺が立っていた。待っていたのかな?
「あいつらに会ってきたのか?」
「まぁ、ね。これで借りは返してきたよ」
「……妖怪にとっての巣立ちって、動物のそれにすこし…似てるよな。帰ってくることもあるけど……大体がもう会わないって事になるし、よそよそしくなるってか……」
「元々獣寄りな考えだからね……家が稀なんだよ」
巣立った子供は巣には戻らない。けれども母さんや父さんは人間であった記憶がある分里帰りには寛大だ。他の妖怪達、特に純粋な者たちは二度と実家には足を踏み入れないらしい。親と会うことはあれど。
何だか悲しいような……気持ちが分かるような。
人の様に暮らしている妖怪達も家を継ぐ以外の子供はさっさと出ていってしまって基本会わないそうだ。黒の国ではこれが普通。
でもね、これは親心でもあるのよ?
妖怪はね、怒りに我を忘れる事が稀にあるんだ……ふとした事で子供を……なんて事もあるんだって。それに、一ヶ所に留めているよりはバラけて生きていく方が人間達から生き残る為って悲しい歴史もあったりするのだ。
悲しいけど、生きているならそれでいい。それが彼らの考えなんだって……痛いほど分かるよ。
「ここは暖かいなぁ……」
「そうだね。ここは常春だからね……」
「やっぱり……寒いのは嫌いか?」
「昔っから嫌いだよ」
雪国育ちだからって寒いのがへっちゃらなわけないでしょ。あれは仕方なく我慢してるだけだよ。
前世では、子供の頃はストーブも満足に使わせてもらえなかった。昼間どんなに寒くても……夜にだけ、母親が居る時だけしか使えなかった。
勿論母親は我慢しないで点けなさいって言っていたけど、一人だけ部屋に居るだけなのに灯油が勿体ないと思ったのだ。それに、わざわざ人の部屋まで来てテレビをつけてないか、ストーブをつけてないか見に来る鬼が居たからね……不用意につけられなかったのさ。
だから冬は大っ嫌いだった。クリスマスもあの忌まわしい家を出るまで良い思い出なんか無かった。鬼がプレゼントを捨てたりケーキを独り占めしり……母親が見ていないところで散々だったよ。
「雪が見れないけどな」
「雪なんて見たくない」
「嫌いだもんな……寒いの全部」
「アイスは好きだけど」
「食い物限定かよ……」
別にここに居ても雪は見れる。冬エリアに行けばいい。私は好き好んで行かないけど。
「なぁ、今は……少しだけでも」
「…ん?」
「大っ嫌いから嫌いになったんだな寒さ」
「……」
大っ嫌いから嫌い……確かにそうかも。
「ミケがさ、前世でお前の事を……その、好きになったからミケに相談したんだよ。その時さ…」
“ベルは自分を人形と勘違いしているの。あんたにベルを人間に戻す覚悟をさせられるの?”
「ってさ。最初分からなかったけど……お前と会っていく内に何となく…だけど、感情を表に出さないってか、………んん…言葉にするのが難しいけど、自分が嫌いってのは分かってた……だからさ、俺を好きになって欲しかったんだけど……お前自身がお前を好きになって欲しいって気持ちの方が後から強くなってさ……」
「………」
初耳だった。ミケはそんなことを言ったのか……確かに私はあの頃感情が薄かった。それに自分が嫌いだった。髪の色も目の色も……自分の性格も。
「なあ、今も自分が嫌いか?」
「………そうだねぇ……好きじゃない…けど、前ほど嫌いでもない、かな?」
「そっか……大っ嫌いじゃなくなっててよかった」
「自分が好きなのは…それはそれで気持ち悪いよ?」
「ハハハッ……そうだな」
腹を抱えた笑う藍苺は空を見上げて「もう一番星が出てるな」と呟いた。
もうすっかり日が暮れて夜空には一番星が煌めいていた。そして徐々に他の星々も姿を現してくる……星座だけはあのもとの世界と変わらない。きっとミケが面倒で設定をつけたのだろう……か?
「暖かいのに見える星座は冬のかぁ」
「季節的には冬だからね……この場所が異常なんだよ」
「ほら、常春だからって真夏みたいに暑いわけじゃないんだから、そろそろ中に入ろう?」
「ん、そうだな。なあ?」
「ん?なに?」
「今日だけ……今日だけ一緒に……」
「脚下」
「おい、まだ言ってないぞ!」
「言わなくても想像がつく……」
「うぅぅぅぅ……今日だ」一緒に寝ても良いだろ……」
やっぱりか。この三年ほど前から一緒には寝ないようにしている。ケジメもあるけれど、本音は二人とも寝相が悪いからだ。
朝起きたら床に大穴が空いていた…なんてあったのだ私は。怖いでしょ?だから誰も一緒の部屋では寝たくない。命が危ないから主に私以外が。あれだね、ポチ曰く『日頃制御され抑圧されている力が眠ることにより……云々』らしい。怖いわぁ
でも、藍苺のバカ力で締め上げられるのは勘弁だね。
「お願い!」
「ダメ」
「ホントにお願い!」
「脚下」
「何もしないからぁ!」
「それでもダメ!」
君の命を心配してるのよこっちは。
そんな感じでこの年クリスマスは案外普通に終わっていくのでした。何事も普通が一番だよ。
ん?普通はこんなんじゃねぇーよ?
我が家ではこれが普通なのです。はい、終わり。
――深夜・紅蓮寝室にて――
別に何もしないってのに……良いじゃん。一緒のベットに寝るくらい……俺ら前世も今も夫婦だろ。
そんなわけで俺はレンの部屋に忍び込んだ。
普段眠りの浅いレンが今日は起きない。多分チビッ子達と騒いで疲れたんだな……魔物と戦ってもそんなに疲れを見せないレンを疲れさせるなんて……あのチビッ子達は確実に麗春さんと朱李さんの子供だよ。あと、レンの兄弟だよな。
「…………(ぐっすり寝てるな…)」
本当に起きないなんて……大丈夫か?寝てるだけだよな?気絶してるとかじゃないよな?
そっとレンのベットに入る……何だか悪いことをしているような気になる。違うぞ。俺はただ隣で寝ようとしてるだけ……あれ?十分HE☆N☆TA☆Iになってないか?
ま、まぁ気にしない気にしない。
「…スゥ……スゥ…」
「ホントに静かに寝てるよなぁ」
失礼だがこいつのイビキなど聴いた試しがない。
黄の国の後宮に居たときは暗殺者に命を狙われたりしてたと割と最近聞かされた……寝るときが静かなのは癖なんだってさ……俺とはえらい違いだなよな……平和ボケしてたし……情けないよな俺……
「スゥ……スゥ…」
「………」
それより……レンって体温高いよなぁ……ん~……眠くなってきた……
『その後、紅蓮を締め上げてそれに寝惚け気味に起きた紅蓮に投げ飛ばされた藍苺であった。そしてコッテリ紅蓮に絞られた。』
―おわり―




