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番外編 ~クリスマスの過ごし方・紅蓮&藍苺編~前編イブの日

注意!


 この話は番外編です。ちょっと本編よりも過去の話になります。丁度去年の話です。


 

番外編 ~クリスマスの過ごし方・紅蓮&藍苺編~前編イブの日存在しない。イエス・キリストが存在しない世界だからね。




「存在しなくてもケーキ食えればそれで良い…」

「はいはい。ケーキは作ってあるから……そんなに悄気しょげないの」

「見てるだけは辛いぞ」


 我が家の嫁さん・藍苺は朝から機嫌が悪い。理由なんて分かりきっているけどね。だが作業の手は止めない。


 実は……てか、私の今の立場は「下町の雑貨屋兼ギルド下町支部・支部長」だ。この世界には存在しないお祝い事に割いている時間がない。日本でもクリスマスだからといって休みでもないけど……。


 クリスマスイブだと言うのに私は忙しく店に来る客の為にキッチンで作り続けなければならないのだ。



 なら、日常の忙しさなら比較的お祝いなんか出来るんじゃないか?と思うでしょ?


 実はね……その、我が母上マミィが、



「とある異国では12の月25の日は皆で御祝いするのよ? 美味しい食事とケーキを食べるの♪」



 と、口がつい滑ったのか暴露してしまい、物珍しいのが好きな貴族令嬢や婦人なんかの耳に入ってしまい……それを聞き付けた王妃様が、



「まぁ!それなら我が家(王家)でもケーキを囲ってお祝いでもしましょう……ケーキは紅蓮に頼むわ♪」



 我が家のケーキを母上マミィから聞いていたらしい王妃からの注文が入った……それはまだ良い…が。



 我も我もとそれを聞き付けた貴族達が我が店に押し掛けてきたのだ……下町は大混乱……主に被害は詰め寄った貴族達だけど。押され踏まれ潰され…等々。



 そんな一大事が起きたのがイブより一週間前の出来事だ。



 全く、堪ったもんじゃないよ。ケーキの作り方が載ってる本が発売されてるでしょ。


 あ、王立院・出版部より「サルでも解る料理レシピ」は好評発売中なのでよろしく。ちなみに来月の1の月には新刊も発売予定。



 と、話を戻そう。作り方も丁寧に解説してるので料理初心者の子供でも作れる簡単な物もちゃんと載ってる。料理に準じている人なら作れる。現に藍苺も作れたよ。形がちょっと歪だったけど……味に問題はない。


 貴族ならお抱えの料理人に作らせろよ。 自分達の仕えてる主人達が他の…それも料理人でもない私の作るケーキが欲しいなんて……面目が潰れたろうさ。職人はプライドが高いぞ……他人に厳しく、自分にはもっと厳しいからね。個人差があるけど。



 そんなわけで……下町は大混乱の後、未曾有のクリスマスケーキショックが起きてしまったのだった。




「貴族はあのあと追い出して突き返したけど……」

「まさか下町連中が食いつくとは……」



 貴族達は白の王から下った勅令「下町の雑貨屋に入り浸るの禁止!!」令が下されたので静かになった。あ、ウチに来たのは貴族達の従者達ね。本人達はここに来てないから。てか、来ないから。仲悪いしね。



 そして、下町にクリスマスケーキの事が知れ渡り、私達は首が回らないほど忙しいのである。主にケーキ作りに。




「クリームは混ぜすぎないでね。動物性は分離してバターになるから……」

「………なら、……なんで、……植物性にしないんだよ!」



 ガシャガシャとスチール製の泡立て器(マミィ製)で大きめのこれまたスチール製のボールに並々と注がれた生クリームを泡立てる嫁さん・藍苺は愚痴愚痴と愚痴を垂れていた。嫁さんの意見はよく解る。しかし、それには理由があるのだ。



「植物性はあっさりめで泡立て過ぎても分離しない……けど、ケーキに使うには柔らかすぎる。特に持ち帰る必要があるのに崩れやすいなんてダメでしょ? 子供が箱をワクワクしながら開けたら……形が崩れたケーキが入ってたら凹むでしょ」

「まぁ~…確かに」

「だから頑張れ、ファイトだ。子供に喜んで貰えるように……(実は独り身の大人も買っていくけど……ま、いいか。)」



 気分は子供の為にプレゼントをせっせと用意するサンタクロースだ。




「今年は……帰れそうに無いな……」

「だよね……母さんもかなり忙しかったらしいし……あいつらちゃんとクリスマス祝ってもらえるかな?」



 あいつらとは私の弟妹達の事だ。上は8歳、下は0歳10ヶ月の赤ん坊。私抜きで7人。8歳の次男、双子の三男と四男、三つ子の長女と二女と五男、そして末っ子の三女。私を入れて計8人兄弟だ。テレビに出れるレベルの大家族だよね。頑張ったな両親達よ。


 ま、その兄弟達は今年もクリスマスを楽しみにしていたことだろう。毎年私は嫁さんを連れて里帰りし祝っていた。ケーキは今年は二つ作ろうか?あいつらこの頃よく食べそうだし……と思っていた矢先の出来事で彼等のクリスマスがどうなるか本当に心配だ……。


 それに両親の仲もちょっと気まずいので更に心配だ。何があったかは省こう。要は父さんが母さんの琴線に思いっきり触れた所為だ。一応仲直りして父さんの誤解も解けたけれど……大丈夫かな?



「プレゼントも用意してたのに……」

「俺もだ……」



 はぁ~……何の気なしに溜め息がキッチンに響いた。それに溜め息も嫁さんとハモった。嫁さん子供好きだもんね。前世でも子煩悩で良い父親だったよ。



「今回のことは仕方ないよ。母さんの口がつい滑っただけだし……貴族達が異常な反応を見せた所為だし」

「ふぅ……後何個だ?」



 泡立て終わったのか泡立て器を置いて問いかけてきた。私はスポンジを半分に切りなが

受け答えする。曲がったら水の泡だ。早く、丁寧にしなければ……



「後はこの10個で終るよ……イブはケーキ作りで終わりそうだね」

「散々なイブだよ」



 ただいまの時刻夕方の4時。客足も途絶えてくる時間帯。しかし今日はケーキを取りに来たお客さんで未だに賑わっている。そんな客に対応しているのが八雲だ。店番は慣れているので大丈夫だろう。


 午前中まではギルドから助っ人として双子の受付嬢がカウンターで客を捌いてくれていた。そして八雲は私たちと一緒にケーキ作製に協力していた。だが、クリスマスの無いこの世界でも、地球出身者の記憶を持っている身としては心苦しくて三人とも同意見で3時にはケーキを持たせて帰らせたのだ。


 若い女性をクリスマスイブの日に仕事に縛り付けるなんて……酷でしょ? あの二人恋人居るし……ねぇ?



 さて、ケーキ制作は実は6日前からしていたのである。保存はチートな技術で可能なのでこの膨大な注文を捌けているのである。なんとその数、下町の過半数……数えたくないから聞かないで具体的な数字は……うぅぅぅぅ……



 制作しているケーキはポピュラーな苺のケーキ。スポンジを半分にして生クリームと苺を挟んでデコレーションは苺と生クリームだけという至ってシンプルなケーキだ。てか、凝ったものは作れません。パティシエじゃないもの無理。



 キッチンに充満する生クリームから香るバニラの匂いと苺の甘酸っぱそうな匂いにもう私はお腹一杯だ。胸焼けも起こしそうだ……嫁さんはその辺は至って平気そうにしている……恐るべし嫁さん。この匂いに耐えるとは。



 余談だけど、スポンジにクリームを塗るのは私しか今のところ出来ないので分担はスポンジを焼くのは八雲。苺のヘタ処理とスライス、生クリームを泡立てるのは藍苺。そしてケーキの成形は私と各自分担していた。そしてその傍ら惣菜やらご飯なら定期的に注文している品を作っていたのだけど……地獄だぜ……おっと地獄でした。


 箱はどうやって作ったのか何で出来ているのか不明な私達にとってはお馴染みのあのケーキの箱だった。母さんがケーキの数だけ送ってきた……箱を送ってくれるのはありがたいけど、それなら誰が助っ人他にも呼んでほしかったなぁ……


 家の事で手一杯だろうけど




「あ、後は……ラスト一個!」

「うわぁ……漸く終るっ」






 そして漸く終わりお迎えた。胸焼けも起こしてしまったが、終わったことだ気にしないでおこう。



 せっかくのイブだが、今日はなにもしたくない。ケーキも見たくない。出来ればアッサリした雑炊が食べたいので、簡易コンロをテーブルの上に乗せて土鍋でおこたに入りながらノンびしりていた。



「いやぁ……間に合ってよかったっすね~…あまりの忙しさに序盤全然出れなかったっすもん。あ、どうも、ボスの眷属の八雲です。よろしく」


「カメラ目線で自己紹介乙」

「キャラ戻せ、嫁さん。」

「レンもな」



 何?メタイ?だってこれ番外編だもん。番外編は無礼講だよ。


 さて、雑炊が出来上がる頃だ。具は私の好物油揚げ、嫁さんの嫌いなニンジン、冷蔵庫に入ってたさつま揚げを卵でとじた。土鍋がデカイのでかなりの量だ。だが、私も含めて大食いだから残ったりはしないだろう。王宮にケーキを届けに行っていた天狼のポチ、走飛の兎天、大蛇の夜夢は帰ってきて早々王妃に貰ったのだろうプレゼントに夢中だ……貰ったものは高級な黒毛和牛の霜降り肉……それを今生で食らいついている……焼かなくても良いのよね君たち。


 うん、シンプルイズベストだね。高級な肉ほど単純な味付けで良いって誰かも言ってた気がするよ。


 人間の場合は焼くけどさ。


 猫又のクラウドと管狐の奏は余ったクリームに舌鼓をうっている。基本少食な二人はお茶碗一杯分で満腹になる。私の影に入っていれば自動で妖力を分けるのでクラウドは日頃は食べ物をあまりとらないが、今日は珍しく影から自主的に出てきてお座りしながらクリームをおねだりしてきた。可愛かった。


 今もクリームを鼻に付けて二匹はクリームを舐めている。




「カーマボーコは入ってないのな」

「何?お仕置き(トーチャー)なアタックでもするの?それともその腰まで伸びた髪を媒介に召喚でもする?」

「ネタがマニアックだったか?」

「分かる人には分かるネタだけど……どうだろうね」


「あれば家族の前でやったらいけないゲームッスよ。」


「そうだね。某食器洗い用洗剤の名前の敵と戦うときなんかは……変態を見るような目で見られるだろうね。」

「特に多感な年頃の妹とかに「変態」って言われるだろうな」



 そしてその事を親にバラされて「あんたそんなゲームしてるの?」って親に引かれるんだぜ。これはトラウマになるだろうさ。


 これを嬉しがるなら本当の「変態」くらいだろうね。



 かまぼこを入れなかったのは無かったからだ。商品としては在庫はたんまりあるけど……出すのが面倒でした。すまん藍苺。だが、冷蔵庫に残ってたさつま揚げで我慢してくれ。あと、ニンジンは食べなさい。



「さて、盛ったから食べよう」

「そうだな」



「「「頂きます」」」




 熱い熱いとふうふう冷ましながら食べる藍苺と端っこの冷めた方から食べ始める八雲。今気づけば人各々食べ方にも性格が出るものだな…と私は熱さなど気にせず黙々と食べていた。暑さ無効のスキル持ちで良かった。火傷を気にせず食べられるって結構楽だ。





 で、安心したことに嫁さんはニンジンをキチンと食べた。きっとこの後出てくるだろうデザートの為に残さないように食べたのだろう。この糖尿病予備軍め。作戦を体大切に切り替えなさい。


 今日のデザートは手を抜いて洋梨のコンポート。砂糖煮だ。缶詰めと思ってくれた方が想像しやすいと思う。


 疲れていたのでデザートに時間をかける余力など残っていなかったのだ、と言い訳をしておこう。



「これだけでも立派なデザートだぞ」


「そっすよ。作りおきしてただけで手間はかかってるんすから……俺たちもクタクタッスし」


「レンだけに無理を言わせる程俺は亭主関白じゃないぞ……今嫁だけどさ。料理だって作ってもらえるだけありがたいよ」


「うんうん」




 なんだか拝まれそうな勢いでお礼やらなんやら言われたけど……どうした?疲れて精神的にまいったのか?なら早く寝たら?




 と言うわけで、クリスマスイブは忙しく何もお祝いムードなど無く仕事で終わってしまったのだった……




  ~後編へつづく~






 皆さんお疲れでお祝いする余力など残ってませんでした。残念ですね。



 さて、そんな紅蓮達ですが後編では、里帰りするようです。お楽しみに。




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